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 冒険者ギルドの応接室で、次々に自分達の噂の報告を受け、心に深刻なダメージを負っていく《漆黒の魔弓》一同……しかし、その被害者はルプルの報告によって増え続ける。


「次にミカエラさんですが……アレクさんの次に、魔物を大魔法で殲滅していたことから“殲滅の天使”という通り名が、広まっています。天使の部分は、その可愛らしい外見から男性の方から多くの支持を集め、自然と呼ばれるようになったそうです」

「違う……僕は男なんだ……殲滅は兎も角、天使って!天使って……何ぃ!!」


 部屋の隅に体育座りになり、何かをブツブツ呟くミカエラの背中は……とても小さく見える。

 残り2人になりキアは、どこからでもかかって来い!という構えを見せる。


「次はキアさんですね……キアさんは、何か飛んでた人という通り名が広まっています。……以上です」


 ルプルの報告を受けたキアの顔は、別の意味で真っ赤に染まる。


「ちょっと!!私だけ雑じゃありません!?それになんですの!!何か飛んでた人って!??もっと言い方ってものがあるでしょう!!?」

「キアさんは空中にいることが多かったためか、皆さんの中で印象が薄かったと思われます。その……次がありますよ!きっと!」


 申し訳なさそうにフォローを入れてくれるルプルに、キアは別の意味で泣きそうな顔を見せる。

 そんなキアを慰めながらエレナは、心配そうな表情でルプルに質問する。


「私の噂もあるのですか?気持ち悪がれたりしていないと良いのですが……下手をしたら《漆黒の魔弓》の名に、傷を付けてしまうかもしれませんから」


 エレナの言葉を受けてルプルは、慌てた様子で報告を続ける。


「えっと……エレナさんで最後です!エレナさんは……その……」


 歯切れの悪いルプルに、エレナは報告の続きを促す。


「ルプルさん……どんな噂でも私は受け止める覚悟は、できています。正直に言って下さい」

「……分かりました。では……エレナさんですが……大胆で、きわどい鎧と冒険者達や獣人族を率いることのできるカリスマから“濡烏ぬれがらす女傑じょけつ”という通り名が広まっています」

「……うん?」


 予想外の方向から、ピンと来ない通り名を伝えられたエレナは、首を傾げながら理解が追いつかない顔をしていた。


「それと……女傑じょけつのケツは……その……黒い鎧状態のエレナのお尻が、エロ――じゃなくて!魅力的だったことが由来になっているそうです!」


 ルプルの直接的な言葉を受けたエレナは、顔を真っ赤にしながらマントの上から、思わず自分のお尻を押さえる。

 こうして見事、《漆黒の魔弓》全員が精神的な死を迎えたところでルプルの報告は、終わったのであった。


 そこまで話を聞いてアレクは、ようやくルプルが何故ここにいるのか疑問を抱く。

 本来ならヒョウカ直属の部下のはずのルプルが、冒険者ギルドにいること自体が不自然なことなのだ。


「で、今更だけど……なんでルプルが冒険者ギルドで、諜報活動みたいなことしているんだ?ルプルはヒョウカ直属の部下だろ?」

「えっと、それは――」


 ルプルが事情を説明しようとするが……そこにツワロスが割り込んで、話の続きを話し始める。


「それは、私から説明させてもらいます。彼女のことは現在、冒険者ギルドが預かっています。もちろん、彼女自身から冒険者になりたいと希望があったためです。それとこれは、戦姫様からの許可を得てのことです」

