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モルレト平原の一騎打ち

 今朝方まで降っていた雨も昼には止み……モルレト平原を厚く暗い雨雲と冷たい空気が、決戦の場を覆っていた。

 その場に対峙するのはクーデター派800人と王族派200人。

 クーデター派は青い布に剣にバラが巻きついた軍の旗を掲げ、王族派は赤い布に王冠に剣が添えられた王族の旗を掲げる。


 お互いに同じ鎧を纏いながらも、従うべき者が異なることで、装備に青いと赤という色分けを行うことで両者は自己主張する。

 戦力という違いもあったが……両者の間で大きく異なっている点は、集団を率いる者の立ち位置であった。


 クーデター派の先頭には、雪のような真っ白な髪をベリーショートにした、凛々しい女性の姿があった。

 腰には白銀に輝くレイピアをさし、極限まで軽量化されたミスリルの軽装鎧を装備している。


 手甲・足甲・胸部鎧と限られた部分のみ防御する以外は、美しい藍色の布が体の全体の割合を占め、スカートのスリットからは白いももが見え隠れしている。

 正に守るための鎧ではなく……攻めるための鎧であり、戦姫の名に相応しい仕上がりをしていた。


 一方、王族派を率いる王が座する本陣は200人の兵士達の後方……戦場より若干離れた場所、少しだけ小高になっている丘の上に置かれていた。

 本陣には王を守護する近衛兵と上級兵士達が待機しており、守りを固めている。


 カエルレウム共和国 元国王ヒョウガ・テュス・カエルレウムの姿が、そこにはあった。

 虚ろな瞳に顔色の悪い肌、白髪に白く伸びた立派なひげも、どこか迫力を失っているように感じる。

 用意された豪華な本陣に座し、焦点の合わない瞳で戦場を、見渡しているようであった。


 戦場の先頭に立ち、命を懸けて戦う戦姫と兵を盾とし安全な後方から戦いを見るだけの王。

 各自の役割というものがあることを、戦場に集まった兵士達は理解していたが……否が応でも戦姫と王を対比して兵士達は見てしまう。


「はぁ〜、俺もクーデター派に入るべきだったかなぁ〜何でこんなところで整列してるんだよ俺は……」

「しっ!お前……それが上級兵士の耳に入ったら懲罰だけじゃ済まないぞ!」


 王族派に属する兵士達が、かつての同僚と戦うことになるかもしれないという緊張の中で、思わず心情を吐露とろする。


「はっ!位の高い者は、安全な国王陛下の元で呑気に観戦してるんだろ?俺達のことなんて気にしちゃいないさ!」

「そりゃそうだが……何処で誰が話を聞いてるか分からんだろうが」

「どうせ皆、俺と同じ気持ちだろ!いつもでも1番被害を受けるのは俺達、下級兵だけなんだ……こんなことをするために……仲間と戦うために兵士になったわけじゃないぞ!俺は!」


 下級兵の憤りを聞いていた周りの兵士達も、同意する素振りは見せなかったが……心の中では王族派の上官達に対して不満を抱いていた。

 そんな中で兵士達の視線が一斉に何かを追い始める。


 200人の兵士達が整列していれば、何か動きを見せた方から自然と波のように行動は伝播してくる。

 その兵士達の視線の先には、漆黒のマントを纏い仮面を付けた男がいた。

 その男のことを兵士達は良く知っている……1週間前の中庭での騒ぎは記憶に新しく、一カ月前には王城の正門から堂々と侵入し、取り囲んだ兵士達を剣の一閃だけで圧倒してみせた傭兵。


