掃討作戦
平原は焦土と化し、焦げ臭い煙が漂う中を人々は駆け抜ける。
迷いはなく、恐れもない……ただ目の前の敵を討つことに集中して、心のままに雄叫びを上げる。
「「「うおおおおぉぉぉぉ!!!」」」
武器を持った集団の中から最初に飛び出したのは、白い毛に黒い虎柄の獣人ダカダだった。
他の獣人よりも前に出たダカダは、鋭い爪と鍛え上げられた腕力をもって、魔物の頭を軽々と吹き飛ばしていく。
頭を刈り取られた魔物は立ったまま首から鮮血を吹き出し、次々に膝から崩れ去る。
魔物達の間を突風の如く駆け抜けていくダカダは、高らかに声を上げる。
「おらおら!どうしたっ!魔物の力は、そんなもんか!?もっとかかって来いぃ!!そんなんじゃ俺は止められねぇーぞ!!!」
猛々しく魔物の大群に切り込んだダカダだったが……あっという間に魔物に囲まれてしまう。
ダカダを取り囲んだ魔物達が一斉に襲いかかろうとするが、それは一点突破の炎の突きによって崩される。
「おい!アレクの技を見て興奮してるからって、1人で突っ込むなよ獣人のオッサン!!」
炎の中から炎槍を構えたカインが、姿を現しダカダと背中合わせに魔物と向き合う。
「へっ!あんなすげぇ技見せられたら、負けてられねぇーって気持ちになるだろうが!」
「あぁ、気持ちは分かるぜ!美味しいところはアレクが全部、持ってちまったからな!ここくらいは大暴れしてやるぜ!!」
カインが突き崩した包囲網は直ぐに修復され再度、魔物達に囲まれる。
そんな時、上空から幾つもの銀の輝きが降り注ぎ魔物達の頭を射抜いていく。
ダカダとカインが上空を見上げると、そこには空中を飛び回りながら、矢を放つキアの姿があった。
矢を魔法袋から取り出し、速射で次々に魔物を屠っていく。
カインが礼を言おうとすると、キアから罵倒が飛んでくる。
「そこのバカ2人!!頭を下げて下さいですわ!!!」
キアの声に危険を感じたダカダとカインは、言われるままに直ぐに頭を低く下げる。
その直後……ザシュ!と鈍い音が2人の周りに響く。
恐る恐る頭を上げた2人の周りに広がっていた光景は、水平に切り飛ばされた魔物達の死体だった。
辺りは一気に血生臭くなり、残った下半身が一斉に地面を血で汚す。
「全く……協調性というものがないんですか?あなた達は……」
ダカダとカインが声を掛けられていた時には、先程まで操っていた特大鎌を元のサイズに戻しながら、エレナが歩み寄ってきていた。
「今のはエレナ殿がやったのか?どういう攻撃なんだ?」
見慣れない戦い方をするエレナに、興味深々なダカダだったが……悠長に話している場合でないことを、直ぐに思い出す。
次の魔物がダカダ達の元に、次々に押し寄せて来ようとしていたからだ。
「話は後です!ここからは連携して魔物に対処します!先ずは獣人族の方々、お願いします!!」
「「おおぉぉぉ!!!任せとけぇぇ!!」」
エレナの声に応えるように、獣人族の集団は一丸となって魔物の大群に突っ込んでいく。
鋭い爪と脚力による突破力を活かして、魔物の大群に大きな亀裂を作り出す。
「次っ!!冒険者の方々、お願いします!!」
「うおおぉぉ!!任せろぉぉ!!」
獣人族が作った大きな亀裂に、大小様々な盾を装備した冒険者が入り込み、傷口を広げるように魔物を討伐していく。
その一撃、一撃は的確に魔物達の命を奪い、あっという間に周囲の魔物を一掃する。
「良し!次は東に回り込んで魔物を狩ります!!行きましょう!」
「「おおぉぉぉ!!!」」
すっかり集団を率いたエレナは、魔物達が怯んでいるものが多い場所を集中して攻め始めていた。
さっさと移動を開始するエレナ達に、無視されたダカダとカインはポツンと平原に取り残される。
「俺……一応、獣人族の代表なんだが?」
