変異種
狡猾な狂闘牛の変異種に追い詰められ
ジリ貧になる前に事態を打開する策を
アレク達は実行しようとしていた。
狂闘牛から逃げていた方向から
風上に陣取るために逆走し葬った狂闘牛を
横目に策が開始される。
バルドにアレクが指示を出し不自然に
ならないように馬車の速度を落とし
馬の疲労を偽装する。
アレク達は、剣や槍にメイスを各自用意し
馬車が止まった際にスムーズに近接戦闘に
移れるように準備している。
それを見た銀色の狂闘牛は殺気を漲らせて
待ちに待った狩りの機会を待ちきれない
様子でアレク達を見つめる。
銀色の狂闘牛は馬車が止まる前に
先制の特攻を仕掛けようと徐々に速度を上げて
馬車との距離を詰めてくるが……
不意に馬車から“何か”が複数投げられたのを
感知し視線を上にあげる。
そこにあったのは空中に投げられた
筒のようもの……中には何か液体のような
ものが入っているが当たる前に回避できると
判断して銀色の狂闘牛は少し進路を修正する。
しかし、進路を修正した瞬間……
馬車から火炎弾が放たれ狂闘牛に向かってくる。しかし、炎耐性のある銀色の狂闘牛は
臆することなく迷わず突き進む。
魔法が着弾すると思われた一瞬……
予想を裏切るように何もダメージを
受けなかった銀色の狂闘牛は
目の前が煙に包まれていることに驚き
急いで動きを停止する。
あまりに広範囲に発生した煙に頭から
突っ込み全身煙塗れになった
銀色の狂闘牛は瞬時に異変を察知する。
その異変を体が感知した瞬間に
ありえないほどの激臭が銀色の狂闘牛を襲う。
自らの嗅覚を細胞ごと破壊しているのでないかと
錯覚するほどの臭さに全身の筋肉が痙攣し
呼吸ができなくなる。
生物としてギリギリのところまで臭いに抵抗するがやがて、銀色の狂闘牛は意識を手放し
泡を吹いて卒倒した。
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〜馬車内にて数分前〜
ニヤッ”と笑いアイテムボックスから
あるアイテムを取り出して皆に見せる。
それはアレクが昔に開発した試験管に入った
防犯ポーションだった。
これをかけられた者は、色の落ちない染料と
凄まじい異臭を放つ効果に陥るという
極悪な激臭兵器である。
安全装置として人肌の温度に反応するように
作られているが……これは正確ではなく
正しくは35℃以上の温度に反応して
効果が発動するようになっているのだ。
しかも、反応した防犯ポーションは
その特性上とても気化しやすく高温に
なるほど大量の煙となって広がって
しまうのだ。
今回は、この防犯ポーションを大量に
空中に投げミカエラの炎魔法で気化させ
一帯に臭いを散布することで魔物の
優れた嗅覚を逆手に取って動きを封じよう
という策であった。
アレクは、銀色の狂闘牛が最初にミカエラの
魔法を躱された時点で通常攻撃を諦め
この策の実行を考えていた。
液体を直接かけることが難しいなら
躱せないように広範囲に臭いを発生
させればいい……しかし、そのためには
自分達が巻き込まれないようにすることと
高温の熱源を用意しなければないない。
条件をクリアするためにバルドに風上に
移動しながら馬の疲労を偽装してもらい。
ミカエラの魔法発動を悟らせないように
近接戦闘を準備した《漆黒の魔弓》一同が
姿を晒すことで注意を逸らしたのだ。
あとは、敵が突撃してきたタイミングで
アレクが武器をアイテムボックスにしまい
代わりに大量の防犯ポーションを持って
投擲したというわけだった。
敵の動きが止まったことを確認して
馬車を降りたアレクとカインは
大量に発生した煙を風魔法で上空に
散らしながら銀色の狂闘牛の動向を確認する。
近接戦闘を準備したアレクとカインが
目標に近付くと銀色の狂闘牛は泡吹き痙攣して
倒れていた。
アレクとカインは、お互いに目を合わせると
激臭に苦しむ憐れな魔物にトドメを刺した。
激臭が染み付いた死体に防犯ポーションの
対抗薬を振りかけて激臭を無効すると
離れていたパーティーメンバーと
バルド・ミザも恐る恐る近づいてくる。
最初に口を開いたのは実際に防犯ポーション
を体験したことのあるバルドだった。
「久しぶりに活躍するところを見たが……
人間だけでなく魔物まで追い詰めるとは
本当に恐ろしいな防犯ポーション……」
対魔物への恐るべき効果を発揮した
防犯ポーションを冒険者ギルドで正式採用
した場合のことを割と本気で考えている
バルド。
「絶対に俺に使うなよ?絶対だからな!
