表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/154

アマリア弟と医療改革

孤児院でアマリアの悲しみの咆哮を

聞いた後に宿舎のドアが静かに開く音がした。


そこには、ドアを少しだけ開け隙間から

こちらを覗く可愛らしい女の子の姿があった。


青い髪をショートボブにし青い瞳を

ウルウルと潤ませて怯えた様子でアマリアを

見ている。


その視線に気付いてアマリアが女の子に

声を掛ける。

「あっ!ミカ!お姉ちゃん帰ってきたよー

ほらっ、こっちにおいでー」


ぱたぱたとアマリアの後ろに歩いていく。

女の子はアマリアの影からアレクを観察していた。


(うん?アマリアは姉弟だったよな?

じゃあ、この女の子は孤児院の別の子供か)


「えっと、お帰りさない……お姉ちゃん……

そっちの人は……?」

様子を窺う少女は、小動物のようで動きで

保護欲が刺激されるタイプの子であった。


「こちらは、お姉ちゃんの友達の

アレクサンダーさん。アレクって呼んで

あげると喜ぶよ」

少女の頭を撫でながらアマリアが説明して

くれる。


「初めまして、今アマリアから紹介して

もらったアレクです。よろしくね!」

できるだけ刺激しないように少し距離をとり

目線の高さを合わせて挨拶する。


「えっと、アレクさん。

よろしくお願いします。アマリアお姉ちゃん

の弟のミカエラです……」

弱々しい口調で自己紹介をしてくれる。


(え?今、弟って言った?この子が

男の子って言ったのか!?)

「え?あぁ、アマリアの弟君だったのか!

アマリアは、みんなからお姉ちゃんって

言われてたから気付くのが遅れたよ」

アレクは動揺して意味の分からない言い訳を

してしまう。


(こ、これがリアル 男のおとこのこまさか実在していたとは……!?)


「でも、髪の色も瞳の色も一緒だから

分かりやすいでしょ?」

ミカエラに頬ずりしながらアマリアが

といかけてくる。


(アマリア、本当に弟が関わるとキャラ崩壊

するんだよな。実はヤバい子のなのか?)

「ああ、姉弟で間違いないね。ミカエラ君は

11歳なんだったけ?」


「……はい。……11歳です」


「じゃあ、一応、僕の方がお兄さんだね。

お姉さんのことで困ったことがあったら

遠慮なく言ってね!ミカエラ君はアマリアの

ことで苦労してそうだから」

冗談を混ぜながら笑顔でミカエラに語りかける。


「ちょ!私がミカに迷惑かける訳ないじゃない!ねぇ、ミカ?」

暴走モードのアマリアがミカエラに詰め寄る。


「姉が弟を構い過ぎると迷惑じゃなくても

大変な時があるってことだよ……アマリアは

弟さんを愛し過ぎてるから……」

自覚のないアマリアに呆れながら

ミカエラの方を見るとキラキラした目で

こちらを見ていた。


「あ、アレクさん……これから、改めて

よろしくお願いします!」

何がミカエラの琴線きんせんに触れたのか

アマリアの影からぱたぱたと出てくると

アレクの手を両手で包み握手してきた。


「嘘でしょ!?ミカが初対面の人に積極的に

握手を求めるなんて!私だってミカから

手を握ってもらったことないのにー!!」


(こいつ、本当に何言ってるの?立ち位置が

姉じゃなくて恋人っぽいのが怖いんですど……)


アマリアにドン引きしたこと以外は

楽しく過ごし院長と話した後は

孤児院の子供達との約束通りに遊び

夕方前には孤児院を後にした。


孤児院からの帰り道、落ち着きを取り戻した

アマリアと並んで歩いていたアレクは

静かに話し出す。


「今日は、ありがとう。

資料だけじゃなく実際の状況を見せる為に

孤児院に誘ってくれて」

確信に似たものを感じていたアレクは

アマリアに感謝を伝える。


「うん、少しでもアレクの為になったなら

誘って良かった。でも、気付いてたんだね?

