火のダンジョン攻略4
30階層の主部屋で、大きく歪なゴーレムと対峙したアレク達《漆黒の魔弓》は、一撃でも攻撃を受ければ死に繋がる戦いを続けていた。
後方にミカエラと大盾を持つアマリア、足元を狙うアレクとカインが主部屋の中を止まることなく移動し続けてゴーレムを撹乱する。
何度か隙をついて剣撃と刺突をゴーレムの足に攻撃したが……致命的なダメージには至っていなかった。
“ドオォォォン!!”何度目かのゴーレムの体当たりが主部屋の壁を抉り、アレク達の足元を大きく揺らす。
体当たりを回避したアレクとカインが、素早く集合すると作戦を伝え合う。
「だいぶ、ゴーレムの速度には慣れてきたが……致命的なダメージが入ってないことが問題だ!カインに異存がなければ、俺は遠距離に移行して【雷鳴弓】でゴーレムの足を狙うが……どうする?」
「アレクには、申し訳ないが……今回は俺に手柄を譲ってくれないか?試したいことがあるんだ!」
「へぇ〜、そいつはゴーレムの足を崩すことができるってことか?なら、今回の手柄はカインに譲るよ!俺は弓で遠距離から攻撃して囮になろう」
「ああ、任せといてくれ」
作戦会議が終わるタイミングで茶色い大きなゴーレムが、ゆっくりと振り返ってくる。
逞しい上半身と両腕を使い、正面に残ったアレクに狙いを定めると猛スピードで移動してくる。
それを縮地を使いながらギリギリで体当たりを躱して、肩の付け根を【雷鳴弓】で射抜いていく。
ゴーレムの体を矢は貫通するが……体に対して攻撃面積が少ないため動きを止めることは、できない。
「ちっ!ゴーレムと弓は、相性が悪いか……だが、“塵も積もれば山となる”だよな」
それから何度も、超重量の砲弾を紙一重で躱しながらカインの攻撃の隙を作るべく、アレクの囮は続いていく。
一方、カインは集中して長槍・銀翼を両手で強く握りしめ、足にエネルギーを限界まで溜めていた。
アレクの縮地と違い、体の連動でエネルギーを動かし足から放つのではなく、限界まで溜め込み一気に放つことを意識する。
足に大きな負担が掛かる動作だったが……カインは自分で考え続け、必殺の一撃を会得しようとしていた。
自分の獲物である長槍……その武器を活かすために考えたのは、自身を槍の一部に見立て、高速移動の際に発生するエネルギーや自らの体重なども全てを利用した突進から全力の一撃である。
目の前でアレクが、見事に囮としての役割を果たしゴーレムは完全にアレクしか見ていなかった。
体当たりが空振りに終わり、ゆっくりと振り返り次の攻撃態勢に入ろうとしている。
それは、ゴーレムが太い両腕を同時に動かし、地面に腕をつき大きく前に進む一瞬……両腕が地面から離れゴーレムの足に体重の全てが掛かる刹那に、カインは駆け出した。
===============================
ゴーレムの足を潰した後に、ミカエラの魔法で援護することになっていたために、アマリアは大盾を構えながらミカエラのガードを担当していた。
囮としてゴーレムと対峙するアレクと、全く動かないカイン……何かの作戦だと看破したアマリアは、カインの方を注視していた。
カインが、ゴーレムに向かい駆け出そうした瞬間……その姿が搔き消える。
アマリアが驚愕していると……姿が消えて1秒ほどで“ドガッ!!”と大きな地面の石が割れる音がする。
大きな音の発生源は、先程のまでカインが構えていた場所で、その足場は加速の際に生じたエネルギーによって大きく抉られていた。
そして、カインの姿を探すようにゴーレムに視線を向けた時には、ゴーレムは両足を潰され無様に倒れ込もうとしていた。
ゴーレムの先に見えるカインが、構えを解き長槍の石突を地面に軽く“コン!”とつけると……それと同時に“ズウゥゥゥン!!”と物凄い音を立てながらゴーレムが、うつ伏せに倒れ込むのであった。
うつ伏せに倒れ込んだゴーレムは、何とか動こうとしていたが……腕だけでは移動することができずに腕を動かす動作を繰り返していた。
それを確認したアマリアは、ミカエラに魔法での援護を頼む。
「まだ近づくのは危険だから、ミカ!魔法での攻撃をお願い!」
「了解!お姉ちゃん!」
