火のダンジョン攻略2
火のダンジョン攻略を開始したアレク達《漆黒の魔弓》は、更に下層へと進んでいた。
6階層からは、爪が燃えているレッドウルフ・翼が燃えているファイヤバット・火の玉のようなウィスプなどが出現する。
レッドウルフは、動きが素早く火属性の爪を持っていることから攻撃を受ければ、傷と火傷を負うことになるので要注意である。
ファイヤバットは、サイズが小さく直接的な攻撃手段が火球という小さな魔法しか使ってこないが……レッドウルフに気を取られていると火球で顔を狙ってくるので厄介な存在だ。
ウィスプは、唯一【火炎弾】などの魔法を使ってくるが……何故か魔法を使う度に姿が小さくなり、最後には魔法が使えない小さな火の玉になっていた。
アレク達は最初、魔物の攻撃を見極めながら戦闘を行っていたが……途中から戦闘の疲労よりも暑さによる環境によるダメージが大きいことに気付き、魔物から逃げながら階層を降っていた。
水分補給だけは細かくしていたものの10階層の主部屋の前に、たどり着く頃にはアレク達は疲労困憊になってしまう。
「はぁはぁはぁ、アレク……暑さ対策をしていて……こんなに苦戦するとは……はぁはぁ、思わなかったぞ」
「ああ、俺も……こんなに辛いとは……思わなかったよ……カイン」
「アマリアとミカエラは……喋れないくらいに消耗……してるみたいだな」
「2人のためにも、早く……10階層の主部屋を攻略して中で……休憩にしよう」
ぐったりしているアマリアとミカエラに声を掛け、装備の確認と戦闘準備を終えてアレク達《漆黒の魔弓》は、主部屋に足を踏み入れる。
念のために事前に探知スキルを使って分かった情報は、主部屋の中には8体の魔物がいることだけだった。
主部屋の中は50m四方に開けており等間隔に松明が並んでいる。
アレク達が全員、部屋の中に入ると部屋の扉が自動で閉まっていく。
その部屋の中央には、レッドウルフ5体とフレイム・リザード3体が陣取っていた。
アレク達の姿を確認すると遠吠えを上げた直後にレッドウルフ達が両サイドに分かれて素早く迫ってくる。
レッドウルフの群れが、アレク達に到達するタイミングでフレイム・リザード3体が同時に火炎を放ってくる。
自分が、するべきことを必死に全うしようとするアマリアは疲労困憊になりながらも大盾を構え、盾に身を預けながら守りに徹する。
「長期戦は選択できない!先にレッドウルフを片付ける!その後、一気にフレイム・リザードを叩くぞ!!」
「ああ、分かってるよアレク!2人が、ダウンする前に仕留めてみせるさ!」
アマリアの大盾に隠れながら、接近戦装備のラグトゥスソードと盾を構えるアレクと速さ重視の直槍・銀羽を構えたカインが、アイコンタクトでタイミングを合わせると……後方からミカエラの水魔法、【氷の槍】×3がフレイム・リザードに向かって放たれる。
炎により若干、威力が下がったが火炎を止めさせ1体を倒すことに成功する。
それと同時に大盾の両サイドからアレクとカインが飛び出し、縮地によって一瞬でレッドウルフの側面に移動した直後に高速の剣撃と高速の刺突を繰り出した。
瞬く間に首を落とされる3体と頭を突かれて絶命する2体のレッドウルフ。
レッドウルフを倒した後でも、アレクとカインの勢いは止まらず連続で縮地を行いフレイム・リザードの元に辿り着く。
急に至近距離に現れたアレク達に火炎を放とうとするフレイム・リザードだったが……空気を吸い込む予備動作に入った時には、すでにトドメを刺され絶命していた。
「良し!なんとか短時間で終わったな!」
「アレク!それよりもアマリアとミカエラを早く休ませよう!あの2人、もう限界だぞ!」
カインの言葉に“はっ!”として2人に視線を向けるとアマリアは大盾を構えながら座り込み。
ミカエラは杖を支えにして、何とか立っていた。
「わ、私達なら……大丈夫よ……!」
「ぼ、僕達なら……問題あり……ません!」
アレク達に、フラフラになりながら返事を返した2人だったが……主部屋の魔物を倒し安心したのか、戦闘終了直後にアマリアとミカエラは、その場で倒れ込んでしまう。
急いで2人駆け寄るアレクとカインは、すぐに介抱を始めるのであった。
