火のダンジョン攻略3
20階層の主部屋に到達したアレク達は、大盾を持ったアマリアを先頭に突入し、魔物の姿を捉えようと暗闇に目をこらす。
主部屋の中は、10階層と同じように50m四方に開けており等間隔に松明が並んでいる。
アレク達が部屋の中に入りきると石製の扉が自動で閉まっていく。
部屋の暗さに目が慣れてくると部屋の中央に大きな影が姿を現わす。
それは2mほどの大きさをした巨大なキノコだった……頭は雨傘のような形に開いており、表面はパサパサしているように見える。
カサからツカまで全身が緋色をしていて、やや根元部分の方が太くなっている。
カサの部分に顔らしきものが確認でき、眠っているようにも見受けられる。
それが5体、寄り添うように並んでいた。
明らさまに警戒心を抱かせる色のキノコに、アレク達は顔を見合わせキノコの様子を窺う。
「なぁ……あのキノコって毒キノコだと思うか?全身、真っ赤なキノコとか怖すぎるんだが……」
「カイン、あのキノコが危険なのは間違いないだろうな……だけど、寝てるように見えるのは俺だけか?」
「いや、俺にも寝ているように見えるぜ?ここから、どうするんだよアレク」
キノコには、足などは見て取れずアレク達を攻撃してくる気配も見られない。
「とりあえず、アマリアと俺が接近して【鑑定】を使ってみようと思う。カインとミカエラは、後ろで待機しててくれ」
「ああ、了解した!気を付けろよ」
「えっ?私も一緒に行くの?嫌なんですけど?」
前進することを嫌がるアマリアを無視して、警戒を解かずにアレクとアマリアは、徐々に魔物との距離を詰める。
近くで見れば見るほどに危険な香りしかしないキノコの顔が、“ギロッ”とこちらを見たと思ったが……次の瞬間には、まだ寝ているような表情に戻っていた。
「なんで……こんなに真っ赤なのよ……気持ち悪いなぁ……。しかも、デカいし……いきなり大きな口が開いて……“パクッ”と食われたりしないよね?」
「さぁ?何が起こるか分からないから、一瞬でも警戒は解くなよ?」
「ひいぃぃぃ」
やがて、【鑑定】の有効範囲に入ると小さな声でスキルを発動する。
「【鑑定】……」
鑑定結果:バクレツダケ
効果:攻撃を仕掛けると爆発する胞子を振り撒き、自爆する。群生していた場合、連鎖爆発を起こすこともある。
鑑定結果を受けて、アレクは静かに撤退の合図をアマリアに出して、カイン達の元に戻る。
撤退してきたアレクが、皆に難しい顔をしながら鑑定結果を伝える。
話を聞いたパーティーメンバーも、アレクと同様に苦虫を噛み潰した表情を見せる。
「攻撃すると自爆する魔物か……遠くからアレクが弓で攻撃して、自爆を大盾で防ぐのは、どうだ?」
「それは、1番に俺も考えたけど……この閉鎖空間で爆発が起きた場合、爆発の規模によるけど……衝撃波などで大きなダメージを受ける可能性があるから、お勧めできない」
「じゃあ、ミカの氷の槍で殲滅するのは?」
アレクとカインの会話に、アマリアが横から割り込み意見を述べてくる。
「それでも、1撃で仕留めきれなければ爆発が起こって結果は同じかな?」
「っていうか、あの魔物のこと知らなかったら攻撃するしかないから、普通は爆発するわよね……良く考えると悪質なトラップだわ」
「ああ、アレクが【鑑定】できなかったら俺達は攻撃して、間違いなくダメージをもらってたな!」
アレク・アマリア・カインが緊張感なく話し合っていると……今まで黙っていたミカエラが口を開く。
「あ、あの〜もしかしたら爆発させずにバクレツダケを倒せるかも……しれません。それがダメでも割と安全に倒せると思います」
「本当か!どんな手段を思い付いたんだミカ?」
おどおどするミカエラにアレクが、食い気味にバクレツダケを倒す方法を問いただす。
「アレクさん、パルウム鉱山で使った“アレ”ってアイテムボックスに、まだ入ってますよね?」
「……“アレ”?……ああ!あれか!?まだ入ってるぞ!」
「では、こんな策はどうでしょうか?」
ミカエラからパーティーメンバーに伝えられた作戦は、試す価値のある策だとアレク達、全員から認められ実行に移される。
「では、アレクさん!ルーペスワームを捕獲する際に使用した巨大な釜を、お願いします!」
「よし!出すぞ!念のために大盾を構えといてくれよアマリア!!」
「こっちは大丈夫だから、やっちゃって!」
ミカエラの声を受けてアレクが、アイテムボックスから取り出したのは……直径6mほどの巨大なドーム状の底が抜けた石窯だった。それは以前、パルウム鉱山でルーペスワームを閉じ込めるのに使用したもので、それをバクレツダケに覆い被せる。
一瞬、攻撃と判断されて爆発するかと警戒するが……バクレツダケは全く動かない。
「やっぱり、僕の予想通り……バクレツダケは“攻撃”でなければ、胞子を振り撒かないみたいです。これなら上手くいくかもしれません」