アレクとカインも、作戦通りにゴーレムから距離を取り、ミカエラの魔法攻撃に備えていた。
「【氷の槍】×4」
ミカエラの魔法が、ゴーレムの頭と背中に向けて発射させる。
無防備に晒された部分に魔法がぶつかると背中が崩れ、中から核となる朱色の結晶が露わになる。
それを見逃さずに様子を見ていたカインが、ゴーレムの背中に飛び乗り、槍を振り下ろす。
「これで終わりだっ!!」
“パリィン!”朱色の結晶が、カインの槍によって砕かれるとゴーレムの巨体が塵のように崩れ去る。
全てが消え去ったあとには、カインが立っているだけだった。
見事にゴーレムの足を潰しトドメを刺したカインに、仲間達が声を掛けてくる。
「ち、ちょっとカイン!さっきの攻撃なによー!?全く見えなかったんだけどー!」
「ぼ、僕も全く見えませんでした!」
「すげぇ突進からの突きだったな!まさに一撃必殺って感じだったよ」
カインは、照れたように槍を肩に乗せながら笑い、今の技について説明してくれた。
溜め込んだエネルギーを一気に爆発させて、突進のエネルギーとスピードを乗せた必殺の一撃を放つ技“瞬槍。
以前から練習していたカインの必殺技だった。
その後、戦闘について質疑応答をしてアレク達は休憩を取ることになった。
戦闘が終わり主部屋で休憩に入ったアレク達は、今日のダンジョン攻略について話し合うことにする。
「今日のダンジョン攻略なんだけど……正直言って、このダンジョンは異常だと思う。1階層あたりの魔物の数が少ないのもあるけど、1番気になるのはゴーレムだ」
「それに関しては、俺もアレクの意見に同意するぜ!下層に向かうにつれて魔物が強くなっていくことは珍しくもないが……ゴーレムが強化されていくダンジョンなんて、聞いたこともないからな」
アレク達の意見にアマリア・ミカエラも、それぞれの意見を述べいく。
「アレクの言ってたように一階層あたりの魔物が少ない件は……もしかしたら、ダンジョンの暑さにも関係があるのかな?20階層からの暑さはレベルが違ったし……」
「……うん、アレクさんの言う通りに何か、僕達の理解を超えることが起きてるのかも」
そんな各自の意見を聞きながら、アレクは自身で考えていることも一緒に話し出す。
「皆の色々な意見があると思うけど……1つの選択肢として、ここで引き上げて帰るっていう選択肢もあると思うけど、どうかな?」
「まぁ、安全を考えれば……その選択肢もあるよな〜でも俺は、このまま進むことを選ぶぜ!理由は、俺達にならダンジョン攻略できると思うからだ」
「う〜ん、私は様子を見るためにもダンジョン攻略は進めるべきだと思うな〜。何も分からないうちに撤退っていうもの気持ち悪いし」
「ぼ、僕はリーダーであるアレクさんに従います!」
全員の返事を聞いて何かを考え込み、やがてアレクは答えを出す。
「分かった!では、もう少し様子を見るためにもダンジョン攻略を進めることにする。作戦は、今までと変わらずに極力戦闘は避けながら下層を目指す」
「「了解っ!」」
ダンジョン攻略を続行することになったアレク達は、31階層攻略に向けて早めの休息をとるのであった。
===============================
長めの休息を取ったアレク達は、装備確認と階層を進むための準備を完了すると31階層攻略をスタートした。
31階層からは壁や地面が、マグマのようにオレンジの輝きを放っており、またしても気温が、かなり上昇している。
漆黒のマントに【付与】+【水魔法】で耐熱性を上昇させながらアレク達は、先を急ぐ。
通路を巡回しているのは、21〜30階層のように人型のゴーレムだった。
身長180㎝ほどで兵士のように鎧を象った姿をしたゴーレムであることは変わらなかったが……大きく変わっているところもあった。
今までの土製の棒や剣っぽいものではなく……しっかりとした槍や剣を装備したゴーレムが通路を歩き回っている。
敵の戦力調査のために、戦闘を行ったが……明らかに前の時よりも動きが良くなり、攻撃も鋭くなっている。
アレク達《漆黒の魔弓》なら、問題なく対応できるレベルだったが……同じ冒険者Cランクでは、辛い相手になりつつあった。
