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火のダンジョン攻略

 装備を新調したアレク達《漆黒の魔弓》は、アルテス近郊に存在するダンジョン攻略に向けて準備を進めていた。

 ダンジョン攻略と言っても簡単にできるものではない……ダンジョンごとに様々な特徴があり、事前の準備を怠れば簡単に命を落とすことになる。

 アレク達は2人1組に分かれ、アレクとアマリアが情報収集を行い、カインとミカエラが必要品の買い出しを担当して行動していた。


 冒険者ギルドで情報収集していたアレク達が耳にしたのは、火のダンジョンと呼ばれるアルテスの冒険者の間で有名なダンジョンだった。

 買い出しを終えたカイン・ミカエラと待ち合わせのギルドの休憩所で合流すると、アレクは手に入れた情報を2人に話し始める。


「これから俺達が挑戦しようとしてるいる火のダンジョンだが……その名の通り火属性の魔物が出現する階層型ダンジョンになる。しかも、ダンジョン内は高温多湿なために通常のダンジョンよりも難易度が高い。ギルドからもCランク以上の冒険者でないと許可できないと言われるほどだからな」

「アレク……あえて、そのダンジョンを選んだ理由は?お前は、パーティーの安全第一を重んじるだろ?それにしては珍しい選択だと思うんだが……」


 カインが、真剣な表情でアレクを見つめ真意を問いただしてくる。


「それは……これが俺達とって都合がいいダンジョンだったからだ。装備を新調したことで《漆黒の魔弓》は、炎耐性を備え高温な場所での依頼も受けることができる態勢が整いつつある……そこで後は火属性の魔物との実戦を経験して、少しでも実力を底上げしておきたい。あとは特殊なダンジョンのために40階層までしか到達した者がいないから、お宝が手に入る可能性もある!」

「なるほどね〜それなら挑戦しても大丈夫そうだな!それに未到達のダンジョンか……燃えるじゃないか!」


 アレクは、カインだけではなくアマリア・ミカエラにも意見を求めようと話を2人に振る。


「アマリアとミカエラは何か疑問とか意見は、あるかな?もちろん、ダンジョン攻略反対!とかでもいいよ?」

「私は体調面が心配かな?ダンジョン内に長期間、留まることになれば体調を崩すこともあるだろうし……私が聞いた情報だと主部屋を攻略すれば、主部屋の温度が下がって普通になるらしいけど……それでも、しっかりとした対策が必要じゃない?」


 実際にダンジョン内に長期間、滞在したことを想定した意見をアマリアが伝えてくる。

 それに、対してアレクは今のところ考えている対策について話し出す。


「必要品の他にも、手作りで暑さ対策の飲み物や食べ物を大量にアイテムボックスで持ち込むつもりでいる。それ以外にも前世の知識の中には、体温を下げる方法や体調が悪くなった時の対処法もあるから、致命的なものでなければ心配ないと考えてる」

「アレクの前世の知識か〜本当に便利よね!

 そもそも、アレクの前世は何者だったのよ?」

「えっと〜この世界の薬師みたいな者かな?それに色々と知ってるは誰でも、知識を得ることができる魔道具みたいなものがあったからだから」


 アマリアは、へぇ〜と何か羨ましいそうな声を出しながら黙って頷いていた。

 話が終わったので最後にミカエラに何かないかと確認しに視線を向ける。

 すると、いつもより不安そうなミカエラの顔がアレクの目に映る。


「ミカ、大丈夫か?何かあるなら聞くが?」

「え、えっと、火のダンジョンに火属性の魔物となると……水魔法を操る魔法士の実力が……パーティー全員の命を大きく左右しますよね?ぼ、僕にそれができるか……不安で」

「……そうか、確かに今回のダンジョンでは、水魔法を使えるミカエラに頼る場面が多くなるかもしれない。そんな風に不安になることも仕方ないと思う……それは俺も同じだよ」


 アレクは、一呼吸置くとミカエラに優しく諭すように語り掛ける。


「俺も、みんなのことを守れるか?とか、もし俺が失敗したり判断を誤ったらとか考えると不安が胸の奥にジワジワと広がるように感じるよ」

「……そんな時、アレクさんはどうやって不安を抑えてるんですか?」

「……抑えてないよ?ただ受け入れて、そこからどうするかを冷静に考えるんだ。不安に感じてもいい……恐怖に震えても構わない。けど、決して後悔するようなことはしない……そう決めて俺は、戦いに向き合ってるよ」


