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白き灼熱

ファイヤ・ストーム】により燃え広がった大地に【ブレイド暴風・ストーム】が加わり、炎の勢いが増し紅蓮の台風が巻き起こる。

 紅蓮の台風からは、燃える剣撃が辺りに飛び出し、魔物と草原を燃料として熱量を上げ続ける。


 そして、灼熱に輝く大剣を両手で天に掲げ、構えを取るアレクの元に収束していく。

 不自然に逆巻いた炎が天に昇り、吸い込まれるようにアレクの構える灼熱の大剣に集まると、吸い込まれた炎に比例するようにアレクの構える大剣は、白く清廉せいれんな輝きを増していく。


「まだだ……!まだ、この先があるはずだ!!」


 アレクは残っている、ありったけの魔力を灼熱剣に注ぎ込む。

 すると、アレクを中心に衝撃波と熱風が発生し、草原一帯を駆け抜ける。

 その熱風は遠く離れている戦姫や兵士達のまで及び……肌をヒリヒリと焼き、目をまともに開けていられない程の熱量を伝えてくる。


 戦姫と兵士達は言葉を失い、地面を白く染め上げるアレクの姿に視線を奪われていた。

 アレクの大剣が放つ熱量により、地面の草花が消し炭になっていく光景は、まだ理解できた。

 しかし、それを越えて地面が熱されドロドロに白熱した液体状になる頃には、戦姫達の理解を超え、目の前の景色に圧倒されるしかなかった。


 戦闘中であることを忘れ、戦姫も兵士達もアレクがこれから何をするのか理解できずに……呆然と眺めている。

 すると、魔物の大群の一部がアレクの100m圏内に近付き、白く染め上げられた地面に接触する。


 魔物が一歩、白く染め上げれた範囲に足を踏み入れた瞬間……突如とつじょ発火し、ボッ!という音と共に炭化した塊に姿を変える。

 それは一体だけではない、範囲に入った多くの魔物が一瞬で、燃えカスになっていく。

 まさに炎の結界とも呼べる空間に、アレク以外の生物の姿はない。


 殺戮本能に支配されているはずの魔物達ですら、目の前の灼熱の大地に足を止める。

 それは生物としての生存本能が限界を越えて、魔物達に働いている証拠だった。

 殺さなければ殺される……だからこそ、魔物達は命を顧みず特攻することができた。


 しかし、一歩踏み出した先に待ち受けるのは……《死》、紛れもない事実が魔物達の侵攻の波を止める。

 やがてアレクはゆっくりと灼熱剣を動かし、振り被る体勢を取る。

 そして両手で握り締めたつかに力を込めて、灼熱剣で魔物の大群を薙ぎ払う。


「……灼炎」


 それは……一閃。

 研ぎ澄まされた白い閃光が走ったように見えた次の瞬間……魔物達の大群は物言わぬ炭と化す。

 痛みもなく、叫ぶ暇もなく、体を……内臓を……全てを白き灼熱は、焼き尽くす。


 第1波の残った魔物と第2波の新たに現れた魔物を足した1,500を越える魔物の大群は、アレクの一振りによって700程に数を減らされていた。

 広く見通しの良い平原は一面焦土と化し、アレクを中心に扇型に広がった黒土は、未だに高温に包まれている。


 魔物でさえ、近付けない灼熱の残滓が漂う黒土の上には、ただ1人存在することを許されたアレクの姿があった。

 全てを使い果たしたアレクは、灼熱剣を地面に突き刺し大地にひざをつく。

 遠くからでも分かる程に大きく肩を上下に動かし、消耗していることが窺い知れる。


 だが、近寄れる者は誰もいない……それは熱波によって物理的に近寄れないという意味だけではなく、アレクを見つめていた全ての者が世界の在りようを、超えた存在を目の当たりにし、放心状態に陥っていたからだ。


