侵入者と観察者
侵入がアレクのベッドに短剣を躊躇なく
突き刺すが……“ガキン”と予想外の金属音が部屋に響き渡る。
咄嗟にベッドの中身を確認しようと
布をめくるとそこにはプレートメイル一式が
人の形を見せるように横たわっていた。
侵入者が罠だと判断し部屋から脱出しようと
すると1つの影が槍を肩に乗せながら
部屋の扉を塞いでいた。
それは真っ赤な髪をした美しい女性で
一瞬目を奪われそうになるが……この場に
いるのは敵以外の何者でもない。
盗賊のような格好をし布で鼻から下を隠して
した男が持っていた短剣ですぐさま女性に
襲いかかった。
男には武術の心得があり室内戦で槍が
不向きであることを一瞬で理解し逃げれる
可能性が高いと踏んで襲いかかってきたのだ。
しかし、男の予想は裏切られ女性は槍を
壁に立てかけると男に向き合い構えようと
すらせずに立ち尽くしている。
「へっ!バカめ!何かを奥の手があるのか
知らないが、この距離なら短剣の方が
早いんだよ!」
男の短剣が彼女に当たると思われた次の瞬間
彼女の姿が掻き消えたと感じた時には
みぞおちに凄まじい衝撃を受けると
盗賊風の男はアレクの部屋の壁に吹き飛ばされ
壁に激突すると頭を打ったのか白目を剥いて
気絶していた。
真っ赤な髪を整えながら吐きすてるように
無様に倒れる男に呟く。
「バカめ……この距離なら拳の方が、
圧倒的に早いんだよ」
そんなことをしていると部屋の外から
アマリアが声を掛けてる。
「カイン終わったの?ケガとかない?
というか大丈夫ならさっさと侵入者を
この縄で縛ちゃわない?」
「おう!アマリア終わったぞ!では、
ぎゅうぎゅうに縛ってやるか……それで
外は大丈夫の方は大丈夫なのか?」
「うん、ミカがスキルを使いながら村で
不審な動きをする者がいないか予定通りに
見張ってくれてるよ!」
「じゃあ、あとはアレクか……自信あるって
言い切るから任せちゃったけど大丈夫
だよなぁ?かなりの人数がいるみたいだけど……」
「こればっかりは、アレクを信じるしか
ないでしょ?夜戦では私達は大した役に立て
ないんだから……それにあのアレクが自信が
あるって言い切ったのよ?だったら私達は
自分にできることを全力でやるだけよ」
「そうだな……ありがとうアマリア!
よし!侵入者は縄で縛り上げたし尋問と
いきますか?アマリア、アレクから預かった
遅効性の毒薬と出してくれ!こいつを、
起こして情報を聞き出すから」
「ほい!これが預かった毒薬だよ……
解毒剤も、ちゃんと持ってるから安心して
尋問しちゃって!」
カインは、おもむろに盗賊風の男に近づくと
首元に魔力を少量流し込むと同時に
活を入れると“ビクッン”と男の体が跳ね
ぼんやりと意識を取り戻す。
次第に頭が回ってきたのか咄嗟に逃げようと
するがガッチガッチに縛られて動けないこと
が分かるとこちらを睨みつけてくる。
「ちっ!殺せ!俺は何も喋らないぞ……」
「まだ、何も話してないのに失礼なやつ
だな……まぁ構わないけどな。
それじゃあ、だらだらと話すのも面倒だから
時間制限を設けるとしようか!」
そういうとカインは、男の持っていた短剣に
小瓶から緑の液体を出すと刃の部分に
それを塗ると縛られ床に這いつくばっている男に見えるように短剣を肩に軽く突き刺す。
刃の部分が2㎜ほど肌に刺さりチクッとした
痛みが男の体に伝わる。
男の顔色が変わりおぞましいものを見る目で
自らの肩に刺さっている短剣を見ていた。
「うん?その顔色から察するに自分が何を
されているのか理解はできたみたいだな……
お前の想像通り、この液体は遅効性の毒だ。
15分もすればお前は、呼吸ができなくなり
全身に激痛を感じながら死ぬことになる
だろう……助かる方法は唯1つ、俺達に
素直に全てを話すことだ。
ちなみに俺は人の嘘を見抜ける特技を
持っていてな……こうして首元に指を当てて
質問をするだけで鼓動の変化で嘘をついて
いるか簡単に分かるぞ?喋らなくても死ぬし
嘘をついても死ぬし時間が掛かり過ぎても死ぬ……お前にできることは素直に全てを話すことだけだ、分かったな?」
そこまでカインが話すと盗賊風の男は
明らかに顔色が真っ青になり脂汗を流し始める。
「では、質問だ。お前の目的は?」
「……強盗だ。村の近くに潜んでいて
金を持ってそうなやつを待っていた」
「……嘘だな。鼓動が早くなったぞ?
