ドォールムへの帰還
半年におよぶアルテス滞在も、あっという間に過ぎ去りアレク達は旅立とうしていた。
とてもお世話になった夜空の輝き亭前で、女店主のスザンナさんと妖精の羽根の面々が、見送りに集まってくれる。
「アレク達には、私を含めドリーも世話になったね!心から礼を言うよ。最初にうちの宿に来たときは正直、頼りない感じの男かと思ったけど……今じゃ、アレク以上に頼りになる男はいないと思ってるよ!」
「スザンナさん、半年間お世話になりました!順調に冒険できたのも安心できる拠点があったからです。こちらこそ、ありがとうございました!最初より成長できたってことですかね?」
スザンナとアレクが、笑いながら話しているとスザンナの後ろにいたドリーが泣き始める。
「うぅぅぅ〜アレクさん、帰ってしまうんでずがぁぁぁ!ざみじいでずぅぅぅ!」
「ドリー……泣きすぎだろ!そら、これで涙拭けよ。俺達、冒険者に別れはつきものだろ?それに、これで今生の別れって訳じゃない……ドリー達がCランク冒険者になれば、ドォールムにも仕事で来るかもしれないしな」
布を取り出して、泣きじゃくるドリーに手渡すと肩を叩きながら慰めるアレク。
今では、年齢差が完全に逆転している2人のやりとりを楽しそうにスザンナが見つめていた。
サリアはカイン・アマリアと話し込んでいるし、マギーとミカエラは大人しい者同士で、うまくやっているようだ。
それぞれと別れの挨拶を交わし、アレク達は夜空の輝き亭を離れるのであった。
冒険者ギルドで馬を借りるためにギルド裏手に回り込むと、わざわざレナードがアレク達のことを待ってくれていた。
ギルドマスターのシリンには、ダンジョンで手に入れた宝の換金の際に、アルテスを離れることを伝えて別れの挨拶を済ませていた。
「皆さん、お待ちしておりました。本日は、お別れの挨拶とアレク君達に伝えておきたいことがありまして……」
「レナードさんにも大変お世話になりました。本当にありがとうございました!……俺達に伝えておきたいことですか?なんでしょう?」
「実は――」
レナードの口から語られたのは、風の精霊の聖域についての話だった。
アレク達から火の精霊の話を聞いたレナードは、ギルドに保管されていた資料の中に精霊についての記述があったことを思い出し、わざわざ調べてくれていた。
その資料によるとドォールム方面にも風の精霊の聖域があるという言い伝えが周辺の滅んだ街にあったらしい。
100年前の戦争で、アルテスへと逃げ込んできた者によって伝えられたことだったが……当時は重要な情報と判断されずに、資料は放置されていたようだ。
「役に立つ情報かは分かりませんが、知っておいて損はないと思いますので……ぜひ、アレク君達の耳に入れておこうと待っておりました」
「レナードさん、俺達が火の精霊と出会ったことも何かの縁があるのでしょう……その情報は必ず役に立つと思います。それに個人的にも気になっていることもありますので……貴重な情報をありがとうございます」
思わぬところから、情報を手に入れたアレク達はレナードに感謝しつつアルテスを離れた。
次第に小さくなっていくアルテスの街を眺めながら、御者席でアレクが独り言を呟く。
「まだ自信を持って彼女には、会いに行けないな……でも、いつか必ず会いにいこう」
アレクが、思い出していたのは2年前に守りきれなかった1人の少女のことだった。
アレクが強くあろうとする、きっかけをくれた彼女のことを考えながら、アレクは馬車を操りドォールムへ向かっていく。
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ドォールムへ向かう馬車での旅の途中で、馬車の中では感激の声が上がっていた。
アレクがフェルムに製作を依頼した特注の馬車により、激しい揺れや安定しない路面によって発生していた振動が見事に軽減され、快適な馬車の旅が送れていたからだ。
御者席にいるアレクに、屋形からアマリアが大声で話し掛けてくる。
「全然揺れないし、これなら私の腰もお尻も痛くならないよ!いつ間に、こんなものを作ってたのアレク?」
「元々はダンジョン攻略に入る前に、フェルムさんに依頼してたんだけど……完成したのは、みんなが俺に面倒事を押し付けて逃亡してた時かな?」
「ぐっ……まだ怒ってるの?だって、仕方ないじゃない!弟子とか私に取れるわけないし、そういうのはアレクが断ってくれないと、しつこいんだもん」
「まぁ、リーダーの仕事でもあるから仕方ないけど……俺だって特訓とかしたかったのに、面倒事で時間をかなり取られたんだぞ?」
