漆黒の魔弓
王都ドォールムの冒険者ギルドに1人の
青年が慣れた様子で入ってくる。
青年は、銀髪に黄色目で誰もが目に留める
顔立ちをしていた。
短髪でツンツンした髪型は野性味を
連想させるが青年から感じる雰囲気は対照的
に柔らかいものである。
身長は180cmほどで体の線は細く見えるが
しっかりとした筋力があるのが黒と赤の
全身レザーアーマーの上からでも見てとれる。
彼は真っ直ぐに数人が談笑している
テーブルに近付いていく。
そこに待っていたのは赤髪の美形と
青髪の美人と青髪の美少女だった。
青年が、テーブルにいる者達に申し訳
なさそうに声を掛ける。
「みんな、待たせてすまない!必要品の
買い出しに時間がかかって遅れた!」
「別にいいって、俺達もさっき集まったばっかりでアレクのこと言えないし!とりあえず
座って話そうぜ?」
「そうか?ありがとうな!カインも買い忘れ
とかないか?今ならまだ間に合うぞ?」
アレクとカインが、話を進めていると
青髪の美人から怒りの声が上がる。
「ちょっと!カイン勝手に話を進めないでよ!私達は2人が来る前から待ってたんだからね!
ねえ?ミカ?」
「お、お姉ちゃん……別に僕はアレクさんが
遅れてきたこと怒ってないよ?そういう
強い言い方は……よ、良くないよ?」
いつも通りに騒がしく話すアレクと
パーティーメンバーの姿がそこにはあった。
アレク・アマリア・カインがパーティーを
結成してから、あっという間に2年もの月日
が流れていた。
パーティー全体の話だと2年の間に
全員が冒険者ランクをDランクまで上げ
ポイントを貯めてCランク目前まできて
いるところである。
パーティー個人では、カインは15歳になり
元々美少年だったが最近はさらに美形になり
よく女の人に間違われるらしい。
トレードマークであった真っ赤な長い髪を
邪魔にならないように後ろで纏め
軽装鎧で胸当て・手甲・足甲を部分的に
装備して槍で戦うスタイルを得意にしている。
アマリアは、綺麗な青髪を肩まで伸ばし
修道服を戦闘用に改良したものを着用
している。
カイン同様に胸当て・手甲を部分的に
装備していたが大きく違う点もある。
足には黒いブーツを履いており
下半身は動きやすいようにスカートに
深くスリットが入り白く美しい足が
チラチラと見え隠れしていた。
ちなみに最近は、胸が成長したらしく
胸当てがきつくなってきたとボヤいている。
得意な武器はメイスで子盾を使いながらの
回復魔法を使う戦闘スタイルを取っている。
そして、1年前にパーティーメンバーに
参加したのが、アマリアの弟である
ミカエラであった。
前が開けた紺のローブに緑色の上衣
タイツにブーツという格好してしている。
アレクとアマリアが冒険者としてパーティー
を組んだことを2人が孤児院に行った際に
伝えると驚いたことに自分も冒険者に
なると言い出したのだ。
最初は、2人とも真剣には取り合って
いなかったが……更に驚いたことに
ミカエラには魔法士としての適正がある
ことを孤児院の院長マーテルが教えてくれた。
マーテルが生活魔法を使っているところを
見て使い方を覚え知らないうちに魔法を
使えるようになっていたということだった。
アレクの師匠であるルシアに相談したところ
ミカエラには稀に見る魔法の才能があると
助言をもらったことで本人の希望もあり
結局、ミカエラをパーティーメンバーに
迎えることになったのだ。
それからは、アマリアと共に冒険者ギルドの地下の訓練所で訓練を積み冒険者見習いと
してパーティーに参加している。
現在は14歳なので後1年で正式なメンバーと
なることが確定していた。
お金の面では、アレクが援助を行い
アレクの知り合いであるリタや師匠のルシア
からは使わなくなった装備品などを
譲り受けて使用している。
そのため元々、少女に間違われがちだったが女性用の装備をしているので更に女性感が
増して美少女にしか見えなくなっていた。
ちなみに、これはリタとルシアの策略で
あることはアレクしか知らない事実である。
得意な武器は杖での魔法攻撃で一応は
片手剣と子盾を使う戦闘スタイルである。
アレク自身も15歳になり体も心も成長
した立派な青年になっていた。
ステータス
〔名前〕アレクサンダー
〔年齢〕15
〔職業〕持たざる者
〔レベル〕27
〔体力〕(HP)850
