師匠と【鑑定】と旅立ち
それから数日間はルシアさんは村の整備を
手伝いながら俺の相手をしてくれた。
もちろん、遊び相手ではなく魔法や魔物に
冒険の話など色々なことを教えて貰ったし
次第にステータスやスキルについてなど
難しい話もするようになった。
家の裏でルシアさんと勉強を始めた頃は
最初のこそ驚いた様子だったが研究者として
の性さがなのか、今では先生と生徒のように
接してくれている。
そんな、ある日。村の整備の手伝いが
落ち着いたらしくルシアさんから数日後に
村を離れることを聞くことになった。
いつも通り、家の裏で昼食後の勉強会を
2人で行っているとルシアさんが話し出す。
「そろそろ、この村を離れることにしようと思う。私に出来ることもないようだからね」
前から決めていたのか普段どおりの様子で
冷静に、これからのことを話してくれる。
俺は内心、かなり焦っていた。
こちらの世界にきてから始めて先生といえる
人と出会えたのに、ここで繋がりをなくして良いものかと……
(どうするべきか……せめて職業ジョブに
ついてなど今のうちに聞いておいた方が
いいんじゃないかな?先生みたいな人が
また村に訪れることなんてないだろうし)
ルシアさんは、研究熱心だけど決して
悪い人じゃない。
決心してお願いをしてみる。
「ルシアさん、お願いがあるのですが……」
少し気まずそうに話し掛ける。
「何かかな?アレク君」
いつも通り先生のように応対してくれる
ルシアさんに背中を押されるように言葉を続ける。
「僕のステータスを鑑定してほしいんです」
以前にルシアさんが【鑑定】のスキルを
持っていることを聞いていた俺は、
このお願いで自分の疑問を解決しようと
思ったのだ
ルシアさんは不思議そうに質問してくる。
「何でアレク君はステータスを知りたいのかな?」
俺は予め用意していた回答を伝える。
「僕はいずれ、村を出て冒険者になりたいんです。その素質があるかどうかを知りたいんです」
(ルシアさんから冒険者の話を聞いてから
村を出てからの選択肢として1番の候補と
して考えていたのが冒険者だったからだ)
「アレク君は、お父さんと一緒で狩人を目指しているんじゃないのかな?無理して冒険者になる必要もないと思うのだけど?」
あまりオススメできないと言うような
感情が声色から伝わってくる。
(先生として真剣に答えてくれるルシアさんに俺も真剣に本音で答えよう)
「僕は将来、この世界の色々な所に行き
その土地の人と出会い様々なことを知りたいんです!その為に自分の身を守る技術や
命のやり取りを経験する狩りを学んできたんです」
最初は、獣を殺すことに嫌悪感が拭えず
初めて殺した時は嘔吐してしまう程だった。けれど、この先には魔物や盗賊など
自分の命を脅かす対象とも出会うことも
あるだろう……
スキルの習得も目的ではあったが……
狩りを学んだ1番の理由は、命を奪う覚悟を
決める為だった。
そこまで話すとルシアさんは、ため息を
つき諦めた様子で俺に目線を合わせる。
「分かった、鑑定はしてあげる。けれど
才能がなければ大人しく諦めなさい」
その答えに俺は頷く
「はい、お願いします!」
ルシアさんが俺の前に近づきスキルを発動させる。
「【鑑定】…………」
沈黙が続く中で、ルシアさんが“ハッ”と
息を飲む音が聞こえる。
俺は、恐る恐る鑑定の結果を聞く。
「どうですか?才能ありそうですか?」
するとルシアさんは、顎に手を当て考えて
いるようだったが答えを聞かせてくれた。
「才能があるか、ないかで言えばアレク君は
才能があると言えるでしょうね……けど
正確なところは正直、私にも分からないわ」
そう続けるとルシアさんは、
俺のステータスについて説明してくれた。
「まず、職業ジョブについてだけど
〔持たざる者〕という職業が
15歳を待たずして取得できている点。
まずこれが異常だわ。それに〔持たざる者〕
という職業のエクストラジョブも聞いたことがない」
俺は内心、やはりそうなのか。と思いつつ
驚いたリアクションを取っておく
「それに本来、狩人の職業ジョブでないと
取得できない弓術のスキルを取得できていることも異常だわ」
(やっぱり普通では、ありえないのことが
起こっているのか……)
俺は考え込みそうになるがルシアさんの話に意識を戻す。
「アレク君、〔持たざる者〕を鑑定してみてもいいかしら?」
少し遠慮しながらの提案を黙って頷き了承する。
「では、【鑑定】………」
なぜか難しい表情を崩さないルシアさんが
こちらを見つめている。
(えっ?何かマズイことでもあったの?
