狩人の夜
夜の真っ暗な森の中から虫の鳴き声や風に揺れる葉の音に混じって金属音が聞こえ、その先では武装した集団が村の中から送られてくるばずの合図を待っていた。
この盗賊団のお頭であるゴイルに部下らしい男が報告を上げてくる。
「お頭、ケビンのやつからはまだ合図はないみたいです。まだ薬の効果が切れるまで時間はありますが……こちらから動きまいすかい?」
「……いいや、まだ時間には余裕はある。
この場で待機して様子を見るぞ……あとは、いつでも動けるようにしておけ!
さっき、フューリのやつが用を足しに茂みの方へ歩いていったみたいだが帰ってきてないだろ?休憩するのはいいが単独行動までは面倒見切れん」
「分かりました……皆にはもう少しの間、待機するように伝えます。それと他のやつにフューリのバカを連れ戻してくるように命令しておきます。」
そういうとゴイルの右腕であるビギニンは、その場から離れ待機している者達に指示を
だして行動させていく。
その様は、盗賊団というよりも兵士に近く
規律を感じさせる動きをしていた。
ゴイルは元々、国に仕える兵士であり
小さな隊の隊長を務めながらも退屈な日常だが平穏な日々を送っていた。
しかし、長く仕事を務めるほどに国の腐敗・
汚職・賄賂などを間近に見せつけられること
になり徐々に感覚が麻痺していく……
最初は、違法な物品を見逃す代わりに賄賂を受け取るという小さな犯罪が始まりだった。
人は、1度でも小さな犯罪で利益を得ると
ちょっとだけなら……次で最後だと……
ドミノのように理性が崩壊し気付けば後戻りできないところまで行ってしまう生き物である。
ゴイル達も小さな犯罪だけだったものが横領や恫喝に最後は口封じのために殺人まで犯してしまう。
国から指名手配されたゴイル達は国を捨て盗賊に身をやつした。
国外に脱出してから3年が経ち完全に盗賊になってしまった彼等は、人して超えては、ならない一線を簡単に踏み越えてしまう。
村を襲い始め若い女を攫うと乱暴した挙句、奴隷として売り払っていたのだ。
保存している食料が少なくなれば村を襲い若い女を攫い人質として食料を提供させ、村人には冒険者などがきた時に不審に思われれば魔物が出たと嘘を吐かせる。
そして彼等の欲望は止まることなく若く美しい女なら高値で売れることから冒険者にまで手を伸ばそうとしていた。
そう彼等には冒険者であろうと村人であろうと家畜と変わらず自分達を生かすための道具としか考えていなかった。
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ビギニンが、ゴイルの元に戻ろうしていると
“ブシャ”と何かが漏れ出すような後ろから聞こえ何気なく振り返ると……先程、指示を出した3人が頭部を破壊され血肉を撒き散らし
地面に倒れていた。
「…………っ!!」
突然の光景に言葉を失うビギニンだっだが辺りに広がる血生臭さで正気を取り戻し大きな声を上げる。
「敵襲っ!!敵襲だ!!全員戦闘態勢に入れえぇ!!」
まさか自分達が攻撃を受けるとは思っていなかった盗賊達は、動揺し慌てて武器を取り周りを見回し様子を窺う。
ビギニンの元にゴイルが走ってくると状況説明を求めてくる。
「ビギニン何があった?敵の姿は見たか?」
「お頭、敵の姿・攻撃手段などは
確認できていません!捜索に出そうとした
3人が頭部を破壊され死亡しました!」
「そうか……このタイミングでの奇襲とは
ケビンのやつは何をしている!手掛かりは
ないが……お前ら!敵は魔法士かもしれん
周りに注意して敵を探せ!」
(一体何者だ?冒険者達のやつらか?いや
冒険者達に他の仲間がいたのか?しかし……)
ゴイルと盗賊達は、ロングソードを構え周囲を警戒しながら敵の姿を探す……。
森の中に風が流れザァザァと葉が揺れる音が嫌に大きく聞こえる。
仲間の鎧の動く音さえもはっきり聞こえる中不意に“ガシャン!”と大きな音に皆が振り向く。
そこには心臓付近に大きな穴を開けられ膝から崩れ落ち倒れる瞬間の仲間がいた。
“ドシャ”と自らの流した血溜まりに男は、うつ伏せに倒れ込み動かない。
「うああああぁぁぁ、なんだよこれえぇ!」
「し、死んでる……どうやったらこんな……
何も見えないし聞こえなかったのに……」
悪くなる状況を変えようとゴイルは、
仲間達に索敵に集中させようと考え
声をかける。
「お前達、落ち着いて敵の攻撃を探せ、魔法なら必ず近くに魔法士がいるはずだ。
他の攻撃でも必ず痕跡があるはず……いいな!」
ゴイルの指示を受けて恐怖を誤魔化すために敵の攻撃を捉えようと周りを見回し索敵する盗賊達に少しだけ落ち着きを取り戻した者が声を掛ける。
「誰か!敵の攻撃を見たやつは、いな—」
そこまで盗賊の1人が声を上げた時……
“パァーン”と何が音を発したと思うと同時に突然、男の頭が弾け血飛沫が周りにいた者に弾け飛び付着する。
“ビチャビチャ”と頭から脳が落ちると、その光景を目の当たりにした盗賊達は一瞬で恐怖に支配され恐慌状態に陥る。
敵の姿が見えないことや攻撃手段が不明なことが恐怖に拍車をかけ一気に盗賊達の理性を奪っていく。
「やだっ!!やだぁぁぁ!死にたくない!
