表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/154

月下の暗殺

 戦姫の妹であるセツナの情報を集めるために、行動を開始したアレク達。

 その手段としてアレクは身分を偽り、傭兵団《黒狼》のリーダー クロとして宰相であるブラスマに接触を計る。

 用意周到に話を進めたアレク達は、ブラスマからの回答を応接室で待っていた。


 アレク達が元王族派の出方などを話し合っていると、応接室に近付いてくる者の気配を探知して傭兵団《黒狼》を演じ始める。

 応接室の扉が開くと先程よりも、やつれたように見えるブラスマが姿を現わす。


「お待たせして、申し訳ありません。王族派として傭兵団《黒狼》の皆さんを雇うか、どうかですが……結果から先に申しますと雇うことに致しました」

「ほぅ……それは良かった。けれど、その口ぶりだと話には続きがあるのでしょう?」

「はい、まだ王族派としても傭兵団《黒狼》と面識もないため、信用するに至っていません。なので、雇う期間で金貨を支払うのとは別に、ボーナス付きの仕事をお願いしたいと考えています」


 それは信用できないが、アレク達の戦力はほしい……そのためにアレク達を逃さないようにする作戦が透けて見えていた。

 その上でボーナスという形の金銭を餌に、アレク達を都合よく使う算段だと考えてられた。


(このブラスマという宰相……結構なタヌキだな。こちらの優位を理解した上で、上手くこちらを利用しようとしてくる。流石は王族派のトップということか)


 アレクはブラスマが短い間で、結論を出してきたことで彼が王族派を牛耳っていることを理解する。

 本来なら戦姫との戦いを見据えた事案になるために、国王などにも報告するだろう……しかし、彼は報告などを省略して決定を下したようだった。


 そこから導き出されることは……国王はお飾りで、実際の実権を握っているのはブラスマ宰相であるということだ。

 それを踏まえてアレクは、慎重に言葉を選びながら探りを入れていく。


「なるほど、宰相様の希望は分かりました。それでは具体的な仕事の話に入りましょう……基本的な仕事は、王城の守護で構いませんか?」

「それは王城の兵士でも可能――」

「いやいや、あの程度では隠密に長けた者を捕らえることは無理でしょう。そちらも請負ますよ?そのかわり、個人を守る場合は追加料金を頂きますが……王族派で最も守るべきなのは貴方でしょう?」


 アレクの言葉を聞いたブラスマは、目つきが鋭くなる。


「いえ、最も守るべき方は国王陛下です……それに比べれば私など……」

「へぇ〜街の噂では……実質、国を動かしているのは宰相様だとお聞きしたのですが?」

「色々なことを国王陛下より任されているだけですよ」


 ブラスマの言っていることは、間接的に国の一部を支配ているのは自分だということだった。

 その証拠にブラスマの口元は、小さくピクピクと痙攣し笑みがこぼれるを我慢していた。


「では言葉を変えますが……国王陛下は王城にいる精鋭の兵士がお守りするでしょう。有事の際は宰相様を優先的に、お守りすればよろしいですか?」


 アレクはニヤッと悪い顔でブラスマに笑いかける。

 ブラスマもアレクの意図を汲み取り、答えを笑顔で返す。


「そうして頂ければ助かります。それと《黒狼》の皆さんは、どちらに宿泊予定ですか?よろしければ、こちらで兵士宿舎を提供しますが?」

「そうですね……王城を守護する上でも城内にいた方が都合が良いでしょう。では兵士宿舎にお世話になります」


 その後、契約金と個人の護衛料の前金をブラスマから貰い、兵士宿舎へと案内されることになった。

 ブラスマが宿舎までの途中で兵士を捕まえ、その兵士に案内を引き継がせる。


 兵士宿舎はヴォルト城・城壁内に別に建てられており、白塗りの壁色をした一般の家庭と変わらない建物だった。

 そのうちの一室に案内されたアレク達は、周囲に人の気配がないことを確認して、普段通りに喋り出す。


「なぁ、アレク?この扱いって警戒されてないか?」

「そうだなカイン、警戒されてるな」

「おいおい、いきなり警戒されてていいのかよ!?もっといい部屋とかで泊まれるかと思ってたのに!」


 不満を漏らすカインにアレクは、冷静に言葉を返す。


「俺達は、いきなり王城に乗り込んでくるような傭兵団だぞ?そんな荒くれ者を城の中に置いとくと思うか?そういうのは、もっと信用と実績を積んでからだ」

「えぇー、そんなに長く潜入するつもりなのか?城に、ずっといるなんて肩が凝りそうだぜ」


 カインの言葉にアマリアも同意して、今後の展開を確認してくる。


「でも……あまり時間的余裕は、ないんでしょ?戦姫が動きを止めてるとはいえ、クーデター派が暴走して動き出すか分からない状況だし……長期間の潜伏となれば、私達もボロが出かねないわ」


