表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/154

誇り

 アクアエ冒険者ギルドのギルドマスターであるツワロスから、獣人族達の隠れ家を教えてもらったエレナ達は、魔物の大群討伐に加勢してもらうべく交渉に向かった。

 しかし、元王族派との共闘を望まない獣人族達から、口撃を受けることになり交渉どころではなくなってしまう。


 そんな中で会議室に集まった獣人族を黙らせる一撃の音が、部屋中に響き渡る。

 ドガッ!!部屋の壁を拳でブチ抜き、肩を震わせている者に、会議室内の全ての視線が集まる。

 エレナとキアは、予想外の事態に目を見開いて固まっていた。


 そして皆の視線を一身に受けながら、ターバンを頭に巻いたルプルが長机の前へ、ゆっくりと歩み出す。

 そして大きく息を吸うと……魂を込めて言葉を放つ。


「うるせーぞぉぉ!!この腰抜け共がぁ!それでもタマ付いてのかぁ!!ああっ!?」


 見た目が人族と変わらないルプルが、面と向かって獣人族に敵意を剥き出しする。

 獣人族達も、まさか逆に怒鳴られるとは考えていなかったようで、きょとんとした表情を浮かべる。

 そこから、ルプルは獣人族に向かって溜まっていた感情を吐き出すように、勢いに任せて喋り続けた。


「大体、黙って聞いてれば……エレナさんに向かって好き放題言いやがって!エレナさんは、元王族派でもなければアクアエの冒険者でもない!けれど、この戦いを終わらせるために態々(わざわざ)、ここに頼みに来てくれたんだぞ?それなのにあんた達は、目の敵のように罵倒しやがって!恥ずかしくないのか!?ああ?」


 獣人族に対して喧嘩腰に喋るルプルに圧倒されていた者は、取り繕うように反論してくる。


「そ、それなら……何故その女は俺達に助力を求める?実は元王族派のスパイじゃないのか?」


 苦し紛れの反論に、ルプルが怒りを爆発させそうになっていると……エレナが冷静な声で問いに答える。


「それは私達、《漆黒の魔弓》のリーダーアレクが戦姫に協力し、今まさに魔物の大群と戦っているからです。その助力を求めるためにここを訪れたのです」

「お前達のリーダーが既に戦っているのか……なるほど」


 エレナの答えに獣人族の中で、唯一落ち着いて話を聞いていたダカダが、言葉を漏らす。

 一瞬だけ会議室の中に静けさが戻ってくるが……それは静観案に賛成する獣人族によって、直ぐに乱される。


「それがものを頼む態度と言葉か!?特にそっちのターバンを巻いた人族の娘……何様のつもりだ!!」


 数人の体が大きい獣人族が、ルプルに対して食ってかかる。

 その数人はエレナに対して、特に酷い罵倒を繰り返していた者達だった。

 そんな獣人族達に向かってルプルは、キッと睨みつけ反撃する。


「頼む態度や言葉遣いなど関係ない!これは獣人族の誇りの問題だ!!自分達の国のために立ち上がれない、腰抜けは引っ込んでろ!それに私は人族じゃない!半獣だ!!!」


 ルプルは、おもむろに頭のターバンを外すと、獣人族の前で堂々と姿を見せる。

 見た目と獣人族だと分かる匂いがしなかったことから、ルプルを人族だと思い込んでいた獣人族の者達は目を丸くする。

 しかし、それと同時に数人の獣人族はルプルを馬鹿にしたような視線を向ける。


「ちっ……半獣が何故、人族と一緒にいる?勝負に負けて飼われでもしたか?」


 ルプルを侮辱ぶじょくする発言が獣人族から、聞こえてくると……エレナは流石に、これ以上問題を起こすのはマズイと考え、ルプルを止めようとするが……エレナが止める前に大声が会議室に放たれる。


「今の発言……取り消しなさい!!!誰であろうと彼女のこころざし侮辱ぶじょくすることは許しませんわ!」

「なっ……なんだ、お前は!?」


 先程まで必死に感情を抑えていたキアが、勢い良く前に出る。

 被っていたフードを外し、美しい金色の髪と長い耳が皆の前に晒される。


「私はキア・テーネル。エルフの里の戦士であり、彼女の友人ですわ!何か問題でも?」

「え、エルフ!?何故、エルフがアクアエに?それに半獣とエルフが友人だと?」


 キアの正体に会議室に集まった獣人族が、騒然としていると……キアは、ざわざわとうるさい獣人族を無視して話を続ける。


「私はエレナと同じ冒険者チーム《漆黒の魔弓》に所属しています。そこで戦姫直属の部下であるルプルと出会いましたわ。彼女は1日でも早く、平穏なアクアエを取り戻そうと尽力していました……その姿は私の中にあった、乱暴で野蛮な獣人族の勝手な印象をくつがかえしましたわ」


