銀髪のアレクサンダー誕生
「おぎゃー!おぎゃー!!」
王都より数日の距離にある小さな村で、1人の赤ん坊が産まれた。
「おー、元気な男の子だよ!時間が掛かったけど良く頑張ったね!」
40代くらいに見える産婆がベッドに横になっている女性に声を掛ける。
女性は産婆から処置を終え、綺麗になった
赤ん坊を大切そうに受け取る。
慈愛に満ちた女性の目から、大粒の涙が溢れた。
「良く……産まれてきてくれたね……
本当に、ありがとう……」
赤ん坊からの温かさ、柔らかさ、重みが女性を幸福な気持ちへと満たしてくれる。
すると、そこに産婆に案内され1人の男性が部屋へと入ってくる。
男性は女性と赤ん坊を見ると泣きそうな顔になり、ベッドへと駆け寄った。
「カーラ……無事に私達の子が……
産まれ……たんだな……」
男性の目からも大粒の涙が溢れる。
カーラと、呼ばれた女性が赤ん坊の顔が見えるように抱き直すと男性に声を掛ける。
「ええ……あなた、元気な男の子よ」
すると男性は、泣きながら赤ん坊の顔を見つめ、早速親バカなこと言い出す。
「うん、可愛い男の子だ!母親似かな?」
そんな光景を見ていた産婆は、笑いながら
言葉をこぼす。
「ディオンさん が、その様子だとお子さんが
苦労しそうだね〜赤ん坊も、大切だけど今は
奥さんを労わってやんな!」
こうして、産まれた男の子は【アレクサンダー】と名付けられ村の一員として迎えられることとなった。
〜それから5年後〜
村の一角の家で真剣な様子で話すディオンがいた。
「アレク、お父さんは森に狩りに行ってくるからその間、お母さんと家を頼んだぞ!」
戦場に向かう兵士のように深刻な顔でディオンはアレクサンダー(アレク)を目線を合わせるように跼み(かがみ)抱き締める。
アレクは、少し嫌そうな表情を浮かべる。
「分かったから、早く狩りに行きなよ!
何回やれば気が済むの?」
と呆れた態度で返事をする。
するとアレクの後ろに立っていたカーラから
笑顔でディオンへ声が掛かる。
「あなた、アレクが心配なのは分かるけど
狩りをする時間が少なくなれば獲物が少なくなります。獲物が少なくなればアレクがお腹を空かせることになってしまいますよ?」
それを聞いたディオンは、
「む?それもそうだな!急いで出発すると
しよう」
弓と矢筒を背負い軽い袋を持つと家の外へと繋がるドアを開け森へと向かっていった。
「さすが、お母さん。お父さんの扱いが
一流だね!」
俺は笑顔で話しかけた。
するとカーラは諭すように話し。
「お父さん、アレクのことが大好きだからね〜多少の触れ合いは許してあげてね?」
と優しく頭を撫でてくれる。
神様により異世界へ転生された俺はアレクサンダーと名付けられ新たな人生をスタートした。
王都より数日の距離にある人口100人に満たない村〈ミーティス〉
そんな村で生まれ幼馴染であったディオンとカーラは、やがて恋に落ち結婚し子供が生まれた……それがアレクである。
ディオンは、狩人として村の近くの森に入り
獣を狩って生計を立て。
カーラは細工が得意だった為、指輪やネックレスなどの装身具を作成し生活の糧としている。
2人は美男美女で、お似合いの夫婦として周囲から評判であった。
息子の俺から見てもディオンは身長180㎝ほどでスマートながら狩人として、しっかりと筋肉がついており赤毛の髪がツンツンと跳ねているが黄色目が特徴的で整った顔をしている。
(お父さん、本当に爽やかイメケンだよな〜
あれでベタベタくっついてこれければ完璧だと思うんだよね?)
一方、カーラは身長160㎝程で長く美しい銀色の髪をしており腰の辺りまで髪をストレートに下ろしていた。
おっとりした雰囲気をした美女であるが決して着飾らず質素な生活を愛する真面目な女性であった。
エメラルドのような瞳は静かな美しさを秘めている。
(お母さん、普段まったく怒らないけど……
人が本当に嫌がってることをすると笑顔で怒られるから本当に怖いんだよね)
以前、村の集会でお父さんが酒を飲んで帰ってきた時、酒の匂いがキツくて。
それなのにベタベタしてくるから子供ながらに匂いで気持ち悪くなったことがあった。
(あの時の、お父さんを怒ったお母さんは
見ている俺が怖くなるくらい冷たくて怖かった)
そんな2人の間に生まれた俺は、銀色で短髪のツンツン頭をしている。
瞳の色は、薄い黄色で顔も両親の影響で整っているが少し おっとりして見えるのは母親の方に似たのだろう。
(神様に容姿は普通って言ったんだけど……
もしかして、こっちの世界では これが普通なのか?)