すごい気になるんですけど……)
「あの?何か分かったんですか?」
気まずそうにルシアさんが口を開く。
「とても言い難いのだが……〔持たざる者〕
の効果は、スキル習得に通常より3倍の時間が掛かる。というものだった……〕
「はっ?」
一瞬ルシアさんが何を言っているかが
理解出来ずに間抜けな声を出してしまう。
「えっと、確かなんですか?スキル習得に
3倍の時間が掛かるっていうのは?」
ルシアさんは、
黙って頷き俺の問いを肯定する。
(ただの死に職業)じゃねーーかぁ!!)
心の中で絶叫する俺……
明らかに落ち込んでいる俺にルシアさんが
意外な言葉を掛けてくる。
「勘違いしないでほしい。私は言った
はずだが?君には才能があると……」
顔を上げルシアさんの髪を見つめる
「どういうことですか?意味が分からないのですが?」
「ここからは、私の憶測だが……君はスキル習得が遅い代わりに職業に関係なく
スキルを習得することができるのだと思う」
ルシアさんが詳しく説明してくれた内容は
〔持たざる者〕の鑑定は完全には行えなかったがスキル習得に通常の3倍時間が掛かる。
という所は確からしい……
しかしデメリットしかない職業など考えられないこと、狩人の専用スキルの弓術を習得していることから俺は職業に関係なくスキルを習得できる可能があるということだった。
「あの〜ルシアさん?ルシアさん聞いてますか〜?」
ルシアさんは説明の途中から独り言の様に
考えを俯きながら呟いていた。
「これは、考え方によっては大きなアドバンテージと言えるのではないか?専用スキルを
次々に習得していけば新たなスキルの可能性が……いや、その為には時間的な問題を解決して……そうすると方法は……」
完全に自分の世界から帰ってこない
ルシアさんに大声で呼びかける。
「ル!シ!ア!さーーん!!!」
やっと、こちらき気付いたルシアさんが
ハッとしたように顔を上げる。
「あーすまない……考えるのに夢中になってしまったようで」
「結局、僕は才能ありでいいんでしょうか?
冒険者にはなれそうですか?」
最初の話の流れに戻り結果を確認する。
ルシアさんはビシッ!とこちらを指差し
はっきりとこう言った。
「君には才能がある!冒険者にもなれるだろう!けど、その前に私の弟子になりなさい!
」
「良かった冒険者になれそうで安心しました!って!えっ?弟子?!弟子にしてくれるんですか?」
いきなり話が意外な方向に進んで戸惑うが
元々、ルシアさんのことを先生のように
思っていたので正直嬉しい気持ちの方が
大きかったで受け入れる方向で返事をして
しまった。
ルシアさんも少しだけ意外そうな顔をするが
次の瞬間には満足そうに弟子入りの話を
話してくれた。
その後、ルシアさん改め師匠と
これからの予定について話し合った。
師匠は、村を出た後は王都へ向かうつもりで
いたらしい。お金はあるので食料が手に入りやすい街で研究を続けようと考えたそうだ。
俺の弟子入りにも、冒険者ギルドや装備が
揃う王都の方が都合がいいだろうということで次の目的地は王都に決定した。
しかし、1つ大きな問題が残っていた……
両親の説得である。
師匠と共に家に戻り、お茶を飲んでいた
両親と同じテーブルにつく。
(ダメだと言われても、諦めないぞ!)
心の中で気合いを入れ話し始める。
「父さん、母さん、大切な話があるんだ。
僕、ルシアさんの弟子になって王都へ行きたい!そこで色々なことを勉強しながら冒険者になりたいんだ!」
思い切ってストレートに自分の思いを伝える。
両親は、突然の話に驚いた様子だったが
ゆっくりとディオンが口を開いた。
「アレク、お前は冒険者なって何がしたいんだ?」
いつもと違うディオンの雰囲気に驚きながら
自分の本心をさらけ出す。
「僕は、この世界のことをもっと知りたい。
様々な土地で色々な人々に出会い。知らない知識や秘境へ向かい冒険がしたい!」
大人が聞いたら、子供特有の戯言。
外の世界に対する憧れや無謀な望みだと
思われる言葉を両親は黙って聞いてくれた。
心から心配している様子で
カーラも口を開く。
「アレク、分かっていると思うけど旅をする
ということは命を掛けるということなのよ?
