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異世界やりこみドMプレイ〜持たざる者から始めます〜  作者: 塚木 仁
6章 【青年期 新たなる世代】
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カインの事情

 朝食の席でのカインの発言に、皆の動きが止まる。

 “俺は……このチームを抜けなければならないかもしれない”という言葉に、最初に反応したのはアマリアだった。


「はぁ!?どういうのことよカイン!ずっと姿を見せないと思ってたら急に―――」


 ガタンッ!と勢い良く席を立ち上がったアマリアが、カインを問い詰める。

 しかし、その言葉はアレクの冷静な発言によって勢いを失う。


「待ってアマリア……カインは、今日それを説明するために館に足を運んだんだろ?だったら、とりあえず話を聞こう。全ては、それからだ」


 何かを言いたそうにしていたアマリアだったが……アレクの言葉に渋々従い、着席する。

 アマリアが着席したのを確認すると、カインは食堂に集まった皆の顔を見渡し、ゆっくりと話し始める。


「皆には伝えていなかったが……俺は貴族の家の者なんだ。貴族といっても俺は事情があって、家を離れて冒険者になる道を選んだんだがな」


 カインが貴族であったことに関しては、パーティーメンバーは驚かない。

 何故なら、カインは言葉遣いが乱暴であっても、立ち振る舞いが洗練されており、気品のようなものを感じさせることが多かったからだ。


「そもそも俺は長男だが……冒険者になることを選び、家からも追放されたようなものだったんだ」

「長男か……それで良く冒険者になれたな」


 アレクは素直な感想をカインに漏らす。

 貴族は爵位継承の関係で、継承順位が最も重要視される傾向にあると、アレクは記憶していた。

 長男であれば間違いなく家を継ぐことが約束され、次男などは長男が家を継ぐまでの保険として扱われることがほとんどだ。


 その長男であるカインが、自ら冒険者になるために継承権を放棄したと聞いて、アレクも仲間達も驚きを隠しきれなかった。

 そんな仲間達の様子からカインは、ぽつぽつと事情を話し出す。


「今の王国では貴族自体の意味合いが、昔とは違うからな。貴族も100年前は国が治める各都市・都市内の地域などを管理する者を表すものだったが……魔物大発生によって各都市が滅んだことで、今では王都での役職を表すものになっている」


 かつて上級貴族と呼ばれる者達は、王国周辺の都市を治めていた。

 その都市内で地域を下級貴族達が、治めることで貴族というシステムは機能していたのだ。


 しかし、100年前の魔物大発生で周辺都市は、残らず蹂躙され滅んでしまった。

 多くの上級貴族・下級貴族も命を落とし、残された貴族は数少なかった。

 そこで当時の国王陛下は、貴族に対し領地の代わりに役職を与え、その貢献度に応じて爵位を与えることを決めたのであった。

 つまり昔の爵位は“土地を治める役職”“領主の称号”であったが……現在では身分を表すものとして爵位が使われている。


「俺の家は、王国の槍術指南役を仰せつかっているんだ。王族の方に槍術を指南することもあるし、上級士官にも指南したりしている」

「王族の方に槍術の指南か……それって、かなり上の役職だろ?すごいじゃないか」


 そんなアレクの言葉にカインは頭を横に振る。


「名誉なことだとは思う……けれど、指南役といっても俺の目指す強さは……あそこにはないよ」


 そう答えるカインの瞳はうれいを帯びており、その雰囲気は儚いものに感じられた。


「で、なんで家から追放されたはずのカインが、冒険者チームを抜けなければいけないんだ?」

「……俺には今年で15歳になる弟がいる。槍術の腕前も悪くないし、自らの技術を高めることに妥協しない……それに向上心もある。本来なら正式に指南役として王国の仕えることになるんだが……弟は生まれつき体が弱くてな」


 カインは悲痛な表情になり、テーブルの下で拳を強く握り締めているのが、アレク達にも伝わってくる。


「今迄は無理しなければ問題なく動けたし、指南役としても申し分なかった。けれど、数ヶ月に急に体調が悪化してな……今ではベッドの上から動くこともできない程に衰弱している」


 カインの口から家族のことが語られるのは初めてだったが……想像以上にカインが精神的に追い詰められていたことを仲間達は、思い知る。

 非情な現実に食堂内は沈黙に包まれる。


「王国では役職を果たせないと判断された貴族は、役職を追われることになる。現在の指南役である父は血縁者から、次の指南役を指名しなければならないんだ。それが果たさなければ役職を失うことになるだろう」

「つまり……カインは弟の代わりに指南役の指名受けて、正式に指南役になると?」

「ああ……今のところ解決策は、俺が弟の代わりになるしか考えられない。そうなれば冒険者を続けることはできない。だから俺は――」


 その先の言葉を言うことを拒むようにアマリアが、カインの言葉を遮る。


「なんとか……ならないの?アレク?今、エレナが研究してる薬を使えば、治るじゃないの?」

「それは……難しいな……」


 アレクはアマリアの問いに答えながら、カインのことを見つめる。

 何故なら、数ヶ月前にカインから新薬について話を聞かれていたからだ。

 今思ってみれば、あれは弟さんの病を治す可能性を探してのことだったのだろう。

 その時にカインに話した内容を、アレクはアマリアに向けて説明する。


「いいかアマリア……新薬っていうものは、そんなに簡単に作れるものではないんだ。

 病に対して絞り込みを行ったり、薬が出来てからも人に使えるようにするために、試験が必要になる。それに安全性や有効性を確認する前には、とても時間が掛かるものなんだよ」


