信じるか否か
アレクの報告により衝撃を受ける面々だったが……皆が考えて込んでいる中で、ダカダが1人挙手し発言する。
「そのボロ布の男は、アレク殿から見て強そうだったのか?」
個人的な興味から質問したダカダだったが、その質問は会議室に集まった皆が気になっていることでもあった。
ダカダの質問にアレクは、正直に答える。
「正直な話……得体の知れない魔物と接しているような感じだった。こちらの探知スキルは、全く効果がなかったし……それに、あの高温の中を歩いて来ていた時点で、普通の者じゃないからな。かなりの余裕が感じられたことから、もしかしたら奴の方が俺よりも強いのかもしれない」
アレクの口から語られた男の強さに、皆は言葉を失う。
今後、その男が再びアクアエに牙を剥くかもしれないと考えたからだ。
しかし、皆が暗い顔をしている中でもアレクは、一切の動揺を見せない。
「けれど……俺も、まだまだ強くなれるはず。ボロ布の男と戦うことになるのは、奴の言葉通りなら暫くは先の筈です。その間に力を蓄えて、俺は戦いに備えようと思います」
「えっ?」
予想外な発言を聞いた戦姫達は、思わず素っ頓狂な言葉を漏らす。
「えっと、皆さん勘違いしてると思いますが……俺は自分のことを英雄だなんて、考えていません。英雄と呼ばれる程、できた人間でもないし、完成された強さを持つ者でもありません……未だ発展途上にある冒険者です」
「そ、それは言い過ぎでは?」
アレクの言葉に驚きながらツワロスが、言葉を掛けてくる。
それをアレクは、当然のように否定する。
「いいえ、世界には人族や獣人族を遙かに超越する存在など幾らでもいると、俺は考えています。恐らく……あのボロ布の男も、それに相当する実力を持っているでしょう」
「それでは……最初から敵わない相手であると?」
「だからこそ、鍛錬を積み工夫を凝らし、少しでも勝つ確率を上げるのではないですか。こちらを凌駕している相手なら、足りない実力は何かしらの手段で補うしかないですからね」
会議室に集まった戦姫・セツナ・ツワロス・メリル・ダカダは、初めてアレクという人間の本質を目の当たりにした気がした。
自分よりも、圧倒的に強いと思われる相手の背中を、キラキラと瞳を輝かせて見据えている姿勢……そして、その領域に至ることを疑問を抱かずに目指すことのできる精神力。
自分達が諦めてしまいそうな状況でも、アレクは決して諦めていないことに、皆は元気付けられる。
遥か先を見据えているアレクは、他の者にはない不思議な魅力があった。
それを肌で感じ取った戦姫達は、俯いていた顔を上げる。
「そうですね……まだ戦ってもいないのに諦めることなど、愚の骨頂です。今は国内の安定化と今後の戦いに備えて、力を蓄えることに注力すべきでしょう」
前向きな姿勢を見せる戦姫に続き、ツワロスも力強い声で応える。
「ええ、戦姫様の言う通りです!今回のことを教訓に……カエルレウム軍と冒険者による、対魔物の演習なども考えた方がいいと思います!それに、これからは獣人族とも共に戦って行けそうですしね」
ツワロスから話を振られたダカダは、頭を掻きながら少し照れたように応える。
「ああ、今までの事を水に流すのは難しいが……ここで獣人族の扱いについて改めてもらえると約束頂けるなら、俺達は前向きにアクアエのために働きたいと考えてるぜ?元々俺達もカエルレウム共和国の国民だからな」
嫌味や駆け引きではなく、照れ隠して発言するダカダの姿に、一同は笑いを堪え切らなくなってしまい、吹き出してしまう。
なんとか平常心を取り戻した戦姫達は、ダカダの言葉もあり……今後のアクアエの在り方や獣人族の扱いについて話し合うことになった。
その辺りのことは部外者であるアレクとエレナは、皆に一声掛け会議室を後にする。
2人が並んで廊下を歩いていると、不意にエレナがアレクに問い掛けてくる。
「アレクさん、皆さんに本当のことを言わなくても良かったんですか?」
アレクは歩みと止めるとエレナの方を振り返り、申し訳なさそうに言葉を漏らす。
「まだ確定した事実でないことは、戦姫達には話せないさ。それに今はまだ話すべき時期ではないと、俺は考えている」
「別にアレクさんの決定に異を唱えつもりはありませんよ……けれど、何かを迷っているように見えたので」
エレナの観察眼は、確かにアレクの迷いを感じ取っていた。
アレクが上辺だけの理由で、本音を隠していることも分かった上で、客観的に意見を言ったに過ぎない。
「……そんなにバレバレだったか?一応、表情は隠していたつもりだったんだけど……」
「なんとなく、雰囲気で分かりますよ?それとカインさん達も同じように分かると、思います。皆さんアレクさんのことを気遣っていますから」
「そうか……敵わないな……そいつは」
少しだけ嬉しそうに笑うとアレクは、また歩き始める。
そして仲間達が待つ部屋へと、向かっていくのであった。
