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立場逆転

 クーデター派の拠点襲撃を隠れみのに、戦姫との接触を果たしたアレク達は、王城内の入口のない塔の情報を得ることに成功する。

 しかし、クーデター派の拠点に現在襲撃を仕掛けていることにしている以上、ある程度の収穫がなければアレク達の立場も悪くなってしまう。


 そのために現在は、建物のあちこちを壊したりアレク達にも傷跡や汚れなどを偽装していた。

 それを手伝ってくれていたルプルに、アレクは最近の調子を話していた。


「ルプル、最近うちのキアやエレナと接触する機会が多いだろ?2人とは上手くやれてるのか?」

「えっ!?う、上手くやってますよ?」

「何んで、そこで疑問文が出てくるんだ?もしかして……上手くやれてないのか?」


 そのアレクの問いかけにルプルは、苦笑いを浮かべて誤魔化そうとする。

 しかし、互いの連絡員である者達が上手くやれていないということは……下手をしたらアレク達の命にも関わる。

 余計な世話だとは思ったが……アレクは一歩踏み込んで話を続ける。


「何かしらあるなら、正直に話してくれないか?潜入している俺達も、不安要素はできるだけ取り除いておきたいからな」

「不安要素ですか……そうか……ですよね……実はエルフであるキアさんと中々、打ち解けられなくて」

「キアと……というかキアがエルフだってこと知ってたんだな。自己紹介でもしたのか?」

「いえ、そういうことではなくて……えっと、アレクさんは獣人族とエルフ族の争いについて、どの程度ご存知ですか?」


 ルプルの話を途中まで聞いていて、やっとアレクは獣人族とエルフ族の間に、過去に争いがあったことを思い出す。


「あぁ……大まかには知っているが、それは過去の話じゃないのか?」

「争い自体は過去の話ですが……そもそもの文化の相性が悪いんですよ」


 そこからルプルが話してくれたことは、人族であるアレクには理解し難いことが多かった。

 そもそもエルフ族は鋭い嗅覚や聴覚を持っているが……狩りをする上で獲物を見つけたり山菜を見つけたりと、それは森に中で特定のものを発見することに特化したものと言える。


 それに比べ獣人族は色々な場所に適応できる嗅覚と聴覚を有している。

 簡単に言えば、エルフ族は一点集中型で獣人族は汎用型の感覚をしているのだ。


 その生態が食べ物にも如実にょじつに現れている。

 エルフはエネルギー消費が少なくこともあり、植物やキノコを主食にし匂いの弱いものを好むが……獣人族はパワー重視でエネルギーを多く摂取できる獣の肉などを好み、その際の匂いなども気にしない。


 そういった似て非なる部分が、お互いの種族を認められない原因になってるのだ。

 そうした文化の違いが、キアとルプルの間の微妙な空気を作り出していた。


(そういうば、キアが獣人は獣臭いとか文句を言ってたなぁ〜俺は何も感じなかったから、獣人なんだから獣臭くて当然だと思ってたんだけど)


 そんなことを思い出したアレクは、アイテムボックスから数本のコルクで栓をされた試験管を取り出し、ルプルに手渡す。

 それを受け取ったルプルは、不思議そうにアレクの顔を見つめてくる。


「あの〜アレクさん、これは?」

「それは俺が調合した消臭液だよ。一滴体や衣服に垂らせば無臭に近い効果を得ることができるんだ」

「そ、それは私が臭うということでしょうか?」


 顔を真っ赤にして俯いしてしまうルプルに、アレクは慌てて弁明べんめいする。


「そ、そうことじゃないんだ!つまり、俺が何が言いたいかと言うと――」


 それからアレクは、頭の中で考えていたエルフ族と獣人族の違いについて、ルプルに説明した。

 その上で……お互いのことを知り、歩み寄るための努力の第一歩として消臭液を渡したことを伝えると、ルプルは真剣な目でアレクのことを見つめ激しく頷いていた。


「なるほど!では、人族や同族の獣人族では気にならない匂いなどでも、エルフ族の方は感じ取ってしまうことで不快な思いをしているかもしれないと!」

「そういうこと、その消臭液を使うことで少しでもルプルが、エルフであるキアを気遣っていることが分かれば……お互いの種族の距離を埋めることが、できるかもしれないね」


 丁寧に説明していたアレクをジッとルプルが見つめていたと思うと……ルプルが突然、アレクの片手を両手で包み、キラキラした瞳で迫ってくる。


「えっ?何!??」

「アレクさん、貴方は素晴らしい人です!私と初めて会った時も半獣と知っても差別することもありませんでしたし、それからも友人に接するように親しくして下さいました!それに今回も他種族のことを深く理解し、細やかな気遣いでキアさんと仲良くなる方法を考えて下さいました!」

「お、おう……」


 ルプルのテンションについていけずに、アレクが若干引いていたが……ルプルの話は、そんなアレクを置いて進んでいく。


「冒険者の方は、アレクさんのように心の広い方が多いのですか?それともアレクさんが特殊なのですか?」

「それは……両方じゃないかな?冒険者という職業柄……自分や仲間の命を守るためには様々な能力があった方がいいだろ?そういう観点からルプルの身体能力や鋭敏な感覚は、冒険者からも重宝されると思う。あと俺は種族によって差別しない主義だからね……むしろ種族によって文化や常識なんかも違って面白いと思ってるくらいだよ」

「そうなのですか……外の世界というものは、そんなにも広く大きなものなんですね」


 どこか遠くを見ながら、ルプルは羨ましそうにつぶやく。


「ルプルはアクアエの外に出たことは、ないのか?」

「私は気付いたらアクアエにいました。親の顔も知りませんし、半獣であることで同族からも良く思われていなかったので……生きることに精一杯で、外の世界のことまで考える余裕なんてありませんでした」