 アマリアの指摘は、パーティ全体の不安を代弁したものだった。

 身分を偽っての潜入など……冒険者である、アレク達には経験がない。

 アレク自身も、前世でスパイ映画やゲームなどに触れたくらいで、具体的な活動は無知な程である。


 しかし、アレクは王城内でやるべきことを、すでに決めていた。

 それはアマリアの不安に対する、答えでもあった。


「アマリアの不安も当たり前だと思う……だから、この件については短期間で決着をつけようと考えている。そのための作戦を今から説明するから、良く聞いてくれ」



 ===============================



 アレク達が、傭兵団《黒狼》として王城に潜入してから3日目の夜……1つの怪しい影が王城の外から、城内に侵入していた。

 影は獣のような速さで地を駆け、城の警備をすり抜けて王城の屋根へと到達する。


 そして他には目もくれず……目的の部屋へと向かっていた。

 侵入者は音もなくバルコニーに舞い降り、施錠されているはずの扉を何もなかったように開ける。


 一瞬だけ外の空気が室内に流れ込み、フワッとカーテンを揺らすが……それに気付く者は誰もいない。

 部屋の中は、薄暗く常人には大きなベッドが

 辛うじて見える程であった。


 だが侵入者はベッドの上で胸を上下させている者を視界に捉え、寝ている部屋の主に忍び寄る。

 腰から鋭く光る短剣を取り出し、寝ている男の上に仁王立ちすると短剣を両手で握りしめる。

 しかし、ベッドの軋む音に反応して、寝ている者が目を覚ます。


「……っ!!き、貴様!何者だ!」

「…………死ね」


 侵入者の頭上から振り下ろされた短剣が、男を貫こうとした、その時!

