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裏舞台

 新たな魔物の大群がアレク達に迫っていることを察知したエレナ達は、獣人族と合流し戦力増強とアレク達への加勢を急ぐ。

 集合地点である正門に到着したエレナ達を待っていたのは、冒険者達を引き連れて準備を進めているツワロスだった。


 集まってきた獣人族にも忙しそうに指示を出し、報告を受けているツワロスにエレナ達は駆け寄って行く。

 ツワロスも自分に駆け寄ってくる気配を察すると、エレナ達の顔を確認してニッコリと微笑む。


「どうやら獣人族を説得できたみたいですね!大したものです」

「ツワロスさん!?これは一体?冒険者ギルドから応援は、派遣できなかったはずでは?」

「それなんですが……皆さんが冒険者ギルドを出て行かれた後に、モルレト平原の先の森林地帯に偵察に出していた者達が戻ってきまして……新たな魔物の大群を発見したのです」


 エレナ達は顔を見合わせて先程、自分達が感知した事態についてツワロスに話す。


「そうですか……兵士達では対応できない大型の魔物が混じっているとなると、やはり冒険者の力が必要になりそうですね」

「それにしても良く短時間で人と物資を集められましたね……驚きです!」


 正門には多くの人と物資が集まっていた……人は冒険者だけでなく人族の薬師や武具を運び込むドワーフ、それを手伝う獣人族など多種族が協力して準備を進めている。


「これがアクアエの力ですよ!多種族が力を合わせ困難に立ち向かうことができる。そして、それを可能にしているのが水路による人と物資の運搬です」

「確かに武器や薬に食料など、急遽集められたとは思えない量ですね。必要な物を人と一緒に集めたわけですか」


 ツワロスが加勢の準備を進めておいてくれたお陰で、あとは冒険者と獣人族が集まり次第、アレク達に加勢する態勢が整おうとしていた。

 やがて正門に現れたダカダからは、非戦闘員の獣人族には街での注意喚起や、冒険者ギルドの職員と一緒にアクアエの混乱防止に動いてくれていることを聞き、準備は完了する。


 そんな中、正門に来てからずっと伝心の指輪による連絡を試していたキアが、明るい顔を見せる。


(アレク!無事ですの!?)

(あぁ、こっちは何とか無事だ……けど、魔物の大群の第2波が直ぐそこに迫って来てる)

(それは分かってますわ!こちらは冒険者ギルドと獣人族の増援を、準備しているところですわ!あと少しで合流できると思いますわ)

(それは本当かっ!?なら、俺はこれから灼熱剣を使って、トロールやオーガの大型魔物の掃討に向かう。キア達には残った魔物の相手を頼みたい!)


 キアはアレクより、簡単に現在の状況説明を受ける。


(出来るだけ広範囲に炎を放って、魔物の大群を分断する。片方はカエルレウム軍が担当し、残った方は冒険者達と獣人族に担当してもらうことになる。それと合流地点にはカインを配置しとくから、目印にしてくれ!)

(了解ですわ!アレク……くれぐれも気を付けて!)

(あぁ!分かってる!あとのことは頼んだぞキア!!)


