修行中毒者アレクと模擬戦
カインから助言を貰った次の日から
腹を空かせた獣のように戦闘の技術を
貪欲に学びまくる日々がスタートした。
バルド教官と他の教官の模擬戦を観察し
ひたすらに動きを模倣していく。
もっと多く学びたいと追加のお金を用意し
バルド教官から、元冒険者を紹介してもらい
技術を盗みまくる。盗んだ技術を自分の中で
吸収すると自身で使いやすい形にアレンジ
して模擬戦で使用することを繰り返し
気付いた時には3日で【剣術】【盾術】【体術】を習得していた。
「アレクの成長スピードは、目を見張るもの
があるな!」バルド教官が休憩中に声を
掛けてくる。
「自分でも驚いています。技術を盗むのが
こんなに楽しいなんて思いもしませんでしたよ!」
バルド教官は、呆れたように話を続ける。
「いくら、技術を盗もうと再現できる体が
なければなければ意味をなさないさ。
アレクの自身への追い込み方は、ギルド内
でも変態扱いだからな?」
「はぁ?なんで変態扱いなんですかぁ!?
酷すぎるでしょう!?」
(ギルド内で変態扱いとか、イジメられてる
のか俺は……)
バルド教官の発言にショックを受けていると
珍しく受付のセシリアさんが訓練所に
降りてきた。
「あっ!アレク君、今大丈夫?実は相談が
あってDランクの冒険者の人がアレク君と
模擬戦をしたいって言ってるのよ!」
セシリアさんの突然の相談に頭がついて
いかず困っているとバルド教官が内容を
確認してくれた。
「つまり、簡単に説明するとアレクの毎日
訓練所で変態のように技術を盗んで成長する
姿を見かけた冒険者共がアレクのことを
Eランク以上の実力が既にあるでは?と
噂していた所、それを聞きつけた興味本意の
Dランク冒険者が模擬戦を申し込んでいたと
言うことらしい」
そこでセシリアさんが補足を入れてくる。
「すでに上のギルドフロアは、どちらが
勝つかで賭け事が始まっていました」
(なんて、迷惑な話なんだ……俺の意思
確認もしないで賭け事まで始めるとは)
「どうする?アレク?断りづらいと思うが
今ならまだ、断る事もできるぞ?」
大人なバルド教官が俺に選択肢をくれる。
アレクは、少し考えてから答えを出す。
「模擬戦を受けようと思います。ただ
条件があります」
バルド教官が意外そうに問い返す。
「条件?どんな条件だ?」
「はい、それは…………」
それから、2日後。
訓練所でアレクとDランク冒険者との
模擬戦が行なわれることになっていた。
ギルド内の暇な冒険者やギルド職員も
観戦にきていて、ちょっとした祭りのように
なってしまっていた。
アレクが柔軟体操をしていると
Dランク冒険者らしき人が訓練所に現れた。
「初めましてアレクサンダー君、私は
Dランク冒険者 凍てつく突風のリーダー マーシャルだ。
今日は模擬戦を受けてくれて、ありがとう」
20代前半くらいの金髪で爽やかな男性が
握手を求めてくる。
「初めまして、マーシャルさん。今日は
よろしくお願いします」
握手を終えると、改めて一礼する。
そこにバルド教官が現れる。
「両者、準備は終わったかな?なら
早速始めようか……これ以上ギャラリーが
増えると面倒だからな」
訓練所の中心に移動し、バルド教官を
挟んでアレクとマーシャルが向かい合う。
「では、ルールを確認する。お互いに武器は
刃を潰した片手剣と盾のみを使用。
遠距離攻撃及び遠距離スキルの使用禁止とする。それ以外のスキルの使用は許可する。勝敗は降参・気絶・審判である私の判断・に
より決定する。以上で問題ないか?」
「「はい、ありません」」
アレクとマーシャルが2人で答える。
「それと、アレクが勝利した場合
マーシャルの1番、価値のあるスキルを
アレクに伝授すること。これを報酬とする。
マーシャルは異存ないな?」
涼しい顔でマーシャルは、答える。
「はい、こちらからお願いしたことですので
対価は必要ですからね。了承します」
模擬戦をアレクが受ける条件として出した
ことは勝った場合。対戦相手の1番価値の
あるスキルを伝授してもらうことだった。
もちろん、これは勝つ自信があったわけ
ではなく単純にご褒美が欲しかっただけで
あった。
(マーシャルさんは、余裕だな……まぁ
Fランク冒険者見習いに負けることはない
って感じだよな。俺も負けるつもりはないが
1番の目的は格上の相手との対人戦を
体験することだから気が楽だけど)
「でも、楽しみだな……思い切り修行の
成果を試せると思うと……」
誰にも聞こえない声の大きさでアレクは
呟いていた。
「では、お互い距離をとれ!」
バルド教官の指示で3mほど距離をとる2人。
お互いに武器を構え、臨戦態勢に入る。
アレクには、合図があるまでの時間が
ひどく長く感じられた。自分の鼓動が
