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短期決戦

 アレク達、傭兵団《黒狼》が城内に潜入しだして3日目の夜、宰相ブラスマの暗殺未遂事件が発生する。

 暗殺者からブラスマを助け出したアレク達だったが……暗殺と雇われた時期のタイミングからクーデター派の内通者ではないかと、疑われてしまう。

 しかし、そんな疑いを向けてくる兵士達に、アレクは衝撃的な言葉をぶつける。


「今回の件、俺は我々の傭兵団《黒狼》に罪を着せようした者がいると考えている。そして、その者こそ、真のクーデター派の内通者だ!」


 そのクロの言葉に、兵士達の表情は戦慄せんりつしたものに変わる。

 何故なら、先程まで皆が同調して傭兵団《黒狼》を疑っていたからだ。

 特に1番に疑って発言した上級兵士に、皆の視線が自然と集まっていく。


「ち、違う!俺は内通者なんかじゃない!!信じてくれぇ!」


 激しく動揺し取り乱す上級兵士に、クロは落ち着いた声色で話を聞かせる。


「皆、落ち着いて聞いてほしい……ここまでの皆の行動は何者かに誘導されていた可能性が高い。彼を犯人として扱うことは少し待ってほしい」


 まさか、今さっきまで疑っていた者から逆にかばわれることになり上級兵士の男は呆然としていた。

 そんな彼を無視してクロの話は、どんどん進んでいく。


「そもそも、何故クーデター派が俺達に濡れ衣を着せようとしたかだが……それは戦姫と俺達を戦わせないようにすることが目的だと思われる」


 そのクロの発言を受けて、多くの兵士は無言で頷き納得してしまう。

 何故なら、戦姫の手甲を彼らが戦利品として所持していたことは城内では広まっており、戦姫と互角以上に戦える戦力と噂されていたからだ。


「そして何故、宰相様が1人だけが狙われたかだが……それは内通者が兵士として身分を偽っている可能性が高い」


 兵士達は自分達が疑われる立場であることを理解すると、互いに同僚の顔を見つめ合い困惑し始める。


「先程、諸君は宰相様が1人だけ狙われたことに疑問を感じなかった様子だった。それは内通者も同じだったのではないだろうか?」


 つまりクロは、内通者が兵士という立場だからこそブラスマ1人だけを狙ったと言っているのだった。

 しかし……これは、はたから見れば暴論であり、証拠も根拠もない酷いゴリ押しであった。


 そんなことが普通に考えられない程、兵士達は自分達が疑われ、また同僚を疑わないといけないという事態に混乱していた。

 疑心暗鬼に陥った兵士達の間に、ソワソワとした雰囲気が満ちていく。

 そんな空気を変える凛とした声が、兵士達の耳に届く。


「もし、怪しい行動をしてる者を見つけたら俺達、《黒狼》に報告してくれ!兵士同士だと最悪……情報を揉み消される可能性があるから、くれぐれも注意するように!」


 クロ達の扱いについての話は一気に兵士達の頭から吹き飛び、兵士の中に裏切り者がいるかもしれないという印象に上書きされていた。

 ブラスマと別れたクロ達は、自室に戻り作戦会議を始めるのであった。


「はぁーー緊張したぁぁぁ!!我ながら良く、あんな大嘘を堂々と言えたもんだと思うよ」


 高級なソファに身を預けながらアレクは、脱力して天を仰ぐ。

 そんなアレクにアマリアが、文句を言ってくる。


「それは私達のセリフよ!あんなハッタリを良く兵士達も信じたものだわ……冷静に考えれば私達の疑いが一切、晴れていないことが分かるのに」

「一応、あれも思考誘導っていう技術のんだぞ?俺の話し方が下手だったから効果は微妙だったけど……」


 ソファに寄りかかりながら、アマリアの方を見ずにアレクは喋り続ける。


「人は何の根拠もないデタラメな話でも、そのデタラメの話を、立証するような物があれば人は信じやすくなる。そこを精神的に追い込んでやれば、冷静に判断することができなくなるのさ」

「確かに戦姫の手甲とか、宰相を助けた事実とかがあったから私達がクーデター派じゃないぞ!っていう言い分ができたわね。けど、それでも危険過ぎる賭けだわ……もしかしたら、あの場で戦闘になっていたかもしれなかったんだから」


 部屋の空気が少しだけ重いものに変わるり……アレクがポツリと言葉を漏らす。


「それについては、本当にすまなかった。勝率の分からない危ない橋を、皆に渡らせてしまった」


 アレクはソファから立ち上がると、皆に頭を下げる。

 そんなアレクに、仲間達は優しく答える。


「あんまり、力で解決できないことを持ち込まないでくれよ!俺が困るだろ?」

「そうだな、今度から戦闘でさっさと片付くように準備することにするよカイン」

「別にアレクの判断を疑ってるわけじゃないのよ?ただ、もう少し安全にやってほしいだけなんだからね?」

「うん、心配を掛けてゴメンなアマリア。今度から、もっと安全な策を考えるようにする」

「あんまり無理しないで下さいね?アレクさん」

「ミカエラにも心配を掛けて、すまない。


 皆に謝っていると、カインが真剣なトーンでアレクに話しかけ話題を変える。


「それでキアとエレナと連絡は取れたんだろ?外の状況は?それと昨日の侵入者はエレナだったのか?」

「いや、手引きをしたのはキアとエレナだけど……侵入者はクーデター派のルプルという半獣の女の子だよ。前に話した戦姫直轄の秘密工作員で、俺達の手伝いと戦姫との連絡役をしてくれてる」


