王都アルテス 冒険者ギルド
冒険者ランクがCランクに昇格したアレク達
《漆黒の魔弓》は馬車を操りで予定通り
ルブルム王国へと向かっていた。
馬は往路だけ冒険者ギルドから借り受けて
アルテスの冒険者ギルドに引き渡すこと
になっている。
初めての国外にアマリアとミカエラは、
最初こそ緊張した様子だったが……
ルブルム王国に近付くにつれ気温が上昇
していくと緊張よりも暑さに対しての
不快感が勝ったらしく旅の後半には
いつも通りに過ごしていた。
以前は、よく理解しないままにルブルム王国
へと向かっていたアレクは、この2年の間で
国家について調べていたが……この世界では
不思議なことに東西南北の存在する国で
季節が異なっているのだ。
今、向かっているルブルム王国は夏にあたる
気候が安定していることから暑さが特徴で
木々も青々とした光景が印象的である。
暑さにやられているアマリアとミカエラの
格好はウィリデ王国に合わせたものなので
少々、暑苦しくなってしまっているようだ。
ちなみにウィリデ王国は平均的な気候のため
春に近い気温で安定している。
アレクとカインは、ルブルム王国に行った
ことがある経験から軽装のインナーを薄手の
ものに変更しているためにそこまで暑さに
やれなかった。
アマリアから知ってたなら教えてくれても
良かったでしょ?と不満を言われながら
旅は平和に進む。
初の国外の旅に慣れないこともあったが
道中は数度の魔物との戦闘を危なげなく
戦いをこなし2週間後には王都アルテスに
到着した。
冒険者ギルドに馬を引き渡し馬車を
アイテムボックスに収納するとアレク達は
早速、フェルム武具店へと向かうのであった。
アレクは歩きながら街の様子を観察すると
アルテスは相変わらず街全体が煤すすけた
ようであり煙突から上がる煙が鍛冶街として活気と熱気を表しているようであった。
露店で大声で交渉をして武器・防具を
売っていドワーフ達の姿に懐かしさを
感じながらやがてアレク達は一軒の店の前に
到着すると足を止める。
「みんな、ここが俺のお世話になった人が
武具店兼工房をやっているフェルムの金槌
だよ!親方のフェルムさんは乱暴な口調
だけどいい人だから安心してくれ」
《漆黒の魔弓》の一同は、アレクの話を
聞くと伝統ある店の佇まいを確認して
店内の武具などに興味がありそうにしている。
「良し!早速、中に入ろうぜ!
俺は新しい槍とか欲しかったから大金も
入ったことだし逸品を手に入れたいな!」
待ちきれない様子のカインに背中を押され
アレクを先頭にぞろぞろと店内に入っていく
と店内奥のカウンターから男性の
“いらっしゃいませ!”と元気の良い声が
入口まで聞こえてくる。
パーティーメンバーに店内を自由に見て
待っててくれと伝えるとアレクは、
カウンターに向かって歩き出す。
カウンターの男性は、2年前には見ていない
顔の人だったためにフェルムへと伝言を
お願いする。
「あの、申し訳ありませんが……店主の
フェルムさんに黒弓使いのアレクが
きたと伝えて頂けますか?それと
頂いたサーペントのレザーアーマーも
大切に使わせてもらってます、と言って
頂ければ分かると思いますので……」
そう男性に伝えると、慣れた様子で
カウンター奥に向かい次に姿を見せた時には
フェルムと一緒にカウンターに戻ってきた。
フェルムは、2年前と殆ど変わらず鍛冶用のエプロンに煤すすだらけのグローブをして
長い髭を下で縛っている姿で現れる。
アレクの姿を捉えるとドワーフらしく
大声で話し掛けてくる。
「おおっ!!本当にアレクじゃないか!
元気そうでなによりだ!2年前より体格も
よくなって身長も伸びて立派な冒険者に
なったんじゃないか?」
「お久しぶりですフェルムさん。
フェルムさんも相変わらず武具の開発に
取り組んでいるようで安心しました!
今回は、自分のパーティーメンバーと一緒に
アルテスに帰って来ましたよ」
「がははっ!武具の開発もがんがん進んで
いるからな、お前さんも驚くと思うぞ?
うん?自分のパーティーメンバーとは
冒険者ランクがCランクになったのか?
2年前はFかEだったろうに随分と頑張って
いるようだな!」
アレクとフェルムが話しているうちに
店内を見ていた《漆黒の魔弓》の面子が
カウンターへと集まってくる。
アレクがパーティーメンバーを順番に
フェルムに紹介していくと軽く頷きながら
何かを理解したフェルムがアレクに話を
降ってくる。
「なるほど……パーティーメンバーの装備
強化がアルテスに来た目的か?
