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結末

 首を捻り至近距離からアレクに、攻撃を浴びせようとしている黒き獣は、冷凍弾を放つ寸前であった。

 届くはずのないアレクに向かって、アマリアは叫びながら手を伸ばす。


「アレクゥゥ!!!」


 そんなアマリアにアレクは、落ち着いて言葉を告げる。

 それはアレクの探知スキルによって魔力反応を捉えていたからだ。

 アレクの後方から、放たれた魔力反応は真っ直ぐに黒き獣の向かっていく。


「大丈夫!」


 笑顔でアマリアに応えるアレクの背後から、ミカエラが放った3本の【こおり・ジャベリン】が飛んでいくと、冷凍弾を放とうとしていた黒き獣のあごに見事に魔法がヒットする。


 あごに【こおり・ジャベリン】の直撃を受けた黒き獣は大きく仰け反り、空に向かって冷凍弾を放つ。

 それまま仰向けに倒れ込んだ黒き獣は、まだ力尽きることなく、太い左腕を出血しながも大きく振り回し暴れ続ける。


 アレク・ミカエラが、トドメを刺そうと風の剣撃や魔法を準備していると、1つの気配が自分達に近付いてくることを察して、攻撃を中断する。

 その気配の主は、雪のような真っ白な髪をなびかせ、アレク達の前に辿り着く。


 それはミスリルの軽装鎧と腰に白銀に輝くレイピアを装備した戦姫だった。

 アレクとの戦闘で鎧は所々、破損していたが……戦闘は問題なく行えるほどに回復しているようで顔色も良くなっている。


 そんな戦姫がアレク達に合流すると、何も言わずに腰のレイピアに手を伸ばし戦闘態勢に入る。

 アレクの傍まで歩み寄ると静かな声で、喋り出す。


「手柄を横取りするようで申し訳ありませんが……この魔物のトドメは私に譲っていただけないでしょうか?身内の不始末は、せめて娘である私が責任を取るべきでしょう」


 一切の感情を表に出さず冷たい瞳を黒き獣に向ける戦姫に、アレクは心中を察しトドメを譲る。


「あぁ、構わないよ。この場は戦姫に任せる」


 そう言うとアレクは、道を譲り仲間達と共に黒き獣と戦姫から距離を取る。

 アレク達が見守る中、白銀のレイピアを手に戦姫は、ゆっくりと黒き獣に歩み寄る。

 先程まで仰向けになりながら、左腕を振り回していた黒き獣は、出血多量によりグッタリとし虫の息だった。


 そんな黒き獣を前に戦姫は、一瞬だけまぶたを閉じ深呼吸するとカッ!と目を見開き、右手に握ったレイピアを眼前に構える。

 独特の構えから左足の爪先から腰に掛けてバネのような屈伸運動をし、レイピアを鋭く突き出し氷の針を次々に黒き獣に放っていく。


「ぎあぁぁ!!」


 今までの力強い咆哮は見る影もなく、瀕死状態の黒き獣は小さな悲鳴を上げる。

 確実に四肢を潰し動きを奪った戦姫は、最後に心臓を突き戦いに終止符を打とうする。

 その時、今までの瀕死だった黒き獣の胸が呼吸によって膨らみ出す。

 音による攻撃かもしないと考えたアレクは、戦姫に向かって叫ぶ。


「戦姫!!耳を塞げっ!!」


 アレクの叫びで黒き獣が何をしようとしているのか察した戦姫は、一瞬だけ攻撃動作を見せるが……黒き獣の行動を阻止できないと判断すると素早く耳を塞いだ。

 そして、この戦いで最も大きな叫びがモルレト平原に響き渡る。


「ウオオオォォォォォォォ!!!!」


 しかし、その叫びには衝撃波も攻撃力もなく、恐怖すらも感じ取ることはできない。

 街を守るべく陣形を組んでいた兵士達には、それが何かに助けを求める遠吠えのように聞こえたくらいであった。


 最後の叫びを終えた黒き獣は、静かに命を引き取った。

 理解を超えた行動に戸惑いの表情を浮かべる戦姫とアレク達だったが……念のために探知スキルで生死を確認しても、黒き獣の死亡が覆ることはなかった。

 中途半端な結末に、顔を見合わせる戦姫とアレク。


「おっと……」


 気が抜けたアレクは、地面にひざをつく。

 戦姫が思わず支えに入ろうとするが、ミカエラとアマリアが直ぐにアレクの元にたどり着き、介抱を始める。

 そんな様子に戦姫は、驚きながらも羨ましい気持ちに駆られる。


「ちょっと!何が大丈夫よ!?結構ボロボロじゃないの!」

「だ、大丈夫ですか!?アレクさん!!もしかして、僕の魔法が当たりましたか!?」

「あはははっ……流石に連戦で疲れが出たみたいだ。実は立ってるのも辛いくてな……」


