人気者と弊害
火の精霊との邂逅を終えたアレク達は、とりあえず火のダンジョン攻略を終えるために最奥の宝物庫に向かう。
主部屋の奥にある石の扉を開けると、部屋には溢れんばかりの金貨や鉱石が転がっていた。
一旦、それを無視してアレク達は宝物庫の中央に置かれた宝箱に向かう。
「やっと、お楽しみの宝箱の中身を確かめられるぞ!宝物庫にある金貨や宝石でも十分に価値があるけど……やっぱり宝箱には期待しちゃうよな?」
「アレク!早く開けようぜ!未到達のダンジョンの宝箱なんだか、すごいものが入ってるだろ?」
「ちょっと、私にも見せなさいよ!初ダンジョン攻略なんだから!」
「ぼ、僕も宝箱には興味あります!」
期待に胸を膨らませながら、パーティーメンバー全員で宝箱を開ける。
宝箱の中には燃える炎を象った杖と茶色い皮袋だが……薄く虹色の膜が掛かったものが入っていた。
アレクが、それらを手に取り鑑定で調べてみる。
「【鑑定】……」
鑑定結果:炎の杖
効果:火魔法の威力向上・消費魔力軽減
鑑定結果:魔法の袋
効果:一定量のものの収納が可能。
「炎の杖か……なら、これはミカに渡そう!ほら、受け取ってくれ」
「え?いいんですか?今使ってる杖でも十分に戦えますけど……」
「ミカだけ、武器の新調ができなかったし、俺達が持ってても使い道がないから気にするなよ」
「……分かりました。大切に使わせてもらいますね!」
ミカエラは嬉しそうに炎の杖を受け取ると早速、装備して使用感を確かめているようだった。
今まで使っていた杖は、一応アレクがアイテムボックスに収納して管理しておくことになる。
「次に魔法の袋だけど……カインとアマリアに渡しておこうと思う。武器の交換や盾の出し入れにも便利だからな。ちなみに魔法の袋は高額で取り引きされると、ギルドの資料に書かれていたから……なくすなよ?」
「槍の交換にも便利だな!助かるぜ!なくさないぞ?子供じゃないんだから」
「私も盾の出し入れに役立ちそうだから、貰っとくわ!なくすわけないじゃない!……多分」
それからは、空の大樽を用意して宝物庫に放置されていた金貨や鉱石などを全て回収していく。
金貨に埋もれた中には、装飾された短剣や立派なアクセサリーも混じっていたので、壊さないように丁寧に回収しておいた。
時間が掛かってしまったが……全てを回収し終わるとアレクは宝物庫の奥に置かれていた核魔石に近付く。
核魔石は、宝物庫の奥の壁にめり込んでおり、手の平から余るほどの大きさをしている。
紫色の怪しい輝きを放っている核魔石を、アレクは無理やり壁から剥がし回収する。
何か起こるわけでは、なかったが……ダンジョンの気配が少しだけ弱まった気がした。
「これで、火の精霊の言う通りならダンジョンが次第に消滅し、聖域というやつが復活するだろう」
「なぁアレク……その聖域が復活するまで、どれだけの時間が掛かるんだろうな?火の精霊の話から100年単位のこともあり得るんだろう?またダンジョンの方が復活しないのかな?」
「俺に聞かれても、詳しくは分からないさ!まぁ、ダンジョンから脱出したら火の精霊にでも聞いてみるさ。いつでも、話せるみたいなことを言ってたし」
火のダンジョンで、するべきことを終えたアレク達は主部屋へと戻る。
主部屋の中心には青白く光る魔法時が、浮かび上がっており皆が魔法陣を見て安堵する。
何かの間違いで魔法陣が出現しなければ……また、ダンジョンを逆走しなければならないのでアレク達の心配も当然のことであった。
アレク達《漆黒の魔弓》は、全員で魔法陣の中に入り地上へと脱出した。
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久しぶりの日差しと新鮮な空気を堪能したアレク達は、アルテスへ帰還した。
皆、ダンジョン攻略の疲れがあったが……火のダンジョン攻略完了の報告を行うために冒険者ギルドに向かう。
受付で用件を伝えると、ギルド内が慌ただしくなり、受付の女性に応接室に案内された。
アレク達が、レナードを待っているとレナードと一緒に女性が部屋に入ってくる。
テーブルを挟んで向かいあったアレク達とレナードと女性だったが……先に話し始めたのはレナード達だった。
