反撃
魔物の大群をモルレト平原で迎え撃ったアレク達と戦姫達であったが……撤退の途中で魔物の大群の第2波が、訪れようとしているのを知ることになる。
第1波よりも倍近く大きく見える黒い波が、遠くの平原を埋め尽くしていたのだ。
絶望的な状況に追い込まれる戦姫達だったが……まだアレクが奥の手を持っていることを最後の希望に、戦姫が兵士達の士気を高め、立て直すことに成功する。
そして迫り来る魔物の大群の第2波と、アレク達の戦いが始まろうとしていた。
覚悟を決めたアレクは、アイテムボックスから灼熱剣イグニスを取り出す。
黒く巨大な剣身を見つめながら、感触を確かめていると仲間達が指示を確認してくる。
「真正面から、ぶつかるつもりなのかアレク?灼熱剣ならトロールやオーガなども一掃できるかもしれないが……その後の残った魔物は、俺達と兵士達だけでは処理しきれないぞ?」
アレクのことを信じているが、状況が状況なだけにカインは不安を口にする。
そんなアレクはカインや仲間達に、今後の展開について説明する。
話を聞いた仲間達は、驚いた表情から覚悟を決めた表情に変わり各自、指示された行動を遂行していく。
動き出した仲間達を見送っていると、今度は戦姫が作戦について相談してくる。
「アレク殿!こちらは何時でも戦闘に移ることができます。これからの展開は?」
「戦姫……これから俺と仲間達で魔物の大群に先制攻撃を仕掛けます。その先制攻撃の後は、恐らく魔物達は二手に分かれることになるでしょう……なので片方の魔物達の相手をお願いします」
「それは構いませんが……残った片方の魔物達の相手は、どうされるんですか?」
戦姫の指摘は、当然のものであった……残った魔物達を掃討しなければ、アクアエに侵入を許すことになる。
だが、兵士達だけでは戦力が足りないことは、アレクも承知のはずが何故……と戦姫は考えていた。
「今は時間がないので、説明する時間を省きますが……今こちらに俺達の仲間が向かっています。そちらに残った魔物達の相手を頼みます!」
「それで大丈夫なのですか!?」
「今は信じて下さい。それでは、俺は先に魔物達の相手をしてきますので……」
「あっ!アレク殿!ちょっと、ま――」
説明不足のまま、立ち去ろうとするアレクを引き止めようとする戦姫であったが……アレクの表情を見て、動きを止める。
それは絶望的な戦いに赴く者の顔ではなかった……まるでこれから楽しいことが起こるのを我慢できない、子供ような表情を見せるアレク。
その顔は頼もしくもあり、狂気にも似た感情でもあるように戦姫は感じた。
「アレク殿……一体、貴方は何を考えているのですか?」
次第に遠くなっていくアレクの背中を見送りながら、戦姫はアレクの本質を垣間見た気がして、少しだけ恐ろしくなり腕に鳥肌が立っていることに気付く。
それでもアレクを信じるしかないと頭を切り替えて、指示された場所に兵士達と共に移動を開始する。
差し迫る時間の中で、準備を終えたアレク達と戦姫達の作戦が、今まさに始まろうとしていた。
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アレクは、この世界に転生してから自分の中にずっと押し込めてきた欲求があった……それは、自らを逆境に追い込み勝利したいとものである。
命が懸かっている弱肉強食の世界で、下手に自分を追い込むことは自殺行為だ。
そのため訓練であっても実戦でも、ある程度の安全ラインを確保してしてから、戦うことを心掛けてきた。
しかし、今回は魔物の大群を相手に1人で、立ち向かわなくてはならない……何という緊張、何という絶望感、そして自分を殺そうと猛り狂う魔物には一切の恐れが感じられない。
だからこそ、この逆境に打ち勝ちたい!全てを懸けて立ち向かいたいという気持ちに駆られる。