 しかし、それは魔物達も同様であり……生物として根源的な恐怖を呼び覚まされた魔物達には、先程までの勢いも殺気も感じられない。

 圧倒的な力の前に、多くの魔物が動けずに固まっている。


 そして、戦力としても突破力の要としても大群を率いていたトロールやオーガのほとんどは、アレクの攻撃により消し炭になり影も形もない。

 完全に出鼻を挫かれた魔物達は、戦意を失いつつあった。


 そんな魔物達に追い打ちを掛けるべく、アレク達でもなく戦姫達カエルレウム軍でもない、突撃を仕掛ける第3の勢力が突如とつじょとして現れる。


「「「うおおおおぉぉぉぉ!!!」」」


 雄叫びを上げながらアレクの攻撃によって、二手に分断された片方の魔物の大群に向かって、駆けて行く一団の姿には特徴的な部分があった。

 それは1つは装備が冒険者らしい装備をしていること、2つは獣人族が多くの混じっていることだった。


 突然の第3勢力の参戦に戸惑いながらも、戦姫は彼らの雄叫びによって自分達が戦闘中だったことを思い出し、直ぐに頭を切り替えて兵士達に指示を出す。


「こ、この好機を見逃すなぁぁ!!残った魔物共を殲滅しアクアエに平和を取り戻すぞぉぉぉ!!!私に続け!全員突撃ぃぃ!!」


 戦姫の叫びに、正気を取り戻した兵士達は武器を強く握り直すと、戦姫を先頭に魔物の大群に向かって駆け出していく。

 幸いアレクの攻撃によって分断された魔物達の数は350程まで減らされていた。


 戦力として劣っている兵士達でも、約3倍の兵力を魔物にぶつければ勝算は高くなる。

 当初の作戦通り3対1で魔物を相手すれば、戦況を十分に打開することが可能になっていた。


 こうして、カエルレウム軍と冒険者+獣人族の混合部隊によって、分断された魔物の掃討作戦が開始されたのである。

 しかし、これは勿論偶然ではなく計算された出来事であった。



 ===============================



 アレク達が黒き獣の最後の叫びを聞いていた頃、エレナ・キア・ルプルの3人とセツナは王城を脱出し、急ぎ冒険者ギルドに向かっていた。

 エレナ達は、黒き獣の叫び聞いてアレク達の元に、直ぐにでも応援に向かおうと考えていたが……救出対象であるセツナを同行させるわけにもいかないので、当初の計画通りに冒険者ギルドに、セツナをかくまってもらいに行く途中であった。


