Aランク冒険者チーム《漆黒の魔弓》
アレクがルプルの両親と会ってから1週間後、《漆黒の魔弓》はパーティーメンバー全員で、アクアエの冒険者ギルドを訪れていた。
それは正式にルプルが《漆黒の魔弓》に加入することが決まり、その手続きとアレク達のギルドカードの更新を兼ねてのことだった。
朝早くに冒険者ギルドを訪れたアレク達は、ギルドマスターであるツワロスから連絡を受けていた通りに、受付へと真っ直ぐ向かう。
受付の女性に用件を伝えると、すぐに奥から副ギルドマスターのメリルが現れる。
「おはようございます皆さん。朝早くからお越し頂き、ありがとうございます」
「メリルさん、おはようございます。いいえ、こちらこそ朝早くから対応して頂いて助かります。ツワロスさんから、こちらでルプルの冒険者登録と俺達のギルドカードの更新を行うように言われてるんですが……お願いしても、よろしいですか?」
「こちらのことは気にしないで下さい。私達にとっては、これも仕事ですから。既に準備は出来ています。アレクさん達のギルドカードは、まとめて私が預かります。ルプルさんは、こちらで手続きをお願いします」
アレクは仲間達からギルドカードを集めて、メリルへと手渡す。
ルプルは、受付の女性の元で必要書類に記入すると……早々にアレク達の元に帰ってくる。
受付の女性は、出来上がったルプルのギルドカードをメリルに渡し、一緒に手続きを完了させる。
全員分のギルドカードを持ったメリルが、フロアに戻ってくると、アレク達1人ずつにギルドカードを手渡していく。
アレクは、手渡されたギルドカードの冒険者ランクを確認する。
そこには紛れもなく、Aランクの文字が輝いていた。
「Aランクか……これでやっと師匠に並んだわけだな」
アレクの誰に聞かせるわけでもなく呟いた言葉に、横からアマリアが割り込んでくる。
「へぇ〜アレクは、正直そういうことに興味ないと思ってたけど……師匠のルシアさんと同じランクになったことで、自分も一人前になったなぁ〜とか考えてるの?」
「別にそんなことは考えてないさ。ただ師匠は今頃どうしてるのかとか、同じランクになったと報告したら、どんな反応をするのかと考えてただけだよ」
アレクの答えにアマリアは、つまらなそうに頬を膨らませて、不満気な表情を作る。
「けど、もっと喜んでもいいのに〜Aランクなんて現在の冒険者ランクの中じゃ、実質最高ランクじゃない!これで有名冒険者チームの仲間入りなのに、反応薄くない?」
「ランクが高くなるのは嬉しいけど……その分、危険な依頼も増えるだろ?リーダーとしては、胃が痛くなる思いだよ」
「それはそうだけど、それだけ稼ぎも良くなるってのもでしょ?」
「いや、俺お金に困ってないし……」
あまりランク昇格を喜んでいないアレクにアマリアは納得がいかず、メリルに助けを求める。
「メリルさん!アレクにAランクになることで得られる利点について、話してあげて下さい!そして、嬉しそうな表情を引き出して下さい!!」
「えっ?私ですか?えっーーと、では既にお分かりの方もいるかもしれませんが……新たに冒険者になられた方もいるので、私から冒険者ランクがAランクになったことで、得られる利点についてご説明します」
そう言うとメリルは、《漆黒の魔弓》の全員に聞こえるように説明を始める。
「まず最初はアレクさんとアマリアさんが話されていたように、Aランクになったことで断然稼ぎが良くなります。Bランクと比べると3倍〜5倍程、稼ぎに差が出ます。そして、その代わり下のランクの冒険者では受けることのできない危険な依頼も、多くなります」
メリルの話に、良く理解していなかったアマリアやミカエラが驚きの表情を見せる。