けれど、相変わらず1階層あたりの魔物の数が少ないことは唯一の救いであった。
35〜40階層には、しっかりとした土製ながら炎を纏っている武器を持つゴーレムを何体か確認する。
あくまで、武器が燃えているというレベルのものであったが……。
魔物を避けながら攻略は、アレク達が慣れてきたこともあり次第に攻略するスピードが上がってきていた。
そして、アレク達は40階層の主部屋前に辿り着く。
探知スキルで調べた結果、主部屋の中にいるのは2体のゴーレムのみ。
戦闘準備と装備確認しながら仲間達に入手した情報を伝える。
「主部屋の中には2体のゴーレムがいるだけだ。俺とカインが前衛を務め、アマリアは回復とミカエラのガード、ミカエラは魔法で後方から援護を頼む!」
「おう!1体は、俺が倒してやるぜ!」
「回復とミカのガードは、任せて!」
「お二人の邪魔にならないように援護します!」
覚悟を決めたアレク達は、石の扉を開き主部屋の中へと入っていく。
いつも通りの広い部屋の中に松明の光が、ゆらゆらと灯っている。
退路が断たれると部屋の奥から、2体のゴーレムが姿を見せる。
それは、180㎝ほどの大きさをした全身プレートアーマーを象った真っ赤なゴーレムだった。
片方は燃えるような無骨な大剣を構え、もう片方は片手剣を両手に装備した二刀流使いだった。
アレクとカインは、アイコンタクトすると大剣使いをアレクが、二刀流使いをカインが相手することを決めると2人は歩き出す。
アレクは装備した盾とラグトゥスソードを握り直すと……一瞬で間合いを詰め、大剣使いの核があると思われる心臓部に向かって、鋭い突きを放つ。
しかし、アレクの虚を突いた攻撃はゴーレムの堅牢な鎧に阻まれ貫通せずに、切っ先が数㎝しか刺さらなかった。
「ちっ!硬い……」
アレクが文句を言いかけていると、大剣による薙ぎ払いが左側面から迫ってくる。
アレクは、姿勢を低くしながら左手の盾を大剣の速度に合わせ動かし、大剣を受け流してみせる。
大剣の次の攻撃が来る前に、すぐに縮地で後方に距離を置くと冷静に敵について分析を始める。
31〜40階層より人間の姿に近く、更には武器の構えや体捌きまでも模倣したように戦闘しようとしているのが、今のやり取りで分かった。
そして、最も厄介なのが……あの防御力だ。
縮地からのラグトゥスソードの一撃を受け止めてみせる驚異的な硬度……通常の攻撃では、腕や足を切り落とすことさえ困難であることから本当に手に負えない。
(防御力の高いゴーレム相手だ……人間じゃないし本気の一撃を試してみるか……)
アレクは、盾をアイテムボックスに収納するとラグトゥスソードを両手で握り直しスキルを発動する。
「【身体強化・極】【付与】【雷魔法】【風魔法】」
今まで温存していた【身体強化・極】とラグトゥスソードに【付与】を行い、雷魔法の特性“貫通力の向上”と風魔法の特性“空気抵抗の軽減”を纏わせる。
大剣使いのゴーレムが、武器を構えながら様子を窺っていたので……【思考加速】を発動しながら縮地で一気に距離を詰め、ゴーレムの前に現れる。
ゴーレムも流石に同じ手は通じず……すぐに反応し上段から大剣の重い一撃を放ってくる。
しかし、アレクは臆することなく緩やかに過ぎる時間の中で達人の動きを見せる。
体全体が、しなるように足・腰・上半身へと運動エネルギーがスパイラルのように剣に向かって集まっていく。
そして、ゴーレムの大剣がアレクの頭部に当たるかと思われた瞬間……大剣は紙のように切断されていた。
くるくると回転しながら、大剣の刃の部分が遠くに落ち“ガシャン”と無機質な音を立てる。
ゴーレムは、武器が突如なくなったことに反応できずに固まっていた。
アレクが、その隙を見逃すはずなく上段の構えから先程と同じ、高速の一撃を放ってゴーレムを両断した。
アレクの方の戦いが終わり、カインの方を見ると二刀流の間合いの外から“瞬槍”で腕や足を削り、安定した戦いをしていた。
やがて、戦闘が終了しアレクとカインは笑顔で、お互いの戦闘について話しながら唖然としているアマリアとミカエラの元に戻るのであった。