じゃあ、お前には用はない。黙って
質問だけ聞いていろ……お前の他に仲間は
いるか?」
「………………」
「……ほう?仲間がいるのか?それでは
その仲間は何人いる?そうだな……
10人以上いるか?」
「………………」
「うんうん、10人以上いるのか……
お前は、なかなか素直なやつなんだな……」
「……………っ!」
そこまでカインが独り言を繰り返していると
離れて見ているアマリアでさえ分かるくらいに
盗賊風の男は顔面蒼白になりガタガタと
震え出し自らの抵抗が無意味であることを
悟る。
視線を先程、刺された肩へと落とすと
ぎゆっと目を瞑り何かを覚悟する。
そして、助かるには全てを話すしかないと
心を折られ抵抗を諦めたのであった。
盗賊風の男は、自分が何者であるのか
何故この村を訪れた冒険者であるアレク達を
襲ったかなど先程とは変わって素直に全てを
話し始める。毒が回り終わる前に話は終わり
盗賊風の男は、全てを話したのだから
助けてくれという目線を送ってくる。
しかし、カインとアマリアは男に冷たい
目線を向け軽蔑するように言い放つ。
「やはり、最後までお前の仲間が村の周辺に
待機していてお前の合図を待っていることを
話さなかったな……お前からの合図が
なければ異常を察知して助けに来るとでも
考えて時間稼ぎついでに正直に話したの
だろうが……本物のクズだなお前……」
「……っ!!何故っ!?そんなことまで
知っている!……まさか……最初から
知っていて情報を聞き出したのか!?
そうか!お前らリーダーが部屋に
いなかったも……」
「ああ、知っていたさ……ウチのリーダーは
お前以上に隠密と探知に長けていてね……
最初にこの家に訪れた時から盗み聞き
されていることに気が付き逆に情報を
お前に掴ませて追跡していたんだよ。
お陰で仲間と合流したお前達の話を聞いて
今回の計画を事前に知ることができた……
ちなみに俺が嘘を見抜けるってのは
嘘だ!事前に知ってたことを言っただけだ」
「何故……そんなことを……それに俺の
仲間達は何故ここに来ないっ!!」
「そんなの正確な情報を聞き出すために
決まってるだろ?あそこまで演技すれば
話すしかないからな……あとお前の仲間なら
近くの森で魔弓の狩人に狩られてるとこ
だと思うぜ?」
そこまで話を聞いていた盗賊風の男は、
全身に毒が回り耐え難い激痛に襲われる。
無様にのたうち回り床や壁に全身を打ち付け
ながら叫びまわり、やがて動きが止まると
あっけなく絶命した。
部屋いたカインは、死んだ男を無表情で
見つめていた。
離れて見ていたアマリアも、黙ってその場を
離れてトイレの方に静かに歩いていった。
「……こっちは、終わったぞアレク……
頼むから無事に帰ってきてくれよ……」
部屋から出ると扉を閉めて、そのまま扉に
寄りかかるようにして漏らしたカインの言葉
は普段からは想像できないほど弱々しいもの
だった。
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アレクは村近くの森に潜み鎧を着込んだ
一団をジッと観察していた。
数は探知で調べた限り18人とかなりの大所帯
で全員が共通の鎧を装備していることから
どこかの国の兵士崩れといったところかと
予想しながらも装備もついでに確認して
おこうと観察を続ける。
全員が安っぽいプレートメイルを胴体のみ
装備しているが……それ以外は盗賊と
変わらない小汚い毛皮を使った防具を
身につけている。
武器は全員がロングソードを帯剣して
いるが……それ以外の武器は見当たらない。
(本当に兵士崩れが盗賊になっただけの
やつらっぽいな……夜戦とか慣れてなさそう
なのに何で夜に仕掛けようと思ったのか……
理解できないな)
ことの発端は初日のことだった……
村に到着してから何か違和感を感じていた