〔魔力〕(MP)290
〔攻撃力〕480(+15)
〔防御力〕240
〔敏捷性〕390
【エクストラスキル】
瞬斬術 無の歩み 雷鳴弓(new)
【パッシブスキル】
気配探知 魔力探知 音波探知
【スキル】
歩行術 投擲 槍術(new)弓術 剣術 盾術 体術 隠密
魔力操作 炎魔法 水魔法 風魔法 雷魔法 土魔法 解体 身体強化 夜目(new)遠視(new)付与 錬金 威圧(new)速読術 思考加速
鑑定(new)
【称号】
なし
2年間も休まずに地道に修業を繰り返して
いたアレクは、いつ間にか【パッシブスキル】なるものを習得していた。
これは意識せずとも自然にスキルを発動
し続けることができるもので勿論
自分の意識で効果を停止することもできる。
新しく【エクストラスキル】に雷鳴弓が
追加されていたが……これは【鑑定】によると
弓術+付与+雷魔法+風魔法で発現したスキル
であることが分かっている。
アレクの2年間で得たものはスキルだけではない。
アイテムボックスの新機能も開放に成功して
おり《武具生成》を得ていた。
機能の詳細は、一度アイテムボックスに
収納したことのある武具なら素材が
揃っていれば生成可能というものだった。
これによりアレクは、単純な武器などで
あれば量産することも可能になり
特に矢は木材・鉄・羽などの簡単な
素材で生成できるために本当に助かっている。
錬金による金策も上手くいき、この2年間で貯金の金額が金貨3000枚以上になっていた。
2年間の準備期間を経てアレク達は、
Cランクの昇級試験を受けるべく集合し
今回の試験官をテーブルで待っているところ
だった。
待機していた一行の元に見知った顔が現れる。
「よう!アレク試験の準備は万端か?
っというかパーティー名の登録は、もう
終わったのか?何日か前にセシリアが
まだ登録がないとボヤいていたぞ?」
「バルド教官、準備は終わってますよ!
パーティー名の登録……そういえば
冒険者見習いを卒業すると必要なんで
したっけ?忘れてました……セシリアさんに
謝とかないといけませんね」
「うん?ああ!アレク!パーティー名なら
俺達で考えて登録しといたぞ!
その名を《漆黒の魔弓》だっ!!
いい名前だろ?」
「おい!何勝手に登録してるんだよ!?
しかも《漆黒の魔弓》って俺のことじゃない
か!そんな個人を指す名前でいいのか
みんなは?」
「私は、いいと思うよ?《漆黒の魔弓》!
それにリーダーの特徴がパーティー名に
なることも多いらしいしカッコイイじゃん」
「ぼ、僕もいいと思います!アレクさんの
カッコ良さが現れてるいいパーティー名だと
……感じましたぁ!」
「どうだ?カッコイイだろ?一晩寝ないで
俺が考えたんだぞ!アレクの特徴と
パーティーを表す名前になったと思うぞ?」
アレクは最後まで渋っていたが……
アレク以外のパーティーメンバーの賛成で
正式なパーティーが《漆黒の魔弓》として
決定することになった。
それを見守っていたバルド教官が
思い出したように試験の話を続ける。
「おお!忘れるところだった!今回の試験は
護衛依頼をこなしてもらう。
もう説明せんでも知ってるだろうが……
Cランクからの依頼は国外に出向くことが
多くなるために護衛の経験が必要になって
くる。
だからこそ、護衛の力を見るために今回は
冒険者ギルド所属の者を護衛してもらい
試験官として俺が同行することになった」
「試験内容と試験理由については了解
しましたが……バルド教官が試験官とは……
ギルドは人が足りてないんですか?」
試験前でもリラックスした様子でアレクは
率直な感想を冗談交じりにバルドにぶつける。
「まあ、確かに人は足りてるというわけでは
……じゃなくて!教え子の巣立ちだからな
教えてから随分経つが、どれくらい成長した
のか確認してやろうと思ってな」
「分かりました。バルド教官に満足して
もらえるように依頼をこなしてみせますよ!
それで護衛する方は、どなたなんですか?」
「ああ、護衛対象はギルドの新人職員だ。
あちらで待機させている女性だよ」
そういうと、受付の近くに待機していた
1人の女性にバルドが手を振り呼び寄せる。
バルドに呼び寄せられた女性はアレク達と
同じ歳くらいに見え緊張している様子だった。
「は、はじみぇまして!ミザと申しましゅ!