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戦姫達が待つ会議室に向かう少し前に、アレクは仲間を自分の客室に集めて情報共有を行っていた。
本来なら、戦いが終わって直ぐに情報共有を行いたかったところだが……アレクの体調が中々、良くならなかったことで大分、遅れての開催となっていた。
そこでアレクは、エレナとキアから王城であった出来事を詳しく聞くことになった。
それからアレクも自分達の身に起きたことを、エレナ達に報告し情報を補完し合っていく。
そして、アレクが唯一遭遇したボロ布の男についても仲間達に話すことになった。
ボロ布の男の話を聞いた仲間達の反応は、様々だったが……皆、同じような青い顔をしていた。
そんな仲間達にアレクは、自分の過去と敵の正体についても詳しく話し始める。
「皆には以前話したと思うが……俺には前世の記憶がある。実は……それ以外にも知っていることがあるんだ」
「記憶以外にも?その知ってることって何なんだよアレク?」
「これから話すことは、かなり信じられない内容になるけど……落ち着いて聞いてほしい」
そう前置きしたアレクは、この世界に転生した事実と経緯を皆に語り始める。
向こうの世界で死ぬことになり、一定の条件を満たしていたことで、この世界〈ティエーメ〉に転生することになったこと。
その際に、創造神クラデウスと接触することになり、アイテムボックスなどの恩恵を与えてもらったこと。
また特に目的や使命など与えられたわけではなく、自由に人生を送るように言われたことなどを話していく。
まさか創造神クラデウスの名前が出てくるとは考えておらず、そして神に会ったことがあるという端から見れば、虚言に近いアレクの言葉を、皆は口を開けて聞いていた。
アレクも皆に出来るだけ理解しやすいように話すことに注意を払いながらも……話が進むにつれて段々と、仲間達の反応が怖くなってくる。
全てを語り終わったアレクは、仲間の反応を恐る恐る窺う。
特に神に仕える者であるアマリアの反応が予想できずに、胃がチクチクと痛むような感覚に襲われていた。
そして痛い程の沈黙の後に、アマリアから第一声が放たれる。
「アレク……1つ質問があるんだけど……初めてドォールムの教会に来た時のことを覚えてる?セロネス司祭に会った時のこと」
「初めてドォールムの教会に来た時のこと……ああ、覚えてるよ」
「その時、お祈りを捧げてたけど……あの時、もしかして創造神クラデウス様と何かあった?」
アレクは、その時のことを思い出すと……確か祈りを捧げてみたら神様と話せたことがあったと思い当たる。
「ああ、あの時は確か神様と話してたよ。祈ってみたら偶然、返事があったな」
「そうだったんだ……だから……」
何かの確証を得たアマリアは、真っ直ぐにアレクのことを見つめ、はっきりと自らの意見を表明する。
「私はアレクの話を信じるわ!理由は、アレクが創造神クラデウス様と心を通わしている所を見たことあるから!皆は、どうなの?」
あっさりとアレクの話を信じたアマリアは、皆に信じるか否かを問い掛ける。
その問いに次に答えたのは、ミカエラだった。
「ぼ、僕もアレクさんの言うことを信じます!アレクさんは、決して信仰を貶めるような嘘を吐く人ではありませんから」
それに続くようにキアとエレナも、自らの意見を話を始める。
「私は別にアレクを疑うこともありませんわ。仲間が本気で言っていることなら、信じることにしてますので」
「私は、神について興味がありますね。アレクさんの話は実に興味深いです。ですので、一応は信じてますよ?」
最後に残ったカインにアレクは顔を向ける。
その瞬間、ドガッと腹を殴られてアレクは膝から崩れ落ちる。
「――っ!!」
思わぬ攻撃にアレクが悶絶していると、アレクの目の前に立つカインが……拳を握りながら、怒りを含んだ言葉をアレクにぶつけてくる。
「これは、いつも隠し事をして俺達を心配させてる分だ!!もうちょっと俺達を信用してくれてもいいだろ!?」
「……うっ!……申し訳……ない」
「別に全てを話せとは言わないぜ?けど、さっきのアレクの様子を見て確信した……俺達がアレクの話を信じないかもって考えてだろ?そいつが俺は我慢ならねぇーんだ!」
遠慮なく、もう一発拳を入れようとしていたカインを、アマリアとミカエラが止めに入ってくれる。
未だ本調子でないアレクを心配してのことだったが……顔は何とも言えない表情をしていたことで、アレクは2人の気持ちを窺い知ることができた。
「皆……すまなかった……俺が臆病なばかりに心配を掛けて……」
痛みが残る腹を押さえながら、アレクは仲間達に対して謝罪を口にする。
そしてアレクの言葉を遮るようにカインが、本題を話すように催促してくる。
「俺も皆も、アレクの言うことなら信じて聞いてやる!だから……アレクが本当に話したいことを話してくれ!」
その言葉を後押しされるように、アレクは静かに本題を話し出す。
「ボロ布の男の正体……あれは多分、俺と同じ転生者だ」