「うん、今回の策を考えたのはミカだ!全員、ミカの指示に従うから最後までやってくれ」
「はい!アレクさん、やってみます!」
続けてミカエラは、ドームの頂点に空いた穴に水魔法【水源創造】を魔力を多く消費してホースで水を撒くくらいの水圧で釜の中に注ぎ始める。
さすがに、動くかと思われたバクレツダケは水を掛けられただけでは、攻撃ではないので全く動かない。
準備が完了すると全員が、アマリアが構える大盾の陰に隠れ壁際に張り付く。
「では、魔法を放ちます!【連なる稲妻】!」
ミカエラの放った稲妻は、眩しい光と甲高い音を上げながら、吸い込まれるようにドームの頂点へと消えていく。
固唾を飲んで状況を見守るアレク達だったが……稲妻の“ドオォォォォン!”という着弾音がしてから暫くしても、何も起きないので全員で顔を見合わせる。
「静かになったな……様子を見に行くか?」
「じゃあ、さっきと同じで俺とアマリアが様子を見てくるよ」
「えっ?私も?」
「いいから、行くぞ!」
またしても、仕方なくアマリアとアレクが大盾を構えながらドームに近づき様子を窺う。アレクが思い切ってドームをアイテムボックスに回収すると……そこには少し大きめの魔石が5つ転がっているだけだった。
ミカエラの策は、アレクの鑑定によって得られた情報を元に考えられたもので、“攻撃を仕掛けると爆発する胞子を振り撒き、自爆する”ということを逆手に取ったものだった。
爆発する胞子を振り撒くなら、振り撒かせなければいい!そのために最初は、水を掛けて胞子を撒けないようにしようと考えた。しかし、水が攻撃だと判断された場合も想定して、爆発を抑えるために事前にドームを被せることにした。
ドームは、魔物に触れなければ攻撃扱いにはならないだろうという予測だったが……結果、攻撃とは判定されなかった。
あとは、濡らした魔物に雷魔法を使ってトドメを刺したのである。
「大胆な策だったけど、ミカのおかげで皆、ケガなく20階層の主部屋を攻略できたよ!ありがとうな!」
「さすがミカ!アマリアと違って賢いな!俺もミカを見習って、賢い戦い方を学ぶぜ」
「ねぇカイン?なんで私を引き合いに出したの?まだ殴ったこと怒っての?あ、ミカ!すごい策だったよ!本当に助かったわ!」
皆から、褒められたミカエラは嬉しそうに身をよじりながら照れていた。
「えっへへ、ありがとうございます!みんなの役に立て良かったぁ!」
その後、体調が万全になるまで休憩したアレク達は、次の日には21階層に挑戦することになる。
ここまで、順調に進んできたアレク達だったが……21階層まで偵察に行ったアレクとカインは、渋い顔をして20階層の主部屋に帰ってくる。
アマリアとミカエラを交えて作戦会議を開くことなった。
「21階層の暑さが尋常じゃない……このまま進んでも戦闘ができる気がしない」
「俺もアレクと同意見だ……さすがに、あの中で戦闘は自殺行為だぜ!何か別の方法を考えないと」
悩んでいたアレクとカインを見て、興味が出たのか……アマリアが21階層の様子を見に行きたいと言い出したので、ミカエラと一緒に偵察に向かわせた。
――数分後――
「はぁはぁはぁ、バカじゃないの……あの暑さ……!」
「あ、あれは無理ですよ!数分で茹で上がります……」
そこから、各自で色々と考えるが……決定的な攻略方法が中々出てこなかった。
皆が頭を悩ませる中で、アレクは唸りながら何かを思い出そうとしていた。
「う〜ん、決定的な何かを思い出せそうな気がするんだが……ギリギリで思い出せない!」
「本当に!?なら早く思い出しなさいよアレク!じゃないと先に進めないわよ!」
「アマリア……喉まで出掛かってるんだけど……何か、きっかけがあれば……」
「きっかけ……きっかけねぇ……水を被りながら進むとか?」
原始的な考えのアマリアを白い目で見ながら、ミカエラに話を振ってみる。
「ミカエラ、きっかけになるようなことがあったら何でもいいから言ってくれ」
「きっかけ……ですか?う〜ん、水魔法を使う良い方法があればいいんですが……まだ、そんな便利な水魔法を覚えてないんですよね」
「水魔法……そう!水魔法だ!以前どこかで冷気を使った技を見た覚えがあったと思ったけど……あれは冒険者チーム凍てつく突風のフロストさんが使ってた冷気の剣だ!」
それからアレクは、【付与】で水魔法の温度を下げる特性をマントに付与できるか、実験を行った。
結果として魔力を5消費すれば、1階層ごとに【付与】をかけ直す程度で、マントに冷却特性を付与できることが分かり、これをダンジョン攻略に利用することを決める。
1階層ごとに4人分で魔力20消費、これを10階層で200消費とアレクの魔力なら十分に保つことを確かめた。