 そこまでで、伝心の指輪による念話は切れてしまう。

 キアは、急いでアレクの作戦を集まったエレナ・ルプル・ツワロス・ダカダに説明する。


「――ということで、分断された魔物の大群を相手にするのが私達の仕事になりますわ!何か質問は?」

「では、俺から……その灼熱剣というのは、どのくらいの威力なんだ?本当に魔物の大群を分断できる程のものなのか?」


 作戦の核となる部分に、アレクのことを知らないダカダが突っ込みを入れてくる。

 それはキア以外の者が皆、思っていたことだった。

 唯一間近で灼熱剣の威力を見たことのあるキアは、力強く頷き自信を持って返事をする。


「広範囲に大地を真っ黒に焦がす程、強力な技なので心配はないと思いますわ!その代わり連発できる技ではないので……作戦の成功は、むしろ私達に掛かっていますわ」


 キアの言葉にダカダは、大笑いする。


「へっ!そいつは楽しみだな!《漆黒の魔弓》のアレクか……どんなやつかワクワクするじゃねーか!はははっ!」

「この件が落ち着いたら、模擬戦でもしてもらったらどうですの?私も過去に模擬戦をしたことがありますわ」

「おっ?そいつはいいな!是非、手合わせしてみたいもんだ!頼んでみるか?」


 変ところで意気投合したダカダとキアは、笑顔を見せながら話し込んでいた。

 そんな2人を呆れながら見ていたエレナは、ツワロスと別れ冒険者達と獣人族を率いて、モルレト平原へと移動を開始した。


 そして、モルレト平原に佇むカインと合流を果たした頃には、皆の視線は平原を埋め尽くす魔物の大波と炎の渦に釘付けになっていた。



 ===============================



 草原に突如とつじょとして舞い降りた巨大な5つの炎の渦は、周囲を巻き込みながら熱量を増していく。

 遠目から見ても触れれば、一瞬で燃え尽きそうな大魔法に、獣人族達は体に震えが走る。

 普段から近接戦闘専門の彼らは、魔法士は距離を詰めれば、強者とならない存在として認識していた。


 しかし、目の前の大量の炎の渦を見た獣人族は、もう魔法士をあなどることはしないと心に誓う。

 そして獣人族だけではなく、冒険者達も桁違いの大魔法に圧倒されていた。

 普段目にする火炎ファイヤ・ボール鬼火ゴースト・ファイヤなどの魔法ではなく、多くの者が初めて見る大魔法は、彼らに大きな衝撃を与えた。


 特に冒険者の魔法士達は、大量の魔力を消費するばずの大魔法にも関わらず、それを5つも発動できている事実に驚いていた。

 自然と視線は、黒いローブを着た魔法士へと注がれていく。

 冒険者達の注目を集める中……黒いローブの者は、次の大魔法を発動させる。


 それは刃の竜巻……目に見える程に研ぎ澄まされた風の刃が、幾重にも重なり合い大きな竜巻を形成している。

 竜巻に触れた魔物は、あっという間に切断され竜巻に吸い込まれていく。

 殺傷能力の塊のような竜巻は、みるみる魔物達の命を吸い込み、そして消し去っていた。


「ミカエラさん……只者ではないと思ってましたけど、あんなに凄かったんですね」


 ミカエラが大魔法を使ったところを見たことがなかったエレナが、呆気にとられながら感想を漏らす。


「ミカさん、前に見た時よりも実力を上げてますわ。相変わらず可愛い顔をして、えげつない戦力ですわね……実はアレクの次に、《漆黒の魔弓》で強いんじゃ――」


 キアがミカエラの実力に感心していると、炎の渦と刃の竜巻が合わさり、より巨大な炎へと生まれ変わっていく。

 それは紅蓮の台風だった……全てを飲み込み、燃やし尽くされた魔物は炎のかてへと変換される。


 まるで空腹が満たされない貪欲どんよくな化物が、次々に魔物達を喰らうように炎の中へと消えていく。

 いつ間にかエレナ達の隣に移動してきたカインは、手で影を作りながら遠くに見える紅蓮の台風を観察する。


「おおっ!これは凄いな!ミカめ……ここぞとばかりにアレクに尽くしてるな。しかし、これが灼熱剣の火種になるのか……恐ろしいな」

「カインさん、お疲れ様ですわ。でも、あの規模で灼熱剣ってマズくありません?」

「あぁ、大変なことになりそうだな……でも、多分今回は全力で限界に挑戦する気だと思うぜ……アレクのやつ」


 カインとキアが、慣れた様子で今後の展開について話していると……少し離れた場所にいた獣人族のダカダが、慌てた様子で駆け寄ってくる。


「おい!エレナ殿!あれが話に出ていた灼熱剣の攻撃ではないのか!?我々は直ぐに突っ込んだ方が良いのではないか?」