 部屋の外が急に騒がしくなり侵入者の意識が一瞬、部屋の扉の方へと向けられる。

 ドオォォン!!と部屋の扉が勢い良く吹き飛んでいくと、廊下から1人の男が姿を見せる。


「よぅ……侵入者さん。悪いが、その宰相様は俺の雇い主でなぁ〜死なれると困るんだわ」


 部屋にズカズカと入ってきたのは、傭兵団《黒狼》のリーダーであるクロだった。


「クロさん!た、助けて下さいっ!!」


 情けなく涙を流しながら、宰相のブラスマがクロに助けを求める。


「あいよ!宰相様!」


 クロが返事をすると、入口からクロの姿は消え一瞬でベッドの横に現れる。


「はっ!」


 片手に持った翡翠ひすい色の剣を横一閃に振ると、見えない刃が侵入者を襲う。

 侵入者は素早い、身のこなしでベッドの上から飛び降りると、迷うことなくバルコニーに向かって走っていく。

 クロも侵入者の後を追うが……侵入者はバルコニーから身を投げ、夜の闇の中へ消えていった。


「ちっ!逃したか」


 バルコニーから下を見て、クロが言葉を呟く。


「く、クロさん……賊は?」


 ベッドから恐る恐る出てきたブラスマが、バルコニーにいるクロに向かって話しかけてくる。


「宰相様……おケガは、ありませんか?賊には逃げられてしまいましたが、貴方さえ無事であれば問題ないでしょう」

「私はクロさんのお陰で無事です。それよりも、何故こちらに?」

「そうですね、簡単に説明しますと……兵士宿舎で休んでいたところ、私の探知スキルに賊が引っかかったのですよ。すぐに王城に入って賊の後を追おうと思ったのですが……」


 そこまで話していると、騒ぎを聞きつけた兵士達がゾクゾクと宰相の部屋に押し寄せてくる。


「宰相様!ご無事ですか!?突如、傭兵達が王城の警備を突破しましたので、助けに参りました!」


 息を切らした兵士達が、クロに向かって剣を向けてくる。

 そんな兵士達を、哀れな家畜を見る目でクロが見つめ、宰相に話の続きを説明する。


「王城の兵士に話をして、急いで宰相様の元に向かおうとしたのですが……彼らが私の言うことを信じなかったので、警備を強行突破して助けに参りました」


 そんなクロの言葉が聞こえていないのか……兵士達は自慢気に話を続ける。


「宰相様、ご安心下さい!我々が来たからには宰相様の命は必ずお守りします!すでに警備を突破し、我々の到着を邪魔した傭兵達を取り囲んでおります!」


 その話を終えた兵士達にブラスマは、黙って近寄る。

 賞賛を期待した兵士達だったが……近寄ってくるブラスマの表情が、怒りに染まっていることに気が付き、兵士達の顔色が変わっていく。


「この……大馬鹿共があぁぁぁ!この方と傭兵団の方々は私の命の恩人だぞぉぉ!!至急、包囲を解いて応接室に案内せよ!!!」

「ひぃ!か、かしこまりましたぁぁぁ!」


 兵士達は蜘蛛の子を散らすように解散していき、部屋に残されたのはブラスマとクロだけになった。


「城の兵が大変、失礼をしました……心からお詫び申し上げます」

「いいえ、宰相様をお守りするのが我々の仕事ですから。それに以外のことには興味がありませんので、ご安心下さい」


 その後、ブラスマは国王陛下に襲撃の報告をするために支度を始めた。その間、クロは部屋の前で待機し応接室まで一緒に行動して護衛を務めた。


 今回、案内された応接室は先日見た部屋よりも明らかにグレードが高く、最上級の調度品や食事が用意されていた。

 クロは先に部屋に案内されていた仲間達と合流して、ブラスマが国王陛下に襲撃の件を報告する間、仲間達と応接室で待機することになった。


 しばらく、応接室で待機していたクロ達だったが……やがて報告を終えて帰ってきたブラスマと少しの時間、話し合いをした。

 それにより今回のことを教訓に、傭兵団《黒狼》が城内で部屋を用意してもらえることになり、その夜から豪華な来賓用の部屋で過ごせることになったのであった。



 ===============================



 宰相襲撃の次の日、王城の兵士達は中庭に集められ宰相の前に整列していた。

 その宰相の横には上級兵士の姿はなく、代わりに傭兵団《黒狼》の面々が並んでいた。

 その光景に王城の兵士達は不快感を覚え、中庭全体にギスギスした空気が漂っている。


 そんな雰囲気の中、宰相であるブラスマが兵士達に向かって、彼らを中庭に集めたわけを話し始める。


「あ〜兵士諸君、昨夜の賊による襲撃の件は皆、耳にしていると思う。そこで私の命を救ってくれた彼ら傭兵団《黒狼》の皆さんを私の直属とし、一時的に王城での自由行動を許可しようと思う」


 まだブラスマの話が終わってもいない中、兵士達の間から、ざわめきが聞こえてくる。


「これからは兵士一同、それを肝に銘じて警備に当たってほしい」


 ブラスマが話を終えると同時に、上級兵士の男が手を上げる。


「なにかな?その君?」

「お言葉ですが!宰相様!その者達は、怪しすぎます!その者達が城内に入ってから、すぐに賊の侵入騒ぎが発生しました!もしかしたら、その者達が賊を手引きしたのではないのですか?!」


 不満を抱いていた兵士のあちこちから、そうだ!そうだ!と同調する声が上がる。

 そんな中、クロがブラスマと交代して話し始める。


「俺達を疑っているようだが……何故、俺達が宰相様を狙ったと思うんだ?理由は?」


 クロの言葉に、先程の上級兵士が反論する。


「貴様らが城内に入って、すぐ事件が起こったのだ!疑われて、当たり前であろう!!」

「いいや、そうとは限らないだろ?お前の言うように俺達が城内に入って、すぐに事件が起これば……真っ先に疑われるのは俺達だ。

 それなのに、バカみたいに事件を起こすと思うか?仮に犯人だったしても、こんな場所にいないで失敗した段階で普通は逃げるだろうが」


 クロの正論に上級兵士や同調していた兵士は、口を閉ざす。

 その兵士達にクロは話を続ける。


「そこの上級兵士に聞くが……仮に俺達が犯人だったとして、宰相様を狙った理由は何だ?」

「そんなのクーデター派の内通者として、宰相様を暗殺しようとしたに決まっている!」

「何故、宰相様なんだ?」

「はっ?」

「だからクーデター派は何故、宰相様を狙うのか?と聞いているんだ」


 兵士は何も言えなくなってしまう……実際に王城を牛耳っているのが宰相様だから、などおおやけに言えるはずがないからだ。

 そんな沈黙に囚われている兵士達に、クロは予想外の方向に話を進める。


「そもそも、クーデター派が真っ先に狙うのは国王陛下と宰相様ではないのか?この2人を同時に押さえなければ、クーデターは成功と言えないのだから」


 クロの言葉に、話を聞いていた兵士達はハッとする。

 自分達は宰相様に従っているから、宰相様が狙われて当然だと考えていた。

 しかし、クーデター派ならば旗印になる国王陛下と実務を取り仕切る宰相様を、同時に暗殺しようとするはずである。


 では何故、宰相様だけが狙われたのか?兵士達の間にザワザワと戸惑いが伝播していく。

 そんな兵士達にクロは衝撃的な言葉を、ぶつける。


「今回の件、俺は我々の傭兵団《黒狼》に罪を着せようした者がいると考えている。そして、その者こそ、真のクーデター派の内通者だ」


 そのクロの言葉に、兵士達の表情は戦慄せんりつしたものに変わる。

 その反応を見て、アレクは心の中でニヤッと満面の笑みを浮かべるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