使ったら本当に許さないからな!!」
フリにしか聞こえないセリフを何度も
アレクに言い続ける何故か必死なカイン。
「激臭が、ここまで魔物を苦しめるとはね……
残り香を嗅いでたら私も、……うっぷ!」
防犯ポーションの威力に感心しながらも
辺りに残る臭いで、もらいゲ○しそうに
なっているアマリア。
(癖になってるのかな……ゲ○するの……)
「さ、さすがです!アレクさん!
魔物を気絶させるほどの薬を作って
しまうとは……か、かっこいいです!!」
何故かキラキラした眼差しでアレクを
見つめる乙女のような仕草をしている
ミカエラ。
「だっ!大丈夫ですかアマリアさん!?
吐くなら人目につかなくあちらで吐きましようね……」
吐きそうになっているアマリアを介抱して
優しく背中をさすってあげているミザ。
先程まで、命のやりとりをしていたとは
思えない雰囲気で様々な感想を言い合った
一行は後処理のために各自行動を開始する。
馬車で移動しながら倒した狂闘牛の死体から
魔石と指定部位の回収を行い処理を終えた
ものはアレクがアイテムボックスに収納
していく作業を延々と繰り返す。
バルドによると狂闘牛の死体は捨てるところが
ないと言われるほど有用な素材らしい。
毛皮・角・骨・内臓・睾丸と様々な用途で
利用されるために色々なところで取引
されるので残さずに回収するように
口を酸っぱくして言われた。
昼間から続いた緊急依頼は回収を含めて
日が落ちる前には終了し夜は荒野で
家を出して休憩することになった。
戦闘の疲れを癒すように風呂と食事を
堪能した一行は早めの就寝を取る。
夜の皆が寝静まったリビングのソファで
横になったいたアレクは気配を感じて
体を起こす。
視線を気配がする方向へ向けると、
2階への階段が続く場所にバルドが
現れ申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「どうしたんですか?喉でも渇きましたか?」
いつもの様子でバルドに話し掛けるアレクは
何となくバルドの要件に気付きながらも
質問をする。
「いや……改めて今回の依頼の件を
謝ろうと思ってな……本当に無理を言って
すまなかった!」
アレクの傍まで近付いてくるとバルドは
深く頭を下げ謝罪する。
「頭を上げて下さいバルド教官。それに
ついては依頼を受けた時点で《漆黒の魔弓》
として危険は理解した上でのことですので
バルド教官が謝ることはないでしょう?」
「いや、敢えてアレクが触れないように
しているのは俺も分かっている……
今回の依頼の件で、重要な依頼違反があった
のはな……あの変異種のことだ。
本来なら追加報酬を要求されるべき案件
でありパーティー全員の命が奪われても
おかしくなかった恐ろしい魔物だった」
「あの変異種は、予想できない魔物ですよ。
追加報酬を求めるつもりはありませんし
こちらとしては珍しい素材も入手できました
ので問題ありません。
パーティーの命に関しても先程も言いましたが
皆、危険は承知の上ですから」
「分かったアレクが、そこまで言うなら
この件はこれ以上話さないでおこう。
ただ感謝させてくれ!村を守ってくれて
ありがとうアレク……」
そう言ってバルドは、もう一度深く頭を
下げると2階の個室に戻っていった。
暫くすると仮眠室で待機していた
カインが姿を見せる。
「バルド教官、俺のことを気付いていての
言葉だったんだろうな……さすがは
副ギルドマスターだな!」
「ああ、バルド教官も変異種のことは
相当気にしてたってことだろうな……
本来なら責任を問われるくらいの案件だしな」
「あの変異種……そんなに危険だったのか?
