エレナの活動報告
錬金術師エレナ、彼女は特殊な境遇から半ホムンクルスとしての生を受けることになる。
現在は冒険者チーム《漆黒の魔弓》に所属し、仲間のサポートと錬金による薬の開発を行っている。
そんな彼女だが……他の人とは違う特殊な能力を持っている。
それが体細胞の異常増大と細胞の流動的変化である。
異常増大した細胞は黒く変質し、使用する際には黒い触手を安定して動かすことができる。
一時は自身の能力として受け入れることができずに、暴走してしまうこともあったが……今では自由自在に動かすことも、形態を変化させることも可能になっていた。
それに一役買ってくれたのが、冒険者チーム《漆黒の魔弓》のリーダーアレクである。
アレクとアマリアは、エレナの触手について偏見や差別することなく、接してくれる。
《漆黒の魔弓》のメンバーも、エレナのことを快く受け入れてくれているが……アレクのように図々しく距離を詰めてくることはなかった。
アレクは、興味のあることに対して遠慮することがなく、エレナに対しても様々な提案をしてくる。
アレク達が新たに手に入れた拠点に住みだした頃には、毎日のようにアイディアを聞かされていた。
最初に提案されたアイディアは、触手に流動的に全身を覆わせ鎧とすることだった。
エレナが暴走した時に触手を鉤爪に変化させていたことから、武器ができるなら鎧もできるのでは?という発想からの提案である。
アレクに言われるままに、頭の中で騎士が着るような鎧を想像して触手を流動的に動かしていく。
最初に出来上がった鎧は、まさにプレートメイルのような正統派のものだった。
しかし、この出来に不満な声を上げたのはアレクだった。
「う〜ん、ゴツいと言うか……野暮ったいというか……美しくない!」
「鎧に美しさは必要なんですか?必要なのは機能性では?」
「まぁ、エレナ自身が動きやすいのが1番なんだけど……美しくないよりは、美しい方が良くないか?」
「それは、そうですけど……」
それから2人で話し合いながら最終的に形が整った鎧は、エレナの予想異常に禍々しく、少しだけ体のラインが出てエッチな仕上がりになった。
外見は兎も角、エレナ自身が驚くほどに鎧は動きやすく、最初のプレートメイルに比べると性能は雲泥の差だった。
そして試行錯誤していくうちに、エレナは触手の面白い特性に気付く。
それは自分好みに形を形成すると、目に見えて性能が向上するのだ。
例えるなら、触手による武器形成が1番分かりやすく、剣や槍などは見本を見ながら形を形成しても上手に仕上げることができなかった。
しかし、アレクからどんな武器がカッコいいと思う?と聞かれた際に1番最初に想像したのは、物語に出てくる死神の大鎌だった。
死の象徴であり絶対的な力の象徴でもあった大鎌を、特に考えることなく触手で形成すると……見たことないにも関わらず、切れ味抜群の大鎌を形成することができたのだ。
この件があってから、エレナの触手に対しての考え方が少しずつ変化していく。
今までも自分の一部として触手のことを認識していたが……その頃から触手は、自分そのものだと考えるようになっていった。
自分の好みによって触手の発揮できる性能も変わり、自分の身近にあるものなら意識しないでも形成できるようになる。
錬金術の道具なども形成でき、触手を手のように操ることも、同時に複数を動かすことも当然のようにできるようになっていく。
そこまでできるようになってからエレナは、何故アレクが積極的に触手を使うことを勧めていたかを理解できた気がした。
それは、きっと自分自身の能力と向い合うためだったのだろう。
アレクが色々と提案しなければ、エレナは触手を積極的に活用することをしなかったかもしれない。
触手を多く活用しなければ、触手の特性に気付くことができなかったかもしれない。
その場合は触手に対して違和感を感じ続け、いずれ暴走していたかもしれない。
知らず知らずのうちに、アレクに導かれていたことが分かり、エレナはアレクに感謝を伝えた。
しかし、アレクはケロッとした表情でエレナの考えを否定する。
「エレナをどうにかしてやろうなんて、俺は考えてないよ。自分の興味のあることを、エレナと一緒に研究してただけだからな。あっ!でも、勘違いするなよ?俺はエレナのことを仲間だと思ってるからな?」