死にたくない!死にたくない!」
「バカ!騒ぐな!狙われるぞっ!」
「そんなの関係あるかっ!敵は俺達を
捉えているだぞっ!もう逃げるしか……」
数人の盗賊達がパニックになっている中でゴイルは必死に敵の情報を集めようとしていた。
仲間達が殺された場所から敵の位置を逆に推測しようと考えるが……攻撃の間隔と仲間が殺された場所から、どうも1人だけでなく敵が複数いるのではないかと予想する。
そんなゴイルの耳に仲間のうちの1人の
泣きそうな声が入ってくる。
「相手は……人間なのか……?まさか
強力な魔物…?なんじゃ……」
(バカなっ!この辺りには魔物の姿を見たこともなければ俺達が流した噂以外目撃情報もないんだぞ!しかし……もし本当に人間ではなかったら……)
背中に怖気が走り鳥肌が立つのを感じながら必死に背中に絡みつく恐怖を振りほどこうとロングソードを強く握りなおす。
けれど、いつどこからか感知できない攻撃が自分めがけて向かってくるかと思うと、ありえないほど汗が吹き出し呼吸は段々と荒くなっていく。
(クソッ!外に待機させていた馬組は、もう殺されているだろう……フューリのバカも殺されていると考えた方がいいだろうな)
絶望的な状況を打開する方法を探して頭をフル回転させるが、そんなことを考えているうちに犠牲者が増えていく。
「く……くそがあぁぁぁっ!!なんだよっ!
なんなんだよっ!!化け物め!マイクの頭を吹っ飛ばした仇を取ってやー」
先程まで恐慌状態に入ろうとしていた盗賊が仲間の仇を取るためにと自身の気持ちを鼓舞していると違和感を感じて視線を自分の胸に落とす。
そこに自分の胸に空いた穴を見つけ言葉を失う……自身を見ていた瞳が白目を剥いた思うと、やがて糸が切れた人形のようにあっけなく崩れ去る。
ガシャン!また1人仲間が地面に倒れる。
対策も何もできないまま一方的に仲間達が得体の知れないものに殺されていく光景に、ゴイルも全身から脂汗が吹き出し手が震え歯をがちがちと鳴らして恐怖に耐えていると仲間の1人があまりの恐怖に耐えきれずに武器を捨てて走り出す。
誰もがその無謀な行動を呆然と見つめ姿が見えなくなると奥の方から“ガシャン”と鎧が地面に落ちる音を聞き盗賊達の顔色は真っ青になる。
残された7人は、なす術もなくゴイルの元に集まると真っ青な顔色をしたゴイルから作戦を聞くことになる。
「……いいか?敵は人間じゃないかもしれないし、数も何体いるかも分からない……今俺達にできることはバラバラに逃げて仲間の逃げ切る可能性を上げることだ……俺が合図したら一斉に散って逃げろ……いいな?」
盗賊達は、黙ってゴイルの話を聞き逃げ切れる可能性が低くても、この場に留まるよりはいいと判断してゴイルの提案を受け入れ頷いた。
そして盗賊達の逃走が始まった。
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逃げ出した盗賊の背中を捉えると無慈悲に無音の矢を放ち淡々と命を奪った。
森の闇に紛れ気配と魔力を消しながらアレクは探知に集中して次の行動に移ろうとしていた。
【無の歩み】と【雷鳴弓】のコンボで無音の攻撃を可能にしたアレクは、矢を放つと自分の場所が特定されないように縮地で場所を高速移動しては攻撃を繰り返していた。
18人いた盗賊達も残りは7人になりここからは、各自バラけて逃げようとしているようだった。
(そろそろ、逃げに入る頃合いだと思ったよ。これなら用意した策が無駄にならずに済みそうだな)
無音の縮地で場所を高速移動するとすぐに目標を決め今度は命を奪うのではなく足を狙い動きを封じていく。
1番最初に駆け出した足の早い者を優先して潰していくことで他の盗賊達への牽制とするためだ。
「ぎやあぁぁぁ、あ、足があぁぁ俺の足がぁ」