考えに耽っていると、お母さんから
声を掛けられる。
「アレク、お母さんは部屋で細工のお仕事を
しなくちゃならないの。アレクは、その間どうしたい?」
子供の自主性を尊重しての質問なのか、カーラの思惑を感じて答えを返す。
「僕は、外で遊んでる!家の周りで遊ぶから
心配ないよ!森にも近寄らない」
自然と無理せずに言葉が口から出る。
ここ最近は、これが普通になっているからだ。
「分かったわ、何かあったらお母さんに声を掛けてね」
カーラは笑顔でアレクを送り出した。
【ステータス オープン】
家と森の間で人目に、つかない場所で俺は言葉を発する。
すると目の前にゲームのようなウインドウが突如現れる。
ステータス
〔名前〕アレクサンダー
〔年齢〕5
〔職業〕持たざる者
〔レベル〕1
〔体力〕(HP)50
〔魔力〕(MP)15
〔攻撃力〕10
〔防御力〕10
〔敏捷性〕10
【スキル】
なし
【称号】
なし
「現状では、こんなもんか〜比較対象がないから良く分からないけど多分ひどいステータスなんだうな」
真剣な表情でステータスを見つめる5歳児の姿が、そこにはあった。
アレクとして生を受け3歳になった頃、俺は、漸く(ようや)自分が何者なのかを理解できた。
転生により精神が28歳のままになると思っていた。しかし予想外に精神は年相応の子供に戻っていたのだ。
(最近は違和感もなくなったけど感覚としては、元の記憶があるってよりも知識として知っている、って感じだよな)
〈ティエーメ〉においてアレクが子供らしく自然と振る舞えたのは精神が若返っていたことが大きな要因であった。
『最近までは、お父さんもお母さんも心配して1人で外に出ることを許してくれなかったからステータス確認も出来なくてウズウズしてたんだよー!」
両親は、ステータスを確認している様子が見られなかったことから普通の人はステータスの確認は、自分のようにはできないのだろうと理解していたが……思わずアレクは独り言を漏らしてしまう。
(とりあえず、ステータス確認を進めよう!
えっーと、職業が持たざる者って
職業が今ところはないってことか?あと気になるは、魔力がMP扱いで威力に関する項目と魔法防御力の項目がないことだな。)
ゲームに似た世界でも全てゲームと同じではない。
それを1つずつアレクは確認していく。
(スキル・称号・なし。スキルは、どうやったら覚えられるんだろう?称号は多分だけど特定の魔物を倒すと得られそうだな)
そこで考え、神様のレクチャーのことを思い出す。
(確かレベルは魔物を倒さないと上がらないんだよな……けれどステータスの底上げはトレーニングでも可能って言ったよな?……)
一通り、考えを纏めたアレクはステータスウインドウを閉じて今後の目標を設定する。
「とりあえず、今後は情報収集を行いながら
ステータスの底上げができるトレーニングを
見つけて行うこと。あとはスキルが習得できるか遊ぶフリをしながら確かめていこう」
こうして、アレクの異世界やりこみプレイは
スタートしたのである。
普段は自分の家や近所の家の雑用を手伝い。
日々の生活の中で時間を作り、遊ぶフリを
しながらトレーニングとスキル習得に励む。
情報に関しては両親や近所の大人達に
気になったことを子供特有の なんで?なんで?と質問を繰り返すことで収集し……あっ、と言う間に時が過ぎてゆく。
〜3年後〜
アレクが8歳になる頃には、様々なティエーメの情報と常識を知ることとなり。
ステータスに関しては、体力と攻撃力と敏捷性の効率的なトレーニング方法と詳細が少しずつ理解できるようになっていた。
ちなみに3年のトレーニングでスキルを3つ覚えることに成功する。
【ステータス オープン】
ステータス
〔名前〕アレクサンダー
〔年齢〕8
〔職業〕持たざる者
〔レベル〕1
〔体力〕(HP)110
〔魔力〕(MP)15
〔攻撃力〕30
〔防御力〕15
〔敏捷性〕25
【スキル】
歩行術 投擲 弓術
【称号】
なし
「3年で、これだけの成果か……良く頑張ったな俺……家の手伝いをしながら結果が出るか出ないか分からない効率的なトレーニング方法を探す日々、思い出すと涙がでるよ本当に……」
(良く頑張ったと、自分を褒めてあげたい。
スキルを覚えるまでが本当に辛かったよ!)