アレクは、一層警戒しながら村を回っていてあることに気が付き違和感の正体を知ることになる……この村には、年頃の女性が1人もいないのだ。
若い女性が少ないならまだ理解できたが
まったくいないことなど通常では考えて
にくい……ならば何かの事件に巻き込まれて
いる可能性が高いと考えるのが自然だろう。
そして、ここにきたと思われる冒険者達も
全員が女性であり失踪した……悪いことが
起こっているのは間違いないと断定し
アレクは、村の中では探知スキルを全開で
使用した。
すると案の定、村の中に気配も魔力も
消している者が潜みアレク達を尾行していた。
相手の目的と情報を得るために自分達の
目的や今後の予定を聞こえるように話し
潜んでいた者が報告しに動くのを待ち
逆に追跡することに成功したのだ。
追跡した先で得た情報は、女目的で
カイン・アマリア・ミカエラを攫う計画
を練っており食事に睡眠系の薬を盛り
俺を殺してたら村近くに潜んで待っていてる
者達に合図を出したら集団でアジトに
運び込むというものだった。
馬を操れる者を含め10人以上で向かうと
伝えているのを確認して、静かにその場を
後にした。
敵のアジトまで追跡しようかと考えたが
自分が家にいないことが潜んでいる者に
バレれば面倒なことになると思い諦めた。
隙を見てパーティーメンバーには事情を伝え
敵を一網打尽にするために計画を立てた。
そして、今日まで特に予想外のことが
起きることもなく睡眠の薬で眠らされた
フリをしたアレクは監視者の隙を突いて
家を脱出して森に潜む一団を観察していた
ということだった。
家の中に監視者が侵入していったのを
確認するとアレクも行動を開始する。
いつも通りに、心を深く深く水の底に沈め
唯、獲物を狩る狩人になっていく。
軽く息を吐き、獲物に狙いを定めると
自然と体が動きだし狩りの時間が始まった。
まずは、攫った者を運ぶために待機している
森の外で馬に乗った3人に狙いを定める。
獲物をまでの距離はおよそ20m……
茂みの影から身を少しだけ姿をさらし
背負っていた魔弓ケルベロスを手にとり
その名の通りに矢を3本取り出すと同時に
構え馬に乗って喋っている者達の胸を狙う。
3つの鏃が先が動きを止めた瞬間
無音で放たれた矢はプレートメイルなど
紙のように貫通して心臓部に大きな穴を
作ると森の彼方に消えていく。
手綱を握ったまま心臓を奪われた者達は、
絶叫することもできず口から血を流しながら
やがて落馬し“ガシャン!”と鎧が放つ音を
最後に2度と起き上がることはなかった。
突然のことに馬達も混乱していたが……
暫くすると静かにその場を離れていった。
敵の足を潰したアレクは、【無の歩み】
を使いながら森の闇へと溶け込み次の獲物に
静かに狙いを定めていく。
群れから離れた哀れな獲物が目の前に
また1人現れる。
恐らく仲間から離れたところで小便でも
しているのかアレクから30mほどの距離で
こちらに背を向け木の前で突っ立ている。
アレクは、迷うことなく頭部に狙いを定め
息を止めると勢い良く矢を放つ。
やはり、矢からはいつもの甲高い音は
聞こえずそれどころが矢の風切り音すらも
発生しない無音の一撃であった。
そして放たれた無音の矢は、敵の頭部に
見事に命中し脳しょうをぶちまけた。
“ズチャズチャ!”色々なものが頭から
漏れ出し地面を汚す……死体は木に
寄りかかりながら倒れ大きな音を立てること
なくただの肉塊となる。
「次の獲物を探すか……」
呟くようにアレクの口から漏れた言葉には
なんの感情も温かさも感じられず無機質に
獲物を狩ることだけに存在しているような
冷たさを感じさせるものだった。
そして今度の獲物に選ばれたのは、
集団で襲撃の準備を完了させようとして
いるメインディシュ達である。
狩人の夜は始まったばかり……これから
起ころうとしている凄惨な出来事……
本当の地獄を彼等はまだ知る由もなかった。




