王都ドォールムと冒険者ギルド
紫髪の魔法士ルシアとアレクの旅は
順調に進み、アレクの初戦闘から2日後
王都ドォールムへの正門へと到着していた。
門には長蛇の列が出来ており
皆、入国を待っているようだ。
王都ドォールムは大きな城壁に囲まれており
内部に住む住民には安心を、外部からいた者には
威圧感を感じさせる堅牢な作りとなっている。
「師匠、お腹空きましたね」
「ぼーや、中に入ったら飯にしよう」
そこに紺のローブを着たルシアと
若草色の軽装を着たアレクが並んでいた。
ルシアは、フードを被り面倒そうな表情を
している。
昼前には列に並び始めたが、まだ順番が来ず
2人とも長時間待たされて口数が少なく
なっていた。
それから40分後、やっと自分達の順番が
回ってくるところまでくることができた。
門には槍を持った門兵が複数立っており
3人ほどが入国の応対をしていた。
「よーし!そこで止まれ!身分証があれば
提示し、なければ入国税として1人
銀貨1枚を用意せよ!」
門兵は、王国の紋章が入った鎧を着ており
疑うような目線でこちらを見ている。
師匠がネコ被りモードで話している。
「はい、2人分で銀貨2枚です」
門兵は、毎日のように繰り返している
定形文を口にする。
「入国の目的は?違法な物品などの持ち込みはないか?」
師匠は笑顔で答える
「入国の目的は、冒険者になることと
錬金での仕事を探しに参りました。
手持ちで持ち込むものは、こちらだけです」
そう言うと、わざわざ入国用に用意した
皮製のバッグを門兵に手渡す。
慣れた様子で中身を確認するとバッグを
返してくる。
「そちらの子供は?」
門兵が、アレクを見て問いかける。
「私の弟子ですわ」
(師匠……なんでお嬢様口調なんですか?)
門兵は納得すると師匠に視線を戻した。
「決まりなんでね、フードを取って顔を見せてくれるか?」
「はい、分かりました」
すると師匠は、笑顔でフードを両手で
めくり上げる。その瞬間、門兵が息を飲む、
「っ!!!」
師匠は、どこから見てもミステリアスな
美人だ。しかも、スタイルも抜群だが……
今回は、なぜかフードを取るまで出来るだけ顔を見せずにいた。しかもフードを取る時にわざわざ両手を使いローブの前が開くように
することで師匠の武器である豊満な胸を
強調していた。
(ずっとフードしてたのは、この為だったのか……そりゃ、いきなり紫髪の美人が目の前
にきたら驚くだろうな……しかも巨乳だし!)
「どうかされましたか?」
上目遣いで門兵を見つめる師匠。
「い、いや失礼した!通って頂いて結構です!」明らかに態度が良くなる門兵。
「はい、では失礼致します。お仕事頑張って下さいね」笑顔で、その場を離れいくルシアを
門兵と一緒に入国手続きをしていた人々が
見えなくなるまで見つめていた。
その後、入国手続きが滞り正門は
ちょっとしたパニックになったのである。
王都の大通りを歩いていたルシアとアレクは
すぐに近くの飯屋に入り昼食を食べていた。
「師匠、なんで入国の時に あんなこと
してたんですか?」
アレクはスープに口をつけながらルシアに
気になったことを聞いていた。
パンを口に運びながらルシアが答える。
「あれは、良好な人間関係を作る一環
なんだんだが……分からないか?」
そう言われても、今いちピンっと来ない。
アレクの表情から、それを読み取ったのか
ルシアが話を続ける。
「門兵とは、これから嫌でも顔を合わせることになるし、そこで顔を売っておけば色々と
良いことが多い。最初に私は冒険者になることと錬金の仕事をすることを伝えていたろ?
ああして、印象付けておけば門兵達が勝手に
私達のことを宣伝してくれると言うわけだ」
言われてみれば、あれだけ顔と胸を
印象付ければ噂はすぐにでも広がるだろう。
それに門兵と仲良くしておけば色々と
融通してくれたり情報を得られたりと
美味しいことも多い。
「そこまで、考えての行動だったのですね。
ってきり僕は長時間待たされたことに対する
嫌がらせがしたかったのかと思いましたよ」
自分達が去った後のパニックを思い出し
笑顔で、そんな訳ないよね?と威圧する
アレクからルシアが素早く目をそらす。
「ぼーや、私がそんな子供みたいなこと
する訳ないだろう?師匠を疑うものでは
ないぞ?」師匠がスープをフォークで
掬おうとしている所を流しつつ
これからの予定について尋ねる。
「師匠この後の予定は、どうしますか?