 過去の仇敵であるエルフの口から語られる言葉には、獣人族にも分かる重みがあった。

 それは嘘ではなく、本心で話してることが言葉の端々(はしばし)から滲み出る、後悔と共に伝わってくる。


「そしてルプルは、ここに居る誰よりもアクアエのため、獣人族のために頑張ってきましたわ……そんな彼女を侮辱ぶじょくすることは、私は絶対に許しませんわ!先程の言葉を撤回し、ルプルに対して謝罪を求めますわ」


 キアの口から語られる強い意志が宿った言葉に、獣人族の者達は返す言葉を持たなかった。

 ルプルを侮辱ぶじょくした獣人族も、自分の発言がどれだけ恥知らずだったかを悟り、うつむいて唇を噛み締めていた。

 少しずつ落ち着きを取り戻し始めた会議室で、黙って話を聞いていたダカダが重い口を開く。


「先程の言葉、撤回しお詫びしよう。申し訳なかったルプルという者よ……お前の働きは獣人族として誇られるものであり、決して侮辱ぶじょくされて良いものではない」


 代表であるダカダは、迷うことなくルプルに対して頭を下げる。

 周りの獣人族は、まさか代表であるダカダが頭を下げるとは考えていなかったようで、動揺と戸惑いが会議室を包む。


 しかし、頭を下げ続けるダカダの姿を見ていた獣人族は、自分達も頭を下げなければならないと察すると……次々に頭を下げる。

 ようやく全ての獣人族が頭を下げると、ダカダは頭を上げ、エレナ達を見つめてくる。

 それに対してルプルは、落ち着いた様子で返事をする。


「謝罪を受け入れます。私も頭に血が上り、失礼な態度や言葉遣いになってしましました。申し訳……ありませんでした」

「謝罪を受け入れてもらい、感謝する。それに皆も少し熱くなり過ぎだ……喧嘩するために、話し合いをしているわけではないだろう?」


 ダカダの発言を受けて、ヒートアップしていた会議室は冷静さを取り戻していく。

 そんな中でダカダは、先程ルプルが話した内容で気になることがあり、質問をしてくる。


「ルプルよ、今さっき“獣人族の誇りの問題”ということを言ってたが……そりゃどういう意味なんだ?それが俺達が加勢することに関係あるのか?」


 他の獣人族は、いつルプルが言ったことかと思い出そうとしていたが……その前に話は先に進んでいく。

 ルプルは大きく息を吸い込むと、自分の心の中にある言葉を言語化していく。


「私は幼い頃から、偉大な国王と獣人族の話が大好きでした。互いに憎しみ合い、殺し合っていた存在が種族の壁を越えて、1つの美しい街を作り上げたお話が……心優しき国王と力自慢の獣人族が手を取り合う物語、その末裔が自分達だと考えただけで、誇らしい気持ちになれました」


 ルプルの話に獣人族の皆が、子供の頃を思い出し感慨深そうに何度もうなずく。

 それは獣人族であれば、誰もが知る寝物語である。

 子供ながらに素晴らしき慈愛を持つ国王に感動し、物語に出てくる獣人族の者達の活躍に、胸を躍らせたものだ。


「そして、その優しさは戦姫様に引き継がれています。私達、獣人族のために自分の家族と戦うことを選び、そして行動を起こしてくれました。半獣である私でさえ受け入れ、直属の部下としてお側に置いて下さいました」


 それは言葉だけでもなく、戦姫が獣人族のために行動を起こしてくれていることの証明だった。

 今まで戦姫のことを詳しく知らなかった獣人族の者達も改めてルプルの話を聞き、戦姫に対しての認識を改めていく。


「その他にも、こちらのエレナさんやキアさんが所属する《漆黒の魔弓》の皆さんも、アクアエのために命を懸けて戦ってくれています。そんな多くの人達が、私達の国を守るために動いてくれているのに……当事者である私達が、こんなところに隠れたままで本当にいいんですか?」


 ルプルの問い掛けは、獣人族の胸にグサリと突き刺さる。

 いつの間にか、自分達のことを当事者ではなく傍観者だと勘違いしていた……争えない理由を考えるばかりで、何故自分達にできることを考えなかった?全てを人任せにしていたことを自覚し、獣人族達の顔は後悔に歪む。


