金策と掘り出し物
次の日、朝から曇り空な天気はまるで
アレクの心情を映し出しているようであった。
(薬、売りに行くの嫌だなぁ……
薬屋の人が若い女性とかじゃなきゃいいな)
怪しい薬を少年の自分が売ることが他の人
から見たら、どう見えるのかアレクは
気になって仕方なかった。
「おい、ぼーや早く来ないと置いていくぞ!
雨に降られでもしたら敵わんからな」
師匠は、先にスタスタ歩いて行ってしまう。
「はい、すぐ行きます!」
(全ては、お金の為!生きる為だ!覚悟を
決めろ!俺!!)気合を入れ師匠に続く。
辿り着いたのは、かなり古い外観の薬屋
物語に出てくる魔女がいそうな雰囲気である。
『カランカラン』師匠と共に店に入ると
扉に付いたベルが鳴る。
店内は、薄暗く薬なのか鼻をつく匂いが
香っていてきている。
奥のカウンターに、白髪で高齢の女性が
座ってこちらを伺っていた。
「なんだいルシアちゃんかい……今日は
何の用だい?うん?一緒にいる子は……」
「どうも、ドロシーさん。今日は薬の
買い取りをお願いします。この子は弟子の
アレクサンダー、アレクと呼んであげて下さい」師匠が俺を紹介してくれる。
「アレクです。これから、お世話になります。よろしくお願いします」
一礼し、ドロシーさんの返事を待つ。
「ああ、初めて店に来た時に一緒にいた
男の子だね〜これからよろしくね。薬の
買い取りならものをカウンターへ出してくれるかい?」
ドロシーさんに促されるまま作った薬を
カウンターの上に並べていく。
「こちらで全部になります」
「うーーん、なかなか良い出来じゃないか。
アレクちゃんが、これを作ったのかい?」
品定めするとドロシーさんが今度は
俺を見つめてくる。
「はい、これを作ったのは僕です」
「うんうん、ルシアちゃんがもし旅立っても
アレクちゃんがいてくれれば安心だね〜」
そこで、すかさずルシアが突っ込みを入れる。
「薬の相場は、ぼーやに教えてあるので
ピンハネは無理ですからね?大人しく
色付けて買い取って下さい」
ドロシーさんと師匠が、お互いに笑顔を
崩さずやり合っていた。
(ドロシーさん、ただの優しいおばあちゃん
かと思ったら中々に強かな人で びっくりだよ!本当っ!)
「ちっ!仕方ないね……いつも通りに
色付けて買い取ってやるよ!例の薬は
ルシアちゃんくらいじゃないと持って来ない
からね」
「ぼーやも作れるから、2人くらいだな」
(師匠、いらぬ突っ込みを!余計なこと
言わないで下さいよ!!)
「ああ、そう言えば そうだったね!
そうかい、その歳でね……将来が楽しみ
じゃないかい」やはりニヤニヤと
ドロシーさんが俺を見ていた。
「あの……ニヤニヤこちらを見るのを
やめてもらえると助かります……」
なんだかんだあったが薬屋に持ち込んだ
薬は以下のものように買い取ってもらえた。
例の薬 ×10 金貨50枚
匂い消し×5 銀貨15枚
浄化薬×5 銀貨10枚
魔物避け×5 銀貨25枚
合計 金貨55枚 日本円で、55万円だった。
正直、ここまで金になると思っていなかったので。あの薬にそこまでの価値があるのかと
疑ってしまう。
俺の様子を伺っていた師匠が話し掛けてくる。
「私の言った通りだったろう?これで
お金に余裕が出来たことだし弓と後、防具も
一緒に揃えてみたらどうだ?」
「そうですね、これだけあれば余裕でしょうし弓と防具、一緒に揃えたいと思います」
(まだゴブリンの討伐報酬も多少、入って
くるし大丈夫だろう)
師匠と、俺の会話を聞いていたドロシーさんが話に割り込んでくる。
「何だい、弓と防具が必要なのかい?
だったら私の知り合いを紹介してあげるよ!
弓の種類は何だい?」
「合成弓を買おうと思ってます」
「だったら、店を出て左手を進んだ所にある
グラウェ武具店に行ってみな!ドロシーの
紹介だと言えば良くしてくれるはずだ」
「何から何まで、ありがとうございます!