あ、噛んじゃったっ…………」
緊張でガチガチの女性はミザと名乗り
先日、職員見習いを卒業したばかりの女性
だった。
緑髪に三つ編みと大人しそうな雰囲気だか
顔は整っており文学が似合いそうな人と
いうのがアレクの印象である。
「初めましてミザさん、《漆黒の魔弓》の
リーダーのアレクサンダーです。
長ければアレクと呼んで下さい。
それから赤髪の美形が槍使いのカインで
ちなみに男性です。
次に青髪の修道女が聖職者のアマリアで、
最後に青髪の魔法士のミカエラです。
ミカエラは、アマリアの弟なので
見た目に騙されないようにして下さい」
リーダーとしてアレクが、パーティーメンバーを紹介していく。
ミカエラだけが何かを言いたそうに膨れて
いたが……今は無視しておくことにする。
その後もミザと打ち合わせを行い
本日から10日間の護衛依頼がスタートした。
馬を冒険者ギルドで借りアレクは躊躇する
ことなくアイテムボックスから幌馬車を
取り出す。
馬車の種類は以前、ルシア達と馬車旅を
した時と同じキャラバンタイプだった。
「ええっ!!どこから現れたんですか
この馬車!?ま、魔法ですか!?」
「ほう〜、見るのは初めてだが……これが
アレクのスキルの収納か!便利だな!」
両極端な反応を見せるミザとバルドは、
驚きながらもアレクのアイテムボックスの
性能を目の当たりにしていた。
廃品回収の仕事をしているうちに
アイテムボックスの存在を隠さなくなった
アレクは自身のスキルとして説明して
ガンガン、アイテムボックスを使っていた。
キャラバンは、個人で購入して用意して
いたので今回の費用は馬のレンタル代
だけである。
馬車の準備を早々に終わらせてアレク達
《漆黒の魔弓》は、御者席にアレクと
バルドを乗せて荷物も何もない屋台には
広々とカイン・アマリア・ミカエラ・ミザ
を乗せてCランク昇格の旅が始まった。
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王都ドォールム冒険者ギルド受付にてーー
「あぁ、アレク君達もう出発した頃かなぁ
Cランク昇格の試験の旅、一緒に行きたかったなぁ…………行きたかったなあぁぁぁ」
ギルド内にいた冒険者達が受付からの
怨嗟の声に驚き、声の発生源を
確認すると皆が視線を逸らす。
冒険者が視線を逸らした先には
冒険者ギルド受付のセシリアがいた。
受付内で前のめりに突っ伏して
声にならない呻き声を上げている。
ギルドの休憩所になっているテーブル席が
置かれている一角では冒険者達が
セシリアの奇声を遠巻きに聞いていた。
「ありゃ、セシリアのやつは相当
辛そうだな……今は、ほっといてらないとな」
「ああ、あれは重症だな……最近アレクの
やつとも話せてないようだったし
今日からアレクのパーティーがCランクの
昇格試験の旅に出たらしいから、それが
原因じゃないのか?」
古参の冒険者が静観を決め込んでいると
若めの冒険者が事情を知っているかと
思ったのか話し掛けてくる。
「なぁ、そこのあんた達よ受付の彼女は
どうしてあんなことになってるんだい?
彼女のあんな姿、初めて見たぞ?」
「お?若いお兄さんは、新入りかい?
なら知らなくても仕方ないな。
受付のセシリアが、弟成分が補充できずに
禁断症状を起こしてるんだよ……あれは。
ああなると可哀想な人だから暫く
ほっといてやんな」
「その説明だと、そっちの兄さんには
事情が分からんだろうが……ちゃんと説明
してやらんか!
おい、兄さんは弓使いのアレクを知ってるか?」
「アレク?最近《漆黒の魔弓》って
パーティー名になったあのアレクか?確か
若くして弓の名手だとか鋼の精神を持つ男
とか修行の変態とか言われてる彼か?」
「おお!そのアレクだ、パーティー名も
無事に決まったんだな。
そのアレクのことを受付のセシリアは、
実の弟のように可愛がっていてな……
会う度に色々と世話を焼いているんだが
最近は会えないことが多くなってな」
「そうなると、ああやって禁断症状を
起こして手がつけられないんだよ。
あれでも普段は、仕事のできる受付だから
心労が溜まってると思って見過ごして
やってくれ」
「そ、そうなのか……受付のセシリアさんも
大変なんだな。
そういえば、アレクの師匠と呼ばれてる人が
所属しているパーティーは最近見かけないが
どうしたんだ?」
「Aランク冒険者の栄光の剣なら長期の依頼で
ドォールムの北部に位置するアルブム首長国にで出るぞ」
「そうか、街でもトップの冒険者パーティー
だから冒険の話でも聞いてみたいと思って
いたんだが……長期依頼となると残念だな。
それにしても師匠はAランク冒険者で
アレクのパーティーも全員が若くして
Cランクに昇格となると俺もうかうかして
いられないな!もっと鍛錬せねば!」
「ああ、兄さんも頑張んな!応援してるぜ!
おっ!セシリアも復活したようだし……
用があるなら今から行っていな」
「ありがとうよ!あんた達も、ありがとうよ!活躍を祈ってるぜ!」
受付に向かっていく、若い冒険者を眺め
ながら古参の冒険者達は後輩達にはまだまだ
負けらないと奮いたち依頼を確認しに
掲示板に向かうのだった。




