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結論

 モルレト平原の方角から獣の遠吠えを聞いたエレナ達は、アレク達の応援に向かうべく先を急いでいた。

 その途中で救出対象であるセツナを、冒険者ギルドでかくまってもらうべく立ち寄ることになったのだが……キアとルプルがアクアエに迫って来る、謎の大群を捉える。


 そこから明かされることになったセツナの“預言”、それにより自分達の予想以上の事態が進行していることを知ったエレナ達は、戦場にいるアレク達を救うために再度、冒険者ギルドに急ぐのであった。

 しかし、冒険者ギルドに辿り着いたエレナ達を待っていたのは、怒号溢れる混乱した惨状だった。


 ドォールムの冒険者ギルドと似た建物の中では、ギルド職員と思われる者が慌ただしく駆け回り、状況を把握しようと集まってきている情報を整理していた。

 そのうちの一角では冒険者達が集まり、誰かと揉めているような声が聞こえてくる。


「副ギルドマスター!魔物の大群が迫って来てるんだろ!?今こそ、俺達冒険者の出番だろう!!何故、戦う許可を出してくれない!?」

「落ち着いて下さい!戦うなと言ってるわけではないのです!!ただ現状、魔物の規模や種類なども判明していない段階では、皆さんを応援に派遣することは出来ません。これは冒険者ギルドとしての判断です」

「んなこと言ったって……カエルレウム軍や戦姫様だけじゃ、魔物の大群の相手はキツイだろ?数チームだけでも応援に向かわせては、どうなんだ?」

「ですから、それは――」


 詰め寄る冒険者を、必死になだめようとしている女性の姿が見える。

 ロングの緑髪を片方の肩に纏めた秘書風の女性は、疲れた様子で事情説明をしているが……冒険者達が大人しくなることはない。

 それを見兼ねたエレナは、女性に助け船を出す。


「あの〜お取り込み中申し訳ありませんが……ギルドマスターにお取り次ぎお願いできますか?」


 アクアエの危機という時に、自分達と副ギルドマスターとの話し合いに割り込んできた、見慣れない余所者に冒険者達は怪訝な表情を見せる。


「んだぁテメェ?こっちは今、いそが――」


 そう言いながら、振り向き文句を言い始めた1番厳つい冒険者は、エレナ達に同行しているセツナの姿を見ると言葉を飲み込む。

 何故ならアクアエで武術に心得のある者なら、誰もが一目置く戦姫と瓜二つの女性が、そこにいたからだ。


 事情を知らない冒険者達ですら、大切な要件であることを悟り、口を閉ざす。

 驚きにより沈黙が生まれ、静まり返った冒険者ギルドで、エレナは笑顔で話を続ける。


「ご協力ありがとうございます。メリルさん、こちらの方がくだんの客人になります。無事こちらまで護衛して参りました」


 副ギルドマスターであるメリルは、態々(わざわざ)、回りくどい言い回しをするエレナの意図を察して、素早く対応する。


「エレナさん、ありがとうございます。それではギルドマスターの執務室まで、ご案内致します」


 そう言うとメリルは、周りの冒険者達に今は話し掛けるな!という雰囲気を醸し出し、エレナ達と共に、その場を後にする。

 冒険者達から離れ、しばらくしてから案内をしてくれていたメリルは、エレナ達に向かって振り返り頭を下げる。


「先程は、ありがとうございました。私だけでは冒険者達を抑えられずに、暴走する者を出してしまうところでした。エレナさん達が声を掛けてくれたお陰で、冒険者達も少しは冷静になれたと思います」

「いえ、それについては気にしないで下さい。それよりも冒険者ギルドは今回の件のことは、どれほど把握しているのですか?」

「エレナさん達もモルレト平原の異変について、情報を得ているようですね……移動しながら手短にお伝えても?」

「えぇ、構いません」


 それから副ギルドマスターのメリルから、現在冒険者ギルドが得ている情報を説明してもらう。

 戦姫とアレクの一騎打ちは幸い死者を出さずに終わり、途中に黒い獣が出現するというトラブルがあったものの……それも解決に向かったとのことだった。


 しかし、それからの事態が深刻なものだった……突如とつじょとして魔物の大群がアクアエに向けて侵攻を開始し、いち早く接近を察知した戦姫達とアレク達は、それを迎え撃つべく行動を開始している。

 再編されたカエルレウム軍は、偵察部隊と連絡部隊……そして迎撃部隊に分かれ、魔物の大群は間近に迫っている。


 冒険者ギルドに駆け込んできた兵士から、応援要請を求められたものの……不確定な現場に冒険者を送り込むわけにもいかず、冒険者ギルドは事実確認と情報収集に注力していた。