うるさく聞こえはじめ初めて戦闘をした時を
思い出す。
(緊張してるのか、俺は……しかし、これは
仮想盗賊との戦闘だ。相手は魔物と同じ
命を取り合う相手で狩人同士。待つのは死)
狩るべき敵を、見つめる。相手は格上で
油断している。つけ入る隙はある……
アレクは、自分の心が前と同じように
水の底に深く深く沈んでいき冷たさを
増していくのを感じていた。
以前よりも、冷たさは鋭く
頭で考えることもクリアに判断できる。
(さぁ……狩りの時間だ……)
「では、始め!!」
その合図で、格上の余裕を見せていた。
マーシャルが『ギョ!』とする。
「「【身体強化】」」お互いにスキルを
発動した瞬間。アレクの目が一切感情のない
凍えるような目で、マーシャルを見つめて
いたからだ。
「なっ!?」一瞬、身を固くした
マーシャルは初動が遅れアレクの接近を
許してしまう。
『ヒュン!』辛うじて身を逸らし
少し前まで自分の顔があった場所に
アレクの鋭い剣撃が空を切る。
〈なんだよ!?あの目は!!本当に
Fランク冒険者見習いかよ!〉
マーシャルは、盾を使って距離を取り
片手剣により牽制を行う。
『シュン!』『ガン!』スピードの乗った
剣撃がアレクの盾に当たり体格差があるからかアレクの身体が少しよろめく。
〈ここだっ!〉
「はっ!!」マーシャルの体重の乗った
一撃がアレクの頭上に迫る。
するとアレクは何故か頭上ではなく
素早く盾をマーシャルに向けて突き出して
くる。
〈盾強打が狙いか!しかし、こちらがの方が
早いし子供の盾強打など!〉
多少のダメージは、覚悟でマーシャルは
攻撃の続行を選択する。
(【隠密】【歩行術】)
盾がマーシャルの視界を隠したが
マーシャルの剣はアレクの頭上に……
当たらなかった。
〈手ごたえがない!?〉
『スッ』迫っていた盾が落下しだし
視界が広がるが、そこにアレクの姿はない。
〈どこにいっ……〉『ドスッ!』
マーシャルの背中に鈍い痛みが走る。
「ぐっ!!は」
背後にアレクの気配を感じ、慌てて
前に走り距離を取る。マーシャルが
振り向くと、そこには盾を拾うアレクの姿が
あった。
「やはり、レベル差があると一撃で
大きなダメージは入りませんね……
これで決めたかったのですが……」
苦笑いを浮かべながら、アレクが
マーシャルを見つめていた。
訓練所は、予想外の2人の戦いぶりに
『シーン』と静まりかえっていたが
戦いの空気が途切れた瞬間
爆発したように歓声が上がる。
《おおおぉぉぉ!すげえぇぇぇ!!》
「あの少年やるじゃねーか!本当に
Fランク冒険者見習いかよ!?」
「ああ、素晴らしい動きだったな!あれは!」
観戦していた冒険者達が感想を口々に
言い合いアレクを讃えていた。
「けど、あの1撃で決められなかったのは
痛いな!マーシャルのやつも、もう油断は
しないだろしな」
「ああ、あの少年もあれが奥の手だったの
だろうが……マーシャルもまだ奥の手を
持ってるし、あとは少年がどれだけ耐え
しのぶことができるかだな」
観戦していた者達の意見の大半は
マーシャルの勝ちは確定で、あとは少年が
どれだけ耐えられるか。ということで
纏まっていた。
「正直、ここまでやるとは思ってなくて
本当に……驚いたよ!」
額に汗を浮かべながら、剣を握り直し
マーシャルが話し掛けてくる。
「いえ、最初はマーシャルさんが初手を
譲ってくれると思ったから思い切って
突っ込んだだけですよ……」
アレクも盾を握り直し臨戦態勢に入る。
空気がピリピリと緊張感に包まれていく。
「ここからは、私も本気だ!覚悟して
向かってこい!!」
喋り終わると同時にマーシャルが連撃を
仕掛けてくる。
『ガンッ!』『ガンッ!』『バンッ!』
「くっ!!」アレクの盾と剣をマーシャルの
連撃が襲い強い衝撃が走る。
(なんだ……冷気!?これは……)
盾と剣に違和感を覚えアレクは慌てて
後ずさり距離を取る。
「勘がいいな、アレクサンダー君……」
残念そうにマーシャルが剣をアレクに
向ける。
「なるほど、冷気を付与した剣……
という訳ですか?厄介ですね」
冷気の効果なのかアレクの身体が少し
動きにくさを感じていた。
(盾で受けても、剣で受けても効果がある。
防御不可ということか……)
「頭も回るようだし、降参しても
いいんだぞ?このまま戦うのはつらいだろ」
マーシャルが降参を勧めてくる。
「いえ、元々経験を積む為に模擬戦を
お受けしたんです。降参はしません」
作り笑顔で答えるアレクは、冷気が
煩わしそうに身体を動かしている。
「そうか、なら遠慮なく行くぞ!」
マーシャルが突っ込もうとした時
動きを止める。
「なにを……している?」
マーシャルの視線の先には盾を捨て