そう思うと、なんか恥ずかしいや……」

照れた顔を夕日にさらして、笑うアマリア。


「院長さんにも、実情を教えてくれるように

お願いしてたんだろ?じゃないと

いきなり来た僕に孤児院の実情を教えたり

しないもんな」


「まぁね……けど、私は簡単なことしか

考えてなかったよ?教会の悪い所もいい所も

アレクに知って欲しかっただけ……」

歩きながら真っ直ぐと前を見てアマリアは

呟く。


「そのおかげで、教会でやりたいことが

出来たんだ。けど、僕1人じゃ無理そうだから

協力してくれる?……アマリア」

アレクは立ち止まると真剣な表情で

アマリアを見つめる。


自然とアマリアも立ち止まり振り返る。

「いいよ、協力する。多くの人を助けられる

かもしれないんでしょ?それに協力しないと

ミカに怒られちゃうしね?」

イタズラっぽく微笑み、協力を

快諾してくれるアマリア。


「ありがとう、アマリア」

アレクも優しい笑顔で感謝を伝える。


「けどミカエラ君なら、アマリアじゃなく

僕を選ぶ可能性があるから協力するのは

当然だね」


「それはないね!ミカはちゃんとお姉ちゃん

想いの良い子だもんね!!」


「ミカエラ君から、手を握ってもらった

こともないのに?……ふっ」

勝利者の余裕を見せつけるアレク。


「きぃーー!!許せない!」


夕方の帰り道で、ふざけながら並ぶ

2つの小さな影。誰もが予想していない

未来が、ここから始まろうてしていた。



===============================



次の日からアレクとアマリアは図書室で

流行病の対策会議を始めていた。


アレクが考えていたことは流行病の

感染と拡大を未然に防ぐ策を教会主導で

行うことだった。


流行病の対抗薬を作ることも考えたが……

時間が掛かることや必ず作れる確証が

なかった為に現実的な策を考えた。


それに教会を巻き込もうと思ったのは

王都の流行病に対しての抵抗力を上げるには

どうしても集団の力が必要になるからだ。

そしてカギになるのが《浄化薬》の存在

だとアレクは考えていた。


ルシアから錬金レシピの中の1つとして

教えてもらった《浄化薬》は本来は

旅やダンジョンで体を清潔にする効果を持つ。


原理は分からないが体や衣服ついた汚れから

周囲にまくことで清潔にでき環境にまで影響

を与える便利アイテムであった。


これが微生物や細菌にも有効であることが

証明できれば予防手段として抜群の効果を

発揮することになる。


簡単に言えば流行病の水際対策が行える

ようになるということだ。


直接、教会に提案しても無駄だと考え

外堀から埋めることにした

アレクとアマリアはグラウェ武具店を訪れ、

グラウェさんからガラス職人を紹介して

もらうことにした。


こちらの世界では、戦闘職業ジョブの以外だと

専用職業ジョブを持つ人が多くいる。

アレクの母であるカーラも細工職人という

職業ジョブだったので王都にも必ず職人がいると

思いグラウェさんにお願いしたのだ。


アレクが、やろうとしていたことは

簡易顕微鏡を作ろうということだった。

本来なら色々な道具が必要だが前世の記憶に

ペットボトルを使った顕微鏡の作り方が

あった。これを元に簡易顕微鏡を作ることに

したのだ。


グラウェさんから紹介してもらった職人さんと共にガラス玉やスライドガラスを作り

ペットボトル型の顕微鏡を作った。

部品自体は職人さんの【細工】のスキルで

早く出来たが……全体の調整に1カ月を要し

なんとか使えるものが完成した。


次に始めたことは《浄化薬》が流行病の

原因となる病原微生物や細菌を除去する

ことができるかの実験だった。


ルシアと拠点の錬金実験室に篭り伝染病の

完全対策をした魔法をルシアに掛けてもらいながら実証実験を行った。


結果から、言えば実験は成功だった。

《浄化薬》は微生物や細菌も除去できる

ことが証明されたのだ。


実証を終えたアレクとアマリアは

実際に実験を教会の人間にも見てもらい

協力を取り付けようとしていた。


それから数日後、教会の人間を集め

教会の一室で公開の実験を行った。


集まった人の中から唾液を提供してもらい

顕微鏡で細菌を観察してもらってから

病気の原因の1つであることを説明する。


最初は、怪しいものを見る目だった者達も

実際に観察し病気の原因を目の当たりに

すると納得せざる得なかった。


そこでアレクは説得を試みた。