「つまりはルプル自身が冒険者になることを望み、ヒョウカからの許可も得ていると……それなら俺達が、どうこう言うことじゃないな」


 アレクが頷きながらルプルを見ると、何故か彼女の表情は不安を抱えているようなものに見えた。

 声を掛けようかと思ったアレクだったが……ツワロスの話に続きがある雰囲気を感じて、意識をツワロスの方に戻し、話に集中する。


「そして、ここからが本題なのですが……ルプルさんは《漆黒の魔弓》に、加入することを希望しています」

「……ん?」

「もちろんこれは、あくまで彼女の希望であり、冒険者ギルドとしても戦姫様としても、強制するものではありません。アレクさん、いかがでしょう?」


 《漆黒の魔弓》のメンバーも、突然の話で一瞬の動揺が見られたが……直ぐに冷静さを取り戻し、アレクの判断を待つ姿勢を示す。

 アレクは頭の中で話を整理しながら、ルプルに対して質問する。


「ルプル……《漆黒の魔弓》に加入したいってことだけど、どうして俺達の冒険者チームなんだ?」


 アレクは単純に疑問に思ったことを、ルプルに問い掛ける。

 ルプルは、緊張した様子でアレクに向き直ると……自らの心中を語り出す。


「私は今まで、自分を拾って育てくれた人族の両親と私自身が、種族関係なく安心して暮らせる生活を、クーデター派として目指してきました。けれど、それは今回の事件をきっかけに戦姫様やセツナ様、ツワロス様にダカダ様の協力を得て、時間が掛かってもアクアエが変わっていくと、確証を得ることができました」


 それはルプルだけではなく、この場にいる誰もが肌で感じていることだった。

 魔物の大群騒ぎから、アクアエでは以前ような種族関係なく協力し合う空気が、戻りつつあった。


 アクアエの危機に、争いを続けていた者達が手を取り合い、共に困難に立ち向かったことで……一種の連帯感が生まれていたことが、大きな要因になったことは言うまでもない。


 そして、誰もが胸を熱くする活躍を見せた救国の英雄であるアレク……分かりやすい共通の話題が転がり込んだことで、国民の意識は自然と盛り上がり、街全体に明るい雰囲気を作り出していた。


「自分の目指していたアクアエは、多くの方々の協力によって達成される。そう考えた時、私にできることは何かと考えましたが……答えが出せず戦姫様に相談したのです

「ヒョウカは、なんて?」

「戦姫様は……“引き続き直属の部下として働いてもらえるなら助かるけれど……ルプル自身がやりたいと思えることは、ないのですか?”と仰いました。そして、その話を聞いた時に1番最初に思い付いたのが冒険者だったのです」


 ルプルは少しだけ目をつむると、アレクの顔を見つめて言葉を続ける。


「以前アレクさんと話した際に、“自分や仲間の命を守るためには様々な能力があった方がいい。そういう観点からルプルの身体能力や鋭敏な感覚は、冒険者からも重宝されると思う”という言葉を頂いたのですが……覚えてらっしゃいますか?」

「確か……クーデター派の偽拠点を襲撃の時に、そんなことを話した記憶はあるな」

「その時に私は、もっと外の世界を見てみたいと素直に思えたのです。」


 そこまでルプルの話を聞いていたアレクは、動機としては少し弱いと思い、念のために厳しい話を切り出す。


「冒険者になりたい理由は分かったけど……その理由では正直な話、《漆黒の魔弓》には加入を許可することはできない。大きな理由として2つあるのだけれど、聞くかい?」

「はい……教えて下さい」


 アレクの問いに、ルプルは真剣な表情で答える。


「では、第一に俺達の冒険者チームでは命を落とす可能性高い。これは今現在Aランクに昇格することもあって、今後も危険な依頼を受けることになることと、くだんのボロ布の男と対立する可能性が高いことを含んでいる。これは今回と同レベルの戦いに巻き込まれることを想定してだ」


 ルプルは先の戦いを想像し、少しだけ青い顔色に変わっていく。


「第二に冒険者はルプルが思っているより、夢のある職業ではない。場合によっては身を守るために人や獣人を相手にすることもあるし、種族に関係なく情報を引き出すために、拷問まがいのことをすることもある」


 アレクの発言にツワロス・メリル・ダカダは、険しい表情で静かに頷いていた。

 人族であれ獣人族であれ、善人もいれば悪人もいる。

 自らの命を守るためなら、非人道的な行いをしなければならない時もある。


 人生経験の長い者なら、種族関係なく理解していることだが……ルプルが、それを理解しているかは不明である。

 だからこそ、その覚悟を確かめるアレクの質問は、当然のものだとツワロス達には思えた。


「以上の理由から、俺はルプルが《漆黒の魔弓》に加入することは許可できない。冒険者になりたいなら、ルプルを受け入れているアクアエの冒険者チームを選んだ方が、安全だと思うぞ?」