片手剣を両手に握るアレクの姿があった。
両手で片手剣を持つ、正眼の構え。
アレクは頭ではなく身体が自然と動き
やすい位置へと剣を動かしていた。
「捨て身の攻撃か……」
マーシャルの表情が固くなる。
〈臆するな!先程と同様に彼の攻撃は
1撃必殺ではない……1撃を耐えて
こちらが攻撃を当てれば勝ちだ〉
この時、マーシャルはアレクの構えに
気を取られ気付くことができなかった。
アレクの目が模擬戦開始の時と同様に
冷たい狩人の目をしていることに……
(【身体強化】本気モード【歩行術】)
『ドガッ!』
「っ!!」マーシャルは肩に強い痛みを
感じ驚愕する。
〈なんの痛みだ!?何をされた?〉
マーシャルがアレクを凝視していると
一言だけアレクが呟いた。
「行きますよ?」
一瞬、アレクの姿がブレて見えたように
マーシャルは感じたが次の瞬間には
身体の複数箇所に激しい痛みが走っていた。
『ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!』
鈍く、けれど素早い音がマーシャルの身体の
あちこちから聞こえる。
〈どこから!?っ!!避けれない!〉
マーシャルは、気がつくと足にダメージを
受けていたのか跪いていた。
「そこまで!勝者 アレク!!」
バルドが高らかに勝者を宣言する。
訓練所は、バルドの声が響き。
その他の声は、聞こえない……
誰かの唾を飲む音が大きく聞こえ
皆の意識が戻ったように時が動き出す。
《おおおぉぉぉ!!勝ったぁぁぁ!!》
「なんだよ!今のは!?スキルなのか?」
「本当に勝ちやがったぞ!!あの小僧!」
「おい!今の何回斬りつけたか、はっきり
わかるやついるか!?」
観戦していた皆が驚愕と畏怖を露わ
にしている間、模擬戦を終えたアレクと
マーシャルは中央で握手をしていた。
アレクは、息を整えようとしていたが
未だに息を乱していた。
「ありがとう……ございました……」
マーシャルは、立っているのがつらそう
だったがバルドが肩を貸し助けていた。
「何をされたか、分からないうちに
勝敗がついてしまったな……本当に
驚いたよ!」マーシャルは負けた悔しさよりも
アレクの戦闘技術の高さに驚きを感じていた。
やっと、息が整ったアレクが話し出す。
「非常に勉強になる、一戦でした。
かなり追い込まれたので、やはり格上との
戦いは違うと改めて実感しました」
そんな2人を守るようにギルド職員たちが
訓練所に集まっていた冒険者達のを上の
フロアに追い出していく。
残ったのは、アレクとバルドとマーシャル
そしてセシリアだけだった。
「2人とも、素晴らしい模擬戦だった。
特にアレク、最後の攻撃には舌を巻いたぞ?
あんな奥の手を持っているとは……
油断ならんな!」
バルド教官が笑いながら肩を叩いてくる。
「バルド教官、痛いです。こう見えても
結構疲れてるんで優しくして下さい」
アレクが疲れた笑顔で希望を伝える。
「アレク君、本当にすごかったわ!
お姉さん、感動しちゃった!!」
セシリアさんがキラキラした視線を
向けてくる。
「セシリアさんも、応援ありがとうございました。お陰様で、なんとか勝てました」
「あと、忘れないうちに今回の報酬を
約束しないといけないな!」
バルド教官がマーシャルさんを見て
目配せをする。
「そうですね……私のスキルを彼に
教えないといけませんね。アレクサンダー君も疲れているようですから後日、改めて
スキルは教えましょう。その時はバルドさんが証人になって下さい」
マーシャルさんが、こちらを気遣いながら
提案してくれる。
「分かった。アレクも、それで構わないか?」
「はい、構いません。その時は
よろしくお願いします」
その日は、念の為とバルド教官と
セシリアさんがギルドの裏口から俺を
逃してくれた。ギルドのフロアに冒険者達が
待ち構えていたらしい。
そそくさと、拠点に帰ると師匠が
むくれて待っていた。
「只今、戻りました。って師匠なんか
怒ってます?」
恐る恐る質問すると師匠は怖い顔で
俺に詰め寄った。
「今日は、上のランクの冒険者と模擬戦を
していたそうじゃないか?なぜ、そんな
面白そうなことを私に黙っていた?」
(しまった……師匠に伝えるの忘れてた)
「すみません、お伝えするのを忘れてました。でも、いちいち模擬戦をお伝えするのも
どうかと……」
「依頼を終えて帰ってきたら弟子が
模擬戦で大活躍したという話を受付から
聞いた私の気持ちがぼーやに分かるか?」
「あっ、はい、申し訳ありませんでした」
師匠の機嫌が直るまで、宥めるのに
かなりの時間を要し。模擬戦よりも
こちらの方が疲れた気がする……
もう師匠に、言い忘れないことを
静かに心に決め。その日は泥の様に
眠りについた。