「どうだ?これならマントのフードを被れば、頭も一緒に冷気特性で暑さを中和できるだろ?いざとなったら魔力ポーションもあるし10階層くらいなら行けるはずだ」
「おおっ!涼しい!!これなら戦闘になっても余裕があるな!」
「でも、もっと早く気付いてほしかったわ!むしろ【付与】があればマントも、いらなかったのでは?」
「いや、お姉ちゃん……マントがなければ魔力の消費が多くなって10階層も、アレクさんの魔力がもたないよ!」
皆が大丈夫そうなので、21階層の攻略が再開される。
作戦は変わらず、できるだけ戦闘は避けて早く30階層に向かうことになった。
21階層からは壁や地面が、より赤くなっているように感じ気温も、かなり上昇している。
そして、すぐに魔物の遭遇を警戒していたアレクとミカエラは、階層の異変に気付く。
異様に魔物の数が少ないのだ……。
もちろん、強い個体がいるから数が少ないという理由も考えられたが……それしても1階層に3,4体しか魔物がいないのは明らかに、おかしかった。
通路を巡回しているのは、驚くべきことに人型のゴーレムだった。
身長180㎝ほどで兵士のように鎧を象った茶色いゴーレムがノシノシと通路を歩いている。
武器は持っておらず素手のみで歩き回る姿はアレク達に衝撃を与えた。
試しに戦闘を行ったが……動き鈍くリーチも短いことから簡単に倒すことができた。
そんな、おかしな21〜25階層は簡単に突破し、短期間の休憩を入れながら26〜30階層の攻略に挑む。
26階層からは、先程の人型ゴーレムが土製の棒や剣のような物を武器として持ち、通路を巡回していた。
先程と同様に、大したことないゴーレムであったが……アレクとカインは、ゴーレムが動きに関しても力に関しても少しずつ強くなっていることに不安を覚えていた。
まるでダンジョンが、より強いゴーレムを作るために実験をしているような気がして……2人は顔を見合わせながら苦笑いを浮かべた。
あっという間に30階層の主部屋前に辿り着いたアレク達は、いつも通りに戦闘準備と装備確認を行う。
アレクが探知スキルで調べた限りでは、主部屋の中には1体のゴーレムがいるだけだった。
主部屋に1体のゴーレム……嫌な予感を覚えながらアレク達は扉を開き、中へ入っていく。
広い主部屋の中に、大きな影が立っている。
大きさは3mほどで異常に上半身が逞しく、逆に下半身はバランスを取るのが、やっとな歪なゴーレムだった。
主部屋の扉が閉まり、武器の構えを崩さないアレクを見つけると……茶色い大きな体を、足ではなく両腕をまるで杖のように使い、猛スピードで突っ込んでくる。
「散開ぃ!!」
アレクの言葉で、皆の一瞬固まりかけた体が動き出し、散り散りにゴーレムの突進を回避する。
“ドガアァァァン!!”主部屋が揺れるほどの衝撃が、壁を大きく抉った。
その威力に、一撃でも攻撃をもらったら死ぬことを理解したパーティーメンバーの顔に、恐怖が映る。
「怯むなっ!!腕で移動しているが、足を潰せばバランスが取れなくなるはずだ!足を狙えぇ!!」
アレクは、猛スピードで移動するゴーレムに恐怖を感じながらも冷静に、敵を分析していた。
迫り来るゴーレムの姿を見て、瞬間的に思い出したのは、前世で足を骨折した時に松葉杖をついて移動する姿だった。
足に力が入らなくとも杖があれば、大きく移動することができる。
本来なら杖である腕を破壊したいが……あの頑丈そうな両腕を狙うよりも、足を狙った方が安全にゴーレムを倒すことができると、アレクは判断する。
そして、瞬時に仲間へ指示を出す。
「俺とカインは足を!アマリア、大盾でミカをガード!!絶対に一撃も貰うなぁ!!」
「「了解っ!!」」
散開した陣形からアマリアとミカエラが後方に下がり、アレクとカインが剣と槍を構えたと思うと……一瞬のうちに縮地でゴーレムの足元に移動する。
2人がタイミングを合わせたように同時に、足に剣撃と体重が乗った刺突を放つ。
しかし、ゴーレムの足は見た目以上に強度があり、崩すことができない。
カインが、もう一撃を足に食らわせようと構えた瞬間……頭上に大きな影があることに気付き反射的に縮地で、その場を離れる。
“ドオォォォン!!”またしても地面が揺れ、先程までカインがいた場所は粉々になっていた。
「今のは、死ぬところだったな……」
ゴーレムの拳が落ちた場所から5mほど離れた所に立っていたカインだったが……冷や汗が全身から出るのを感じながら、強く槍を握り直す。
少し離れた場所からアレクが戦闘可能か確認してくる。
「おいっ!カイン!無事かぁ!!」
「ああ、まだ戦える!ケガもない!」
「じゃあ、もう一度、攻撃するぞ!」
「おうっ!!」
ゴーレムが、ゆっくりと叩きつけた拳を上げ、土塊を落としながら両腕を使ってアレク達に向き直る。
圧倒的な破壊力を見せるゴーレムと、剣と槍を構え立ち向かうアレクとカイン。
本当の戦いが始まろうとしていた。