 本来は新薬として有効か判断するために細胞や動物を使って、その薬の有効性(薬効)と安全性(毒性)の両方を確認するのに3~5年は要する。

 それから臨床試験に進み、人の体を使って治験を行い、効能と副作用を明確にしていかなければならないのだ。


 それを考えれば、新薬の開発が10年以上の掛かることも珍しくない。

 錬金による能力アシストがあっても、ポーションなどのケガに対する薬ではない限り、慎重にならざるを得ないのだ。

 エレナが、精霊から霊薬の生成方法を聞いてはいたが……その効果は未知数のため、とてもカインの弟に使える段階には至っていなかった。


「アマリア……ありがとう。でも、その気持ちだけで十分嬉しいよ」


 カインが力なくアマリアに笑いかけると、アマリアのほほに、一筋の涙が流れる。


「俺は、まだ諦めたわけじゃない……弟を助ける手段がないか、ギリギリまで粘ってみるよ」

「カインの話は分かった。けど《漆黒の魔弓》を抜ける件は、保留にさせてもらう。俺達は、カインが戻ってくるのを待ってるからな?」


 少しだけ驚いた顔を見せるカインに、アレクは力強く頷いてみせる。

 それに触発されたのか、カインも力強く頷きアレクに応えてみせる。


「アレク……ありがとうな……またしばらく、館には姿は見せられないけど心配しないでくれ」

「何か俺達にできることがあれば、遠慮なく言ってくれ!必ず力になるからな」

「ああ……じゃあ、これで今日は失礼させてもらう。まだ、やれることが残っているかもれないからな」


 そう言いながら、カインは館を後にした。

 食堂に残されたアレク達だったが……今まで黙っていたメンバーが、次々に口を開く。

 最初に喋り出したのは、難しい顔したキアであった。


「カインに、あんな事情があったなんて……知りませんでしたわ。これから私達にできることは何かないんですの?」

「ぼ、僕もカインさんの家族のこととか初めて聞きました!数ヶ月前ってことは……僕達がアクアエに行く前には、弟さんは体調を崩されたってことですよね?僕達にできること……あるんでしょうか?」


 キアとミカエラは、門外漢である病気に対しての対応に頭を悩ましていた。

 そこにルプルも加わり、基本的なことを確認してくる。


「えっと……病気とかだとポーションは、効果がないんですよね?現在、カインさんは弟さんの病気に効く薬や、病気に詳しい医者の方を探しているんでしょうか?」

「恐らく……市場に稀に流れてくる高額な錬金薬などを探しているのではないでしょうか?出所不明ですが……昔に作られた万能薬などが市場に出てくることもありますので……まぁ、大体のものが偽物ですが」

「それと医者についてだが……王国の槍術指南役なら、医学に詳しい教会に相談しているだろうな。まともな医学の心得があるのは教会くらいだから」


 ルプルの問い掛けにエレナ・アレクが、それぞれ答えを出す。

 話し合いを続ける一同であったが……アマリアの表情は、皆の話を聞くうちに一層暗くなる。


「私……教会に行って、カインの弟さんのことについて聞いてくる。黙って見守ることなんてできないもの!」


 アマリアは皆の答えも聞かずに、部屋を飛び出していってしまう。

 残されたアレク達が唖然としていると……いなくなった姉の代わりにミカエラが、アマリアの胸中を想像して話し出す。


「多分、カインさんの弟さんと僕を重ねていたんだと思います。お姉ちゃんは家族想いですから」

「そうだよな……アマリアからしてみれば、ミカエラが病気になって、頼れる人がいない状況みたいなものだもんな」


 アレクが空いた2人の席を眺めながら、冷めきった紅茶を口へと運ぶ。


「で!どうしますのアレク!このまま、黙って静観してるわけありませんわよね?」


 キアがアレクに向けて不敵な笑顔で問い掛けてくると……他の者も一斉に、アレクに視線を向けてくる。

 アレクは皆の視線を集めながら、深く深呼吸しカッ!と目を見開く。


「さっきは難しいとは言ったが……仲間が大変な時は当然助けるだろ?カインが俺達に助けを求めて来ないことは、何かしらの事情があるんだろうけど……このまま静観するつもりはない。かなり厳しい戦いになるが……やれることをやろう!!」


 アレクは力の宿った瞳で仲間達を見つめる。


「ですわよね!そうこうなくては、アレクではありませんわ!!」

「ぼ、僕も全力でお手伝いします!なんでも言って下さいね!」

「私としても新薬の研究は進めたいところです。時間は短いですが……全力を尽くしましょう!」


 やる気に満ちた仲間達も瞳に力を宿し、アレクのことを見返してくる。


「よし!じゃあ、早速カインの弟を助ける新薬の開発に入る。錬金で薬の開発と実験は俺とエレナが担当する。キアとルプルは材料担当、必要な材料を錬金屋で買ったり、店になければ外に採りに行ってくれ!ミカエラとアマリアは情報担当、教会と連絡を取り合ったり、カインの家族についての情報を集めてくれ」

「「了解っ!」」


 時間との勝負ということもあり、館内は慌ただしくなり始める。


「プラムは俺とエレナの手伝いを頼む。あと雑用をこなしてもらうから忙しくなるぞ?大丈夫か?」

「はい!主様の手足なり完璧に仕事をこなしてみせます!」


 プラムは凛とした姿勢から気合の入った一礼を見せると……ニコッと不敵な笑みを浮かべる。

 早速エレナは、地下の錬金実験室で必要な材料をメモすると、キアとルプルにメモを渡し2人を送り出していた。

 ミカエラもアマリアの後を追い、教会へと向かって行った。

 アレクとプラムは、2人並んで地下の錬金実験室へと向かっていく。

 こうしてカインのあずかり知らぬところで、アレク達《漆黒の魔弓》は動き出していくのであった。





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