 兵士達の間でも戦姫と同等の実力を持つと噂される……傭兵団《黒狼》リーダー クロである。

 兵士達30人を無手で相手にしても、ケロッとしている異次元の強さを持つ男の登場に、整列していた兵士達から熱い視線が寄せられる。


「国王陛下や上官なんかよりも、俺達の代わりに戦姫との一騎打ちを申し出た、あの男の方がよっぽど信用できるぜ!」

「けど、あいつは金を貰って戦姫と戦うんだろう?それはどうなんだ?」

「じゃあ同じ額の金を貰って、お前は戦姫と戦えと言われたら戦いたいか?」


 兵士の問いかけに、一瞬でも戦っている自分を想像して、男は全てを諦めた表情を見せる。


「だろ?それに、あの男が戦姫に勝利すれば絶望的な王族派も少しは盛り返すかもしれないしな。俺達にしてみれば応援しない理由はないだろう?」

「それもそうだな……それに傭兵が、あの戦姫にどれほど張り合えるのか個人的にも興味があるところだしな」


 妙な高揚を感じながらも、兵士達はクロの背中を頼れる味方のように思うのであった。



 ===============================



 平原に整列する兵士達の横を、クロとブラスマは平然と歩いいく。

 何故かブラスマの顔色は悪く、今にも吐いてしまいそうな様子である。


「そんなに心配ですか?」

「えっ?」


 急にクロから問いかけられたブラスマは、混乱して返事をできずに黙ってしまう。

 そんなブラスマに再度分かりやすく、クロは問いかけ直す。


「戦姫との勝敗が気になっていたのでは?」

「えっ!あぁ!そうなのです!クロ殿が強いことは承知していますが……どうにも落ち着かなくて」


 そう言いながらブラスマは、カギを入れている胸の内ポケットに手を当てる。

 いつもの触り慣れた感触に違和感を覚えるほど、ブラスマは緊張していた。

 一騎打ちの勝敗についても、不安はあったが……ブラスマが本当に心配しているのは、王城に残されているセツナについてだった。


 ブラスマがセツナの存在を知ってから、彼女の能力を有効に利用するために、細心の注意を払ってきたのだ。

 他の国や何かしらの組織など、彼女ことを知れば利用したいと考える者は山ほどいる。

 そのためにブラスマは、決して王城を離れることはなかった。


 しかし、国王陛下に戦姫との一騎打ちのことを報告すると、最近は一切のことに関心を持たなかった国王ヒョウガ・テュス・カエルレウムが戦いを見届けることを決めたのだ。

 国王陛下が一騎打ちを見届けるのに、宰相であるブラスマが同行しないわけにはいかず、苦渋の決断であったが……一時的に城を離れることを決めたのだ。


 何事も起こらないでくれ!と祈りながら胸の内ポケットのカギをギュと握っていると、不審に思ったクロが心配そうに声を掛けてくる。


「宰相様、大丈夫ですか?顔色も優れないようですし、何やら胸も苦しいご様子……もしや何か持病でも?」


 自らの行動が不自然過ぎることを理解したブラスマは、平静を取り繕い返事をする。


「いや、申し訳ない……今更になって王城の守りが心配になってしまいました。クーデター派の別働隊が、王城に攻め入ったと考えたら胸が苦しくなってしまいまして」

「それは、あまり心配ないのでは?もし、そんなことをすれば、クーデター派の信用は地に落ちます。ここまで大きく行動を起こしているのですから……ここにきての裏切りは国民も良しとは思わないでしょう」