 ミカエラは、何度もアレクの言葉を繰り返し自分の中に吸収しようとしていた。

 そんなミカエラの肩を優しく叩き、アレクは、気負わないように声を掛けておいた。

 反対意見もでなかったのでアレク達は、本格的に火のダンジョンに挑戦する準備を開始するのであった。



 ===============================



 火のダンジョン攻略を決めてから1週間後、アレク達《漆黒の魔弓》はアルテスから3日の距離にある目的地に到着していた。

 火のダンジョンの入口は、大きな山の麓にあり山肌を削るように石造りの階段が存在していた。

 アレク達は新調した装備と、お揃いの漆黒のマントを纏いながら階段を下りていく。


 ダンジョンの中は、少し薄暗かったが……石造りの床の間から熱気が上がっておりモワッとした空気に包まれていた。

 微かに硫黄のような匂いを感じて、アレクは用意していた顔布をパーティーに配ると布で鼻と口を覆うように指示を出す。

 道幅は5m程で2,3人なら並んで戦える程の広さをしており先頭を槍を持ったカインが担当し、2番目は探知に優れた弓を持つアレク、真ん中に魔法担当のミカエラ、後ろには大盾を持ったアマリアという陣形を取っていた。


「暑いとは聞いていたが……本当に体験すると余計に暑く感じるな。マントがなかったら普通に攻略は無理じゃないか……これ」

「ああ、この暑さの中で普通に戦闘したら、茹で上がっちまうよ……カインは、最初マントは必要なのか?とか言ってたけど、考えを改めたようだな?」

「あ〜すまんなアレク!マントなしじゃ攻略どころじゃなかったわ……」


 そんな無駄口を叩いていると、アマリアが後ろから注意してくる。


「あんた達って、ダンジョンに来てるのに緊張感ないわね。別に常に緊張してる必要はないけど……少しは真面目にダンジョン攻略に取り組む気はないの?」

「だって50階層まであるっていわれてるダンジョンだぞ?多少、気を抜いた方が精神的にもいいと思うんだけどな」


 アマリアとカインが騒ぎ始めるミカエラが、仲裁に入ってくる。


「お、お姉ちゃんとカインさんも、いつ魔物がくるかもしれない状況で騒ぐのは、ちょっと……」

「さすが、ミカ!あそこの槍使いと筋肉修道女とは違って賢い。そして2人の声に釣られて魔物が、ご到着だ!みんな戦闘態勢!!」


 アレクの声を、きっかけに空気が変わった《漆黒の魔弓》は武器を構えると進行方向に視線を集中する。

 全員が流れるように【身体強化】などの準備を終えると、やがて通路の遠くの方から燃えた人型のものが歩いて接近してくる。

 距離が詰まると魔物の姿は、はっきりと見え土偶のような1mほどの人形が全身を燃やしながら迫ってくる。

 魔物の存在を確認したアレクは、大声で情報を伝える。


「敵は、ブレイズ・ドール4体!火炎などの中距離攻撃を仕掛けてくる魔物だ!接近戦には弱いから、仕掛ける時は一気に距離を詰めろ」

「「了解!!」」


 まずはアマリアが素早く動き出し、アレク達を追い抜くと皆の前に立ち大盾を構える。それに合わせるようにアレクは弓を構えて2体の矢をつがえると【雷鳴弓】を放っていく。

 矢を受けたブレイズ・ドールは炎を失い土塊つちくれのように砕け散る。

 瞬時に2体を始末されたブレイズ・ドールは、先程とは違い滑るようにアレク達との距離を詰めながら火炎を吹き出してくる。


「ここは、通さないからね!」


 大声を出しながら大盾を構えて、アレク達とブレイズ・ドールの間に入るアマリア。

 2体分の火炎を受けても熱を全くない通さないウルティム製のタワーシールドが5秒ほど続いた火炎を無傷で受け切る。

 ブレイズ・ドールの攻撃がやんだ一瞬にタワーシールドの陰から飛び出したカインが、長槍の銀翼を構えながら縮地でブレイズ・ドールに突っ込むと槍による左からの胴体を狙った薙ぎ払いで1体を吹き飛ばし2体目を巻き込んでバラバラに砕いた。