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「う〜ん、ここ……どこ……?」
ぼんやりとした視界で見知らぬ石造りの天井を眺めながら、だるそうな声でアマリアは独り言を呟く。
次第に思考力が戻り、今さっきまで自分が戦っていたことを思い出し反射的に飛び起きる。
「うおっ!急に動き出すなよ!驚くだろうが!」
「えっ?あっ!カイン!戦闘は、どうなったの!?」
「はっ?ああ、戦闘なら全員無事に終わったぞ?そのかわり戦闘直後にアマリアとミカエラが疲労で倒れたけどな」
カインの話を受けて、改めて自分の格好を見ると防具を外され服まで平服に代わっている。
簡易的なベッドが用意され自分はベッドの上にいた。
「そう……なんだ……。どれくらい寝てたの私は?」
「正確な時間は分からないけど……アレクと俺が2回、食事を取ったくらいだから結構経ってるんじゃないか?」
「そんなに……アレクとミカは?」
「アレクは今さっきまで2人の介抱してて今は、そっちで仮眠中。ミカなら俺の後ろで、まだ寝てるぞ」
そういうとカインが身をズラして、アマリアの視界を広げるとアマリアと同様に簡易ベッドに横になって寝ていた。
落ち着きを取り戻したアマリアは、カインから戦闘終了直後からの流れを説明してもらい、疲労から倒れたことを知る。
「そっか……ダメね……私は。2人の足を引っ張って迷惑を掛けるなんて……」
悔しそうに簡易ベッドの上で体育座りをして顔を隠すアマリア。
そんな俯くアマリアに、カインがアレクと話していたことを伝える。
「これはアマリアの所為ではなく、単純に作戦ミスだってアレクは言ってたぜ?」
「何よ……作戦ミスって……」
「このダンジョン攻略の作戦ミスってことだよ!しっかりと準備して挑んだのは、いいけど……時間を掛けて攻略したのは間違いだった」
この火のダンジョンは時間を掛ければ掛けるほどパーティーメンバーの体力を奪い続ける。
いくら炎耐性や保温効果を有していても、人間には限界が存在するのだから当たり前の話である。
常にスリップダメージがあるダンジョンなら、長時間で慎重に攻略するのではなく短時間で効率良く主部屋まで攻略し……主部屋で休憩をしっかり取るべきだとアレクとカインの意見は一致していた。
それをアマリアに説明し2人の責任ではなく、すぐに作戦を変更しなかったアレクが悪いとカインは語る。
「それはないでしょ!アレクとカインは、実際平気だったわけだし……私達の体力不足が原因よ……」
「これは、アレクが自分で言っていたことだよ。それにアマリアが自分を責めているように、アレクだってリーダーとして自分を責めてるんだ……だからアレクに顔を見せる時は気持ち良く謝って、さっさと気持ちを切り替えていこうぜ?」
一瞬、反論しようとしたアマリアだったが……まだ自分達がダンジョンの中にいることを思い出して口を閉じる。
命を賭けた戦場で迷いは厳禁……自分が迷いを持って戦えば、パーティーメンバーの誰かが死ぬ可能性だってある。
だから、後悔や弱音ならダンジョン攻略が終わった後で言えばいい……今は気持ちを切り替えてダンジョン攻略に集中するべき。
そう考えたアマリアは、カインに返事をする。
「そうね……ゴメンねカイン。私、起きたばかりで冷静に判断できてなかったみたい。まだダンジョン攻略は続いてるんだから、気持ちを切り替えて挑まないとね」
「ああ、別に構わないさ!もう少し休んだら飯にしようぜ?きっとアマリアも、すぐにお腹が空くだろうからな」
「そうするわ、長時間寝てたら空腹にもなるわよね……ところで私の服って誰が着替えさせたの?まさか……!」
「おっと!心配するな!着替えさせたのは俺だから問題ないだろ?」
「お前かあぁぁぁぁ!!」
その後、アマリアから腹パンを食らったカインは暫く動けなくなり……騒ぎで目を覚ましたアレクが離れた簡易ベッドから飛び起きて駆け寄ってくる。
怒るアマリアから事情を聞いたアレクは、動けなくなり蹲ったカインに合掌して成仏するように念じておいた。
その隣で、スヤスヤとミカエラは気持ち良さそうに眠っていた。