「そう……ですね。それより目の前にある障害に向き合わないといけませんね」


 ブラスマの言葉が、視線の先にいる人物に向けられていることに気が付き、クロも進行方向にいる人物に視線を送る。

 2人の視線の先には既に戦闘態勢に入っている戦姫の姿があった。


 クロも王族派の先頭に立ち、戦姫と向かい合うとアイテムボックスから翡翠ひすいに輝く剣を取り出す。

 両陣営の代表が出揃ったところで、10mほど距離を取っているクロと戦姫の間に宰相であるブラスマが出てくる。


「これより戦姫ヒョウカ・テュス・カエルレウムと傭兵団《黒狼》のクロによる一騎打ちを執り行う。この場の結果は、互いの団体に帰属することになるが……異存はないか?」

「異存ありません」

「異存はない」

「では、正々堂々戦うが良い!始めっ!」


 ブラスマの開始合図を受けて、戦姫とクロの間に張り詰めた空気が流れる。


 互いの派閥の兵士が2人から100mほど、距離を取っていてもピリピリとした気配を感じることができ、兵士達は知らぬ間につばを飲んでいた。


 そんな兵士達を他所に2人は、周りには聞こえないほどの声の大きさで軽く会話を始める。


「では、始めましょうか戦姫様……予定通り戦闘をできるだけ引き伸ばして、時間を稼ぐとしましょう」

「えぇ、不審に思われない程度の戦闘で、見物客を楽しませるとしますか」


 戦姫は皮肉を言いながら、恐らく黒幕であろう宰相ブラスマを睨みつける。

 やがて、気持ちを切り替えクロに向き直った戦姫が自らの眼前にレイピアを構える。

 クロも疾風剣ラグトゥスを片手で構え、各種スキルを発動しながら迎撃態勢に入る。


「いきますよ?間違っても簡単に死なないで下さいね」

「あぁ、こい!」


 戦姫の言葉に答え終わったのを合図に、まずは縮地で距離を詰めようとするクロであったが……その考えは最初から悪手あくしゅとなる。


 クロが縮地で高速移動した直後にヒュン!ヒュン!と何かが凄まじい速度で、クロのほほかすめていき痛みが走る。

 反射的に距離を取ったクロは、自らのほほから血が流れていることに気が付く。


 左手でほほの血を拭いながら、自分の身に何が起きたのか、必死に頭を回転させていると、戦姫が戦いの最中に語り掛けてくる。


「今のを初見で躱すなんて、中々できることではありませんよ?それに珍しい移動方法をお持ちのようですね?」


 余裕たっぷりの態度で眼前にレイピアを構えながら戦姫は微笑み、獲物を仕留める方法を考えるようにクロを眺めてくる。


「いや、こちらも驚いたよ。縮地を使った俺を的確に捉えてくるなんてね……危うく死ぬところだった」


 平静を装いながら、改めて戦姫の構えを見ると、クロは心の中で舌打ちをする。


(ちっ!俺はバカか!?相手は氷血の戦姫と呼ばれる戦いの天才だぞ……それが只のレイピアによる攻撃をしてくるわけがないだろうが!)


 戦姫は右手レイピアを構え、左手を後ろに隠している。

 右足は前に左足は外向きに開くように固定されている……そしてクロは、その構えに見覚えがあった。


(あれは……確か、フェンシングだったか?その構えに近い気がする)


  独特の構えも最初から見えていたはずなのに、何も考えることなく無策に突っ込もうとした数秒前の自分を殴りたい気持ちに、かられながらクロは【思考加速】を発動させ、引き伸ばされた時間の中で観察を続ける。


 次の攻撃態勢に入った戦姫は、左足の爪先から腰に掛けてバネのような屈伸運動をし、レイピアを鋭く突き出す動作を見せる。

 しかし、驚異的だったのは攻撃動作ではなく、レイピアの先から射出された氷の針だった。


 形こそ、氷柱つららようなものの……10㎝ほどの大きさで研磨された氷の針は、当たれば容易に人体に穴を貫く威力を秘めていそうだった。


【思考加速】を発動させていても、そのスピードは弾丸のように感じられる。

 屈伸運動の伸びとスピードが乗ったレイピアの一撃が、そのまま氷の針に加えられ凄まじい速度を生み出していた。


(あっぶ!!)


 氷の針による三連撃を、辛うじて縮地の横移動で躱しながら、クロは反撃の糸口を必死に探す。


「まさか……2撃目以降は、かすりもしないとは……本当に驚かせてくれますね」


 明らかに最初よりも不快な表情で、引きつった笑いを浮かべる戦姫に、クロは感心する。


(戦姫様も演技派だなぁ、イラついた演技でお互いの実力が拮抗してるように見せてるのか……とはいえ、俺も合わせないと流石にマズイよな?)


 クロは周りには対等な戦いに見えるように、戦姫に対して大きな声で挑発するような返事をする。


「おいおい、戦姫様……こんな氷のオモチャで俺のことを仕留められると思ってたのか?そんなんじゃ、いつまで経っても勝負にならないぜ?やるなら本気で来いよ!!」


 疾風剣ラグトゥスを肩に乗せながら、空いた左手を返し戦姫に向けてクイックイッと動かすと“かかって来い”のポーズをとる。


(映画で見たことある挑発のポーズ……一度でいいから、やってみたかったんだよ!今俺、ちゃんとドヤ顔できてるかな!?)


 ノリノリで演技してみたクロだったが……次の瞬間、自分のふざけた行動を本気で後悔することになる。


「いいでしょう……本気でお相手して差し上げます。死ぬ覚悟はお済みのようですので、もし穴だらけになっても恨まないで下さいね?」


 心の底から凍えるような本気の殺気と笑顔を、戦姫はクロに向かって放ってくる。

 先程までとは比べ物にならない雰囲気に、思わず弁解しようとするクロだったが……その声は戦姫には届くことはなかった。


「ちょ!ま――!」

「突き殺す刃……【アイス・レイン】!!」










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