「ふぅーどんなもんだ!ダンジョン初戦闘は、問題なく終わったな!」

「1階層目で詰まってたら、逆に笑えないよ。けど、みんなケガなく終わって良かった」


 カインが魔石を回収しながら、アレク達の元に帰ってくるとダンジョンでの初戦闘の感想を伝えてくる。

 アレクが、冷静にカインに返事を返していると1人だけ大盾を持ったまま動かないアマリアにミカエラが、心配そうに話し掛ける。


「お、お姉ちゃん大丈夫!?どこかケガでもしたの?」


 ミカエラの言葉に、アレクとカインも会話をやめ心配そうにアマリアを見つめる。


「…………私…………てたよね?」

「えっ?なにお姉ちゃん?」


 呟くように発した言葉を拾いきれずにミカエラが、再度アマリアに問いかける。


「今の私って、めっちゃ輝いてたよね?」

「はっ?」

「いや、だから!今の私って大盾で、みんなを守りながら攻撃の隙を作ったりとか……めっちゃ活躍して輝いてなかった!?」

「「………………」」


 アマリアを除く全員が、なんと言っていいか分からずに絶句してしまっていた。

 まさに俺達の心配を返せ!状態である。

 普段から優しいミカエラも、これには苦笑いするしかなかったらしく動揺したのか“僕は、何もしてないけど……お姉ちゃんは頑張ってた!”というフォローをしていた。


(今まで戦闘で活躍したことなかったから、テンション上がったのかな……でも、なんか……あのテンションで守られるのは嫌だなぁ)


 盾で仲間も守る快感に目覚めたアマリアを生暖かい目で見守りながら、アレク達の火のダンジョン攻略が始まった。

 1〜5階層にはブレイズ・ドールと1mほどの炎を背中から尻尾の先まで滾らせたフレイム・リザードが出現して何度か戦闘になった。

 しかし、アマリアの大盾が優れた性能を発揮して、魔物の主な攻撃手段である火炎を全く通さなかった。

 テンションが右肩上がりになっていくアマリアは、途中から“ドンドン火出せやー”などと奇声を上げていたので……反省させようと大盾を没収して中盾を渡すと泣きながら盾の交換をお願いしてきた。


 5階層と6階層の間の階段で、休憩を取っていたアレク達だったが……下層に進むにつれ上昇する気温で額には汗が滲んでいた。

 アレクは、アイテムボックスから木製のジョッキを取り出すとパーティーメンバーに渡たし今度は大きな樽を取り出して皆に樽から飲み物を出して飲むように指示する。


 皆がジョッキに飲み物を注ぎ終わると、樽をしまって皆と一緒に飲み始める。

 それは適度に冷えた甘酸っぱい果物水だった。


「ゴクッゴクッゴクッ、ハッー!生き返るぜ!これがアレクが言ってた暑さ対策の飲み物か?」

「ゴクッゴクッゴクッ、ふぅー本当に生き返るわ!甘酸っぱくて飲みやすいし体に水分が染み渡っていくのが分かるもの!」

「ゴクッゴクッゴクッ、……美味しいです!

 これから僕は何杯でも飲める気がします!」


 パーティーメンバーがゴクッゴクッと果物水を飲み干していく姿を見ながら、アレクは水分補給の重要性について皆に説明する。


「この果物水には、塩とアシードを混ぜてあるんだ。普通の果物水より酸っぱさを感じたのは、そのせいだよ」

「アシードって、あの黄色くて凄く酸っぱい果物だろ?良くあんなの果物水に混ぜようと思ったな?それに塩って……逆に喉が渇くんじゃないのか?」


 アレクは暑さ対策として手作りのスポーツドリンクを作ろうとしていた。

 そのために必要だったのが……レモンのような柑橘類と塩であった。

 レモンは寒さに弱いため、栽培適地は冬暖かく、夏に乾燥する地域が適している。

 まさにアルテスの環境に適していると思い、もしかしたら似た果物があるかもと市場を探したところ……本当に酸っぱい柑橘類が存在していた。

 名前をアシードといい、レモンよりも酸っぱくミカンのように小さく丸いものだった。

 すぐに大量に買い込んだアレクは、絞った果汁を買い取った果物水の樽にぶち込み。

 ついでに、高額で買った塩を適量混ぜ込んだ結果……この世界で初めてのスポーツドリンクが誕生したのである。


「アシードには、疲労回復や食欲減退の軽減などの効果があるんだよ。それに人の体には塩分が必要不可欠なんだ。この場所みたいに高温多湿なところだと沢山、汗をかくだろ?その汗には体の中の塩分が含まれているんだ。それを失い続けると体に異常をきたして動けなくなり、最悪死ぬこともあるんだからな」

「はぁ〜、良く分からないけどアレクの言う通りにしてないと死ぬかもしれないことは分かったぞ!」

「難しい話を、しても仕方なかったな……果物水は沢山用意してきたから喉が渇く前に教えてくれ。その度に水分補給をしてもらうから」

「「了解!」」


 こうして火のダンジョン攻略を始めたアレク達は、特殊な状況に悪戦苦闘しながらも攻略を続けていく。




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