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キアの活動記録

 これはキア・テーネルの活動の記録……話はアレク達が首都アクアエに到着した頃にまでさかのぼる。

 アレクから自分達を囮として、カエルレウム軍の人間を誘い出す作戦を聞いたキアは、アクアエの地理を把握するために屋根を伝い、街を上から観察していた。


 水の都と呼ばれるアクアエは、太陽を反射して煌めく水面と白い建物に赤茶の屋根のコントラストが映え、美しい街並みが広がっている。

 街全体に蜘蛛の巣のように広がった水路が、大小と複雑に組み合わさり、その水上をゴンドラが滑るように移動していく。


 今までドルミレ大森林や王都ドォールムくらいしか目にしたことのなかったキアは、その豊富な水源に感嘆かんたんする。

 キアにとって水は、自らの喉を潤すためや身を清めるために使われるものとしか考えていなかった。


 しかし、目の前では水が人や物資の運搬に利用され、街の景観けいかんにも一役買っている。

 そして単純に首都アクアエのことを、美しい街だと思うことができた。


「緑の豊かな場所を好むエルフである私が、人が作った街を美しく感じるなんて……不思議なものですわね」


 屋根の上にたたずみ、気持ちのいい風を体に受けながら、キアは独り言をつぶやく。

 首都アクアエの街は水路を中心とした街づくりになっているため、背の高い建物が密集して並んでいることが多い。

 それにより屋根の上という場所は、物理的にも心理的にも死角になりやすい。


 それを利用して自身が身軽であることと、【ウインド束縛・ボンデージ】を使用した空中移動で、キアは自由自在にアクアエを動き回ることが可能になっていた。

 夜になると漆黒のマントに包まれたキアの姿は、光が届かない屋根の闇に溶け込み更に発見することは困難になる。


 今日1日の報告と、アレクとの情報交換のためにアレク達が滞在している宿の屋根の上に、キアは舞い降りる。

 屋根の上で膝を折ると、目をつむり伝心の指輪に意識を集中して念を送る。


(アレクまだ、起きてます?)

(あぁ、まだ起きてるぞ?今日の報告をキアにしないといけないからな)


 少しだけ眠そうなアレクの声に、キアは報告が遅れたことを後悔する。


(遅くなって、申し訳ありませんわ。何せ慣れてない事で慎重に行動してましたから)

(別に責めてるわけじゃないから、謝らないでくれ。それにキアに仕事を頼んだのは俺なんだから、謝るとしたら俺の方だよ)


 アレクは、今日集めた情報と明日からの行動方針をキアに伝える。

 1日で集めた情報の量が多く、中々に覚えるのが大変だったが……必要な情報ばかりだったのでキアは、聞き漏らしながないように必死に内容を覚えた。


(大体の内容は、分かりましたわ。それでは明日も引き続き、仕事に勤しみますわ)

(おう、宜しく頼むよ。それと無理は、するなよ?仕事を頼んだ俺が言えることじゃないけどな)

(もちろん、無理はしませんわ。私はエルフ族の未来を背負ってますもの)


 アレクとの情報交換を終えたキアは、人気のない建物の屋根に移動して体を休める。

 アレクからは離れた場所に、宿を取って拠点にするように言われていたが……正直なところエルフが1人で宿に泊まることに、不安を覚えキアは屋根の上で野宿していた。


 水源は街のいたる所にあるために、飲み水には困らないし……体を清潔にすることも可能だ。

 念のためにとカインから、一時的に貸してもらった魔法袋に、食料品や必要品も入っているので快適な監視生活を送ることができていた。


 そして、あっという間にアクアエでの監視生活は7日目になろうとしていた頃……地元住民に、カエルレウム軍について聞き込みをしていたアレク達を、建物の陰から窺っている者をキアは発見する。


(ようやく、ネズミが罠に引っかかったようですわね……それにしても、屋根の上からだと本当に不審者を見つけやすいですわ)


 キアの視線の先にいる薄汚れた茶色いフード付きマントを着た者は、かなり慎重派のようで随分と離れた場所からアレク達を監視していた。


(あの距離でアレク達の会話の内容とかが、分かるのかしら?それか特殊なスキルを持っている可能性も?)


 そんなことを考えていると、建物の間を強めな風が通り過ぎる。

 細かい水路が張り巡らされているアクアエでは、建物の間に強風が吹くことが多い……それを利用して洗濯物を干している家庭も多いので、住民には生活の一部になっているようだ。


 そんな風に乗ってキアの鋭敏な鼻に、監視者の匂いが届く。

 その瞬間、キアは屋根の上で直ぐに姿勢を低くして、警戒態勢に入る。


(あの監視者……獣人ですわね。危ないところでしたわ、油断していたら私の方が見つかってしまうところでしたわ)


 キアは己の迂闊うかつさにかつを入れ、監視を続ける。


(獣人……確かアレクが教会から得た情報の中にクーデターに獣人が参加しているらしいというものがありましたわね)