「次に指名の依頼が、多くなることが挙げられます。これは最初の稼ぎが良くなる点とも関係ありますが……Aランクになると国や貴族、はたまた大商人と色々な方々から指名を受けることになります。大金を用意できる方だからこそ稼ぎが良くなると同時に、普段は繋がりがない方と知り合えることも、利点と言えるでしょう」
大口の客とのコネクション作りという利点は、この世界では大きな財産となる。
それは金銭面だけでなく……様々な技術や知識、情報なども広く得られることになるからだ。
メリルの話にアレクは、興味深そうに頷く。
「そして最後に各国での免税や、各種料金の免除などが挙げられます。入国税は勿論、国が独自に敷いている税なども免除されます。また、冒険者ギルドの馬車や国の船などの料金も免除されるか、または格安で利用することができます」
Aランク冒険者は、世界でも一握りの存在である。
各国に1チーム、ないしは2チームいればいい方で……現在の世界の最高戦力とも言える。
戦姫のように例外的な強さを持つ者も存在するが……大体の者は、稼ぎも良く利点も多い冒険者という立場に収まっている。
その世界の最高戦力が受ける依頼は、国レベルで対応できない程の問題に直面することも多く、それ故に各国はAランク冒険者に対して、かなりの優遇措置をとっている。
免税や乗り物の料金、国からの直接の依頼ならば……更に強力な支援を受けることも珍しくない。
「以上のことがAランク冒険者となることで受けられる、大きな恩恵と言えるでしょう。しかし、注意しなければならないこともございます。冒険者として有名になれば、必ず利用しようと近付いてくる者が現れます。冒険者ギルドにケンカを売るような、者は少ないですが……アレクさん達、個人としても気を付けて頂いた方が良いと思います」
話を終えたメリルは一礼すると、苦笑いしながらアレクの顔を見つめてくる。
それが意味することを察したアレクは、優しく微笑みメリルを見つめ返す。
「とてもためになる説明、ありがとうございました。改めてAランクになれる喜びを感じることができました」
「それでしたら良かったです。それと、これからアレクさん達はドォールムに向けて出発するんですよね?馬をギルドの裏に回しても?」
「はい、馬の用意をお願いします。馬車は、こちらで用意してありますので」
丁寧に一礼するとメリルはアレク達の前から離れ、ギルド職員に指示を出していた。
アレク達はギルド裏へと移動し、馬車の準備を始める。
アレクは、ギルドマスターであるツワロスや獣人族代表であるダカダとは、数日前に別れの挨拶を済ませていた。
それも彼らは、アクアエで重要なポストについている者である。
ヒョウカ同様に、これからのカエルレウム共和国を担っていく人材なのだ。
アレクは、彼らの邪魔にならないように静かに、アクアエを離れることを決めていた。
ギルド職員が馬を馬車まで連れて来くると、アレクとカインは手早く準備を終えて、いつでも出発できる態勢を作る。
仲間達もメリルと別れの挨拶を済ませ、次々に馬車へと乗り込んでいく。
全員が乗ったことを確認すると、アレクは御者台からメリルに声を掛ける。
「それでは、色々とありがとうございました!またアクアエに来た時は、よろしくお願いします!皆さんにも、よろしくお伝え下さい」
「はい、アレクさん達も道中お気を付け下さい!私達も、アレクさん達と無事に再会できることを祈っております!」
アレク達の馬車へと手を振り、最後まで見送ってくれたメリルの姿が小さくなるのを見つめながら、アクアエの正門へと向かっていく。
早朝ということもあり、馬車を操っているのはアレク達の以外には見ることはない。
あっという間に正門前に到着したアレク達だったが……正門の辺りに人影があるのを見つけて、アレクとカインは眼を細める。
すると2人の視線の先には、ヒョウカ・セツナ・ツワロス・ダカダが待ち受けていた。
