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アレク16歳

 ウィリデ王国 王都ドォールムの冒険者ギルドの地下訓練所で、訓練用の槍を構えたカインと大盾を構えたアマリアが向かい合っていた。

 カインは、以前よりも槍を構える姿に隙が、なくなり凛とした雰囲気を放っている。

 対するアマリアは、大盾を手に入れた頃に比べると、山のような安定感があり攻めるものに圧迫感を与える構えをしていた。


 カインが、跳ねるようなステップでフェイントを織り交ぜながらアマリアに色々な角度から、突き攻撃を仕掛ける。

 それをアマリアは、“ジッ”と素早い攻撃を観察し、危険な攻撃を大盾を器用に細かく動かして防いでみせる。

 しかも、それで終わりではなく……槍を全て防がれたカインに対して、盾を少しだけ引いたと思うと……次の瞬間には強力なシールドバッシュを放ち、カインを吹き飛ばす。


「っぐ!!」


 思わず、強烈な衝撃を受けて槍でガードしたカインの表情が歪む。

 その一瞬の隙を見逃さず、体重の乗ったメイスの一撃がカインの左脇腹に迫る。

 しかし、その一撃はカインに当たることなく、寸止めされる。

 次第に緊張した雰囲気が、お互いからなくなっていき2人は構えを解く。


「くおぉぉぉ、アマリアのシールドバッシュ凄え効いたぜ!やっぱり、攻撃終わりの隙をバッシュで返されるのは辛いな」

「カインとの訓練のお陰で、だいぶ反撃のコツが掴めてきたわ!シールドバッシュに関しては、かなり熟練度も上がって自在に操れるようになったきたし満足かな?」


 アルテスからドォールムに帰還して、あっという間に半年が経過していた。

 アレク達《漆黒の魔弓》は、戦力強化のために依頼を抑えて、各自訓練に没頭していた。

 最近のカインとアマリアは、良く冒険者ギルドの地下訓練所で模擬戦をしており、今日もアマリアの大盾を使った戦術を試していた。


 最早、ギルド内ではアマリアの代名詞になりつつあるウルティム・シールド……修道服で女性が軽々と大盾を操る姿から、影で“鉄壁の乙女”という通り名が定着しつつあった。

 しかも、鉄壁でありながら回復魔法も同時に使えるため……とんでもない存在として恐れられていた。


 一方、カインも着実に強くなり炎槍“銀翼”を使った鉄をも溶かす灼熱の槍術から、赤い髪も相まって“紅の牙”という恥ずかしい通り名が定着しつつあった。

 カインも流石に恥ずかしいと思ったのか、必死に通り名を否定していたが……抵抗も虚しく定着は止められなかった。


 ちなみに“紅の牙”は、カインの必殺技……溜め込んだエネルギーを一気に爆発させて、突進のエネルギーとスピードを乗せた、必殺の一撃を放つ“瞬槍”(しゅんそう)を炎槍で放った姿が、炎の牙に見えることから名付けられていた。

 そして……その通り名を広めたのは、自らの通り名が気に入らず、それを笑ったカインに復讐を企てたアマリアであった。


「そういえば…アレクとミカは、また壁の外に出てるのか?」

「うん、ミカが“今日も外で特訓する”って言ってたからアレクも一緒だと思うわ」

「まぁ、アレクの場合は灼熱剣とかランスの投擲練習とかあるから……室内じゃ、思い切り特訓できないもんな」

「ミカも魔法の特訓は、室内向きじゃないから外壁まで出てやらないといけないしね」


 2人の話をしながら休憩していると……珍しく受付のセシリアが地下訓練所に降りてくると、カインとアマリアに駆け寄ってくる。


「あっ!良かったぁ〜2人がいてくれたわ!カインとアマリア……アレク君に伝言を頼めるかしら?実はねーー」



 ===============================



 ドォールムの正門から、だいぶ離れた荒れ野に黒剣を両手で握りしめ、天に掲げるように構えているアレクの姿があった。

 目をつむり集中を高めると“カッ!”と目を開き、大剣を振り下ろす。

 すると、たちどころに黒剣が灼熱の炎を纏い“ドオオオオォォォ!!!”と真っ赤に燃える火柱が、100mほどの距離を焼き尽くしていく。

 火柱の通り道は地面が熱で溶け、辺り一帯に焦げ臭さが漂ってくる。


 技を放ったアレクは、涼しい顔で熱を残す“灼熱剣”を軽々と片手で扱い、熱を払う。

 その様子を離れた場所で見守っていたミカエラが近付いてくる。

 まだ辺りに残っている熱で、暑そうに額に汗をにじませていることからも、アレクの攻撃が異常な威力を誇っていることを感じさせる。


「もう完全に灼熱剣を使いこなしてるんじゃないですか?威力も大変なことになってますし……」

「いや、まだまだだよミカ。半年かけてやっと入口に立ったくらいだろう。今はまだ、魔力を消費して炎を放っているに過ぎない……こいつの本当の力は、こんなものじゃないさ」


