お詫びと教会で勉強
追跡者の事件について報告があると
冒険者ギルドに呼ばれたルシアとアレクは
何故かギルドマスターの応接室へ来ていた。
応接室で、お茶を飲みながら待っていると
そこにバルド教官と見慣れない男性が一緒に
入ってくる。
男性は身長180㎝ほどでガッチリとした体が
優秀な冒険者であったことを物語っている。
気品さえ感じられる様はまるで獅子を
想像させる。
「初めまして、冒険者ギルド
ギルドマスターのガルドです」
「Dランク冒険者のルシアです」
「Fランク冒険者見習いアレクサンダーです」
「ルシアさん、アレクサンダー君
弟から2人のことは聞いています。
期待の新人冒険者だと、そんな方達に
今回は大変なご迷惑をお掛けして
申し訳ありませんでした」
そう言いながらガルドさんは頭を下げる。
「えっと、頭を上げて下さい。ガルドさん」
思わずアレクは声を掛ける。
「私は大した被害も受けていませんし
謝罪は弟子のアレクにだけで十分ですよ」
猫かぶりモードの師匠が答える。
「冒険者ギルドとして、謝罪と補償は
必ず対応させて頂きます。まずは今回の
事件の首謀者である元冒険者の男を
尋問した結果からお伝えします」
ガルドさんが、話し終えると後ろに控えて
いたバルド教官が前に出てくる。
「元冒険者だが今回の事件に至った動機に
ついて冒険者ギルドを追い出された逆恨みで
アレクを狙ったと白状した。
最初の狙いはルシアだったらしいが
実力差から断念。復讐を諦めて酒場で
飲んでいる時にアレクの噂を色々と耳に
したらしい。それをきっかけに再度復讐を
考え、荒事を専門にしている連中に
依頼したと話している」
「見事な逆恨みですね……」
(師匠より弱そうな俺を狙ったことは
まあ、納得だけど……なんか腹立つな)
「元冒険者の男の処分についてだが……
冒険者ギルドで責任も持って殺害し
今回の件に対する誠意を示したい」
(えっ?ギルドで殺すの?いいのかそれ……)
アレクが、どう答えればいいか困っていると
師匠が話を引き継いでくれる。
「まあ、ギルド内の揉め事はギルドが
責任を持って処理するのが暗黙の了解ですし
妥当なのではないですか」
「では、元冒険者の男の処分は決定ですね。
次に襲撃を行った者について彼らは
王都の衛兵に引き渡す予定です。そこで
犯罪奴隷となり堕ちていくことになるでしょう」
師匠は、アレクをチラッと見てアイコンタクトを取る。
「それに関しても異存はありません」
「最後に今回の件のお詫びについて。
今回の件は冒険者を雇っていたが費用は
こちらが負担しよう。それから各種手数料の
免除が今の所こちらが考えていることだ。
2人に希望があれば、可能な範囲で都合しよう」
「先程も、言いましたが……今回私は特に
被害もないので結構です。アレクの希望を
優先して下さい」
(急に希望とか言われても困るよ!どうせ
頼むなら自分じゃ難しいことをお願いすれば
いいかな?いいよね?)
勝手に自分の中で答えを出し回答する。
「えっと、貰えなくても結構なので
出来るだけ多く種類の鉱石やインゴットを
集めてもらえませんか?」
「集めるだけでいいのか?それに何の意味が
……いや、アレクがお願いするからには
何かあるのだろう。理由は聞かないでおく」
「はい、集めてもらい少し調べさせて
もらえれば結構です。傷つけたり魔法を
使ったりも一切しないので安心して下さい」
アレクの奇妙な、お願いをガルドさんと
バルド教官に許可してもらう。
多くの鉱石、インゴットが集まり次第
教えてもらうことになった。
話し合いが終わり、一息ついていると
何やら部屋の外が騒がしく感じ確かめよう
かと思っていると応接室のドアがノック
される。
「ギルドマスター、セシリアです。
火急の用件で、お伝えしたいことが
ございます」
「入ってくれ!」
ガルドが許可を出すとセシリアさんが
部屋の中に入ってくる。
一瞬、アレクの顔を確認しガルドさんと
話し始める。
「只今、教会より使いの者が訪れ伝言を
預けて行きました。内容は冒険者見習いの
アレクサンダーに教会での書資料の自由閲覧
の許可を与える。なお、これは司祭及び
王都教会の総意とする。とのことです」
セシリアの報告を聞いたアレク以外の
全員が唖然とした表情でアレクを見つめる。
状況の分からないアレクは不快そうに
周りを見返す。
「なんですか?僕の顔に何かついてますか?
