終の波
クロ達から裏切りを疑われ、クーデター派との戦いに王族派として、協力してもらえない可能性が出てきたことに、ブラスマは追い込まれていく。
クロ達からの信用を取り戻すために、ブラスマは自分が知る国家機密をポツポツと喋り始める。
「王族の方でも一部にしか知らされていませんが……“預言者”は確かに存在しています。そして国の有事の際には、判断の材料にしていることも事実です」
「国が判断の材料にするほどの力が、その“預言者”とやらにあるのか?」
話を聞いた者が誰しも感じる疑問を、クロはブラスマに問いかける。
「最初は国でも“預言者”の言葉は、妄言として扱われ気にかける者は皆無だったのですが……近年、その力が証明され始めたのです」
最初は誰も“預言”に見向きもしなかった……しかし、預言者は諦めることなく自らの“預言”を綴ったものを書き溜め続けた。
やがて、その“預言”が綴られた文章が宰相の目に留まることになる。
その文章には、ここ数年のアクアエ近郊で発生した災害や、魔物の事件について書かれていた。
“預言者”は外の状況を知ることにできない環境でありながら、そのことを見事に的中してみせたのだ。
それから王族の一部では、高度な政治判断に“預言”の力を利用できないか?という計画が持ち上がることになる。
“預言”の力を管理し、王族の……カエルレウム共和国のために使うことができれば、莫大な利益と繁栄を勝ち取ることができると考えたのだ。
しかし、計画は思ったように進まず“預言”の政治利用は頓挫することになった。
そんな中で、預言者が書き溜めていた物の中で実現していないものが、あることが発覚する。
それは預言者が初期に綴ったものだったので……発見は、かなり遅れてからになってしまったのだ。
そして、その内容こそが王族を震撼させる恐ろしいものだった。
“月日、巡りて西の地にて壁に力満ちる時、暗き森の果て、定命の者と共に波来たる予兆あり。
終の波、万物を飲み込み死の影をもちて、阻みしものを蹂躙す”
これを解読すると……月日が過ぎてアクアエの西の地で力が育つ頃、暗い森の果てから寿命のある者と“波”が共に訪れる予兆がある。
終わりの“波”が、全てを飲み込み死をもたらし、それを阻むものを蹂躙するだろう。
「その“預言”がきっかけとなり、王族派はアクアエの危機を回避するために行動しているのです。我々は《黒狼》の皆さんのことは、異変を知らせる予兆として捉え、そして“終の波”とはクーデター派のことだと解釈しています」
「では、何故ドォールムで俺達の知り合いがクーデター派に襲われたんだ?」
ブラスマは少しだけ考えると、話を続ける。
「それはクーデター派が、我々とは異なった解釈をしたのではないでしょうか?“預言”の一部を知ったクーデター派は、災いをドォールムから来る者と考えたのでは?」
それらしいことを話すブラスマを、よそにアレクは今得た情報を精査していた。
恐らく前半の“預言者”についての情報には嘘はなかったように思え、逆に後半のアクアエの危機を回避するという部分からは、嘘が混じっていたと判断する。
(問題は“預言者”……つまり戦姫の妹、セツナがどこに幽閉されているかということだよな……強力な手札なら手元に置いておきたいと思うのが普通だが)
ついつい考え込んでしまったクロを、ブラスマが落ち着かない様子でジッと眺めてくる。
「宰相様……今の話に嘘偽りは、ないだろうな?」
「えぇ、全てではありませんが……私にお話しできることは、できる限りお話ししたつもりです」
息を吐くように嘘をつくブラスマを、殴りたい衝動にかられながら、クロはテーブルの上に置いていた拳を下げる。
「とりあえず今日のところは宰相様の言うことを信じることにしよう。だが……2度目はないぞ?」
クロはブラスマに、そう言い放つと仲間と共に応接室を後にする。
仲間と共に自室に戻ると、探知スキルで周囲に反応がないことを確認してからアレク達は作戦会議を始める。
「先程の話から想像するに、戦姫の妹は王城内に……いや、入口のない塔の先に幽閉されているものだと思われる」
「やっぱりアレクもそう思うか……俺も戦姫の妹は王城内に囚われていると思うぜ?“預言”のことを重要視しているのは、あの話ぶりから間違いないだろうから、それなら手元に預言者を置こうとするのは当たり前だからな」
カインもアレクと同じ考えただったらしく、直ぐにアレクの考えに同意してくれる。
しかし、冷静な意見をアマリアが2人に振ってくる。
「けれど……何年もの間、1人の人間の存在を王城内で隠すなんて、普通は無理なんじゃない?何か秘密があるとか?」
「それは、これから調べてみないと分からないないな……王城の中からは、風の眷属を使役して俺が調べるとして、外からもキアとエレナに入口がない塔を重点的に調べてもらうことにしよう」
こうして入口がない塔を重点的に調べることを決めたアレク達だったが……直ぐに作戦を考え直すことになる。
まず王城内から風の眷属を使役して、入口のない塔を調べ始めたアレクだったが……何故か入口のない塔に眷属が近付くと自然消滅してしまうことが判明した。
