旅の終わりは大騒ぎ
ドォールムへ帰ってきたアレク達《漆黒の魔弓》は、普段通りに消耗品の買い出しやギルドへの報告を行っていた。
アレクも副ギルドマスターであるバルドに、アルテスで起こったことなどを報告するために冒険者ギルドの応接室に移動していた。
応接室のソファに座りながら、バルドを待っていると静かに扉が開き、熊のような風貌のバルドが姿を見せる。
「アレクっ!帰ったか!心配して――」
そこまで喋るとバルドが、アレクの姿を見て固まる……正確にはアレクの腕に抱きついているセシリアの姿を見てだが……。
アレクの隣に座り、まるで恋人のように寄り添う姿を見てバルドが固まったのも仕方のない光景だった。
「バルド教官、只今戻りました。色々と報告したことがありまして……忙しいところ呼び出して、すみません。」
「えっ?お、おう!別に俺のことは気にしないでいいぞ?別に時間なんて自由に作れるからな。……それで、セシリアは――」
そこまでバルドが口を開くと、アレクが右手の手の平を突き出し、バルドの質問を遮る。
「セシリアさんのことは、無視して報告を続けましょう。これから話す内容は、外部に漏れると不味い件もありますが……セシリアさんであれば問題ないでしょう」
「お、おう。アレクが、それでいいなら構わんが……いつもの発作か?しかも、前よりも悪化していないかセシリアは?」
アレクの全てを諦めた表情から、心情を察してくれたバルドが報告を黙って聞いてくれる。
それからアレクは、アルテスに到着してからのことを簡単に説明していく。
ウルティム発掘や蒼糸の繭の入手・新たな武具の開発・アルテス近郊に潜んでいた盗賊団の壊滅・商人ギルドとの交渉・そして火のダンジョン攻略と火の精霊の解放。
結果としてBランクに昇格したことなどを、順番に報告していった。
バルドは何度も驚き、何かを考えている様子を見せた。
最後まで話を聞き終わったバルドは、報告の中で気になった箇所を細かく確認してくる。
冒険者ギルド副ギルドマスターとして、聞き流せない情報が多くあったためだ。
アレクも重要な情報だと思ったからこそ、バルドを直接呼び出して報告していた。
「まさか、半年前にCランクになったばかりだったのに……アルテスから帰ってきたら、Bランクに昇格しているとはな!本当に驚かしてくれるなアレクは!!」
「俺だけの力ではありませんよ?仲間達がいてくれたから、ダンジョン攻略を果たすことができたんです。俺1人だったら、とっくの昔に死んでますよ」
アレクの言葉には、しっかりとした心がこもっていた。
アルテスでの日々を通して、パーティーとして成長し、アレクの前世についても受け入れてくれた仲間達に対して、本当に感謝と信頼を抱いていたからだ。
そんなアレクの様子に満足そうに頷き、笑顔を見せるバルドだったが……その表情は次第に真剣なものに変わっていく。
「それにしても……やはり、気になるのはカエルレウム共和国の動きだな。ウィリデ王国の隣国だけあって、悪い噂は聞いていたが……実際に脱走兵が犯罪者になるまでになっているとは」
「ええ、尋問を行った者の話だと内政の乱れから犯罪や事件が多発して、それを国が抑え切れていないようですね」
「これからはドォールム近郊にも、犯罪者が流れてくる可能性もある。警戒態勢を強化するように国にも情報を流しておこう」
アレクは逆にバルドから、ドォールムに何か情報が流れてきていないか確かめたり、ここ半年の街の様子を確認した。
あまり、大きな変化は見られなかったということだったが……アレクは気になっていた、風の精霊の聖域についてバルドに聞いてみる。
「ドォールム近郊に風の精霊の聖域があるという情報を聞いたのですが……そういった話を耳にしたことはありますか?」
「風の精霊の聖域か……俺は耳にしたことはないな」
