教会の確執と孤児院
時間の流れは、歳を重ねるにつれて
早くなる。それは精神の成長によるものか
それとも、忙しさによるものなのか。
アレクは王都に、きてから1年が過ぎ
気が付けば13歳になっていた。
師匠から、「ぼーや、そろそろ王都にきて
1年になるが13歳になったのか?」と聞かれ
完全に自分の誕生日を忘れていたことを
思い出した。
ここ半年は、修行と勉強の日々だったが
大きく変わったこともある。
それは教会内部での立場が部外者から
関係者に変わっていた。
教会の医療について勉強していた頃。
水魔法の中に含まれる回復魔法を
アレクは覚えようとしていた。
そこで、気になったことは医療の知識が
間違えている内容で学ばれていることだった。
アレクは、前世で医薬品の資格を取得して
いた為に多少は普通の人よりも
医学について心得があった。
体の仕組み、内蔵の配置、薬の効果と副作用
教会の資料を確認しながら間違えている箇所をリストアップしていく。
リストアップした箇所の修正したものを
アマリアから教会の人に渡してもらい
反応を見たが、どうやら教会の医療に
ついて素人に口出しされたのが彼らの
プライドを傷つけたらしく後日
激しく抗議された。
正直、この時アレクは教会に対して
かなり悪い印象を持っていた。
(自分達のプライドの方が、患者さんの
命や健康よりも大切なのか!何が医療を
司る教会だよ!)と内心、教会に興味を
失いつつあった。
そんなことを考えながら図書室で、勉強を
しているとアレクの様子がいつもと違うこと
に気付いたアマリアが話し掛けてくる。
「アレク、何があったの?少しイライラ
してる?」
少し親密になったからか踏み込んだ質問も
普通にしてくるようになっていた。
「あ、うん。この間、アマリアにお願いして
教会の人に修正した資料を渡してもらった
でしょ?あの件で……実は……」
あったことを、そのままアマリアに伝える。
その間、彼女は難しそうな顔をしていた。
話が終わるとアマリアは、重々しく口を開き
自分が知る。冒険者ギルドと教会の確執に
ついて話してくれた。
冒険者ギルドと教会の関係が悪化した
きっかけ、大きく溝を作ることになった
原因、その経緯を丁寧に教えてくれた。
「つまりアレクが素人だから、意見を
聞かないんじゃなくて冒険者だから
毛嫌いしてるんじゃないかと思うの……」
教会の人間として言いづらいことを
無理して教えてくれた。
「そうか、そんなに根深い事情があったんだね……アマリア、ありがとう。話しにくい
内容のことを教えてくれて」
「ううん、いいの。今回のことはアレクが
正しいよ!どんな事情があっても正しい
知識や技術を受け入れない理由にはならないもの。それが人々の命に関わることならなおさらね?」
それから、2人で教会の詳しい事情や
医療を専門にしている人達の話をした。
その中で教会は孤児院を支援している話が
アマリアの口から語られる。
「実は、私は孤児院出身なの。親の顔も
知らないし何か手掛かりになるものもない。
だから、教会には感謝してる。孤児院を
支援してくれてることで私達は普通の暮らし
を送ることができたのだから」
(アマリアは孤児院出身だったのか……
あっさり話してくれてるけど、きっと苦労
してきたんだろうな)
「そうなのか、じゃあ弟さんは孤児院に
いるのか?アマリアは教会に住み込みだろ?」
「うん、弟はまだ孤児院にいるの。だから
私も休みには孤児院に行って弟に会ってるの」
「アマリア自慢の弟か、会って見てみたいな」
思い付いたことを、そのまま口にする。
「別にいいよ、今度の休みにでも一緒に
孤児院に行ってみる?」
アマリアは、なんの抵抗もなく誘ってくれる。
「えっ?いいのか?僕が行っても迷惑じゃない?冒険者が……とか言われない?」
教会が支援してるから嫌われているかもと
想像してしまう。
「教会から支援してもらってるけど、
孤児院にそういう考えはないから大丈夫!
遠慮しないで一緒に行こうよ」
笑顔で、答えてくれるアマリアに
後押しされ行くことを決めるアレク。
「分かった。今度の休みに一緒に行くよ。
時間が決まったら教会に迎えに行けばいい?」
「うん、大丈夫!弟も紹介するよ」
こうして、2人で孤児院に向かうことに
なった。
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数日後、アレクとアマリアは
王都の外縁部にある孤児院へときていた。
孤児院は小さな教会に併設するように
宿舎が存在しており、お世辞にも恵まれて
いるとは言えない環境だった。
教会前の前の空き地で小さな子供達が
おいかけっこをして遊び、楽しそうな声を
上げている。
「あ〜〜アマリアお姉ちゃんだ!
お帰りなさい!」
「アマリアお姉ちゃん教会のお仕事
大変だった?何か手伝うことある?」
「アマリアお姉ちゃんも、一緒に遊ぼうぜ!」
何人のも、子供達がアマリアに駆け寄って
きては一斉に喋り出す。
「あー、ちょっと待って!今日は
お姉ちゃんの友達も一緒だから院長に
挨拶しに行ったら遊んであげるから!」
子供達を相手にテキパキと対応するアマリア。
「この人がアマリアお姉ちゃんの友達の人?
アマリアお姉ちゃんの恋人?」
純粋そうな女の子が、唐突な質問をする。
「こここ、こい、恋人じゃないよ!?