というか教会から資料閲覧の許可おりたんですね。これで勉強も捗ります!」
「アレク……一体お前さんは教会で
何をしてきたんだ?どんな魔法を使った?」
バルド教官が珍獣を見るような目で
俺をみてくる。
「アレクサンダー君、教会とどうやって
強い繋がりを作ったんだい?」
ガルドさんまで、信じられない顔で
こちらを眺めてくる。
「アレク君、もしかして冒険者ギルドを
抜けて教会に所属するの?そんなことに
なったら、お姉さん……悲しい……」
(セシリアさん、あなた暴走機関車ですか?
何、1人で突っ走ってるんですか!)
「教会に行くのは勧めたが……まさか
王都の教会を味方につけるとはな!
それに無自覚なところがぼーやらしいよ」
ニヤニヤとこちらを見つめる師匠。
(師匠のあの顔は、絶対に楽しんでる顔だ)
何故か混乱に陥った応接室でアレクは
教会での出来事を皆に説明する。
セロネスさんの名前が出た時に少し
応接室が、ざわついた感じになったが……
それ以外は皆、黙って話を聞いていた。
アレクが話し終わると、ガルドさんが
口を開いた。
「アレクサンダー君への
対応は教会全体というよりも司祭様
個人の意向が強いのかもしれないな。
けれど、意図は理解できた……冒険者ギルド
としても異存はない。アレクサンダー君が
納得できるように勉強してくるといい」
「はい、最初からそのつもりです。
その司祭様?に感謝ですね!なかなか
良い人で好感が持てます。どんな方
なんでしょうね?」
その時、アレクは自分を見つめる
大人達の優しい視線に気付いていなかった。
こうしてアレクは本人の知らないうちに
長年、険悪であった冒険者ギルドと教会の
関係に一石を投じる役割を期待されるので
あった。
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数日後、アレクは教会へと勉強に訪れていた。
礼拝堂に入ると修道士の人がいたので
名前を名乗り、事情を説明すると情報共有
されていたのか教会の奥へと案内される。
やがて、到着した場所は小さいながらも
図書室と言っても差し支えない所だった。
案内してくれた修道士の人が「貴重な資料も
図書室の中にはあるので一応、人を置かせて頂きます。只今、呼んで参りますので……
ご用がある際は、その者に申しつけ下さい」
と言って図書室を離れていった。
(部外者を図書室に入れるんだから監視する
人がついても、おかしくないよな……それ
くらい気にならないし大丈夫だろ)
どんな人が来るのかドキドキしながら
待っていると図書室のドアを開ける音が
聞こえてくる。
そこに現れたのは、青い髪に青い瞳の
修道服をきた少女だった。
「失礼します。私はアマリアと申します。
本日よりアレクサンダー様のお手伝いを
させて頂きます」
丁寧に一礼をし、こちらを見つめてくる。
「初めまして、アマリアさん僕は
アレクサンダー。冒険者見習いをしています。
お世話になります」
こちらも一礼し、彼女を見つめる。
(歳は俺と同じくらいか、少し上かな?
身長も160cmくらいだし)
「あの……何かございましたか?」
見つめられて照れくさそうに俯いてしまう
アマリア。
「失礼しました、てっきり大人の方が
来ると思っていたので意外で驚いてしまいました。アマリアさんは僕と同じ歳くらい
ですよね?僕は12歳です」
「私は13歳です。教会では修道女見習いと
して神に仕えています。大人の者と交代
したほうがよろしいですか?」
不安そうに問うてくるアマリアに慌てて
返答する。
「いえ、歳の近い方のほうが緊張せずに
済みますので助かります。それに僕の名前は
長いのでアレクと呼んでもらっても大丈夫
ですよ?」
「分かりました!では、アレク様
何かありましたら私に申しつけ下さい」
安心したように話すアマリア。
(この子、感情が豊かだな……
教会のイメージとなんか違って安心する)
アマリアから図書室の使用方法や教会での
決まりなどを教えてもらい各施設の紹介も
してもらった。少しだが彼女自身のことも
教えてもらることができた。
アマリアは2つ下の弟がおり、とても
可愛がっているらしい。その話になった
彼女は饒舌に弟の可愛さについて語っていたが……ふっ、と我に返り恥ずかしそうに
していた。
それから、週3日ほどのペースで教会での
勉強を行った。教会に到着すると礼拝堂で
祈りを捧げてから修道士の人に挨拶し
図書室へ向かう。図書室で待っていると
アマリアが来てくれ、それから勉強を開始する。
教会の資料には、とても興味深いものが
多かった。もちろん、人の手によって