文句を言いつつアマリアと、やりとりをしていると御者席の横に座っていたカインが話に割り込んでくる。
「そういうば、鍛冶を覚えたんだろ?アレクは、専用 職業のスキルでも覚えられるんだろ?鍛冶のスキルは、習得したのか?」
「いや、多分してないと思う。俺の場合は、覚えるのに時間が掛かるから……鍛冶のスキルは、これから時間を掛けて覚えていくよ!それにスキルがなくても武器・防具の手入れはできるように勉強したから安心しな」
そう言いながら、アレクは念のためにアイテムボックスから、冒険者カードを取り出して確認しておく。
以前のステータスよりも、ダンジョン攻略を経て強くなっているのを比較しながら項目を見ていく。
ダンジョン前
〔名前〕アレクサンダー
〔年齢〕15
〔職業〕持たざる者
〔レベル〕30
〔体力〕(HP)1100
〔魔力〕(MP)320
〔攻撃力〕580(+15)
〔防御力〕360
〔敏捷性〕470
【エクストラスキル】
瞬斬術 無の歩み 雷鳴弓
【パッシブスキル】
気配探知 魔力探知 超回復
【スキル】
歩行術 投擲 槍術 弓術 剣術 盾術 体術 隠密
魔力操作 炎魔法 水魔法 風魔法 雷魔法 土魔法 解体 身体強化 夜目 遠視 付与 錬金 威圧
速読術 思考加速 音波探知 鑑定
【称号】
なし
ダンジョン攻略後
〔名前〕アレクサンダー
〔年齢〕15
〔職業〕持たざる者
〔レベル〕40
〔体力〕(HP)1680
〔魔力〕(MP)470
〔攻撃力〕680(+15)
〔防御力〕470
〔敏捷性〕600
【エクストラスキル】
瞬斬術 無の歩み 雷鳴弓
【パッシブスキル】
気配探知 魔力探知 超回復
【スキル】
歩行術 投擲 槍術 弓術 剣術 盾術 体術 隠密
魔力操作 炎魔法 水魔法 風魔法 雷魔法 土魔法 解体 身体強化 夜目 遠視 付与 錬金 威圧
速読術 思考加速 音波探知 鑑定
【称号】
火精霊の使徒(new)
所持金 金貨9,100枚
火のダンジョン攻略で宝物庫にあった金貨や換金した鉱石・お宝を含めると金貨8,000枚ほどの稼ぎになった。
それを4分割しても一人頭 金貨2,000枚となり、仲間達も平均して金貨5,000枚ほどに所持金が増えていた。
以前、師匠が言っていた冒険者として高ランクになれば生活に困ることはなくなる、という言葉をアレクは実感していた。
そして、ステータスを確認していて1番、気になった“火精霊の使徒”という項目について真剣に考える。
気になっていることは色々とあったが……最初に疑問に思ったのは何故、火の精霊などの存在が世界で知られていないのか?ということだった。
火の精霊が言っていたように適正のある者にしか姿を見ることができないとしても、ここまで情報がないのも珍しく感じる。
(もしかして、意図的に精霊の存在を隠してるのか?過去に隠すような、きっかけになることがあったとか?)
馬車の操作をカインに任せると、アレクは1人で考えても仕方ないので、実際に火の精霊に聞いてみようとネックレスに意識を集中して精霊に語り掛けてみる。
「おーい、火の精霊聞こえるかー?」
(なんじゃ?聞こえてるぞ人の子?)
「おおっ!本当に話せた!ちょっと聞きたいことがあるんだけど……いいか?」
(いいぞーなんじゃ?)
「なんで精霊の存在が、世界であまり知られてないんだ?もしかしなくても、魔法とかも精霊が関係してるんだろ?」
(それは精霊の力を悪用されないようにするためじゃ!おぬしも精霊の力によって活性化したダンジョンを見たじゃろ?精霊の力は使う者によって、大きな影響を与えるからな)
「だから、できるだけ秘密にして悪用されるのを防いでいたと」
(そうじゃ、魔法による事象を引き起こしているもの精霊の力じゃ。魔力を対価として精霊が力を貸してくれている)
自分達が知らないうちに精霊の力を借りていたことを知り、本当に火の精霊とかいるのか?と疑ってしまったことをアレクは、心の中で謝罪しておく。
「それじゃ、話が変わるけどドォールム方面に風の精霊がいるっていう情報があったんだけど……本当なのか?」
(おぬしの言うドォールムが分からぬが……今進んでいる方角に風精霊の聖域の気配は感じるぞ!人払いの結界が張られているようだが……もっと距離が縮まれば正確な場所も分かるだろう)
「へぇ〜本当に風の精霊の聖域がドォールムにもあったのか。昔の人の情報も捨てたもんじゃないな」
(なんじゃ、風の精霊に会いたいのか?)