友達よ!ね?アレク?」
何故か動揺しまくるアマリア。
「うん?ああ、僕はアレクサンダー。
アレクって呼んでいれればいいよ。
アマリアお姉ちゃんの友達だよ」
「アレクお兄ちゃんね!お姉ちゃんの友達
なんだー教会の人なの?」
「ううん、お兄ちゃんは冒険者だよ。
教会でお勉強してて、そこでアマリアお姉ちゃんと友達になったんだよ」
子供達に目線を合わせながら、質問に
答えていく。
子供達の質問攻めにあっていると
アマリアが質問会を中止させ教会の方に
アレクの手を引いて、その場をあとにする。
教会の中に入ると、1人の年配の女性が
祭壇の清掃をしていた。
扉の開く音で、こちらに気付き顔を上げる。
「あら、アマリアお帰りなさい。今日は
お友達も一緒かしら?」
「はい、マーテル院長。こちらは友達で
冒険者をしているアレクサンダー君です」
院長に丁寧に紹介してくれるアマリアから
少しの緊張を感じながら自己紹介をする。
「初めまして、冒険者をしています
アレクサンダーです。呼びづらければ
アレクと呼んで下さい」
丁寧に一礼してマーテルさんの顔を見る。
「アマリアが、お世話になっています。
この孤児院で院長をしております。
マーテルと申します」
マーテルも丁寧に頭を下げる。
「いえ、こちらこそアマリアさんには
お世話になっています。教会についてや
僕が知らないことを色々と教えてもらってますから」
事実を、そのままマーテルさんに伝えておく。
「ま、まあ、挨拶はこの辺でいいでしょ!
宿舎の方で、ゆっくりお話しましょう」
親の前で褒められて恥ずかしいのか
乱暴に話を切り上げてアマリアが歩きだす。
そんな、アマリアをマーテルとアレクは
微笑ましく見ながら歩き出す。
宿舎に移動し、アマリアが入れてくれた
お茶を飲みながらマーテルさんと孤児院に
ついて話し出す。
マーテルさんによれば、教会の支援により
この孤児院は子供達が飢えずに済んでいると
いう。孤児院と言っても様々で環境が
酷いところでは子供達が農作業をしたり
下働きのようなことをして生活費を稼いで
存続している孤児院もあるという。
そして、多くの子供達は親が流行病によって
命を失い身寄りがなくなった子供だと
いうことを聞かせてもらった。
今は、収まっているが数年前には王都でも
流行病で亡くなった人が数多くいたことを
教会の資料を見て知っていたアレクは
外で遊ぶ子供達を見て改めて実感を得ていた。
(この世界は、病気に対して抵抗力が
低すぎる……もし、致死率の高い感染症が
広がったら簡単に滅んでしまうかもしれない)
「もし、流行病を防げていたら
あの子達は両親と一緒に笑えていたかも
しれないんですよね……」
「ええ、そうかもしれません。けれど
私達は防ぐ術もなく治療もできません。
流行病が収まるのを待つしかないのです」
悲痛な表情でマーテルさんは語ってくれた。
アレクは、迷っていた。今までは問題が
あっても個人レベルの話で済んでいた。
しかし今、自分がやろうとしていることは
あまりにも話が大きい。下手をすれば
国レベルの話だ。
そんな大きなこと自分1人で解決できるのか?1人で責任を背負い切れるのか?
漠然と胸の中でモヤモヤした気持ちが吹き出してくる。
深刻そうな顔をしたアレクを心配して
アマリアが話し掛けてくる。
「大丈夫アレク?顔色が悪いわ……」
「ええ、具合が悪いなら少し横になって
休んでもいいのですよ?」
マーテルさんも、こちらを覗き込み心配
そうな表情を浮かべている。
「いえ、大丈夫です。それより少し質問
させてもらってもいいですか?もし、多くの
人を助けられる機会が自分に巡ってきたら
2人ならどうしますか?」
アレクは自分の不安を誤魔化すように
2人に質問をする。
「私なら、助けるわ。だって、助けられる
なら私は助けるもの」
迷いなく即答するアマリア。
マーテルさんは一息つくと話し出す。
「私は、責任をもって助けます。
誰かを助けるということは責任を負うと
いうことです。大抵事は助けて、それで終わりではありません。助けられる人数が多く
なるほど、それはその人に重くのしかかる
でしょう。
けれど、その責任は本当に1人で
背負わなければいけないのですか?」
アレクは俯いて話を聞いていてが、
マーテルさんの言葉に『ハッ』とする。
「1人で責任を負わなければいけない時も
当然あるでしょう。ですが……人はそんな
責任に1人で耐えられるほど強くない。
なら信頼できる仲間に、共に歩く同志に
責任を一緒に背負ってもらえばいいのです」
マーテルさんの、その言葉には強い
想いが込もっていた。
それは彼女自身の経験から出た言葉だった
のかもしれない。
「マーテルさん、ありがとうございます……
なんだか、胸の痞えが下りた気がします」
「それは、良かった!アマリアのお友達の
力になれて私も嬉しいわ」
マーテルさんが素敵な笑顔で俺を包んでくれる。
(そうだ……俺は全てを1人で解決できる
英雄なんかじゃない。なんで自分1人で
解決しようなんて考えたんだ?バカか俺は!
1人でダメなら周りを頼ればいい。
最初は1人でも協力してくれる人を増やして
困難な状況を打開すればいいだけだ)
彼は、自身の変化に気付いていなかった。
前世の記憶から、この世界を心の何処かで
ゲームのように捉えていた自分がいた。
1人のプレイヤーとして自分だけで主義を
目的を達成しなければならないと無意識に
錯覚していた。しかし、この時からアレクは
色々な周りの人々を巻き込みながら困難に
立ち向かっていくようになる。
この変化が世界に大きく影響を与えていくことを
今はまだ誰も知らない。
「ねぇ!?私のこと忘れてない??
私も質問に答えたんですけどー?
ねーってば!!聞いてる2人とも!?」
忘れられていたアマリアの喧しい声が
宿舎中に哀しく響き渡っていた。