 話を終えたアレクは、ルプルの顔を見つめ様子を窺う。

 かなり厳しい言い方になってしまったが……ルプルの人生が掛かっていることでもあるので、この話を聞いて迷いが生じるくらいなら自分達と関わらない方がいい、というのがアレクの本音だった。

 しかしアレクの予想を超えて、ルプルは強い眼差しをアレクに返してくる。


「私には夢があります……それは両親から教わった文字を使って、世界を巡ったことを題材に本を書くことです」

「それは……旅行記みたいなものか?」

「具体的には決めていませんが……冒険記のようなものを考えています。そのためにも、特殊な経験を積むことができるアレクさん達の近くで、ありのままの事実を見聞きしたいのです!」


 アレクは、ルプルの話を想像しながら思考する

 確かに冒険記を書くなら、普段ではできない体験や危険な場所のことなどはAランク冒険者チームに入れば、ネタに事欠かないだろう。

 ルプルの夢のためにも、自分達の仲間になりたいという意見は理に適っている。


「それに……私もクーデター派と活動している間で、人や獣人族を手にかける覚悟はしてきたつもりです。それらを避けたり逃げたりするつもりはありません」


 ルプルの迷いのない言葉に、アレクは判断を決めかねていた。

 気持ちとしては、ルプルの身体能力や諜報能力は買っているし、夢についても応援したいと考えていた。

 しかし、気になることが1つだけあり、アレクは口を開く。


「ルプルの考えや気持ちは良く分かった……けれど、最後に1つだけ確認させてくれ」

「なん……でしょう?」


 アレクは一呼吸置くと、ルプルの目を見ながら問い掛ける。


「ご両親は、このことを知っているのか?というか……事件が終わってから会いに行ったのか?」

「……会いには……行ってません」


 気まずそうな表情を浮かべるルプルに、アレクは話を続ける。


「俺はルプルの話を改めて詳しく聞いて、《漆黒の魔弓》に加入してほしいと思った。だから、ご両親に相談してないなら、しっかりと話をしてくることを加入の条件にする。それでどうだろう?」


 最初の加入拒否から、条件付きの加入まで譲歩じょうほしたアレクの言葉に、ルプルは力強く頷く。


「分かりました!必ず両親を説得して加入してみせます!!」


 そう言い放つとルプルは、アレク達に一礼して応接室を出て行ってしまう。

 その様子を見ていたツワロスは、アレクに嬉しそうに声を掛ける。


「まさか、ご両親に許可をもらってくることを加入の条件にするとは……アレクさんは、お優しい」

「そうですかね?ルプルは、あの様子では忘れてるかもしれませんが……家出同然でクーデターに参加してますから、家に帰ったら凄く怒られると思いますよ?」

「そうですか、彼女は家族に愛されているのですね」


 和気あいあいと冗談交じりに話す2人の会話に、ダカダがズカズカと割り込んでくる。


「ルプルの嬢ちゃんが、帰ってこないとギルドカードの更新も進まないだろ?それなら、一先ず話し合いは、お終いか?」

「まあ、そうですね……ギルドカードの更新は後日でも済みますし、先にダカダさんの件を済ませた方がいいかもしれません」

「それなら早速移動するか!それじゃあ、俺について来てくれ!」


 アレク達を置き去りして、会話は勝手に進んでいく。

 何故か当然のように移動する話になり、アレク達は戸惑った表情を見せる。


「えっ?どこに行くんだ?何も聞いてないんだが!?」

「いいからついて来いってぇ!別に疑うようなことじゃねーよ!俺達からの、ちょっとした礼みたいなもんだからよぉ!」


 ダカダに背中を押されアレクは、応接室を後にする。

 それにツワロスやメリルに《漆黒の魔弓》一同も続き、アレク達は訳も分からぬまま移動するのであった。







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