 その答えにカインは、納得した様な表情を見せる。


「だから、昨日の夜にブラスマと話した時に犯人はクーデター派の者で間違いない!って言ってたのか」

「あぁ、ルプルには顔を隠して耳を隠さないように頼んでいたからな」


 そう、昨日の宰相ブラスマの暗殺未遂事件は、アレク達が準備した茶番だったのだ。

 全てはアレクが信用を得るための作戦だった……兵士宿舎に入ってから、夜になると城壁をキアが【ウインド束縛・ボンデージ】を使って飛び越え、アレクの元に連絡に来ていたのだ。


 場所は伝心の指輪によって、伝えることができていたし……指輪の効果が及ばない距離でも、香りの強いハーブを道標みちしるにしてキアが、アレクの元に近くに来れるようにしていた。


 アレクも怪しまれないように、探知スキルで城内の様子を探ったり、風の眷属を使って王城の部屋の場所を事前に調べて、必要な情報をキアに伝える。

 そして当日……王城侵入の手引きはキアが担当し、部屋への侵入や脱出などはエレナがルプルに手を貸してくれていた。


 短期間で計画されたにしては安定した結果を出し、アレク達は形だけでもブラスマから信用を勝ち取り、城内で自由に活動する許可を得ることができた。


 一応は兵士同士を監視させることで、アレクから注意を逸らすこともできたが……このままでは冷静さを取り戻した兵士達に、勘付かれるのも時間の問題だとアレクは考えていた。

 そんなアレクは、更なる作戦を考案し相手に突っ込ませる隙を与えない作戦を選ぶ。


「皆、これからのことだが……長期間の潜入は諦めて、今の混乱と勢いを利用した短期決戦の作戦を実行しようと思う。かなりの危険をともなうが……長期の潜入を経験したことのなく技術もない、俺達には逆に向いている作戦になると俺は思う。皆、付き合ってくれるか?」


 覚悟を決めた顔で仲間達を見つめると、頼もしい表情を浮かべながら仲間達はアレクの問いに答えてくれる。


「アレクが覚悟を決めて、やれるって言うなら、俺達は信じて実行するだけさ!だろ?リーダー」

「仕方ないわね〜いつもは慎重なくせに、やると決めたら考えを曲げないんだから。だけど、アレクの判断は大体正しいから今回も信じてあげるわ」

「ぼ、僕は何時でもアレクさんに全力で協力しましから!心配しないで下さいね!」


 アレクは仲間達の声を聞き、満足そうに頷くと今後の展開について説明を始めるのであった。



 ===============================



 宰相暗殺未遂から数日後……クロ達の《黒狼》は急ぎ足で宰相ブラスマに報告に向かっていた。

 執務中であったブラスマの部屋の前に辿り着くと警備にあたっていた兵士に用件を伝え、入室の許可を待つ。

 やがて、部屋の中に迎えられたクロはブラスマに人払いを頼み、後に急いで用件を伝える。


「執務中に申し訳ないが……クーデター派の拠点の1つを発見した。急ぎ襲撃に向かいたいので臨時の仕事依頼を頂きたい!」

「クーデター派の拠点を突き止めたのですか!?彼らの情報管理は堅牢なはず……一体どうやって?」

「こちらにもスパイはいる……そういうことだ」


 クロは意味深な笑みを浮かべて、ブラスマを見つめる。

 その笑みを見たブラスマは、目をつむり思考する。

 やがて、ゆっくりとまぶたを開けたブラスマは言葉を告げる。


「いいでしょう……傭兵団《黒狼》に仕事を依頼致します。しかし、仕事を依頼する条件として兵士を同行させて下さい」

「こちらとしては構わないが……兵士達は先日の件もあり正直、信用できない。それに襲撃先には戦姫がいるかもしれないんだ。兵士を守りながら戦うなんて、器用なことを俺達はできないからな……ついてくるから、命の保障できないと、必ず兵士達に伝えてくれ」


 血みどろの戦闘を想像したのか、一瞬だけブラスマの顔色が悪くなる。


「えぇ、分かりました。兵士達には必ず、その言葉を伝えましょう」


 こうして、クーデター派の拠点への襲撃が開始されることになったのである。

 クロ達に同行することになった兵士達は8人だけに留まった。

 その理由として、襲撃の直前まで姿と気配を悟られないために最低限の人数になるようブラスマに依頼した結果だった。


 そしてクロ達と兵士達は、アクアエの中心街から少し外れた人気の寂しい住宅街に向かう。

 兵士達は、そのままの格好では目立つために緑のフード付きマントを装備してもらい、姿を隠してもらう。


 漆黒のマントの一団と緑のマントの一団が、

 コソコソとゴンドラに乗り、普段は使われない水路を進んでいく。

 そしてクロ達を乗せたゴンドラが目的の場所の近くに到着する。

 その場所は、かつて軍の訓練生の宿舎として使われていた建物であった。






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