 アレクの情報から、獣人がカエルレウム軍に関係している者だと判断したキアは、注意深く監視を続ける。

 キアは、獣人について過去の種族間の争いから色々な話を先人達から聞いていた。


 獣人特有の素早い動きと、大木を切り裂く力……そしてエルフとは違った意味で進化した嗅覚や聴覚。

 決して油断できるような相手ではないし、最悪こちらが見つかれば、殺される可能性もある。


 幸い、キアの存在は獣人には悟られることなく、高所という優位な立ち位置から安全に監視を続けることができた。

 やがて、アレク達から遠ざかっていく獣人を見失わないように追跡し、キアはアクアエの倉庫街へと辿り着く。


 獣人が、建ち並ぶ建物の1つに入っていったところまで見届けると、キアは直ぐに逃げられるギリギリのラインを見極めながら、建物を探っていく。


 獣人の他にも建物にはチラホラと人の出入りがあり、特に怪しいところは見受けられない。

 しかし、キアは直ぐに不審な点を発見し、それを確かめるために耳を澄ます。


(やはり……足音を消して歩いている者がいますわね。これもアレクの情報にあった、特殊な歩行術を使うカエルレウム軍の者と合致しますか……)


 複数の状況証拠から、目の前にある建物がカエルレウム軍の拠点だと判断して、キアはきびすを返しアレクの元に急ぐのであった。



 ===============================



 アレクにカエルレウム軍の拠点と思われる場所を発見したことを報告したキアは、アレク・エレナと共に拠点への侵入を試みる。

 建物の中で別行動をとることになったキアは、暗い通路から即効性の麻痺毒を塗った暗記を投擲し、次々に警備にあたっていた兵士達を無力化していく。


 同行していたエレナは、触手の先に麻痺毒を仕込むと音もなく触手をはわわせ、兵士の背後をとるとチクリと首元に攻撃を仕掛ける。

 兵士達は一瞬だけ驚いた声を上げるが、次の瞬間には糸が切れた人形のように崩れ落ちる。


 その様子を見ていたキアは、エレナに向かって感想を漏らす。


「その触手、かなり便利ですわね……実際に動かしている時は、どんな感覚ですの?」

「えっ?感覚ですか?自分の手足のように自由自在に動かせるので、特に意識したことはありませんね」

「でも刃物のように鋭くなったり、鎧のように硬くすることもできるのでしょう?それは手足とは違うのではありませんの?」

「そう言われれば、そうかもしれませんね。感覚的には硬くする時は力む感じで……柔らかくする時は脱力してる感じでしょうか」


 雑談しながらも確実に兵士達を無力化していき、やがて……キアとエレナは目的の場所に辿り着く。

 部屋の中には誰もおらず、束になった書類が整理されて置かれていた。


 早速、目的の命令書などを探そうとするキアであったが……書類を手に取るとピタッと動きが止まる。


「どうかしましたかキアさん?」


 キアの動きを不思議に思ったエレナが、書類を持ったままのキアの顔を覗き込む。


「……せんわ」

「えっ?なんですか?」

「共通語で読めませんわ」


 キアはエルフながらも、人族と将来的に交渉するために共通語を学んでいたが……話すのは得意でも、文字を書いたり読んだりすることが苦手だった。

 そういったことが必要な際には、妹のベラに任せっきりになっていたので、全く読み書きについては学んでこなかったのだ。


 それが潜入任務であだになるとは予測できずに、キアはガックリと肩を落とす。

 落ち込んだ様子のキアに、エレナは笑いかけて周囲の警戒を頼む。


「書類漁りは私が、やっておきますので……その間、周囲の警戒をお願いします。あとは隠されている書類がないかの確認も、一緒に頼めますか?」

「……えぇ、それくらいなら私でもできそうですわね。仕方ありません……気持ちを切り替えて仕事にあたるとしますわ」


 各自で仕事をこなすキア達だったが……やがてエレナが目的の命令書を発見する。

 しかし、その命令書の内容はアレクから探すように指示されていた内容とは異なるものだった。


 その内容とは、王都ドォールムに侵入した王族派の者を処理せよ。

 という内容のものだったのだ……日付を確認したが、一カ月前ほどの日付になっていた。


「これは……どういうことなんでしょうね?カエルレウム軍は、《漆黒の魔弓》の暗殺には関わっていなかった……むしろ、暗殺を止めようとしていた!というところでしょうか」

「意外な真実ですわね……でも、これで《漆黒の魔弓》を狙ったのは王族派?という者だという情報が手に入り、潜入の収穫があって良かったですわ」


 他の書類にも目を通しながら、エレナは確実に最近のカエルレウム軍の情報を集めていく。

 やがて約束の撤収時間になり、キアとエレナはカエルレウム軍の拠点から脱出するのであった。


 その後は拠点近くの路地裏に待機していたカイン達と合流し、アレクが帰ってくるまでに建物内の様子や知り得た情報を伝えていく。

 それから、しばらくして、アレクも合流地点に現れる。


 アレクも建物内で戦姫と接触することができ、直接情報を得ることに成功していた。

 危険な行為ということで、カインとアマリアからお叱りを受けていたが……結果としてキアとエレナが知り得た情報と照らし合わせ、カエルレウム軍の動きの裏付けをとることができたのだ。


 そしてアレクが新たな今後の予定が伝えられ、キアとエレナは新たな任務に挑むことになっていくのであった。






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