皆の傍まで近寄ると思わず馬車を止めて、アレクはヒョウカ達に声を掛ける。
「皆さん!こんなところで何してるんですか!?」
皆はアレクの驚いた顔を確認すると、一斉に笑顔になる。
そして満面の笑みを浮かべたヒョウカが、満足そうに質問に答える。
「何をしてるのかというと……ここでアレク達を見送ろうと待機していたのです!カエルレウム共和国を、アクアエを救ってくれた英雄の見送りが、誰もいないというのも寂しいですからね!」
「見送りって……どうやって俺達の出発する日や時間を?皆には詳しく話していなかったのに……」
「それはですね、アマリ――」
そこまでヒョウカが口を滑らせると、横にいたセツナが肘でヒョウカの脇腹に一撃を加えて、強制的に黙らせる。
痛みで喋れなくなった姉の代わりに、セツナが感謝の言葉を伝えてくる。
「アレク様!本当にありがとうございました!次にアクアエにお越しの際は、しっかりと歓迎致しますので、是非またお顔を見せて下さい!」
「セツナ様……こちらこそ、ありがとうございます。次にアクアエを訪れる時を楽しみにしていますね!それまでセツナ様も、お元気でいて下さい」
可憐なセツナの笑顔に癒されていると、横からツワロスとダカダが、不満そうに声を掛けてくる。
「おい!俺達の方も見ろよアレク!飲み友達だろーが!?」
「アレクさんは、男には冷たいですね……あの夜は、あれ程に仲を深め合ったというのに」
「ダカダ、朝から大声を出さないでくれ……近所迷惑になるので。ツワロスさん、意味深な発言は控えて下さい。横にセツナ様がいるんですよ?」
朝から暑苦しい2人を視界に入れないようにしていたアレクだったが……途中からは諦めて素直に感謝の言葉を口にする。
「2人とも……わざわざ見送ってもらって、ありがとうございます。でも、こんな時間に正門になんていて大丈夫なんですか?」
「がはははっ!俺なら問題ないぞ?俺は、やりたいことは我慢しない男だからな!」
「私達のことなら心配いりませんよ?話し合いをするべき代表が、一斉に急用が入ることなど良くあることですからね」
さらっと、とんでもないことを言ったツワロスは、悪い大人の顔をしていた。
そしてアレク達が話しているうちに、復活したヒョウカが最後に声を掛けてくる。
「アレク……感謝の言葉はセツナが伝えたので、私は友としての言葉を貴方に送りましょう。遠く離れていても、友である貴方のことを想っています。どうか、無理はしないで下さい……貴方は仲間のため、人々のために頑張り過ぎなのです。もっと、自分を大切にしてあげて下さい。そうすれば、私の心配も少しは減るというものです」
「お、おう……気を付けます」
何故か心配されてしまったアレクは、戸惑いながらもヒョウカの忠告を受け入れる。
全員から挨拶を受けたアレクは、最後に別れの挨拶を改めて伝える。
「皆さん!色々とありがとうございました!また、必ず会いましょう!!それまで、お互いに元気でいられることを祈っています!」
「はい!アレク!良い旅を!!」
「アレク様達に、水の精霊の祝福を!」
「おう!元気でな!アレク!!」
「またアクアエに来て下さいね!アレクさん!」
こうして別れを済ませたアレク達は、馬車を操りアクアエを後にした。
馬車の荷台から正門に向かって手を振り、最後まで別れを惜しんでいたアマリア達。
ドォールムの暗殺騒ぎから数ヶ月……様々な人達との出会い・命を懸けた戦い・新たな仲間や友との巡り合わせが、アレクの心の中に駆け抜けていく。
だが、これで全てが解決したわけではない。
ボロ布の男による世界への干渉……アレク以外の転生者の存在……新たなる災厄の波は、始まりを見せたばかりである。
しかし、アレクは恐ることなく前に進み続ける。
心強い仲間と友に生きる未来を信じ、そしてよりよい未来を掴み取るために。