ドロシーさん、本当に助かります」
心から感謝し、頭を下げる。
「はっ!ただのお客に対するゴマスリさ!
勘違いするんじゃないよ?」
照れ臭かったのかツンデレになった
ドロシーさんを見て師匠が笑いを堪えていた。
その後、ドロシーさんに薬屋を追い出された
師匠と俺は その足でグラウェ武具店に
向かっていた。
「ここですね、グラウェ武具店は」
外観は普通だが店の看板が、やたらごっつい
剣の装飾が施され威圧感を放っていた。
店内に入ると重々しい全身鎧や無骨な大楯、鋭い光を放つハルバードなど様々な武具が飾られていた。
奥のカウンターから、こちらの姿を確認すると若い男性の店員と思われる人が近寄ってくる。
「グラウェ武具店へ、ようこそ!お客様、
本日は何をお求めですか?」
言い慣れた様子で男性は接客を始める。
「えっと、弓と軽装鎧を購入予定です。
あと薬屋のドロシーさんの紹介で参りました」
男性にそう告げると何かを理解した表情に
なり「少々お待ち下さい」そう告げると
店の奥に早足で向かっていった。
「さすがはドロシーさんは相当顔が効くようだな」
師匠が、なぜか納得したように呟いていた。
店内の武具を眺めながら待っていると
気難しそうな厳つい中年男性が奥から
現れた。
「ドロシーばあさんの紹介ってのは坊主か?」
師匠と俺を見比べると、こちらに声を掛けてくる。
「はい、僕です。よろしくお願いします」
一礼して男性の顔を見る。
「坊主は、ばあさんの客か何かか?」
「客……なんでしょうか?薬をドロシーさん
の所へ卸してます」
腕を胸の前に組みながら男性は質問を
続ける。
「じゃあ、だいぶ薬代をピンハネ
されたんじゃないか?あのばあさんは、いい性格してるからな」
それに素直に笑顔で答えるアレク。
「いえ、元の値段より色を付けて買い取って
頂きましたよ?」
すると男性は、意外そうに目を開くと
大笑いしていた。
「ガッハハハ、そいつはいい。坊主は
大したものじゃないか!ドロシーばあさんに
一泡吹かせるとは!」
相当、愉快だったのか笑いが収まるまで
暫く掛かり。落ち着いところで
話の続きが始まった。
「自己紹介が遅れて、すまないな。俺は
グラウェ、この店の店主をしている」
「僕はアレクサンダー、冒険者見習いです。
こちらは師匠のルシアさんです」
グラウェとアレクの会話を邪魔しないように
少し控えめに立っていたルシアが前に出る。
「冒険者をしております、ルシアです。
弟子がお世話になります」
こちらでは、ネコ被りモードでミステリアス
美人を演じていた。
アレクは誤解がないようにグラウェに
買い取りの件を伝えておく。
「ドロシーさんに色を付けて買い取って
もらえたのは師匠のおかげです」
グラウェは首を横に振ると。
「あのばあさんが、坊主にウチを紹介した
ってことは坊主のことを気に入った証拠だよ」
「そうなんでしょうか?」
正直なところが分からず、あいまいに答えてしまう。
「あのばあさんは、普段は性格が悪いが
気に入った相手には甘いからな……」
その言葉に思い当たることがあり笑ってしまう。
「そうですね、ドロシーさんは素直な方では
ありませんが……とても優しい方だと思います」
お互い笑い合っているとグラウェさんが
商売の話をしてくる。
「話し込んで、すまないな!今日は坊主の
弓と軽装鎧の購入だったか?」
「はい、弓は合成弓を軽装鎧はレザーアーマー辺りを考えてます」
「予算は、どれ位を考えている?」
「えっとー予算は金貨20枚以内で購入出来ればと考えてます」
(今後も、色々とお金が掛かるだろうし
今の所は外に冒険することも少ないから
節約したいんだよなぁ)
予算を伝えると、グラウェさんの顔が
パッと明るくなった。
「なんだ、冒険者見習いだから貧乏かと
思ったが……それだけあれば希望の品は
予算内で購入可能だぞ?」
グラウェさんがまず勧めてくれた鎧のは
全身防御のレザーアーマーで金貨5枚で
通常金貨5枚と銀貨5枚のところを値引きして
もらえた。
次に普通の合成弓を勧めてもらったが試しに構えてみると俺の