「アレク君、こちらの方がアルテス冒険者ギルド ギルドマスターのシリン様です」
「初めまして《漆黒の魔弓》の皆さん、只今紹介頂きました。アルテス冒険者ギルド ギルドマスターのシリンです」
シリンは上品な雰囲気を持つ女性で、茶色く長い髪を肩の前に垂らして巻き髪にしていた。
年齢は、とても若く見えたが……ギルドマスターという地位にあることから、若作りなのだろうと判断して、アレクは年齢については触れないでおいた。
レナードが紹介してくれた女性が、ギルドマスターだろうと予想していたアレク達は丁寧に頭を下げて挨拶する。
自己紹介とパーティーメンバーの紹介を終えると雑談に入りながら本題に入った。
「《漆黒の魔弓》の皆さんの活躍は、レナードからも良く聞いています。特にリーダーのアレクサンダーさんは期待のルーキーだとか」
「いえいえ、まだ若輩で先輩冒険者の皆さんには勉強させて頂くことばかりです」
「世間話は、この辺にして本題に入りましょうか……今回、誰も到達していなかった、火のダンジョンを攻略したというのは本当ですか?」
応接室に真剣な空気が流れる……手っ取り早くダンジョン攻略を完了したことを証明するために、アレクは予め用意していた核魔石を懐から取り出す。
静かにテーブルの上に置くと、2人の反応を待つ。
「こ、これは!?この大きさ……火のダンジョンを攻略したというのは真実だったようですね!」
興奮を隠し切れない様子で、核魔石を見つめるシリンとレナードに、アレクは引き続きダンジョン内であったことを説明する。
ダンジョンの異常な仕組みや特殊な主部屋の魔物……そして、その原因になっていたダンジョン最奥の黒剣のゴーレムと火の精霊について。
シリンとレナードも、火のダンジョンのことを通常のダンジョンと同様に考えていたのか、アレクの説明を聞いて驚きを隠し切れない様子だった。
話を一通り終えると、話に出てきたドロップ品の炎の直剣・斧・槍に宝物庫にあった珍しい鉱石や装飾された短剣などもテーブルの上に置いていく。
そして、最後に燃える黒剣を出した時にシリンとレナードが身を乗り出して、黒剣に注目してくる。
「これは……こんなものをゴーレムが!!これは素晴らしい逸品ですよ!どれ程の価値があるかも分からない大剣です」
「ギルドマスターが、取り乱すのも分かる素晴らしい大剣ですね!まさか、これ程のものをダンジョンから持って帰ってくるとは……」
アレクも、主部屋で回収してから出すのを忘れていたために試しに黒剣を鑑定してみることにする。
「【鑑定】……」
鑑定結果:灼熱剣イグニス
効果:火の精霊の炎によって鍛えられた大剣。魔力を消費することで灼熱の剣撃を放ち、広範囲に攻撃することが可能。
「実際に攻撃を受けたことがあるから分かりますけど、凄い威力の大剣です」
アレクは、今調べて分かった内容をシリンとレナードに伝えると、2人とも開いた口を塞げずにいた。
その後、大剣やドロップ品に関した所有は当然、アレク達に所有権が認められた。
核魔石についてもギルドに買い取ってもらおうとアレクは、考えていたのだが……火の精霊の話のこともあり特殊な用途があるかもしれないので《漆黒の魔弓》で預かってほしいと、シリンとレナードからお願いされてしまう。
仕方なく、核魔石はアレクのアイテムボックスの中に収納され管理することになった。
珍しい鉱石や装飾された短剣については、ギルドで買い取ってくれることになり後日、換金する予定を決めてギルドへの報告を終えた。
やっと解放されたアレク達は、宿に帰って休憩したらダンジョン攻略の打ち上げをしようと決めていたところ……ダンジョンからの帰還を何処からか聞きつけた妖精の羽根が突然、アレク達の前に現れ、拉致されて酒場に連行されるのであった。
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ダンジョンから帰還したアレク達は、ゆっくりと休息を取りながら各自でやるべきことをこなしていった。
カインは、新たに強化された炎槍“銀翼”を使いこなすために冒険者ギルドの地下訓練所で汗を流し、アマリアも今回のダンジョン攻略で大盾の使い方について思うことがあったのか……ギルドから教官を紹介してもらい特訓をしていた。