エレナはアレクが何を言わんとしているかを理解すると、クスッと笑う。
「えぇ、アレクが私のことを実験体として見てないことは分かっています。以前、完成形の鎧を見せた時に、私の体を見て少しだけ照れてましたもんね」
「なっ!見て――たかもしれない……」
“見てない”と答えようとしたアレクだったが……否定すると文脈的に、エレナのことを実験体として見てるという意味になると考えて、仕方なく肯定する。
もちろん、エレナに対して仮に“見てない”と答えても悪い意味に取らないことはアレクも分かっていたが……悪戯を仕掛ける子供のような表情を見せるエレナに、アレクは負けてしまう。
そんなことを繰り返しているうちに、エレナの触手の扱いは体を動かすように自然なものになっていくのであった。
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首都アクアエの街の屋根を、身軽に駆ける2つの影があった。
1つは空中を【風の束縛】を発動させて移動する漆黒のマントを着込んだキア。
もう1つは漆黒の鎧を纏い、屋根にある障害物に鉤爪付きの触手を伸ばして体を引き寄せるエレナである。
2人は夜の闇に紛れてアクアエの街を、自由自在に移動していく。
キア・エレナは、王族に潜入しているアレクより、クーデター派のと連絡役とアクアエでの諜報活動を指示されていた。
今日は、クーデター派の工作員であるルプルと定期連絡を行うために、約束の場所へと向かっていた。
集合場所は人気の少ない住宅街の屋上である。
かつては獣人族の住むスラム街であったが……王族派の獣人族排除の動きを受けて、街から獣人は消えスラム街は閑散としていた。
先に集合場所に着いたキアとエレナは、時間を潰すために、たわいのない話をしていた。
キアとエレナはアクアエに来てから、共に過ごす時間が多くなり、ゆっくりと仲を深めていた。
キアもエレナも《漆黒の魔弓》に所属してからは日が浅く、同じ環境にあったためにお互いの気持ちを共感できたことが彼女達が親しくなれた要因であった。
「少し前から気になってたんですけど……その鎧で着地する時に、まったく音がしないのは何故ですの?」
「そんなことを気にしてたんですかキアさん?それは着地する瞬間に、足の接地面を柔らかく変化させているからです」
そう言いながら、エレナは触手の鎧で覆われた足の裏をキアに見せる。
「今は通常の鎧状態です」
エレナは片足を上げて足の裏を、キアに向かって見せる。
ついでに手を足の裏に近付けると、鋭くなっている爪でコンコン!と足の裏を叩いて硬くなっていることを証明する。
「これをジャンプしたり着地する時だけ、柔らかく変化させます」
エレナが話し終わると同時に、足の裏が流動的に動き出し、見た目からも硬さを失う。
先程と同じように鋭い爪で足の裏を触るが、そこからは何の音もしない。
キアも実際に確かめたくなったのか、恐る恐るエレナの足の裏に手を伸ばす。
「そんなに怖がらなくても、大丈夫ですよ?むしろ触り心地は良いかと」
「ほ、本当ですの?どうもウネウネしているのは苦手ですわ」
「今はウネウネしてないから、心配いりませんよ」
エレナに勧められるままに、足の裏を人差し指でツンツンするキアだったが……次の瞬間には不思議な感覚に、心惹かれていく。
プニプニと絶妙な柔らかさの物体が、そこにはあった。
「こ、これは……!?何とも言えない柔らかさですわね!」
キアは、あまりの触り心地に両手でムニムニとエレナの足の裏を揉み始める。
「ちょっと……!くすぐったいですけど!」
足の裏を揉まれることに、抵抗が生じ始めたエレナは足の裏を柔らかくするのを止める。
そんなエレナにキアは残念そうに、喋りかける。
「もう終わりですの?もう少しだけ、触らせてくれません?それか足の裏でもなくても、柔らかくすることが可能なら、他の箇所でも構いませんわ」
「えぇ……じゃあ、少しだけにして下さいよ?」
そう言うとエレナは、腕をキアに差し出して腕の鎧を柔らかく変化させる。
柔らかくなった腕を、ムニムニと揉みまくるキアを見て、エレナはアレクの話を思い出していた。
触手の活用法をエレナがアレクと考えている時に、エレナはアレクに前世でも触手を持っている者はいたのか?と聞いたことがあった。