「そうですか……そういえば師匠達は、まだドォールムに帰ってきてないんですか?」
「ルシア達も他国に出ているが帰ってきていないな、何か用があったのか?」
「いいえ、特に用があったわけではなかったのですが……帰ってきていたら顔でも見せに行こうかと思っただけです」
アレクとバルドは、情報交換が終わると今後の予定についても話し始める。
「アレク達は、暫くはドォールムにいられるのか?たまには、ゆっくりと羽根を休めることも必要だぞ?」
「少しの間は、ゆっくり過ごそうと考えてますよ!それに訓練や新たに覚えた技術に磨きをかけたいと思ってますので」
「ほう?また強くなったということか?なら、久しぶりに特訓の相手になってやろうか?」
「バルド教官が、よろしければ相手を、お願いをしてもいいですか?教官に成長の証を、お見せしたいと思いますので期待していて下さい」
アレクは、今回の遠征で色々な課題を見つけていた。
個人能力を高めることもそうだが……何よりパーティーメンバーの役割が、新しい装備を揃えたことで変化してきているのを感じていた。
それによりアレク達の戦い方も、新たな形へと進化しようとしている。
パーティーとしての当面の目標は個人能力を伸ばしつつ、より強力な連携攻撃を行えるようすることであった。
そして何より……新たに手に入れた武器や攻撃手段を、どのように運用して自らの力にしていくか。
その好奇心を、抑えられないくらいにアレクはワクワクしていた。
灼熱剣イグニス・ウルティム製ランスによる攻撃方法・ウルティム製ナックルの体術など研究のし甲斐のある素材に内心、興奮を抑えられないでいたのだ。
しかし、冒険者チームのリーダーとして責任を果たさなければならずに、若干ストレスを感じていた。
例えるなら、新作のゲームを買ったのに……仕事が忙しく手をつけられない状況に、ストレスを感じているようなものだった。
色々と時間が掛かったものの、問題なく冒険者ギルドへの報告を終えたアレクは、仲間達と合流した。
ギルド内では、ずっとベタベタと引っ付いていたセシリアを仕事に戻し、夜に帰還の打ち上げをする約束を交わして別れる。
パーティーも一旦、解散して各自で休息を取ることになり、アレクは冒険者ギルドを後にするのであった。
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ドォールムに帰還した夜……いつもの酒場でアレク達《漆黒の魔弓》は、打ち上げを行っていた。
ワイワイと騒がしい店内で、酒と果物水が入ったグラスで乾杯し、運ばれてくる料理を食べながらリラックスした時間を過ごす。
仕事で来るのが遅れているセシリアを、待たずして打ち上げを始めたアレク達は、今回の旅を振り返っていた。
「今回の1番、成長したのはアマリアじゃなか?大盾が、すっかり板についてきただろ?」
「カイン、何言ってるのよ!1番、成長してたのは間違いなくアレクでしょ!?」
「いや、ほら……最近のアレクは、人間やめ始めてるから除外しないと!」
「……ぬぅぅ、確かに人間やめ始めてるわね!じゃあ〜アレクは無視すると私が1番、変わったことは確かにね!」
アレクのことを、メチャクチャに言いながら盛り上がっているカインとアマリアだったが……次の瞬間、その笑顔が凍りつく。
何故なら、カインとアマリアをニコニコしながらアレクが見つめていたからだ。
アレクは普段、本当に怒っている時にはニコニコして話し掛けてくる。
それを知っている2人は、アレクの笑顔に恐怖を感じていた。
先程までのアレクをからかう雰囲気から、一気にお通夜のような神妙な雰囲気に、2人は飲まれていく。
急に小声になるとカインとアマリアは、ヒソヒソと会話し始める。
(どーするんだよ!アマリア!!アレク、すごく怒ってるじゃんよ!)
(知らないないわよ!カインが話を振ってきたんでしょー!?)