――数時間後――
体調が万全になったアレク達は、改めてダンジョン攻略の作戦を練って話し合っていた。
「――ということで、今後は戦闘を極力避けて最短ルートで下層を目指す。階段での小休憩も水分補給を短時間で済ませて時間短縮する!何か質問は?」
「ないぜ!」
「ないわ」
「あ、ありません!」
「良し!なら、準備が完了し次第ダンジョン攻略を再開するぞ!」
「「おう!」」
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11階層からは10階層までの灰色の石造りではなく、赤茶色に景色が変わっていた。
相変わらず、高温多湿でサウナのような悪辣な環境の中をアレク達は素早く突き進んでいく。
アレクとミカエラが探知スキルを使い、魔物を避けながら道を選び出す。
幸いなことに11〜15階層までにはフレイムカメレオンとブレイズコープスという魔物しかいなかった。
フレイムカメレオンは、ジッと壁や床に擬態して獲物が近くにくると炎の舌で獲物を捕らえ焼きながら捕食する魔物である。
ブレイズコープスは、より人間に近い形をした魔物で油のような液体を口から吐いてくる……そして液体を掛けられた獲物に向かって燃えた体で迫ってくる恐ろしい魔物である。
しかし、2体とも動きが鈍く避けることは簡単な魔物のために、一度も戦闘になることなくアレク達にスルーされた。
順調に16階層からは、フレイム・モスとレッドスライムという魔物が2体1組で階層を徘徊していた。
フレイム・モスは大きさは50㎝と魔物としては大きくない……しかし、獲物に対して特殊な鱗粉を飛ばしてくることで有名な魔物である。
見た目には、火の粉のように美しい鱗粉だが……その鱗粉に触れた生き物は発火するという近接戦闘が禁止されている魔物だった。
レッドスライムは、物理攻撃が一切通用しない非常に厄介な魔物である。
1.5mと人間を飲み込めるほど大きさをしており、その名の通りに真っ赤なスライムである。
獲物を捕らえると燃えるような痛みを発生させる溶解液で体を溶かす魔物だ。
この2体は、意外にも感知能力が高く何度か戦闘になってしまう。
フレイム・モスについてはアレクが弓で遠距離から仕留め、レッドスライムについては水魔法でミカエラが処理していった。
幸いだったのは、遠距離での戦闘で済むので誰もケガをしなかったことだろう。
16〜20階層は、できるだけ魔物を避けていたが……魔物自体の数が少なかったことや移動速度が遅い魔物が多かったことも順調な要因であった。
アレク達は、あっという間に20階層の主部屋前に到着し戦闘準備に入っていた。
アレクが、いつも通りに探知スキルで主部屋の中を確認すると大きな5体の魔物を探知することが分かる。
情報を掴んだアレクは仲間に向き直り、たった今スキルで知り得た情報を共有する。
「みんな、準備をしながらでいいので聞いてくれ!主部屋の中にいるのは、大きな魔物が5体だ。ここに来て数が少なくなっていることから、強い個体である可能性がある……十分に注意して戦闘にあたってくれ」
「強い個体か……あまり時間が掛からないやつだと助かるんだがな」
カインが嫌そうな顔をしながら、主部屋の石製の扉を見つめていた。
カインの言葉を受けてアマリアが、その不安を払拭するように元気な声で言葉を返す。
「今度は私もミカも体力温存できてるから、どんな魔物がきてもパーティーメンバー全員で乗り越えられるわよ!盾役も頑張るから、危なくなったら遠慮なく私に頼ってね」
「こ、今度は僕も力になれるように頑張りますから!」
そんな2人の様子にアレクとカインは、顔を見合わせて笑い合う。
「よし!じゃあ、主部屋攻略を開始するぞ!
気合いが入ってるアマリアに先頭を任せるから遠慮なく攻撃されてくれ!」
「ひいぃぃぃ!私が先頭なのねぇぇ!」
アレクとカインが重たい石製の扉を開けると……悲鳴を上げながら、大盾を持ったアマリアが中に入っていった。
そして《漆黒の魔弓》一同が部屋に入り終わると“ごごごぉ”と重たい音を立てながら、扉が閉まっていくのであった。