アレクは、少し考えるとエレナの問いに悩みながら答える。
「流石に触手を持った者は、いなかったけれど……触手責めとか、触手プレイとか変わったジャンルは存在したよ」
「触手責め?触手ぷれい?それは、どういうことをするものなんですか?言葉からして攻撃手段のようですが?」
「う〜ん、体を傷つけずに心を屈服させる手段みたいなものかな?相手を気持ち良くするというか……なんというか……」
その時はゴニョゴニョ話すアレクに誤魔化されてしまったが……エレナは、キアの様子を見て確信する。
(これがアレクの言っていた“触手ぷれい”というものですね!相手を傷つけずに気持ち良くして、心を屈服させる……まさか、触手にこんな使い方があったなんて!これは“触手ぷれい”をキアに試して会得したと、アレクに報告しないといけませんね……)
そんなことをしていると、離れた屋根からキアとエレナに近付いてくる影があることに、エレナが気が付く。
だんだんと近付くにつれシルエットが、はっきりしてくると……それは茶色いマントを着たルプルだった。
同じ屋上に舞い降りたルプルが、歩いて2人に近付いてくると視線がエレナの腕へと注がれていく。
そこには、まだ気持ち良さそうにエレナの腕を揉んでいるキアの姿があった。
「えっと……キアさんは何をされてるんです
?エレナさん?」
「これは“触手ぷれい”というものですよ。よろしければルプルさんも触ってみますか?」
少しだけ警戒するルプルであったが……キアが気持ち良さそうに触っていることから好奇心が湧き、触らしてもらうことを選ぶ。
その後、エレナの“触手ぷれい”に魅了された2人は暫く、エレナの腕を堪能するのであった。
エレナの腕の感触を堪能したキアとルプルは、幸せそうな表情を浮かべ立ち尽くしていた。
流石に仕事をしないとマズイと考えたエレナが、2人に仕事をするように促す。
「あの〜そろそろ報告と情報交換をしませんか?時間も限られていることですし……」
「はっ!私としたことが、仕事をわすれるなど……恐ろしいですわね“触手ぷれい”の威力は」
「うっ!私も仕事を忘れていました!戦姫様の工作員として失格ですぅ」
それからキアとエレナは、ルプルにアレクから得た情報と作戦の進捗を伝える。
ルプルも戦姫からの教えられたクーデター派の動きなど報告して、いつも通りの定期連絡を終えようとしてた。
そんな時に、キアが不思議そうにルプルを見つめていることに気が付き、エレナは声を掛ける。
「どうしましたかキアさん?ルプルに対して気になることでも?」
「えっと〜気になることというか……何故、匂いがしないのかと思いましたの」
その言葉にルプルは、ビクッと肩震わせる。
キアを見つめながら、ルプルは意を決して自分の意思を伝える。
「そのことなのですが……もしかしたら、半獣の私の匂いがエルフであるキアさんを、不快にさせているのではないかと考えまして……アレクさんに消臭液を頂いて、使用してみたのです。……ご不快でしたか?」
心苦しそうにキアを見つめるルプルに、キアは隠すことを諦めて本音を話し始める。
「ルプルさんのことを不快に思ったことは、ありませんわ。むしろ好意的に見ていましたの……先人達から聞いた獣人族は、野蛮で粗雑で礼儀知らずの者共でしたわ。ですが……ルプルさんは、礼儀正しくエルフである私にも決して失礼な態度はとりませんでしたわ」
「えっ?では、よそよそしく感じたのは?」
ルプルの問いに、キアは頭を横に振る。
「それはルプルさんと、どう距離を縮めていいのか分からずに困っていましたの……けれど、今日ルプルさんから気遣いを受けて自分の意思を、はっきり伝えようと思いましたわ!私は種族関係なくルプルさんと親しくなりたいと考えてますわ……今はまだ、お互いに立場があるので自由にと言うわけにはいきませんが、全てが終わったら仲を深めましょう」
ルプルは泣きそうになるのを我慢しながら、頭を縦に振る。
「そうですね!全てが終わったら……普通に会って、普通にお話して、そして親しくなりましょう!その時を楽しみにしてます!」
そんな2人を温かい目で見つめながら、エレナは夜空を仰ぎ、早く争いが終わることを切に祈るのであった。