そんな2人を差し置いて、普段通りにミカエラがニコニコしているアレクに話し掛ける。
「どうしたんですかアレクさん?すごく機嫌が良さそうですけど?」
そんなミカエラに、カインとアマリアが戦慄する。
ミカエラは普段から空気を感じ取るのが苦手であったが……今日はカインとアマリアを追い込むようにアレクに質問してしまい、2人を地獄に叩き込もうとしていた。
(ミカー!?や、やめてくれぇーー!これ以上、俺達を追い込まないでくれぇぇ!)
(……ミカ。そういう純粋なところ、お姉ちゃんは好きだよ。けど今は、その純粋さが私達の命を消そうとしてるの……)
死を覚悟した2人を前に、アレクの口が開かれる。
「やっぱり、機嫌が良いの分かっちゃったか!いや〜色々と面白い武器とか攻撃手段とか手に入ったから研究するのが楽しみでさぁ〜今日1日ずっと、ウズウズしてたんだよ!」
「「えっ?」」
「ん?どうした?カインとアマリア、顔色が悪いけど……もう酔ったのか?」
「あっ、いや全然まだ酔ってないぞ??なぁ?アマリア!」
「ええ!!まだまだ余裕よね!カイン?」
「楽しいのはいいことだけど……あまり飲み過ぎるなよ2人とも」
上機嫌に話すアレク・ミカエラとは対照的に、大人しくなったカインとアマリアは静かにグラスに入った酒をあおると、胸を撫で下ろした。
互いに目線で、もう不用意にアレクをからかうのをやめようと誓い合うと普通に話し始める。
「ねえカイン?火の精霊に強化してもらった槍の調子は、どうなのよ?」
「うん?ああ、炎槍“銀翼”のことか?中々に強力な武器だよ……あれは」
「カインは慣れた武器があっていいよね〜私は、最近使い始めた大盾で手一杯よ……」
「手一杯って……さっきも言ったけどアマリアは1番、成長してると思うぞ?」
「まだまだよ!やっとみんなの役に立つ役割が見つかったのに……守ることだけで精一杯だもの」
「………………」
珍しく弱音を吐くアマリアに、カインは驚きを隠せなかった。
普段から冗談で弱音を吐くことはあっても、心から弱音を吐かないことが、アマリアの強さだと思っていたからだ。
だからこそ、カインは戦士として優しい言葉を掛けることはしなかった。
そして、かつてバルドから教わったことをアマリアに伝える。
「アマリア……、戦士は誰しも自分の無力さを感じる時が必ず訪れる。そして、そこで歩みを止めなかった者が本当に強くなるんだ」
「……………」
「アマリアが本当に悩んでるってことは、戦士として成長してるってことだと思うぜ」
「そっか……そうなのかもね」
先程よりも、少しだけ明るくなった顔色でアマリアは頷いた。
場の空気を変えようとカインが、アマリアに成長するための方法を提案してみる。
「それに、そういうことはアレクに1番に相談するべきだと思うぞ?新しい技術を生み出したり、調べたりして自分の力にするのがアレクは得意だからな!きっと、アマリアの力になってくれるだろ?」
「それもそうね!アレクなら、私達が想像もしない方法で問題を解決しちゃうかも!」
いつの間にか、普段通りの2人に戻りワイワイと話し出す。
そんなことをしているうちに、セシリアが遅れて酒場に登場し、大いに場を盛り上げる。
酒場に駆け込んでくると、アレクに抱きつき頬にキスをしたのだ。
それを見ていた酒場の者達は、おおぉぉぉ!と歓声を上げる。
先程まで上機嫌だったアレクのテンションは一気に急降下し、その後は死んだ魚のような目をしていた。
そんな様子を見ていたカインが、セシリアに向かって“こんなところでキスするなんて、何を考えてるんだっ!”とアレクを介抱しながら激怒していた。
場の空気について行けずに、あわあわするミカエラ・達観した表情で一連の騒動を見守るアマリア。
こんな調子でドォールム帰還の打ち上げは、過ぎ去っていたのである。