「今見てもらったように僕達は病気に

ついて何も知りません。医療の最先端といえる

教会でさえ知らないことが沢山あるんです。

僕に対して思うことがある人は多いでしょう。


けれど、そんな考えに囚われないでほしい。僕達が、これから協力することで多くの命を

救える可能性があるのだから……


もし、言いたいことや文句があるのなら

全てできることをやり終わってから

にしましょう。この間にも苦しんでいる

人々がいて助けられる可能性があるのだから」


痛い程の長い沈黙が部屋に流れる。

そして、沈黙を破ったのは1人の男性だった。


「まずはやれることをやる。やらないうちから諦めるような者は教会にはいないはずだ。

そうでしょう?」


実験を見学にきていたセロネスさんが

部屋中に聞こえるように発言する。


大半の者は、納得していない表情をして

いたが……おおやけに文句を言う者は

誰もいなかった。


それから、改めて以前に纏めた修正資料を

発表し教会の改善点を伝え教会と協力して

医療改革に取り組んだ。


医療現場での徹底した

衛生観念の教育と滅菌の実施。

《浄化薬》の安定した供給ルート。

将来、流行病が出始めた時の初動対策。


流行病以外の部分においても

薬の効果と副作用についての患者への説明や

事前の確認事項。患者別の病気情報の管理。


アレクが教えられる範囲で、実施できそうな

ことを提案していった。あっという間に

半年が経ち、その頃にはアレクは教会から

認められ関係者扱いを受けていた。


セロネスさんとも、良く話す機会があり

その時は決まって図書室で話していた。


「僕に出来ることは、教会にはもうないと

思います。勉強をさせて頂いた恩を少しでも

お返しできていれば嬉しいのですが……」


「何を言うのですか、アレク君は十分過ぎる

ほどに教会に尽くしてくれた。若い君に

刺激を受けて教会の医療人も、やる気に

満ちていますよ?」

満足そうに頷いて笑いかけるセロネス。


「僕はお手伝いをしたに過ぎません。

教会の方々が、これからの王都の人々を

守っていくのです。ですので今回の発案は

教会からだということにして下さい」


「そんな、これだけ功績を残しながら

それを譲ると……本気なのですか?」

驚きを隠しきれない表情でセロネスさんが

聞き返してくる。


「ええ、本気です。これから教会のイメージ

を良くしていく時に、発案は冒険者など

格好がつきませんから……それに教会内で

認められたとは言え、僕に対しての

良くない感情を持つ者は必ずいます。

その者達を無駄に刺激しない為にも

ここで身を引くのが1番いいと判断しました。


「そこまで考えていたのですか?アレク君と

話していると君が子供だということを

忘れそうになりますよ本当に……」

苦笑いをしながらアレクの肩をたたく

セロネスは、どこか嬉しいそうな顔に見えた。


「あっ、そうだ。冒険者ギルドの

ギルドマスターから伝言を預かっています。

「浄化薬が多く必要になるなら冒険者ギルドに

依頼をしてくれ」っだそうです」


教会で衛生観念を教えた際に滅菌ができる

浄化薬が常時必要になると事前にギルドへ

相談をしていた。素材となる採取依頼が

増えることになると思うので備えてほしい。

という内容でだ。


もちろん、薬屋のドロシーさんにも

これから《浄化薬》が多く取り扱われるから

錬金術師さん達に多く作ってもらえるように

お願いしてある。


ちなみに、将来は孤児院で《浄化薬》の

素材を栽培してもらう予定で計画を進めている。


採取依頼の答えを、教会側に求めたのが今回の

ギルドマスターの伝言だった。


「教会としても、是非お願いしたいのですが……

アレク君は、冒険者として教会からの

依頼を受けたいと思いますか?」

セロネスさんが教会と冒険者ギルドの確執

について問う。


「あくまで、私見ですが……」

アレクは、自分が感じたままに話し出す。


「若い冒険者見習いにしてみれば、教会から

の依頼は嬉しいと思います。王都近郊で

採取できる素材で安全で稼ぎのいい依頼。

これはとても重要なことですから。僕を含め

ギルド受付や職員の方に確認したので

間違いありません」


「では、ベテランの冒険者は教会について

見方を変えると思いますか?」


「ベテラン冒険者は、期待できないでしょうね……採取依頼はベテランは受けないし

そもそも、彼らには教会を見直す利点が

ないですから」


「そうですね、ベテラン冒険者には教会から