 紅蓮の台風を灼熱剣の攻撃だと勘違いしたダカダが、突入のタイミングを確認してくる。

 しかし、ダカダの問いに対してエレナではなく、近くにいたカインが答える。


「えっと、獣人族の方!まだあれは灼熱剣の攻撃ではないので、もう少しだけ待機しててくれ!」

「何っ!?あれが魔物の大群を分断する攻撃ではないのか!!?」

「あぁ、ここからが本番だから間違えて先に突っ込まないでくれよ?シャレにならないからな」


 ダカダは、カインの視線を追うように1人の男の姿を発見する。

 それは黒い大剣を構えた男の姿だった……だが、その姿を見ただけで、ダカダの全身の毛が逆立っていく。

 理屈ではなく獣としての本能が、ダカダに危険を全力で訴えかけてくる。


「あれが……」

「そう……あれが《漆黒の魔弓》のリーダー アレクだ。これからの技は滅多に見られないものだから、じっくり見るといいぜ!獣人族の方」


 カインの話が終わるタイミングで、ダカダは戦場の変化を感じ取る。

 紅蓮の台風が、ジリジリと移動し出したのだ。

 その先には大剣を構えたアレクが、不動で炎を待ち構えている。


「あぶ――」


 ダカダが“危ないのでは?”と問いかけようとした時……はっきりと炎に変化が訪れる。

 紅蓮の台風は、灼熱に輝く大剣を両手で天に掲げ、構えを取るアレクの元に集まりだしたのだ。


 生き物のように動く逆巻いた炎が、天に昇り吸い込まれるようにアレクの構える灼熱の大剣に集まると、吸い込まれた炎に比例するようにアレクの構える大剣は、白く清廉せいれんな輝きを増していく。

 だが、本当に注目すべきことにダカダは、直ぐに気付いた。


「彼は何故……あの中で生きていられる?」


 ダカダの瞳には、全てを焼き尽くす白き美しい輝きが映っていた。

 魔物も大地も灼熱の輝きに滅され包まれていく中で、唯一人の形を留めている者にダカダは恐怖する。

 しかし、ダカダは自分の認識が甘かったことを、直後に思い知る。


 紅蓮の台風を全て吸収したアレクから、更に衝撃波と熱風が発せられダカダ達を襲う。

 かなり距離を取っているにも関わらず、命の危険を感じる程、傍観者達の鼓動は早くなっていた。


 そして何人もの冒険者や獣人族が、アクアエの外壁の異変を目撃していた。

 アクアエの外壁を覆う水の薄布ベールが、一部蒸発し始めていたのだ。

 それはアレクから最も直線距離が近い場所であったが……紛れもない事実であった。


「あれは……人か?」


 その言葉は冒険者の誰かが呟いたものなのか、それとも獣人族の誰かが呟いたかは分からない。

 しかし、人や獣人族という存在を超越した者に、皆が畏怖いふ念をを抱いていた。


 それからは、一瞬のことだった……白く輝く大剣でアレクが前方を薙ぎ払ったと思うと、白い閃光が平原を走り、魔物の大群を消し炭にしていた。

 苦痛を与えないという点で、慈悲とも解釈できる浄化の炎は、魔物を無に帰す。


 その光景を目の当たりにした者達は、誰も言葉を発することができなかった。

 それ程に圧倒的な力であり、非現実的な体験だったのだ。

 魔物でさえ恐怖で、動きを止める一撃を放ったアレクを眺めながら、冒険者達と獣人族達は思った……あれを受けるのが自分達でなくて、本当に良かったと。


 黒い波のようにひしめいていた魔物の大群は、半数以上が燃え尽き、後に残ったのは小型や中型の魔物だけになる。

 アレクの作戦通り分断された魔物は完全に動きを止め、絶好の攻撃タイミングが訪れていた。

 未だに状況を飲み込めずに、固まっている冒険者達や獣人族達に向かい、カインは指示を出す。


「これより分断された魔物の討伐を行う!魔物が動きを止めている今こそ、絶好の好機だ!!皆、覚悟はいいか!?」


 カインの凛とした声が、固まった者達の間を駆け抜けると……皆は、ここに来た本来の目的を思い出し、武器を握り直す。


 集団の先頭に立つカインが、同じ様に並んでいるダカダやエレナ達と顔を見合わせ頷く。

 視線の先にいる魔物達を見据えると、カイン達は一斉に胸一杯に息を吸い込み、駆け出すと同時に雄叫びを上げる。


「「「うおおおおぉぉぉぉ!!!」」」


 集団は全速力で魔物達との距離を詰め、魔物達に奇襲をかける。

 こうしてモルレト平原、最後の戦いが始まったのであった。








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