ワシの勘じゃが……アレクの仲間達には
一般に流通している武器や防具が多いように
感じるからな。Cランクに上がったことで
装備の見直しにきたというところか」
フェルムの洞察眼にアレクと仲間達が、
驚いているとフェルムは仕事モードに入り
《漆黒の魔弓》に合う装備について考え込む
と“むうぅぅぅ”と唸りだす。
そんなフェルムにアレクは、見せたいものが
あると伝えると考え込むのを一旦やめて
工房にアレク達を案内してくれる。
工房では、アレクが見たことのある弟子達と
新たに加わった弟子達が装備を汗だくに
なりながら作り出していた。
数人は、アレクの姿を見つけると手を振り
挨拶をしてくれる。
フェルムが広い作業台を片付けて広い
スペースを作るとそこにアレクは、
アイテムボックスから狂闘牛の素材を出して
次々に作業台の上に並べていく……
装備を作っていた弟子達も工房内で
何かが始まったことを早々に感づいて
作業台の上に並べられていく素材と
何もない空間から素材を取り出すアレクに
皆が視線を奪われていく。
ぞろぞろと作業台に集まってくる弟子達も
狂闘牛に興味深々で
あったが……アレクが次に取り出した
銀色が混じった毛皮を見た瞬間に工房内に
“おおおぉぉぉ!”と歓声が上がり皆の
テンションが高まっていくのが分かる。
「……これは……!!またすごいものを
持ち込んでいたな……アレク!
そいつは狂闘牛の毛皮か?」
「ええ、これは最近遭遇した狂闘牛の
変異種の素材です。それにまだありますよ?」
そういうと毛皮の他にも鈍い光を放つ
2本の見事な角をアイテムボックスから
取り出して作業台の上に置く。
その瞬間に工房内の皆が“ゴクリ”と
唾を飲み込む音が聞こえた。
「これも見事な角だな……今までに
見たこともないし聞いたこともない素材だ!
こんなものを見せられては職人として
ワクワクしてしまうわい!まったく
アレクは職人の気持ちを動かし方を
良く分かっているな」
「フェルムさんなら、見たことのないも
聞いたこともない素材でも逸品に仕上げて
しまうと信じてるのでアルテスまで
来たんです。これらの素材を使って
俺と仲間達の武器・防具を作って
もらえませんか?依頼料は、しっかりと
支払いますが……できれば装備作成で余った
素材を料金の一部の代わりにしてもらえると
助かります」
仕事人の顔になったフェルムさんが、
必要情報を集めるためにアレクと詳細な
打ち合わせを始める。
「納期は、どれくらいだ?足りない素材など
が発生した場合は追加の料金が発生すること
もあるが?」
「納期は、半年以内で俺達はアルテスに
同じ期間滞在予定なので必要な素材が
あれば冒険者ギルドに依頼を出してくれれば
自分達で確保しに行きます。
依頼は最低料金で構わないので指名で
《漆黒の魔弓》をお願いします。
それが俺達のパーティー名になりますので」
「そういうことなら、料金の心配は
いらないな!余った素材でもお釣りが
来るくらい珍しい素材だからな。
あとは、アレク達のパーティーの装備と
サイズなどを確認させてもらえるか?
それによって何を作るかも変わってくる
からな」
「では、全員の装備とサイズの確認を
お願いします。それと俺に関しては
レザーアーマーのサイズ調整をお願い
できますか?ここ2年で身長もだいぶ
伸びたので、この機会にやってもらえれば
と思っていたので」
「ああ、分かった!それはそうと半年の
滞在期間はどこを拠点にするか決まって
いるのか?決まってないなら紹介して
やろうか?」
「一応、拠点は前に滞在したことのある
宿を頼りにしようと思っていたのですが……
フェルムさんが紹介してくれるなら
そちらにお願いしようかと思います」
「前に滞在していた宿……うーん、あそこ
よりはワシが紹介するところの方が
いいかもしれんな。この工房の近くに
“夜空の輝き亭”という宿があるから
そこにフェルムからの紹介だと言って
もらえれば安く都合してもらえるはずだ。
それに“夜空の輝き亭”は女性冒険者が多く
利用しているからアレクのパーティーでも
快適に過ごせると思うぞ?」
「では、“夜空の輝き亭”にお世話になろうと
思います。紹介ありがとうございます!
それとウチのパーティーは女性は修道女の
アマリアだけですよ?カインとミカは、
男なので一応、訂正しておきますね」
話を聞いたフェルムと弟子達も一斉に
カインとミカを交互に見つめると
信じられないものを見た表情を浮かべていた。
対照的にカインとミカは、恥ずかしそうに
頭を掻いて苦笑いを浮かべていた。
フェルムの金槌での用事を
終えた《漆黒の魔弓》はフェルムから
紹介された“夜空の輝き亭”に向かう。
フェルムの言う通りに“夜空の輝き亭”の
受付近くにいた女性が宿に入ってきた
アレク達を一瞥するとすぐに声を掛ける。
「“夜空の輝き亭”にようこそ!