何かいい条件の依頼を出している訳では

ないですからね……」

何かいい考えはないかと悩むセロネスさん。


「うーん、セロネスさん将来的にですが

冒険者ギルドに回復魔法が使える教会の方を

派遣されてはいかがですか?」


これは、冒険者と教会が手を取り合う為に

どうすればいいか考えた時に思いついた

ことだった。


「派遣ですか?それは詳しく言うと?」


「冒険者ギルドに派遣させてもらい、教会側としてはケガ治療の訓練をさせます。その際に現在、教会で定められている治療費より

少し値引きして冒険者側の負担を減らします」


「なるほど、こちらは治療の訓練をつめ

冒険者側は安く治療を受けることができる。

さらに薬の素材などの受け渡しも円滑に

行えるようになる。ということですね?」


「教会のイメージも、冒険者ランクに関係

なく良くなります。お互いに距離を縮める

には職場に行って体験することも大切かと」


「素晴らしい提案かと思います。お互いを

知るためには、まず相手の場に思い切って

飛び込む勇気も必要ですからね」


「最初は、勘違いや誤解から問題も起きる

かと思います。そこを調整しながら少しずつ

でも分かり合えるようになりたいですね。


昔の関係悪化の原因についても

冒険者の戦場は魔物との戦闘ですが……

教会の戦場は医療によって人々の命を救う

ことだと、共に戦っていると感じてもらえれば関係は変化していくはずです」


今はまだ、難しいかもしれない……

けれど将来は分からない。いつか冒険者ギルドと教会が協力し合える未来が来るかもしれない。その為のきっかけになれれば……

そうアレクは考えていた。


「アレク君、素晴らしい提案をありがとう。

この提案も教会の方で相談して冒険者ギルド

と協力できるように動いてみよう」

セロネスさんは、深く頭を下げる。


「っ!やめて下さい!セロネスさんのような

方が頭を下げては教会の沽券こけんにかかわります!」

アレクの言葉に、『ピクッ』とセロネスさんが反応する。


『やはり、気付いていらっしゃったんですね……いつお分かりになりました?」


「知ったのは、つい最近です。アマリアが

口を滑らしてセロネスさんを司祭と呼んだ

のを聞きました。元々、教会の上位にいる

方ではないかと思ってはいましたが……」

とても気まずそうにアレクが笑う。


「今まで通り、私のことはセロネスさんと

呼んでくれませんか?教会の者もアレク君が

私の正体を知らずにいると思っていますので

問題ありませんし」


初めて見るセロネスさんの寂しそうな顔に

アレクは答えを決める。

「……分かりました。僕の恩人である

セロネスさんが、そう仰るならそうします。

けれど最後にお礼だけは言わせて下さい。

セロネス司祭、色々とお力添えを頂き

ありがとうございました!」

深い感謝と共にアレクは頭を下げる。


そして、アレクは教会を去って行った。


教会の礼拝堂で、セロネスが1人

アレクと出会った時のことを思い出していると後ろから静かに近付いてくる気配を感じ

振り返る。すると、そこにはアマリアが

立っていた。


「どうしましたアマリア?」

全てを包み込むような優しい声で

セロネス司祭がアマリアに問いかける。


「司祭様……、私は…………」

アマリアが悩み苦しみながら自分の心の内を

口にしようとするが、あと一言が出ない。

永遠にも感じる時間を動かしたのは

セロネス司祭だった。


「彼と共に行きたいのですね?」


アマリアの核心を突く一言をセロネス司祭が

導くように口にする。


「……はい、私は彼と共に歩みたいのです。

初めて、祈りを捧げる彼の姿を見て時から

心は決まっておりました。教会の道から

外れることなのは理解しています……ですが!」


すっ、手の平を前に突きだし

アマリアの言葉を遮る。

「行きなさいアマリア……彼と共に」


「っ!!……よろしいんですか?」


「彼が初めて礼拝堂にきた時の祈りを

あなたも見たのでしょう?なら理由は

それだけで十分です。そのかわり冒険者に

なれるように訓練してから彼を追いなさい。

それが条件です」


こうして、1人の修道女が教会から旅立ち

冒険者になることになる。


彼女がアレクと再会し大きく広い世界を見る

物語は、まだ始まったばかりである。




















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