ミカエラは、火の精霊から授けられた魔法の力を自在に使えるように、アルテスの外で訓練を行っているようだった。
アレクも、仲間達に刺激されて訓練しないと思っていたが……冒険者チームのリーダーとしてしなければならない仕事に、忙殺されていた。
アレク達《漆黒の魔弓》が、火のダンジョンを攻略したという情報は、アルテスに一気に広まった。
そのことにより、攻略の詳しい話を聞かせてほしいと言う者や弟子にしてほしいと言い出す者、稀に何故か勝負を挑まれることもあった。
パーティーメンバーの元にも人が殺到したらしいが……全てリーダーであるアレクに、丸投げして逃亡したらしい。
それに拍車を掛けたのが、《漆黒の魔弓》のBランク昇格だった。
ダンジョンの宝の買取を行ってもらいに冒険者ギルドを訪れた際に、シリンとレナードからBランク昇格を告げられたのだ。
火のダンジョン攻略は、100年間も誰も成し得なかったことであり、それを成した冒険者チームにギルドから何も報酬がないのはマズイので受け入れてほしいと、逆にお願いされてしまった。
仕方なく昇格を受け入れたまでは良かったが……それに気分を良くした妖精の羽根のドリーやサリアが以前、自分達が巻き込まれた盗賊達とアレクの戦いや打ち上げの時にアレク達から聞いた、今回のダンジョン攻略の話をベラベラと自慢してしまい……大騒動に発展してしまっていた。
そんなアレクが、避難場所としてお世話になっていたのがフェルムの金槌の工房だった。
ダンジョンで入手した武器などを見せに向かった時に避難させてもらい、そのままアレクは工房で鍛冶を教わりながら頼んでいたものの製造なども手伝っていた。
弟子に混じって工房で鍛冶をするアレクは最低限、自分で武器や防具のメンテナンスをできるようになるために鍛冶を学んでいた。
通常でも暑いアルテスだったが……工房内の室温は火のダンジョンを思い出させた。
火を使う作業以外では、【付与】+【水魔法】を衣服に使用していたら、フェルムの弟子達からも頼まれ、気付いたらスキルを工房内の皆に使っていた。
フェルムも、最初は文句を言っていたが……皆の評判を聞くうちに試したくなったのか、アレクに静かに耳打ちしてきてスキルを使ってあげていた。
そんな毎日の中で、フェルムとアレクは1つの物を開発する。
「ついてに形になりましたね!フェルムさん!」
「ああ、最初アレクに仕事を頼まれた時は、どうなるかと思ったが……途中からはアレクが細かいところを手伝ってくれたから本当に助かったぞ?」
「いやいや、殆どフェルムさんが作ってたでしょう?俺は聞かれたことを答えながら、手伝っただけですよ」
「いや、お前さんには鍛冶才能がある!良かったら、この工房で鍛冶職人として働いてほしいくらいだぞ?」
「じゃあ、冒険者を廃業したら頼んじゃいましようか」
冗談を言いながらアレクとフェルムが、眺めていたのは一台の馬車だった。
工房の裏手に用意されたスペースに、通常の馬車よりも頑丈そうな装置が設置された馬車が置かれている。
これが、アレクがフェルムに依頼した案件だった。
以前からアレクが作成を考えていた、前世でいうところの車のコイルスプリングやショックアブソーバーに近いものを作り馬車に取り付けていた。
「何回も、試しては壊れ試しては壊れを繰り返して……やっと乗り心地の良い物が作れました!本当にありがとうございます!」
「ワシの方こそ、礼を言いたい。あのような技術で、馬車の揺れや屋形したいの振動を抑えるとは考えてつかなったぞ!何かの武器や防具にも発想が活かせそうだ」
馬車が完成する頃には、予定の滞在期間であった半年を過ぎようとしていた。
「俺達も、目的を大体達成できたのでドォールムに帰ろうと思います。フェルムさん、本当にお世話になりました!」
アレクは、精一杯の感謝を込めて頭を下げる。
「いいってことよ!またワシらの力が必要になったら、いつでもアルテスに顔を見せにこい!」
「はい!その時は、またお世話になります!できれば、新しい技術もお見せできるように頑張ります!」
アレクとフェルムは、笑い合うと固い握手を交わしたのであった。