冒険者ギルドですか?それとも宿を?」
師匠は少し考えると
「先に宿を押さえて、次に冒険者ギルドだな
お昼から時間をズラした方が受付も空いてる
だろうし身分証も必要だしな」
「分かりました。あと聞きたかったんですが
……師匠は以前、冒険者だったんですよね?
ギルドカード的なものは、持ってないんですか?」
すると師匠は、あっけらかんと
「カードは、気が付いたら有効期限が
過ぎてたから捨てた」と答えた。
(そういうとこは、本当に雑だよな師匠)
大通りで宿を取り、師匠と俺は店主から
王都の要所の場所を確認するとそのまま通りを
進んだ広場にある冒険者ギルドに向かった。
『ぎいぃぃ』ウエスタン調の入口を通りを
ルシアとアレクはゆっくりと歩き受付へと
辿り着く。
「すまない、冒険者登録をお願いしたい。
私と、この子の2人だ」
慣れた所作で、師匠が受付の女性と話している。
「はい、冒険者登録ですね。1人銀貨5枚と
名前と年齢、職業をこちらの用紙にご記入下さい」2枚の紙を女性から受け取ると2人で手早く必要事項を書いて女性へ返す。
(記入内容は師匠から聞いていたので
職業は、なしでOKと)
「はい、お預かりします……女性の方は
問題ありません。そちらの方、アレクさんは
まだ成人に達しておりませんので
冒険者見習いの扱いで、よろしいですか?」
これも師匠から、聞いていたので即答する。
「はい、そちらでお願いします」
「はい、では こちらが冒険者カードになります。隅の小さな印のところに血を付けて下さい」受付の女性から小さな針を渡される。
人差し指の先に針を刺すと血が出てくる。
それを印に付けるとカードが『パッ』と
一瞬光る。
「はい、これで冒険者登録は完了です。
今後は自分でレベル、ステータス、スキルが
確認できますよ!ギルドカードは身分証としても使えますので便利ですが……
見せる場合は職業、ステータス、スキルなどは非表示にすることをお勧めします」
(ギルドカード、すげぇ高性能だな!
非表示とかできるのかよ!)と
思わず心の中で、ツッコミを入れてしまう。
「では、冒険者について説明しても宜しいですか?」女性は、きびきびと案内を続ける。
「私は、大丈夫だから。この子に説明を
お願いします」そう言うと師匠が俺を
グイッと前に出す。
そして、受付の女性から冒険者ギルドについて説明を受けた。
話を纏めると
冒険者ギルドは魔物退治や薬草採取など
多岐に渡り依頼をこなす者達で
依頼の難易度がF〜Sに分かれており、
冒険者のランクも同様にF〜Sに分かれている。
依頼は、冒険者のランクと同じもの
以上は受けることができない。
最初は、Fランクからスタートだが
依頼をこなすとポイントが貰え100ポイント
貯めると次のランクに上がる試験を受けられる。
それに合格すればランクが上がる。
ただし、高ランクになるほどポイントの
基準が高くなりAランク止まりが殆どらしい。
Sランクの基準が、英雄と呼ばれるレベル
なので誰もなれないと受付の女性が
苦笑いしていた。
あと冒険者見習いは15歳に満たない者が
なるものでDランクまでは上げられるが
それ以上は、上げられないとのこと。
そのかわり、普通の冒険者は2年の間に
依頼を受けないと登録抹消になるが
見習いは、15歳までは期限なしになる。
以上のことを受付の女性が丁寧に
教えてくれた。
「ご丁寧に、説明して頂き
ありがとうございました!」
素直に頭を下げると受付の女性は
何故か驚いていた。
気が付くと師匠がいなかったので
受付を離れて、周りを探していると
依頼書が貼り出されいるボードの前に
師匠が立っていた。
「師匠、お待たせしました。何か依頼を
受けられるのですか?」
話し掛けながら近くに歩いていく。
「ああ、ぼーや お疲れ様。依頼を確認
していただけだよ。今日は依頼は受けない
から帰って今後の予定を話そう」
そう言うと笑顔で頭をポンポンしてくる。
「分かりました、師匠。では夕食の美味しい
お店でも探して帰りましょう」
抵抗しても無駄なので、なされるままに
2人で並んで入口へと歩いていく。
すると入口付近に、溜まっていた荒っぽい
風貌の冒険者3人がルシアとアレクの進路を
塞ぐように邪魔してくる。
3人内、1番大きな180cm程の山賊のような
格好の男が前に出ると話し掛けてくる。
「おい!ねーちゃん!ここはガキ連れで
くるようなトコじゃねーんだよ!!