 報告を聞いたエレナ達は、先程キアとルプルが捉えた気配が、魔物の大群であったことを知り戦慄する。

 メリルに確認したカエルレウム軍の戦力は約950人……それから黒き獣との戦闘で、どれほど被害が出ているかは不明だが、少なくともキア達が感じた魔物の気配は、兵士達よりも多かったからだ。


 エレナ達が冷や汗を背中に感じていると、メリルは高級感溢れる木製の扉の前に立ち止まる。

 慣れた様子で扉をノックすると、部屋の中にいる主に入室の許可を求める。


「ギルドマスター、メリルです。《漆黒の魔弓》エレナさん達とお客様をお連れしました」


 するとメリルの声に反応して、直ぐに部屋の中から返事が返ってくる。


「どうぞ」


 その声に導かれ、メリルに続いて部屋に入ったエレナ達を待ち受けていたのは、モヒカン頭の厳つい男性だった。

 何も知らなければ山賊長に間違われそうな風貌をしている男性に、あまり男性に対して耐性のないセツナは身を固くする。


 そんなセツナの様子にも動じる事なく男性は、仕事机に山積みになった書類を確認するのを中断すると……イスから立ち上がりエレナ達に向かって歩み寄ってくる。


「お見苦しい所を、お見せして申し訳ありません。緊急の案件に追われておりまして……」


 そこまで話した男性は、エレナ・キア・ルプル……そして最後にセツナの顔を確認すると、高貴な相手に向けるような敬意に溢れた丁寧な一礼を見せる。


「私はアクアエ冒険者ギルド、ギルドマスターツアロスと申します」


 エレナ達は、それが誰に向けられた一礼なのかを理解し、自然と皆の視線はセツナへと集まっていく。

 皆の視線を受けたセツナは、一歩前に出ると……先程までの緊張した表情ではなく、王族としての凜とした姿勢で言葉を返す。


「今の私は、“ただのセツナ”です。挨拶も礼儀も必要ありません……それよりも今は、話し合うべきことがあるはずです」


 セツナの言葉を受け取ったツアロスは、深くうなずくとエレナ達にソファに座るように勧める。

 エレナ達が対面式になったソファに座ると、ツアロスは王城で何が起こったのか事情説明を求めてくる。


 エレナ達は包み隠すことなく、王城で起こったこと全てをツアロスに伝えた。

 セツナを救出した後に王妃と遭遇し、その王妃が白き獣に変身したこと、王城にまで獣の遠吠えが聞こえたこと、それがモルレト平原の方向からのものだったこと。


 ツアロスもメリルも、口を開けて予想外の出来事に驚愕していた。

 そして話はエレナ達が冒険者ギルドに至るまでの事に移っていく。

 キアとルプルが兵士達の戦力を超える魔物の大群を感じ取ったこと、そしてセツナがアクアエの危機を“預言”した内容、そしてその魔物の大群こそが“預言”された、終の波ではないかということ。


 1度に様々な情報を得たツアロス達は、目を白黒させながら情報を整理し、詳しく聞くべき内容を洗い出していく。


「えっと……キアさんとルプルさんが感じ取ったという、その魔物の大群の数は間違いないんでしょうか?それと、その根拠は?」


 冒険者ギルドでも、まだ得ていない重要な情報に、メリルは鋭く質問してくる。


「はい、2人が感じ取った魔物の数に間違いはないかと思います。それと根拠については、実際に見て頂いた方が早いかと――」


 エレナは、キアとルプルにアイコンタクトを取り、軽く頷く。

 するとフードを被っていたキアは、フードを下ろし自分の頭を皆に見せる。

 ルプルもターバンを外し、隠されていた頭部を皆に見えるようにさらけ出す。


 その瞬間、ツアロス・メリル・セツナの息を飲む音がエレナ達の耳に入る。

 特にセツナは何度も目をこすり、キアとルプルの姿を確認していた。

 幸いなことにツアロス達は、キアがエルフでありルプルが半獣であることよりも、先程の情報の信憑性が高まったことに、思考を巡らせているようだった。


「この聴覚に優れた2人が同じ気配を感じていることから、魔物の大群の数について間違いないと思われます。それを踏まえた上で、冒険者ギルドにはモルレト平原に応援を送って頂ければと考えているのですが……」


 そこまで話していたエレナは、微妙に雰囲気の変わったツアロスとメリルの様子を感じ取る。

 先程よりも深刻な表情になったツアロスは、心苦しそうに冒険者ギルドとしての考えを告げる。

 それはエレナ達が望んでいた回答とは、かけ離れた厳しいものであった。


「結論から言うと……モルレト平原に応援を送ることはできない」



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