アレクの命は、もちろん。時には人の命を
奪うこともあるかもしれないわ……
その覚悟がアレクにはあるの?」
瞳を、逸らさず俺は答える。
「出来れば、殺されたくないし殺したくない
けど、自分と大切な人が傷つけられるなら
迷わず弓を引く覚悟はある。」
大切な人と言った時、俺は目の前の両親を
想像していた。
もし、両親が命の危機に晒されていたら?
俺は人を殺したことはない。
けれど、苦しみを背負うことになろうとも
迷いはしないだろう。
その覚悟はある!
長い沈黙が流れ、やはり
許してもらえないかと思い始めた時だった。
「分かった……行って来なさい……」
ディオンが仕方ないという様子で呟いた。
「良いの?父さん?」
意外なことにディオンから許しを貰え
思わず聞き返してしまう。
「ああ、いつかはアレクが旅立ちたいと
言い出すと分かっていたからな……」
まさかの発言に、言葉を失う。
「なんで?そんなこと一度も言ったことないのに……」
その言葉を返すようにカーラが答える
「話さずとも分かります……私達は親ですから。アレクが何か大きな目標を持って、いつも頑張っていたことは知っていましたし」
(自分では隠せていたつもりだったけど、
父さんも母さんも何か感じ取っていたんだろう。すごいな……親って)
嬉しさや、恥ずかしさ、色々な感情が溢れ
気づくと頬を濡らしていた。
「ありがとう……父さん……母さん……」
そんなアレクの様子を両親は優しく
見守っていた。
俺の様子が落ち着くと両親は共に立ち上がり
師匠に向かって頭を下げる。
「ルシアさん、息子をよろしくお願いします!アレクことを、お願いします!」
師匠も、立ち上がり頭を下げる。
「はい、息子さんをお預かりします」
その後は、手間取ることもなく
必要な物をアイテムボックスに突っ込むと
次の日には出発できる準備が整った。
早朝に村の入口まで見送りに来てくれた
両親が餞別を渡してくれる。
「急なことで新しいものを用意できなかったがこれを持って行きなさい」
そういうとディオンはロングボウを手渡してくれた。
「これは、以前父さんが使っていたものだ。
手入れはしてあるから、アレクの手にも
馴染むだろう。今は、まだ使うことができないと思うが必要になった時には迷いなく
使いなさい」
「ありがとう父さん、覚悟を持って使います。けど、まだ身長的にも大きいから暫くは
今まで通りこのショートボウを使うよ」
ディオンから、貰ったロングボウを
アイテムボックスに収納しながら答える。
アレクは、成長中で現在の身長は155cm程
だったがロングボウを使いこなすには身長が
足りていなかったし筋力も不足していた。
ディオンは付け加えるように話す。
「もう少し身長が伸びたらコンポジットボウ
を王都で調達してもいいかもしれないな」
笑顔でアドバイスをくれた。
ディオンの後ろに控えていたカーラが
アレクの前までくると、ぎゅっと優しく
抱きしめる。
そして手を首に回すと紐を後ろで結び
親指ほどの大きさをした楕円形の薄い
虹色に光る石のついたネックレスを
プレゼントしてくれた。
「母さん、これは?不思議な色をした
ネックレスだけど……」
とても、高価そうに見えるネックレスに
驚きながらアレクはカーラの顔を見る。
「それは、母さんが昔おばちゃんにお守りと
して貰った石をネックレスにしたものよ。
きっと、アレクを守ってくれるわ」
「そんな大切なものを……ありがとう
母さん……」
大切なものを隠すようにアレクはネックレスを服の中に入れた。
泣きそうになるのを我慢しながら笑顔を作り
カーラはアレクから離れていく。
アレクは少し離れた所で待ってくれている
ルシアの元に走っていく。
そこで一旦振り返るとアレクは両親に向けて
別れを告げる。
「いつになるか分からないけどーまた村に
帰ってくるよ!それまで元気でね?父さん!
母さん!行ってきます!」
そしてアレクは、ルシアと共に歩き出した。
次第に小さくなっていく2人の姿を両親は
じっと見つめ旅の無事を祈るのであった。