 最初にアレクは、灼熱剣イグニスを使えるようにするために身体能力の強化に取り組んでいた。

 常人では大剣の重さから、振るうための筋力が足りずに、大剣に振り回されてしまうことがほとんどだからだ。

 慣れない大剣の素振りを何万回も行い、【超回復】の補助を受けながらも、普通に扱えるだけの筋力を半年で得ることができた。

 次に手を出したのが……灼熱剣イグニスの能力である“灼炎しゃくえん”とアレクが名付けた技である。


 魔力50消費することで放つことができる“灼炎しゃくえん”は、その桁違いの火力と引き換えに、致命的な欠点と言えるものがあった。

 それは灼熱剣の特性でもあったが……周辺に存在する炎を隷属れいぞくさせ“灼炎”の火力に加えることができるというものだった。

 しかし、それにより膨大な熱量を生み出すために灼熱剣の使用者や周辺にいる者に被害を与えてしまうのだ。

 黒剣のゴーレムが、強力な“灼炎しゃくえん”を放っていたのも自らの内にいた、火の精霊から炎を引き出し、火力に加えていたからこその威力だった。

 ゴーレムの体が自壊していったのも、この特性の影響だと思われた。


 それを知らずに、最初に“灼炎しゃくえん”をミカエラが近くにいる時に使用して、殺しかけてしまったこともあった。

 その時に疑問に思ったのは何故、使用者であるアレクは無事だったのか?ということだった。

 その答えを教えてくれたのは、火の精霊だった……灼熱剣について質問しようと精霊石から呼び掛けると、言い忘れたことがあったと言い出し【称号】“火精霊の使徒”の効果を教えてくれた。


 “火精霊の使徒”は、火の精霊と信頼関係にある者に送られる称号で、それを得た者は炎に対して絶対耐性と不浄を払う力を得ることができるそうだ。

 不浄を払う力とは、簡単に言うと病気にならないということだった。

 炎が効かない健康な体を手に入れた、アレクだからこそ“灼熱剣”は使うことができたのだ。

 その話を聞いたアレクは、火の精霊に激怒した。


「おいっ!そういう大事なことは、もっと早くに話してくれよ!“灼熱剣”を使った時に、俺もミカも死んでたかもしれないんだぞ!?」

(いや〜、すまないのじゃ!忘れとった!)