その声を聞いた盗賊達は覚悟を決めて飛び出し逃げるはずだったのに“パタリ”と足が止まり皆が一斉に物陰に身を隠す。
盗賊達は、一瞬で理解したのだ……最初に動いた者が狙われ犠牲になるのだと。
その考えに至った者は最初に動くことを躊躇して隠れるという選択肢を取るしかなかった。
必死に口を押さえ気配を消そうとする者、タイミングを計って逃げ出そうとする者、四つん這いになり姿勢を低くしながら移動する者がいたが……1番最初に犠牲者になったのは四つん這いで移動した者だった。
“ガシン!”金属がぶつかったような鋭い音が周囲に響き渡り、それと同時に盗賊の叫び声が森に木霊する。
「ぎやあぁぁぁ!手がっ!手があぁぁ」
近くに伏せていた盗賊の1人が声の主を確認しようと忍び寄ると四つん這いになった盗賊が手から小さな落とし穴に落ちたようで仕掛けられた無数の剣に手を貫かれ1本は鎧にぶつかり辛うじて貫通はしていなかった。
周りを窺いながら手を負傷した仲間に近付こうとするが……次の瞬間には心臓を射抜かれて死亡し騒いでいた罠にハマった盗賊もすぐに殺された。
他の盗賊達もそこじゅうに仕掛けられた足括りや落とし穴にハマり動きを封じられた者からアレクに殺されていった。
森の中には命乞いをする叫び声や泣き叫ぶ声が響き渡っていたが……次第に声の主はいなくなり森に静寂が訪れる。
森の中で生きているのは足を射抜かれて倒れているものと何故か最初の場所から動いていないゴイルだけであった。
アレクは、足を射抜かれて倒れている盗賊を縛り上げると早々にゴイルの元に向かう。
静まり返った森の中で気配を消してロングソードを構え1人立っている男を観察していると突然、男が話し出す。
「もし、言葉の通じる者が相手なら
最後に姿だけでも見せてくれないか?
こちらのことは見つけているのだろう?」
その問い掛けに最初は何か罠かと警戒するが男の諦めの表情を見てアレクは考えを改めて森の暗闇から姿を現す。
ゴイルは、気配もなく森の暗闇から突如、現れた若い青年に目を奪われる……しかし
月明かりに照らされ銀の髪が風に揺れ前髪の隙間から覗く瞳を見た瞬間に戦慄が走る。
戦慄の正体……それは自分に対して無関心で無機質な目をしていたからだ。
人間としてではなく……その辺に転がる、石ころくらいにしか見ていない目を見た瞬間に自分の運命を悟ったゴイルは武器を捨て手を広げて受け入れるような姿勢を取る。
するといつの間にかブロードソードを手にした青年がゆっくりと歩いてくる。
ゴイルが何かを話そうとした瞬間には青年の姿は消えゴイルの首は落とされていた。
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アレクが殺害した者達を、気が進まなかった
がアイテムボックスに収納して縛り上げた男の傷をポーションで癒すと担いで村へと向かう。
縛り上げられた男は痛みと出血で気絶していたが構わずに移動を続けると村の入口でミカエラが待っていた。
「あっ!アレクさん!お帰りなさい!!
おケガはありませんか!?」
「おう、大丈夫!傷1つ負ってないぜ!
それより村の方に異常はなかったか?
外に出るようなやつはいなかったか?」
「さすがアレクさん!えっと村の方では異変はありませんでした……あとカインさんと、お姉ちゃんが村長の家を見張ってます」
「ってことは侵入者は死んだか……まあ、詳しい内容はカインから直接聞くとしよう、ミカエラ見張りご苦労様!これから村長の家に一緒に行くぞ」
「はい、了解ですアレクさん!」
アレクは男を担ぎながらミカエラと共に村長の家へと向かう。
村長の家から少し離れたところで待っていたカインとアマリアと合流すると喜びもそこそこにして村長の家に乗り込むために《漆黒の魔弓》は歩み出す。