「あれ?俺は大暴れするはずだったのに……もしかして、エレナに全部持っていかれた?」
唖然としている2人に、上空から舞い降りたキアが声を掛ける。
「エレナは以外と指揮する立場が、性に合っているのかもしれませんわね……それ以前に、2人が無鉄砲過ぎますけど」
「ひどい言いようだなキア殿……だが、なら我々はどこで戦う?」
「そうだぜ……このまま終わるわけにはいかないだろ?」
無鉄砲な2人をエレナに押し付けられたキアは、大きなため息を吐くと肩をガックリと落とし、2人を顔を見つめる。
「仕方ないので上空から私が2人を誘導しますわ。大群から逸れた魔物達が、エレナ達の背後を取らないように立ち回りましょう!」
「おう!そりゃありがたい!頼むぜキア殿!」
「それじゃあー誘導宜しくキア!」
話し終えたキアは、上空に上がると高い位置から魔物達の配置を見通し、ダカダとカインに移動の指示を出す。
群れから逸れた魔物、エレナ達を死角から狙おうとする魔物を中心として狩り着実に処理していく。
こうして、獣人族達と冒険者達の活躍により魔物の大群は、討伐されていった。
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「「「うおおおおぉぉぉぉ!!!」」」
雄叫びを上げながらアレクの攻撃によって、二手に分断された片方の魔物の大群に向かって、駆けて行く第3勢力の参戦に戸惑いながらも、戦姫は彼らの雄叫びによって自分達が戦闘中だったことを思い出す。
戦姫は直ぐに頭を切り替えて、兵士達に指示を出す。
「こ、この好機を見逃すなぁぁ!!残った魔物共を殲滅しアクアエに平和を取り戻すぞぉぉぉ!!!私に続け!全員突撃ぃぃ!!」
戦姫の叫びに、正気を取り戻した兵士達は武器を強く握り直すと、戦姫を先頭に魔物の大群に向かって駆け出していく。
最初に攻撃を仕掛けたのは、先頭を駆ける戦姫だった。
魔物達が攻撃範囲に入ると前進を止め、一瞬で攻撃態勢に入る。
「突き殺す刃……【氷の雨】!」
流れるような一切の無駄のない動作で、戦姫はレイピアによる連撃を突き放つ。
レイピアが突き出された一瞬のみ凛々しい姿を現し……早過ぎる攻撃は残像を生み出して、戦姫の姿を幾重にも見せる。
広範囲に展開された氷の針は、無慈悲に魔物の体を貫通し、無数の穴を作り出す。
その中には致命傷を避けた運の良い魔物もいたが……致命傷を避けられたことが、逆に恐怖を生み出す。
それは体の内側から血管・内蔵が凍りつき、命を蝕んでいく。
恐怖を顔に張り付けて出来上がった氷の彫像は、戦姫を追い越した兵士達により打ち砕かれる。
戦姫によって完全に統制された兵士達は、まるでそれが1つの生き物のように機能する。
途中合流した元王族派でさえも、驚くことに戦姫の指揮に順応していた。
戦姫の指揮に慣れていない兵士達が、何故違和感なく動くことができたのか?それは、カエルレウム軍クーデター派の練度のお陰であった。
3人1組になっている兵士達の割合は、2人クーデター派・1人元王族派である。
必然的に動きの主導権を握ることになるのは、クーデター派の兵士であった。
それにより戦姫の指揮を淀みなく受け取り、それを元に自分の組に反映する。
それをほぼ全ての組が連動して行うことで、即席でありながら練度の高い動きを可能としていた。
それ故に組織的な守備は、魔物の大群を押し留め確実に数を減らしていく。
獣人族達や冒険者達が攻めの連携だとすれば……カエルレウム軍は守りの連携を得意としていたのだ。
そして、そこに戦姫の指揮と氷の攻撃が加わることで、カエルレウム軍は恐ろしい組織力を発揮していた。
戦姫が凍られせ、兵士達が打ち砕く。
兵士達が守りを固め、戦姫が突き殺す。
戦姫を起点とした攻防一体の戦術で、魔物の大群は破竹の勢いで掃討されていった。