 アレクと火の精霊の間で一悶着ひともんちゃくあったものの、【称号】“火精霊の使徒”のお陰で死なずに済んだことで、なんとか和解した。

 一方、ミカエラはというと……以前よりも早く火魔法を取得できるようになり、より精密な魔力操作が行えるようになっていた。


 特に練習していたのが……鬼火ゴースト・ファイヤファイヤ・ストームである。

 鬼火ゴースト・ファイヤは待機型の火魔法で、最大5つまで魔法士の周りに火の玉を浮かべることができ、敵を定めることで高速で飛んでいく魔法である。

 威力は高くないものの、牽制として使える便利な魔法だった。


 そしてファイヤ・ストームは、直径10mほどの空間を炎の渦で焼き尽くし敵を巻き込むことができる広範囲魔法だ。

 多数の敵に対して使用される魔法だが……大量の魔力を消費するのが欠点である。

 しかし、蒼糸の繭を使用したローブや火の精霊の刻印のお陰で、通常よりも魔力消費が抑えられ、数回使用できるまでになっていた。


 それにより、アレクとミカエラの連携技が生まれることになったのである。

 ミカエラが多数の敵に対してファイヤ・ストームを何度か使用し、炎が辺りに広がったところで、灼熱剣で炎を隷属れいぞくして超火力の“灼炎”を放つというものだ。

 この連携技を練習するためにアレク達は、わざわざドォールムの外壁まで場所を移し、炎が燃え広がらない荒野で特訓していた。



 アレクとミカエラ……それぞれの特訓を終えると、ミカエラは魔力回復のために休憩を挟み、アレクは別行動を始める。

 カカシの様な、わら人形を用意すると地面に突き刺して固定する。

 すると100mほど距離を取り、アイテムボックスから鉄と木で出来たランスを取り出す。

 それは以前、黒剣のゴーレムとの戦いでアレクが使用した重装騎兵用の突撃槍として使われる身の丈ほどあるランスと同型のものだった。

 アレクが練習用にウルティム製とは、別に用意した鉄製のランスの感触を握り確かめる。

 アレクは、先端が鋭く尖り円錐型をしているランスを逆手に持つと軽々と、わら人形に向けて投擲していく。


 この半年でアレクが、特訓していたのは灼熱剣だけではなくランス投擲の特訓も続けていた。

【身体強化・極】を使用しての投擲は、前回の戦闘で基礎筋力が保たずに体を痛めたため……【身体強化】から徐々に慣らしていき、投擲の距離を伸ばしていった。

 最初は30mが限界だったものが……大剣の素振りと【超回復】のトレーニングと共に距離が伸びていき、現在では100mまで投擲が、可能になっていた。


 今でこそ、軽々と特訓をこなしているアレクだったが……ここに至るまでには数々の課題が存在しており、最もアレクが頭を悩ませたのが……スキル多重発動だった。

 5つ以上のスキルを同時に発動すると、体に強烈な痛みが走り、意識が飛びそうになる。

 その原因が身体によるものなのか、それとも脳や神経によるものなのか、分からずに悩んだ末に両方に対策を講じることを選ぶ。

 身体能力の強化は、継続して大剣の素振りを行った。


 夜に拠点では、【速読術】+【思考加速】を使用して、ひたすらに計算を実行した。

 半月ほどで計算にも、飽きてきたので変化をつけるために両手で同時に計算を行い、それを日課として二カ月が過ぎた頃に新しいスキル【並列演算】を習得することができたのだ。

 三カ月が過ぎたほどで、スキル多重発動を実際に試してみた。

【身体強力】+【槍術】+【付与】+【雷魔法】+【風魔法】+【投擲】を同時に発動し練習用の鉄製のランスを投擲してみる。


 すると以前のように体に痛みを感じることもなく、問題なく投擲することができたのだ。

 こうして1つ1つ立ちはだかる課題を解決して、アレクは新たな力を会得していった。

 いつもの特訓を終えて道具を片付けていると、アレクの探知に引っかかる者が外壁の陰から、アレク達を観察しているのを見つける。


「ミカ……視線は送らずに俺の話を聞いてくれ。正門側の外壁の陰から、俺達を観察している者がいる。まだ、敵対の意思は感じられないが……一応、警戒しておいてくれ」

「り、了解です……それにしても僕はともかく、アレクさんを観察するなんて中々に度胸がある者ですね」


 ミカエラの言う通り、アレクの探知スキルは中々の性能を誇っている。

 街やギルドでも隠れて様子を窺う者がいれば、音もなく背後を取るくらいには技術的にも高められている。

 それでも、なおアレク達を観察するとは余程の実力者か、迂闊うかつな者だろうとミカエラは言っていたのだ。


「少しだけ、脅かしてくるか……ミカ!合図したら上空に威力を抑えた火炎弾ファイヤボールを打ち上げてくれるか?」

「り、了解です!」


 アレクがアイテムボックスから、短剣を取り出し腰に装備すると、ミカエラに合図を出す。

 合図を受けたミカエラは、まるで打ち上げ花火のように魔法を上空に向かって放つ。

 事情を知らない者が意識を魔法の方に向けざるを得ない状況を作り出すと、その瞬間にアレクの姿が搔き消える。

【無の歩み】+縮地の合わせ技で、まるで消えたように高速移動を連続で繰り返し、150mほどあった観察者の背後にまで、あっという間に辿り着く。


 短剣を取り出すと、隠れていた紺のフード付きローブを着た者の首元に短剣を滑り込ませる。


「勝手に動くな……動けば殺す。その代わり俺の言う通りに動くことだけは許可しよう。では、フードを取ってもらおうか?」

「………………」


 観察者は、黙ったまま静かにフードを取る。

 その中から、現れたのは見慣れた紫色の長く美しい髪だった。

 アレクが、予想外の人物の登場に固まっていると観察者が話し掛けてくる。


「まさか、ぼーやに背後を取られることになるとは思わなかったぞ?どうやら、会わない間に随分と成長したようだな?」


 アレクが急いで、短剣を観察者の首元から退けると彼女は、ゆっくりと振り向いた。

 紫色の髪はウェーブするように、ふわりと気品ある雰囲気を醸し出しており。

 前髪で片目が隠れているが紫色の瞳はまるでサファイヤのように深い色で彼女のミステリアスなイメージを引き立てている。

 それは見慣れたものであり、久しぶりに見るものでもあった。


「し、師匠!?戻られてたんですか!!」


 それは紛れもなく、アレクの師匠であるルシア、その人だった。


「まぁ、色々と言いたいことはあるだろうが……とりあえず、ただいま」


 優しい笑顔を見せてくれたルシアに、思わずアレクも笑顔になり挨拶を返す。


「……おかえりなさい、師匠!」


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