性格というよりも性癖に近い考えにアレクは、興奮を隠しきれなかった。
不謹慎であることは重々承知している……だが、全力を出し切っても後のことは仲間達や戦姫達が上手くやってくれると信頼しているからこそ、無茶をしてみたいと考えていた。
そして、もう1つの欲求は灼熱剣イグニスの全力を、試してみたいというものだった。
灼熱剣イグニスを入手してから訓練での時も、魔樹と戦った時も周囲への影響を考慮して、本当の全力を出し切ることができずにいた。
しかし、今なら周りを気にすることなく炎を放つことができる……今の自分の限界を試すことができる!とアレクは喜びに震えていた。
そして、アレクは灼熱剣を片手に握り締め、魔物の大群の進路に立ち塞がる。
アレクの後方にはミカエラとアマリアが待機し、カインは戦姫達とは反対の場所に陣取っていた。
アレクがアイコンタクトを送ると、ミカエラは魔法発動の準備に入る。
その時、アレク達が目視できる距離まで魔物が近付いていくると、一気に雰囲気が変わる。
第1波と同様に突如として魔物達の目は血走り、殺戮本能に支配され箍が外れた魔物達が、怒号を挙げながら一斉に駆け出してくる。
津波のように押し寄せる魔物達は、ただ目の前立つアレクに向かって雄叫びを浴びせ、我先にと迫り来る。
ピリピリとした殺気を受けながら、アレクが両手で灼熱剣を正眼に構えると、後方からミカエラの魔法が発動する。
「【炎の嵐】×5!!」
ミカエラの魔法は、凄まじい威力を発揮しながら平原へと舞い降りる。
直径10mほどの炎の渦、5つが魔物の大群の真ん中に出現すると全てを焼き尽くす勢いで辺りを巻き込んでいく。
炎の渦に包まれた魔物達は、高熱によって喉を焼かれ叫ぶこともできずに、身をよじり暴れながら焼死していく。
しかし、その凄まじい魔法に臆することなく魔物は次々と炎の渦に飛び込み、波のが止まることはない。
そこにミカエラは、2度目の魔法を発動させる。
「【刃の暴風】×3!!!」
それはアレクの放つ風の剣撃が、竜巻を形成し暴れ回っているように辺りのものを無差別に切り裂いていく。
巻き込まれた魔物は細切れになり、流れ出した血液は突風によって吹き飛ばされる。
まさに、刃の暴風という名を冠するに相応しい大魔法であった。
2度の大魔法を発動し終えたミカエラは、その場で気絶し地面に倒れ込みそうになるが……側で待機していたアマリアに抱きとめられ、お姫様抱っこされる。
ミカエラを抱っこしたアマリアは、その場を離れる前にアレクに大声で呼び掛ける。
「アレクっ!!後は任したわよぉ!!!」
アレクは少しだけ後ろを振り向くと、黙って頭を縦に振る。
それを確認したアマリアは、急いでアレクから距離をとるべく駆け出していく。
残されたアレクの目の前には、めちゃくちゃな光景が広がっていた。
【炎の嵐】により燃え広がった大地に【刃の暴風】が加わり、炎の勢いが増し紅蓮の台風が出来上がっていた。
紅蓮の台風からは、燃える剣撃が辺りに飛び出し魔物と草原を燃料として熱量を上げ続ける。
この桁違いの大魔法を目にした戦姫や兵士達は、これがアレクの策だったのかと驚いていたが……未だに魔物の大波を止めることが、出来ていないことに不安を覚える。
アレク達を見守っていた誰もが、策は失敗だったのかと考えていた。
しかし、戦姫と兵士達の視線は徐々にアレクへと集められていた。
何故なら、まるで紅蓮の台風が吸い寄せられるように、アレクの方向へと移動していくのだ。
そして、その視線の先には灼熱に輝く大剣を両手で天に掲げ、構えを取っているアレクの姿があった。
不自然に逆巻いた炎が天に昇り、吸い込まれるようにアレクの構える灼熱の大剣に集まると、ふっと消えていく。
そして、吸い込まれた炎に比例するように、アレクの構える大剣は、白く清廉な輝きを増していくのであった。