調べて内容は色々あったのが……まずは周辺の国家や地理について今現在、自分達が所属している国はウィリデ王国、草原や森が多く豊かな国である。
この村から数日のところに王都があり、話を聞くかぎりは中世ヨーロッパほどには栄えているらしい。
隣国については、ルブルム帝国やらカエルレウム共和国など様々な国が存在しているが……村では地図などがない為、正確な情報が得られなかった。
将来、王都を訪れた際には是非この辺りを調べておきたい。
また、ある程度の規模の村には教会が存在している。役割としては病院としての側面が強く。
街に行けば立派な建物があるが村では簡易的な建物があるだけになっている。
次に職業について。
職業は15歳になり教会で得ることができるようになる。
なぜ15歳なのかは、この世界では15歳が成人扱いになるからだ。
アレクが最初に疑問に思ったのは、これである。(あれ?俺もう職業得てない?)
通常であれば、スキルや称号と同様に〔なし〕と表示されるはずのところに既に【持たざる者】が存在しているのだ。
職業は、資質によって戦う才能が
ある者は五大職業に分類される。
1.戦士 2.狩人 3.聖職者 4.魔法士 5.錬金術師
さらに、いずれかの道を極めると派生職業なるものも得られるらしい。
何も才能のないものは村人や国民となり
生まれによっては王族などの特殊な職業もあるとされている。
「少なくても集めた情報の中に、持たざる者の情報は なかった。この情報は、今ところは
できるだけ伏せておいた方がいいな……」
(いずれ、信頼できる詳しそうな人と出会えたら聞いて見るのも手かな?)
次にステータスについて分かったことは、ステータスの底上げは具体的なイメージを
持ったトレーニングを行うことで大幅に効率を上げられるということである。
実際の例としては、体力(HP)を上げる為に単純に走り込みをした際は殆ど変化がなく
上昇率が悪かったのだが……心肺機能を高めるイメージで肺や呼吸を意識したトレーニングを行った場合は圧倒的に後者の方が上昇率が高かったのである。
(正直、これに気付いた時は興奮した!だってイメージ力が強ければ強いほど自分の力が
伸びる可能性があるという意味だからだ!)
攻撃力は、筋トレと超回復をイメージして肉を多く摂取することで上昇率を高くした。
敏捷性は回避や速さを
高める為に反射神経や運動神経をイメージし
短距離ダッシュや障害回避のトレーニングを
行い上昇率を高くした。
意外な発見があったのは敏捷性で、気付いたのは偶然である。
投擲の練習をしていたのだが……なぜか投擲した小石が良くマトに当たっていたのだ。
確認したが、その時は投擲のスキルもまだ習得していなかった。
そこで気付いたのだ。敏捷性は(回避+速さ+命中率)なのではないかと。
この世界では敏捷性は、あまり重要視されていない。
回避に力を入れるくらいなら防御力を上げ強い防具を揃えた方が効率がいいからだ。
しかし、しっかりと敏捷性を上げれば回避+速さ+命中率が上がることになる。
特に命中率は、おそらく弓術や魔法や投擲にも適応される。
汎用性の高さがかなり有用なのだ。
最後にスキルについて。
スキルは大まかに5種類に分類され、攻撃スキル・防御スキル・補助スキル・魔法スキル・生成スキルに分類される。
スキルの中でも5種類に含まれない特別なスキルがユニークスキルと呼ばれている。
スキルには、特定の職業でないと
習得できないものもある。狩人の〔弓術〕や
聖職者の〔回復魔法〕や魔法士の〔攻撃魔法
〕などが例として挙げられる。
そこまで情報を整理していたところ急にアレクは頭を抱える。
「おかしいだろ!俺、持たざる者なのに弓術習得してるじゃん!!」
ここ3年で自分で調べた情報と実際に世間一般で知られている情報が大きく異なっていたことに驚きを隠しきれない様子で分からない原因に頭を悩ませる。
元々、弓術は練習する予定ではなかったのだが両親との会話の中で、うっかり“お父さんの弓を使っているところ、カッコいいよね?”と言ってしまったところ……数日後には、ディオンに子供用の弓を用意され練習する羽目になっていたのだ。
「あの時はスキルの習得条件とか関係なく息抜きのつもりで練習してたから思い当たることがない、というか覚えてない……」
大きく、ため息つき。“パン!パン!”と頭を切り替えるように自分の頬を叩く。
「分からない事を考えても仕方ない。成人に
なる15歳までは、現状でやれる事をやるだけだ!まだ7年もあるんだし頑張ろう!!」
そしてアレクは、気合を入れ直しトレーニングへ没頭していく。