外から入口のない塔を調べることをアレクより指示されたキア達だったが……塔全体に結界のようならものが張られており、外部から侵入することができないようになっていたのだ。
突破口が、中々見つけられずにいたアレク達だったが……意外なところから情報を得ることができた。
それはアレクが自室で休んでいる時のことである。
コン!コン!と自室の扉をノックする音が聞こえ、それに続いて男の声が聞こえてくる。
「失礼致します!私は先日の作戦の際にクロ様に命を救って頂いた兵士のキールと申します!」
アレクは、先日のクーデター派の拠点襲撃のことを思い出しながら返事を返す。
「どうぞ」
ゆっくりと扉が開くと、そこには青い兵士の服を着た青年が立っていた。
部屋の中に入ると扉を閉め、凄い勢いで90度に腰を折り頭を下げてくる。
「先日は命を救って頂き、本当にありがとうございました!!あの時の兵士達を代表して、お礼を伝えに参りました!」
アレクは、その声に確かに聞き覚えがあり、襲撃の際に同行していた兵士だと判断する。
予想外の客人だったので、一瞬だけ驚いたが……直ぐにアレクは情報収集するには都合の良い相手だと考えて、接し方を変える。
「あの時は、申し訳なかった……予想外の待ち伏せで兵士の皆さんに失礼なことを言ってしまって――」
「いえ、我々こそ戦闘の邪魔にしかならなかったというのに、あの日は生意気なことを申しました!どうか、お許し下さい!」
何度も頭を下げるキールに、クロは部屋の中に用意された席に座るように進める。
しかし、兵士として席に着くことはできない!と断られてしまったので仕方なく、そのまま話を続けた。
「キールさん、でしたね……あの日の待ち伏せについて何か心当たりは、ありましたか?」
「……心当たりですか?いえ、残念ながら我々はブラスマ宰相様より指示を受けて、クロ様達に同行したに過ぎません。それ以外の情報は与えられておりませんので……」
本当に残念そうに話すキールに、嘘はないと判断したクロは彼を取り込むべく、言葉を毒のように流し込んでいく。
「そう……ですか……宰相様に」
何かを言うか迷った表情を見せるクロに、キールは気持ちを抑えられずに質問してしまう。
「何か我々に仰りたいことがあるのでしょうか?できれば、お聞かせ頂きたいのですが?」
「これは、あまり楽しい話ではないのですが……キールさんの人柄を見て、正直に話した方が良いのかと思いまして」
それからクロは、ブラスマ宰相が兵士達を裏切り者呼ばわりしていたことや、クロ達が兵士達について裏切り者ではないと否定したことを順番に話していった。
その話を聞いたキールの顔色は、燃える炎のように真っ赤に染まり、今にも爆発するのではないかと思える程に怒りを溜め込んでいた。
それを何とかクロが宥め、キールは徐々に冷静さを取り戻していく。
「も、申し訳ございません。クロ様に怒りを向けるつもりは、なかったのですが……命を懸けて国に尽くしている我等に、そのような疑いを宰相様が向けたことが、どうしても許せなかったのです」
本当に悔しそうに語るキールの肩に、クロは元気付けるように手を置く。
「貴方達が、裏切り者ではないことは十分に理解しています。むしろ、私は宰相様が逆に怪しいのではないかと思っていますから」
「そ、それは……!?いくらなんでも、ありえないのでは?」
「いえ、実は――」
それからクロは、戦姫に教えてもらったように国の宰相を救ったのにも関わらず、国王陛下とお会いできなかったことを、キールに話す。
最初は、まさか!?という顔で話を聞いていたキールだったが……国王陛下が最近、体調が悪くされ姿を見せていないことを思い出すと、顔面蒼白になりながら頭の中を整理していた。
「宰相様が……国王陛下を……?いえ、そんな……まさか」
「現段階では何とも言えないですしかし、宰相様の行動には不自然な点が多過ぎます。ですので、これはお願いなのですが……キールさんの方で情報を集めて頂けないでしょうか?もちろん、兵士間のみで構いませんので」
「つまり、私に宰相様を探れと?」
「いえいえ、これは宰相様を疑っているのではなく……逆に疑いを晴らすためだと思って下さい。私もキールさんと同じで、何者かの裏切りによって命を落としかけたのです。せめて、雇い主だけは信用したいですからね」
それからクロは調べるのは宰相様ではなく、兵士間の噂や不思議に感じていることなどだとキールに念押しして、情報収集を頼むのであった。
それから数日後、クロはキールより面白い話を聞くことできた。
それは兵士の間でブラスマには、城内で囲っている女性がいるという噂である。
城内で度々、バスケットを持って歩いているところを目撃されたり、女性物の香水が香る日があったりと信憑の高い情報が集まっていた。
そして、その情報は全て地下の宝物庫の警備を担当する、兵士達から寄せられたものだった。
その話を聞いたクロは、1つのお願いをキールに頼み“あるもの”を用意してもらうのであった。