 実は冒険者ギルドとは、アレク達がアクアエに到着してから、密に連絡を取り合っていた。

 正確にはドォールム冒険者ギルド、ギルドマスターガルドからの紹介状を携えたエレナが、仲介人となりアレクの報告をアクアエの冒険者ギルドに伝達してもらっていたのだ。


 しっかりとしたやり取りを開始したのは、戦姫と直接話し合いを行い、冒険者ギルドが暗殺に関わっていないという裏が取れてからのことである。

 それ以降、アクアエ冒険者ギルド、ギルドマスターであるテオドスとアレクはエレナを介して情報交換を行っていた。


 セツナの存在が確認された後も、重要人物をかくまう場所として冒険者ギルドを利用させてもらう約束を交わしていたのだ。

 やがて、エレナ達が冒険者ギルドに辿り着こうとしていた時に、キアとルプルが同時に異変を感じ取る。


 それは何かの大群が、アクアエへ真っ直ぐ向かってきている音であった。

 その他にも大まかな状況しか分からないが……平原に展開していた兵士達が慌ただしく移動してる様子が、キアとルプルの耳に届く。

 2人同時に動きを止め、何かを探っているような様子にエレナは事情の説明を求める。


「キアさん、ルプルさん、何かあったのですか?」

「えっと……恐らくですが、何かの大群がアクアエへ向かって真っ直ぐに迫って来てますわ」

「それと、どうやらクーデター派と王族派は合流して、何かの大群を迎え撃つようですね」


 そんな中で、ルプルに抱えられていたセツナが、うわ言のように言葉を告げる。


「月日、巡りて西の地にて壁に力満ちる時、暗き森の果て、定命の者と共に波来たる予兆あり。

 終の波、万物を飲み込み死の影をもちて、阻みしものを蹂躙じゅうりんす。

 持たざる者……争いの果てに残りしは、抗う変革の力。

 影持つ者……偽りのかせを解き放ち、この地を去らん。

 厄災の波濤はとう訪れし後には残るものなし」


 言葉を語り終わったセツナは、エレナ達に向かい話し始める。


「これは私が最初に“預言”したアクアエの危機を示すものです。この預言が正しければ今アクアエに迫って来ているという大群は、終の波ではないかと考えられます」

「少々お待ち下さいセツナ様……その預言の意味は、全て理解されているのですか?」


 エレナの問い掛けにセツナは、頭を横に振る。


「残念ながら、“預言”は言葉を授かるだけで明確な意味までは分かりません。あくまで、解読するのは“預言”を受け取った者なのです」

「なるほど……前半の部分は何となく理解できるような内容ですね。けれど、私が1番気になっているのは、持たざる者〜という一文です。これは間違いなく我々のリーダーであるアレクのことを指していますから」


 セツナとルプルは、事情が分からずにポカンとしていたが……エレナとキアは嫌な予感を覚えていた。

 全体的に“預言”の内容に、所々物騒な言葉が含まれていたからだ。


 エレナ達は話を整理しながら、“預言”の内容を紐解いていく。


 月日、巡りて西の地にて壁に力満ちる時、暗き森の果て、定命の者と共に波来たる予兆あり。

(月日が経ち、アクアエの西の地にて壁に力が満ちる時、暗い森の果てから命ある者と共に波が来る予兆がある)


 終の波、万物を飲み込み死の影をもちて、阻みしものを蹂躙じゅうりんす。

(終わりの波が全てを飲み込み、死の影をもって阻む者を蹂躙じゅうりんする)


 持たざる者……争いの果てに残りしは、抗う変革の力。

(アレク?……争いの果てに残るのは、抗うための変革の力)


 影持つ者……偽りのかせを解き放ち、この地を去らん。

(王妃?……偽りの姿を現し、アクアエを去る)


 厄災の波濤はとう訪れし後には残るものなし。

(厄災の大波が訪れた後には、何も残らない)


 かなり乱暴ではあったが……“預言”を解読したキアは、あることに気が付き皆に確かめる。


「この預言で気付いたことがあるのですが……影持つ者は、王妃と国王2人の可能性がありません?」


 そのキアの言葉を受けて、エレナ達は“あっ”と小さくつぶやく。

 それは王城内にいる時に、モルレト平原から聞こえてきた獣の遠吠えと、王妃が獣に変身したことが要因となっていた。


 王妃が獣に変身したなら、国王も獣に変身したのではないか?そして現在、国王がいるのは一騎打ちを見届けに向かったモルレト平原……それは獣の遠吠えが聞こえてきた方向でもある。

 現在の状況から、それは正解に近いのではないかと皆は確信する。


 解読を進めていたエレナ達だったが……先程から発言していなかったルプルが、恐る恐る手を上げて発言する。


「それなら、今迫って来ている終わりの波を阻もうとしている、戦姫様達やアレクさん達は蹂躙じゅうりんされてしまうのでは?」


 ルプルの鋭い意見に、一斉に皆の顔色が悪くなる。

 今が限りなくマズイ状況であることを理解したエレナ達は、急いで冒険者ギルドに向かい応援を要請することを決める。

 しかし、冒険者ギルドに辿り着いたエレナ達を待っていたのは、怒号溢れる混乱した惨状だった。


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