 疲労困憊のアレクにミカエラとアマリアが肩を貸し、アレクを戦場から少し外れた所に運ぶと腰を下ろさせ休ませる。

 戦姫は兵士達に勝利と今後のことを伝えると言い残し、アレク達の元を離れていった。

 残されたアレク達は、黒き獣に変身した国王について話し始める。


「まさか国王が魔物になるなんてね……もしかして国王は既に殺されていて、魔物が国王に化けてたとか?」

「アマリア……その考えも悪くないと思うけど、戦姫の様子から魔物になったのは国王本人で間違いないと思う」


 魔物入れ替わり説を唱えたアマリアに対し、アレクは否定的な意見を述べる。


「戦姫が黒き獣に対して、国王の面影を感じていたようだし……国王が変身したタイミングも、まぁ偶然かもしれないないが俺が戦姫にトドメを刺そうとしてた時だったしな」

「じゃあ国王本人が魔物になった説が可能性が高いのね!けど、そんなことがどうやったらできるのかしら?」


 アマリアの疑問に答えられる者は誰もいなかった……近くで確認したわけではなかったが、国王が何かしらの儀式やマジックアイテムを使っていた様子は、アレク達の目には入っていなかった。


 それに人が魔物になるなんて話も、冒険者の資料にも書かれていなかったし、噂すら聞いたことがなかった。

 アレク達は各自、色々なことを考えたが……どれも想像の域を出ないことばかりで、結局話し合いは保留ということに決まる。

 そんなことを話しているうちに、戦姫に再編された軍の兵士が慌てた様子でアレク達の元へ駆けてくる。


「傭兵団《黒狼》の皆さん!!緊急連絡です!アクアエの西から魔物の大群が押し寄せてきています!ここから至急避難して下さい!!」


 予想外の連絡にアレク達の間に緊張が走る……その時、アレクは“預言”のことが頭の中に思い出されていた。


「アクアエの西……災い……これのことを指していたのか?」


 険しい表情になったアレクは、力を振り絞って立ち上がると……連絡に来た兵士に問いかける。


「戦姫は、どこにいる?そこまで案内してくれないか?」

「はっ!了解しました!ご案内致します」


 一分一秒を争う事態に、アレク達は急いで兵士の後を追うのであった。



 ===============================



 アクアエの西にあたる森林地帯では、騒がしく魔物の大群が草木を踏み潰し前進を続けていた。

 それはゴブリン・オーク・オーガ・サーペント・ジャイアントバッド・グリーンウルフなど数えればキリがない程の種類の魔物である。


 アクアエ近郊には様々な種類の魔物が群生しているが……それから決して共存関係にあるわけではない。

 魔物の世界でも弱肉強食は共通であり、各種族で縄張り争いや共食いなどが発生する。

 他にも強力な魔物が現れたり、他の土地から流れてきた際にも縄張りを奪われ押し出される形で、街や村の近郊に出現することもある。


 だが、冒険者などの共通の敵を相手にする際などは、共闘することはあっても種類を超え歩調を合わせて戦うことなどあり得ないのだ。

 しかし、森林地帯を進む魔物達は何かに導かれるように1つの方角を目指して進んでいた。


 その異常な光景を偶然にも発見したのは、アクアエに商談に向かっていた商人の馬車だった。

 街道を進んでいた商人は、森の中を大群で突き進む魔物達の姿を発見する。

 しかし、その魔物達は商人や馬車に目もくれずアクアエの方角へと進んでいったのだ。


 その異様な光景に商人は、死に物狂いで馬車をはしらせ馬を潰してまで、モルレト平原に集まっていたアクアエの兵士に報告してくれたのだった。

 その時点で商人が伝えてくれた情報では、“魔物の大群がアクアエに向かってきている”というものだけだった為に、報告を受けた戦姫は直ぐに偵察部隊を西へと送り出した。

 その時、戦姫の頭にはアレクと同様に“預言”のことが思い浮かんでいた。


 戦姫は底知れない不安に襲われながらも、アクアエを目指す魔物達の進路上に、モルレト平原に集まった自分達がいることが、せめてもの救いだと考えていた。

 しかし、その考えが愚かな事であったことを戦姫は、突きつけられることになる。

 西の森林地帯から現れた、黒い波のように押し寄せる魔物の大群によって。


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