私は、この宿の女主人でスザンナって
いうもんだ……よろしくね」
スザンナと名乗る女性は見た目は30代ほどに
見え赤毛をお団子にして頼れる姉御という
雰囲気を纏っていた。
「どうも、俺はアレクサンダーです、
呼びづらければアレクと呼んで下さい。
このパーティーのリーダーをしています。
フェルムさんから紹介されて、こちらの
宿に伺いました」
「ほう?フェルムの紹介かい……それで
どれくらい滞在予定なんだい?ウチは
紹介ありだと個室で銀貨1枚だ。
食事は別で料金が発生するから
そこのところは気を付けておくれ!
それとフェルムから聞いてると思うけど
ウチは女性冒険者の利用が多いから
男女は別の部屋になるからね!
見た感じだとアレク以外は別の部屋に
なるけど、それでいいかい?」
「えっと、滞在期間は半年を予定していて
俺と赤髪のカインと青髪のミカエラは
男部屋でお願いします……」
アレクの答えに疑わしい目線をカインと
ミカエラに向けるスザンナだが少しだけ
考えると何かを納得したようでアレクの
言った通りに部屋を用意してくれる。
料金を前払いで支払うと別の女性従業員が
それぞれを部屋へと案内してくれ
各設備の場所を教えてくれた。
アレクは、ついでに近くで酒が飲める
場所を教えてもらい部屋のカギを
女性から受け取った。
旅の疲れを癒すために午後から予定は、
自由時間として夜に集まって女性従業員から
教えてもらった酒場に集まる約束をすると
アレク達は各自で自由に過ごすのであった。
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アルテスに到着した次の日からアレク達
《漆黒の魔弓》は、簡単な依頼を受ける
ためにアルテスの冒険者ギルドに足を運んで
いた。
アルテスの冒険者ギルドは、ドォールムに
比べて男性も女性も日に焼けている者が
多くアレクの存在が逆に目立っていた。
妙な視線を集めながら休憩所に仲間を残し
依頼の掲示板を眺めていると1人の
ギルド職員から声を掛けられる。
「あの〜もしかして2年前に“静寂の影”を
撃退したアレクさんですか?」
声を掛けられた方に振り返るとそこには
黒髪で落ち着いた感じの男性が立っていた。
20代後半に見え身長は160㎝くらいで
アレクは何となく見た覚えのある顔に
頭をフル回転させて正解を導き出す。
「はい、俺がそのアレクですが……あなたは
もしかして、2年前に事件の事実確認や
報酬の支払いを担当されてた方ですか?」
「やはり、アレクさんでしたか!?
私のことまで覚えて下さっているとは
本当にしっかりした方ですね!
あっ、申し遅れました私は冒険者ギルドで
副ギルドマスターしております。
レナードと申します」
丁寧に一礼する男性から聞かされた
予想外の役職に驚きながらも冒険者として
冷静に挨拶を返すアレク。
「こちらこそ、名乗りもせずに失礼しました。
《漆黒の魔弓》のリーダーをしている
アレクサンダーと申します。
よろしければ今まで通りにアレクと
呼んで下さい。それにしても驚きました……
レナードさんが副ギルドマスターだった
なんて……」
「はははっ、あの時は余計な威圧感を
与えないために役職を伏せて事情を
聞いていましたので……本当に申し訳
ありませんでした」
あの時の、一連のやり取りを思い出し
苦笑いを浮かべるレナード……アレクを
少しでも疑わしいと考えて質問していたこと
を気にしているのか表情が少し暗く見える。
空気を変えるためにアレクは別の話題を
レナードに振ってみる。
「いえ、過去のことですので……あの時の
ことは気にしないで下さい。それはそうと
失礼ですが、レナードさんの年齢を教えて
頂いてもよろしいですか?どうしても気に
なってしまって……20代後半に見えるの
ですけど若くして副ギルドマスターに
なられたのですか?」
アレクの質問に少しだけ照れたような
表情を見せるとレナードは、自らの顔を
触りながら答えてくれる。
「そう言ってもらえると助かります。
私の年齢ですか?今年で38歳になりますが
アレクさんの仰ったように若く見られて
良く驚かれます」
まさかの再会からレナードと世間話や
アレク達《漆黒の魔弓》のアルテス滞在の
理由や半年ほどアルテスの冒険者ギルドで
お世話になることを話していると何かを
思い出したレナードがアレクに一つの
お願いをしてくる。
「アレクさん、あなたに会ってほしい
ギルド職員がいるのですが……お話を
聞いて頂けますか?」
レナードの表情が優しいものになり
アレクに事情をゆっくりと話し始める。