「私は、誇り高い獣人族の姿を知っています。鋭い爪は大地を掴み、強靭な牙は敵を噛み殺す……そして、その力はアクアエを守るために存在するではなかったですか?」


 子供の頃に聞かされた寝物語の一節を、ルプルは引用し現代の獣人族に語り掛ける。

 話を聞き終えた獣人族の顔には皆、迷いがにじんでいた。


 このまま、何もせずに静観を貫いて良いのか?しかし、自分達を弾圧した元王族派を助けても、事態が解決する保障はない。

 それでも自分達は、命を懸けて戦うことができるのか?正解のないことを、グルグルと獣人族達は考えてしまう。


 やがて獣人族達の視線は、1人の男に集まり……皆が男の言葉を待っていた。

 視線を集めたダカダは、深く深呼吸すると自分の考えを喋り出す。


「皆の言いたいことは分かる。憎しみを持つ元王族派の者達のために、命を懸けて戦うことができるのか迷っているんだろう……それは俺も同じだ。今まで憎んでいた相手を許し、共に戦うことは難しい」


 獣人族達の心情を読み取ったダカダの言葉に、皆が同意の眼差しで応える。


「だが……だが!あえて言いたい!我々が敬愛する優しき国王は、我々の先祖を許し共に歩むことを選んだということを!!」


 ダカダの話を聞いていた、獣人族達の迷いが残っていた瞳に、その瞬間……力強い光が宿る。


「憎しみはある……しかし我々のことを想い、行動してくれた者達も確かにいる。それをなかったことには出来ない!!ここで立ち上がらなければ……誇り高い獣人族など、恥ずかしくて名乗れんわ!!そして祖先に、子供達に!子孫に!我らの戦いぶりを誇ろうではないか!そうであろう!同胞よ!!」


 ダカダの熱い想いは、仲間達に伝播でんぱしていく。

 油に火をつけたように爆発的に、獣人族の闘志は膨れ上がってた。

 このままでは獣人族として、先祖や子供や子孫に情け無い姿を見せることになる。

 そんなことは誇り高い獣人族として許されない!と皆の心は真っ赤に燃え上がる。

 ダカダは、そんな皆の背中を押す最後の手伝いをしたに過ぎない。


「うおおおおぉぉぁ!!!!やってやるぜぇ!!!」

「コソコソ逃げるのは男らしくねーよな!?やるんなら、徹底的にやってやるぜぇ!!」

「はああぁぁ!!!久しぶりの戦闘で血が滾ってきたああぁぁぁ!!」


 完全に火が付いた獣人族の勢いに、エレナ達は圧倒される。

 そんなエレナ達にダカダは、既に決まりきった答えを聞かせてくれる。


「エレナとやら、俺達も共に戦うぞ!!直ぐに隠れている獣人族に召集を掛ける!正門前に集合で構わないな?」

「え?えぇ!それで構いません!」


 慌ただしく変わる状況に、エレナはついていけずに生返事をしてしまう。

 獣人族が皆、部屋を出て行ってしまった会議室にはエレナ達しか残っていなかった。

 その時点で、ようやく冷静さを取り戻したエレナは、アレク達の状況を確認しようと動き出す。


「キアさん!ルプルさん!アレク達の状況は?」


 声を掛けられたキアとルプルは会議室の窓を開け、耳を澄ます。

 しばらくすると、集中していた2人がエレナに向かって振り返る。


「まだ戦闘は継続されてるみたいですわ!」

「あとは、カエルレウム軍が後退し始めたようです!音が一斉に動き出したので、何かの作戦かもしれません!」

「では、一刻も早くアレク達と合流しましょう!正門で獣人族と合流でき次第、アレク達に加勢します!」

「「はいっ!ですわ!」」


 急いで会議室を後にしようとするエレナ達だったが……入口の扉の前で、キアとルプルの動きがピタリと止まる。

 そして何事かとエレナが問い掛ける前に2人は、先程まで耳を澄ましていた窓へと駆け寄る。


 2人の行動に緊急性を感じたエレナは、2人の邪魔をしないように固唾を呑んで見守る。

 やがて、キアとルプルは青い顔をして振り向くと……恐ろしい予想をエレナに告げる。


「先の魔物の大群と同等以上のものが、またアクアエに迫って来てますわ。これは本当にアクアエの危機かもしれませんわね……」

「正確ではないですが……かなり重たい足音が混じっています。もしかしたら、兵士達の手に負えない魔物が多数混じっている可能性が……」


 2人の話を聞いたエレナは、2人の目を見ると黙ってうなずく。


「まだ私達には、やれることがあります!出来るだけ戦力を掻き集めて、アレクさん達に合流します!2人共、行きましょう!!」


 エレナは、勢い良く部屋の窓から飛び出すと、触手を伸ばし建物の屋根へと上がっていく。

 キアとルプルもエレナに続き、魔法と身体能力で屋根に上がると3人は真っ直ぐに正門に向かっていくのであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