「いや、別に会いたいわけじゃないけど……風の精霊の聖域っていうのには興味あるかな?どんなところなのかは気になる」
聞きたいことを大体、聞き終わったアレクは火の精霊に別れを告げて会話をやめようとするが……1つだけ聞き忘れたことを思い出し最後の質問をする。
「あっ、最後に聞きたいんだけど……100年前の戦争について何か知ってる?」
(100年前の戦争……火の聖域にダンジョンが出現した頃か、いや特に知ってることはないな)
「そうか……いや、ありがとう!また何かあったら話を聞かせてくれ」
結局、100年前の戦争や英雄についての情報は得ることができなかったが……風の精霊がドォールム方面にいることは分かった。
今後の予定に、余裕があれば聖域を探すのも悪くないと考えながら天気の良い青空をアレクは仰いだ。
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馬車の御者席に吹く風が暑さを感じるものから、心地良さを感じるものに変わっていく。
流れる風景も見慣れた草原地帯に変わっていき、ドォールムに近付いているのを実感させてくれる。
本来なら2週間の旅になる所を、新型の馬車のお陰で1週間と3日で帰還することができた。
それは馬車に乗っているアレク達だけでなく、馬車を引いている馬の疲労も分かりやすく軽減されていた。
快適な旅を過ごしたアレクは、半年ぶりのドォールムに到着する。
ドォールムを囲む大きな城壁も落ち着いた街並みも、たった半年だけだというのに随分と離れていたように感じる。
「やっと、帰ってこれたな!半年だけしかドォールムを離れていないのに随分と時間が過ぎたように感じるぜ!」
「同感だな!俺も同じことを考えてたよ。やっぱり、ここが俺達が拠点ってことなんだろうな」
「ああ、とりあえず冒険者ギルドに向かうんだろう?セシリアさんがアレクのことを待ってると思うぜ?」
「そうだな……仕方ないから、姉さんのご機嫌でも伺うとしますか」
軽口を叩きながら、正門で冒険者カードを見せて通過すると真っ直ぐに冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルドの裏手へ到着すると馬の返却をカインに頼み、アイテムボックスに馬車を収納する。
普段通りに消耗品の買い出しとギルドへの報告に役割分担してアレク達は行動を開始する。
カインに雑用を任せ、アレクはギルドの受付に向かう。
セシリアが受付にいるかと恐る恐る様子を窺うと受付には、以前のCランク昇格試験の時に知り合ったミザが座っていた。
相変わらず緑髪を三つ編みにしている姿に、懐かしさを感じながら。彼女に話しかける。
「よっ!久しぶりミザ!」
「あっ!アレクさん、お久しぶりです!アルテスから戻られたんですね。お元気そうで何よりです!」
「ああ、こっちは元気でやってたよ。今日、ドォールムに帰ってきてね……それとアルテスでBランクに昇格したから、申請をお願いしてもいいかな?」
「えっ?もうBランクに昇格したんですか!?半年前にCランクに昇格したばかりじゃなかったですっけ??」
「まぁ、色々アルテスでもあったからね……バルドさんに報告したいこともあるし、都合が良ければ直接報告したいんだけど大丈夫かな?」
「分かりました!すぐに確認しますので、少々お待ち下さい。……あと、セシリアさんをお呼びした方がいいですか?」
「あ〜できれば、人がいないところに呼び出してくれると助かる。面倒なことになりそうな気がするから」
アレクがミザにお願いをしていると、どこからともなくセシリアが現れて凄い勢いで、アレクの元に向かってくる。
探知スキルでセシリアの接近を察知したアレクは、背後から抱きつこうとしてきたセシリアを、ひらりと華麗に回避してみせる。
抱きつきを回避されたセシリアが“ビターン!”と床に叩きつけられるのを、ギルド内にいた全ての者が注目して見ていた。
皆がセシリアとアレクを交互にを見て、何かを納得したような表情を浮かべる。
むくっと、何事もなかったように起き上がるセシリアが泣きそうになりながら、アレクに話し掛けてくる。
「アレク君っ!!おかえり!会いたかったよー!!なんで抱擁を躱すの??」
「ただいまです。いや〜なんか、身の危険を感じて自然に体が動いてました……」
それから暫く抱きついたり、頭を撫でられたりとギルド内での公開処刑を受けたアレクは、コアラのように引っ付いてくるセシリアを連れたまま、応接室に移動するのであった。