事実は捻じ曲げられているだろうが……
情報として正確なものが多いように感じた。
現在いるウィリデ王国は、人間種が主に
住んでいる国で王都ドゥールム以外には
大きな街はない。昔は中規模な街が存在
していたが周辺国家間での戦争と
それにタイミングを合わせるように
魔物の大発生が起こり滅んだと書かれていた。
王都で他の街について話が出ないと
不思議に思っていたが戦争と魔物により
周辺の街が滅ぼされたと知って納得した。
前の大きな戦争は100年程前で、多くの
種族が犠牲になったようだった。
人間種、ドワーフ、獣人、竜人、エルフなど
国を持つ種族も持たざる種族も関係なく
殺し合う血みどろの歴史がそこにはあった。
皮肉にも、長く続いた戦争を終わらせたのは
知性ある種族ではなく魔物だった。
各国が戦争に疲弊し国力が落ちたタイミング
での原因不明の魔物大発生が起き世界は
滅ぶと思われた。その時、英雄と呼ばれる
者たちが各地で立ち上がり世界を守ったと
いう記述も発見することができた。
これをきっかけに国家間の戦争は禁止され
以降、100年戦争は起こっていない。
アレクは、ここ数日で読み漁った資料を
頭の中で整理しながら1つの推論を
考えていた。
(気になる部分は、世界が滅ぶと思われた時に現れた英雄達の存在。事実が誇張されることは歴史書では良くあることだが……
同時期に英雄が都合良く現れることが
あるだろうか?英雄の正体は転生者では
ないのか?)
「100年前の戦争かぁ……各地の英雄譚を
調べるのも新たな発見があるかもな」
そんな独り言を呟くとアマリアが反応する。
「アレク様は、英雄譚に興味が
あるのですか?」
「うん、少し疑問に思ってね。100年前の
戦争の時に英雄達が一斉に現れたのは
何故だろう?ってね。もちろん、戦争を
きっかけに集まった可能性もあるけど……
それだけで結論づけるのは乱暴だと思うし」
少し考えて思い付いたことがあったのが
アマリアが気付いたことを教えてくれる。
「そういえば、吟遊詩人などの英雄譚には、
どこの生まれだとか出生について
触れていないものが多い気がします」
「出生について触れてない……考えられる
理由は。隠すべき理由があるか、架空の
人物であるか、それとも……」
(突然に、この世界に現れたか……)
アレクが考え込んでいるとアマリアが
珍しく自ら話し掛けてくる。
「アレク様は、変わったことが気になるの
ですね?冒険者の方ですから英雄個人に
ついて調べたりしているのかと思っていました!」
「変わってるのかな?自分自身では良く
分からないけど……疑問に思ってることが
沢山あるんだ。それを知るのが楽しいんだよ」
資料を見るのをやめ、アマリアに向き直る
アレク。
「例えば、何故アマリアさんが僕の手伝い
担当なのか?とかも気になってるよ?」
イタズラを仕掛けるように質問する。
「っ!!歳が……近いからじゃないですか?
アレク様が、自分で言ってたじゃないですか!緊張しないで済むと!!」
動揺を隠すようにアマリアは勢い良く喋り出す。
「別に問い詰めてる訳じゃないよ。
アマリアさんは悪い人じゃないし僕に対して
何かするようにも感じないし。言いたくない
こともあるだろうしね?」
「………………」
気まずそうに黙るアマリア。
「けど、詳しく問い詰めないかわりに
お願いがあるんだけど……どうかな?」
「お、お願いですか?何でしょう?」
かなり不安そうなアマリアが恐る恐る
聞き返してくる。
「アレク様じゃなくて、アレクって呼んで
くれない?外だと決まりとかもあるから
仕方ないけど……この部屋くらいはいいでしょ?様付けは正直慣れなくて背中が痒くなる」
苦笑いしながら、お願いするアレク。
真剣に何かを考えてながら俯くアマリア。
暫くすると答えを聞かせてくれる。
「分かりました。あっ、アレク!
これでいいですか?」
「あ、うん、それでいいです」
女の子に恥ずかしそうに名前を呼ばれる
ことが意外に恥ずかしいことに遅れて
気付き、アレクは逆に淡白に答えてしまう。
「ちょっと!頑張って名前を言ったのに
何でそんなに淡白な反応なんですか!?」
(おぉ!!見事な突っ込み!)
「あ!いいや!すごい嬉しい!うん、本当だよ?」
「アレクの反応が、嘘くさいのですが……
まあ、深くは追求してないでおきます。
感謝して下さい!」
「うん、ありがとう。……アマリア」
「っ!!ちょっと!本当に何なんですか!?」
こんな感じにアマリアを、からかいながら
少しずつ仲良くなっていった。
まだまだ知るべき知識を求めて
アレクの勉強は終わらない。