さっさと家に帰んな!」と突然こちらに絡み
煽ってくる。
「…………」
師匠は、無関心そうに黙っていた。
すると、師匠が美人なことに気づいたのか
いやらしい視線が全身を舐め回すように
見つめてくる。
「ほう?エロい体してるじゃねーかぁ
どうしても、っていうかなウチのパーティー
に入れてやるぜ?その体で楽しませて
くれるならなぁぁ?」
男が師匠のローブに触れようと手を伸ばすが
その瞬間、辺りの空気が一気に重くなる。
「な?!」男は驚いたように目を見開く
『ピキッ!ピキッピキッ!!』
床が軋むように悲鳴をあげる。
ギルドにいた、他の冒険者達も事の顛末を
見守っていたが……全員が絶句していた。
師匠が一歩、前に踏み出すと男は尻餅をつき
後ろに後ずさる。
「ひっえぇ」言葉ならない声が男から
情けなく漏れる。
すると師匠は、男を見下すように一言だけ
呟いた。
『消えろ………』
心の底から、冷え切った声は
男の心を折る名は、十分だったらしく
気付くと男は気絶していた。
残る2人も汗びっしりになり道を開けている。
すると急に空気が元に戻り師匠が喋り出す。
「下らないことに時間を掛けた飯にしよう」
歩き出した師匠に続くように俺も歩き出し
その場を後にする。
残ったのは、無様な1人と情けない2人は
周りの冒険者達の冷たい視線を察すると
逃げるように冒険者ギルドを出て行った。
夕飯の飯屋を決めたルシアとアレクは
一旦、宿の部屋に帰ってきていた。
「師匠、先程のやりとりは何だったのですか?」
冒険者ギルドでの不自然な小競り合いに
疑問を感じ質問する。
「さっきのは、新人冒険者に対する
洗礼みたいなものなんだが……」
師匠によると
あのような小競り合いを演出して
新人冒険者の対応を見定めようとする
イベントらしい。
「では、あれは やり過ぎだったのでは?」
アレクは率直な感想を伝える。
すると師匠は不快そうに答えてくれた。
「あれは、演出じゃなくて悪質な嫌がらせ
だったからスキル【威圧】で脅かして
やったんだ。
いくら、暗黙のルールだとしても
限度というものがある。奴らは、それを
勘違いし自分達の都合のいいように解釈して
やりたい放題していたようだったからな」
「なるほど〜悪い冒険者の、例だったんですね。あの人達は……」
「ああ、あんな冒険者には絶対なるなよ?
ぼーやは、慕われるような冒険者になれると
私は信じているからな」
「はっ、はい!師匠の期待に応えられるように頑張ります!あっ、ところで明日の予定は?」
師匠の珍しい褒め言葉に照れつつ
明日の予定を確認する。
「明日は拠点を確保しに向かうとしよう。
つまりは、家探しだ!」
グッ!と拳を握り頭上に向かって突き出す
ルシアの姿を見ながら唖然とするアレク。
「え?家を捜しに行くんですか?本当に?
いや、資金とかどうするんです?」
「え?資金ならあるし心配ないぞ、ぼーや」
当たり前のように答える師匠は真剣な表情で
こちらを見ている。
「いえ、なんでもありません。お供します」
静かに抵抗することを諦め師匠に従う。
どんな家がいいかなぁ!と上機嫌なルシアと
深いため息をつくアレクは対照的に
並びながら夜の街に繰り出すのであった。