実際に接近戦をしてないから実感が湧かない
んだが?ランクで言うと、どれくらい?」
「多分……最低でもAランクに届くくらいの危険度だったと思う。
あれでも、まだ成長途中のようだったから
成長しきる前に倒せて本当に良かったよ」
真剣に表情で変異種について語るアレクを
見て、カインは決意を新たにする。
「まだまだ、俺達は強くならないとな……
仲間の命を守るために……目の前の命を
失わなくて済むように」
そう語るとソファに座っていたアレクの肩を
ポンポンと叩いて仮眠室へと戻っていった。
残されたアレクは、再びソファに横になると
“ぼっー”と天井を見ながら守れなかった少女
の姿を思い出し自らを更に高めようと強く
想うのであった。
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狂闘牛との激闘から2日後アレク達は無事に
王都ドォールムへと帰ってくることができた。
Cランク昇格試験の旅が思わぬ事態へと
発展してしまったが誰1人欠けることなく
生還できたことが何よりの嬉しいことだった。
ギルドから借りていた馬の返却と
バルドとミザを送り届けるために一行は
馬車で冒険者ギルドに直行する。
旅の疲れも殆どなく冒険者ギルドに
戻ってきたアレク達はギルドでの依頼完了
報告と旅で消費したアイテムの買い出しと
役割分担して行動を開始する。
バルドとミザにギルドの裏口で別れを告げ
ギルドの残ったアレクは、久しぶりに会う
セシリアに顔を見せに受付へ向かう。
昼を過ぎた受付に人は疎らで
セシリアと話すには都合が良いと考えて
アレクは歩みを進める。
「こんにちは、セシリアさん。
久しぶりでしたが……元気にしてましたか?
あ、あとCランク昇格試験終わりました!
完了報告に来たので処理をお願いします!」
一瞬、セシリアの瞳が大きくなったと思った
が受付としての業務を優先することを守り
控えめなリアクションに抑えてくれる。
「あ!アレク君戻ったのね!!……じゃなくて依頼完了お疲れ様でした。では木札を
お預かりしますね……はい、大丈夫ですね。それと昇格の結果は後日ギルドから
お伝えしますので少々お時間を頂きますので
ご了承下さい」
「はい、分かりました。それとバルド教官
から緊急依頼を旅の途中で受けましたので
そちらの件を受付に伝えて木札を受け取る
ように言われています」
「緊急依頼……ですか?分かりました。
それでは、こちらの木札をお渡ししますので
依頼内容を副ギルドマスターから確認次第
報酬をお支払い致します。他には何か
ありますか?」
「えっと、確か緊急依頼で倒した魔物の
買取を行いたいから受付が終わったら
解体場にくるように言われています」
「では、解体場へ案内します。少々お待ち下さい」
大体のやり取りを終えるとセシリアは、
受付を他の者と交代してアレクを解体場へ
案内してくれる。
解体場へ向かう途中でセシリアから
今日の夜の予定を聞かれたので空いている
ことを答えると……“いつもの酒場で
パーティーのみんなと待っててね”と
言われ夜の予定があっという間に埋まって
しまった。
解体場への案内を終えたセシリアは、
笑顔で手を振りながら受付へ戻って行った。
ギルドの奥にある解体場の扉を開けると
そこにはバルド教官と丸太のような腕した
筋肉質の中年の男性が話していた。
こちらに気付くとバルド教官が大きく
手を振りながら声を掛けてくる。
「おーい!アレクこっちだぞ!」
アレクは、待たせてしまったと思い
早足で2人の元へ向かっていく。
解体場は独特の血生臭さがあり
アレクの印象としては精肉工場のような
ところだなぁ……という見た目であった。
解体する前の獲物を並べられる広いスペース
が併設しており多くの獲物にも対応できる
ようになっている施設だった。
「お待たせしてすみません!初めまして
《漆黒の魔弓》のアレクサンダーと
申します。気軽にアレクと呼んで下さい」
初めて会う筋肉質の男性に頭を下げて
丁寧に一礼するアレク。
そんな様子を驚いた表情で見つめる男性は、
思い出したように自己紹介をする。
「おう!丁寧にどうも!俺は冒険者ギルドで
解体を担当してるカルロスってもんだ。
バルドから話は聞いたぜ!あの狂闘牛を
大量に仕留めたらしいじゃないか!
アレクの噂は聞いていたが本当に大したやつ
だったんだな。
悪いが早速、獲物を見せてくれるか?
馬車にでも積み込んでいるのか?」
どうやら、珍しい獲物の解体でテンションが
上がっているらしくうずうずしている
カルロスにアイテムボックスから出すところ
を見せてもいいものかと考えていると
バルドが助け舟を出してくれる。
「おい!カルロス!これから見ることは
他言厳禁だからな?アレク頼めるか?」
「分かりました、ではそちらの広い所に
出していきますのでカルロスさん、よろしく
お願いします」
アレクは、アイテムボックスから1匹ずつ
狂闘牛を出して見せる。
最初は、アイテムボックスに驚き声を上げて
いたカルロスだったが……止まることなく延々と
アイテムボックスから排出される獲物を
唖然と見つめているうちに顔色が
真っ青になり35体全てを出し終わる頃には
顔面蒼白になっていた。