「じゃあ、どうやって言葉や文字を覚えたんだ?俺から見てもルプルは、しっかりとした教育を受けてるように思えたんだが?」


 アレクの問いにルプルの顔が、とても優しいものに変わっていく。


「幼かった私は、運良く人族の老夫婦に拾われたのです。その老夫婦は、身元のしっかりしない私を受け入れ、暖かい食事と安心して休める寝床を与えてくれました。そこで言葉や文字の教育をして頂いたのです」

「良い人達だな」

「えぇ、今のアクアエでは私が一緒にいては迷惑になると考え、2人との関わりは絶っています」


 アレクは、なんとなくルプルが何故クーデター派に属しているのか分かった気がした。


「その2人がルプルがとって戦う理由なんだな……」


 その言葉を聞いたルプルは、少しだけ照れくさそうに鼻の頭を掻くのであった。

 やがて、戦姫達が撤退したことを確認すると、アレク達は建物のあちこちを本格的に破壊していく。


 少しだけ気が引けたが……以前、戦った盗賊団の死体をアイテムボックスから取り出し、死体を魔法で焼くことでクーデター派の兵士の死体として偽装する。

 そして人が集まる前に建物を脱出し、王族派の兵士達が待機しているゴンドラへと帰還するのであった。



 ===============================



 クーデター派の拠点を襲撃したアレク達は、王城に戻ると直ぐに宰相ブラスマに呼び出され最高位の応接室に向かう。

 先に応接室で待っていたブラスマだったが……応接室に入ってきたクロ達の態度が、明らかに不機嫌なことに驚く。


 それからブラズマは、クロ達に今回の件の報告を受けることになった。

 そしてクロ達が不機嫌な理由を、直ぐに理解することになる。


「――ということでクーデター派の拠点を潰すことには成功した……だが、問題は俺達の襲撃が待ち伏せされていたことだ!今回の襲撃のことは宰相様にしか伝えていないはずだが……どういうことだ?あぁ?」


 ガンッ!と高級な光沢のある机を、クロが拳で強く叩き不快感をあらわにする。


「ま、待ちたまえ!私は決して君達を裏切ってなどいない!!……そうだ!同行した兵士達の中に裏切り者がいたのではないか?」


 苦し紛れに、自分が送り込んだ兵士達に裏切り者として、罪を着せようとするブラスマだったが……その考えはクロによって一蹴される。


「そりゃないだろうな……待ち伏せは、躊躇ちゅうちょなく兵士達を狙っていた。俺が助けなければ、今頃奴らは裏路地に転がってるよ。その状況からも疑われるべきなのは、宰相様だと思われるんだが?役に立たない兵士を俺達に押し付けて、俺達をハメようとしたんじゃないのか?」


 今にも人を殺せそうな怒りに満ちた視線を、クロがブラスマに向ける。


「本当に私は何も裏切っておりません!どうか、信じて頂きたい!!」


 真剣にクロ達に無実を訴えるブラズマをクロは鼻で笑い、ある書類をブラスマの前に放る。


「その書類はクーデター派の拠点に残されていたものだ。王族が懇意こんいにしている“預言”なるものについて記されていたぞ?そいつは本当のことなのか?」

「なっ!?少々お待ちを!」


 アレクの言葉を聞いたブラスマは、机の上に放られた書類を慌てて読み始める。

 そこには“カエルレウム共和国 首都アクアエの西より災いが訪れる”という文章と最近、王城に入ったドォールムから来たとされる傭兵団《黒狼》について書かれていた。


 その書類を確認したブラズマは、ブルブルと体を震わせる。

 そんなブラスマに構うことなくクロは、話を続ける。


「その文章が本当ならアクアエの西……つまりドォールムから来た俺達が、アクアエに災いをもたらす者って解釈もできるよな?それで俺達を殺そうとしたんじゃないのか!?」


 怒りに満ちたクロの追求にブラスマは、国家機密にあたる“預言”について話せず、口を閉ざしてしまう。


「ふんっ!話にならないな……あと、これもついでに宰相様に教えてやろう。近日中にクーデター派は攻撃を再開するようだぞ?」


 その情報にうつむいてブラスマは、ガバッと勢い良く顔を上げる。

 そこには一枚の書類を手にしたクロの姿があった。

 無関心そうに書類を眺めるクロが、無造作に書類をブラスマに差し出す。


 力なく書類をクロから書類を受け取ったブラスマは、書類の内容をしっかりと確認する。

 そこには“預言”の内容からクロ達をアクアエに災いをもたらす者として断定し、早々に処分するべしという内容が記されていた。


「そういうことだ……“預言”とやらが何かは知らないが、クーデター派は間も無く王城に仕掛けてくるぞ?まぁ、俺達は信用できない雇い主の元で働く気はないから……さっさと王城から脱出させてもらうがな」


 クロの言葉は、戦姫と戦うことができる戦力が、王族派から抜けることを意味していた。

 現状の戦力を考えて、クロ達に抜けられては王族派には敗北しかない。


 ブラスマは避けられない破滅の未来に、なりふり構っていられなくなり、クロ達の説得に全てを賭ける。


「わ、分かりました……皆さんに信用してもらうために、今から国家機密をお話ししましょう。これからの話は、くれぐれも内密に……お願い致します」


 苦渋の決断を迫られたブラスマは、クロ達にアクアエの根幹に関わる話を、ポツポツと話し始めるのであった。





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