【身体強化】に耐えられるか少し不安を
感じる感触だった。
「グラウェさん……実は僕の【身体強化】の
スキルは普通の人よりも強力らしくて
それに耐えられる弓がほしいのですが……」
少し遠慮しながら希望を伝えると。
「耐久性の高い弓か……けど、それは……」
グラウェさんは、ブツブツと独り言を呟きながら店の奥に歩いていく。
暫くするとグラウェさんが
1つの弓を手に戻ってきた。
「これなんだが……以前、近くの武具店が
店仕舞いをする時に「誰も使えなくて金にも
ならないから引き取ってくれ」と言われて
引き取ったものなんだが……」
「なぜ、誰も使えないのですか?普通の弓に
見えますが……」
弓は、大きさは普通だし少し黒く薄汚れて
いるように見えるだけで問題なさそうに見えた。
「こいつは、魔物の素材で作られてるらしいんだが……誰が扱っても弓の弦すら
『ピクリ』とも動かん欠陥品なんだ」
そう言いながら、グラウェさんは
グローブをして弓の弦を引こうとするが
全く動く気配がない。
「っがはぁ!この通り……全く……
動かんのだ……はぁ……はぁ……」
相当、力を入れていたのか息切れしながら
グラウェさんが弓をこちらに渡してくる。
正直、そんな欠陥品を押し付けられても
困るのだが試しに弓を引きてみる。
「うおっ!本当に全然、動かない!」
師匠も不思議そうに弓をジッと見つめている。
「グラウェさん!【身体強化】のスキルを
試しに使ってみてもいいですか?」
好奇心から試してみたくなる。
「ああ、いいぞ!壊しても文句は言わないから思い切りやってみろ!」
遠慮するな!という表情でグラウェさんが
促してくる。
「【身体強化】〈本気モード〉」
「っ!?引けた!やりましたよ!グラウェさん!!」
あんぐりと口を開き驚愕するグラウェさん。
「坊主!!お前は化物かあぁぁ!」
(おいっ!それは失礼過ぎるだろ!!)
「いやいや、スキルを使っても
かなり力を入れてますからね?これ」
弓を直し、カウンターの上に置く。
興奮状態だったグラウェさんが落ち着くのを
待っていると師匠が「鎧の試着や調整も
した方がいいのではないか?」と耳打ち
してくれた。
「それもそうですね、グラウェさん!
弓は、置いといて先に鎧の試着と調整を
お願いしてもいいですか?」
「あ、ああ……取り乱してすまない。
こっちの作業場で調整してやるから坊主は
奥にきてくれるか?」
「はい、お願いします」
俺が奥に歩いていくと師匠が一言告げる。
「私は、店内で待たせてもらうよ」
30分程経ち、鎧の調整を終えて帰ってくると
師匠が俺にしか分からない小声で。
「あの弓を必ず手に入れろ」と囁いた。
俺が驚いているとグラウェさんも
カウンターに戻ってきた。
「レザーアーマーの代金、金貨5枚と弓は元々貰い物だからタダでいいぞ!置いといても邪魔なだけだからな」
ハッハハハと笑いながら喋りだした。
「えっと、いいのですか?鎧も値引きして
もらって弓までタダというのは……」
師匠の助言の意味を想像して躊躇する。
すると師匠が助け舟を出してきた。
「なら、予算も余ったことだしショートソードの良いものを定価で買うというのは
どうかな?」
それを聞いてグラウェさんも嬉しいそうに
していたので師匠の条件で話を進めた。
「では、それでお願いします。上質な
ショートソードがあれば予算内でそれを
頂けますか?」
結局、レザーアーマーを金貨5枚と
上質なショートソードを金貨4枚と
矢を金貨1枚分の合計金貨10枚を購入した。
購入後、グラウェさんと固い握手を交わし
店を後にした。
拠点への帰り道、師匠に武具店での
助言の意味を確かめる。
「師匠……あの弓って……なんなんですか?」
並んで歩いていた師匠は、立ち止まると
弓について語り出した。
「ぼーやが、鎧の調整に行っている間に
マナー違反だが【鑑定】を使った。
【鑑定】の結果あの弓はグラウェの言う通り
魔物の素材を使ったものだったのだが……」
師匠は、そこで一呼吸置く。
「あれは只の魔物などでなく
ケルベロスを素材に作られた逸品だ」




