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真夜中の来訪者

 アレク達を囮にした調査により、キアはカエルレウム軍の拠点と思われる場所を見つけ出した。

 その報告を受けたアレク達は、カエルレウム軍と接触するべく動き出す。


 キアの案内で辿り着いた場所は、水の都アクアエの倉庫街だった。

 荷物の搬入などが水路を使って行われるために、建物の下層は水路に面した作りとなっている。


 建物の下に水路を引き込むことで、スムーズな荷物の搬入を可能とし、また人の出入りも水路から来る船を対象として行うことで、チェックしているようある。

 建物自体は3階ほどのもので、大きめの家のような印象を受ける。

 しかし、アレク達は水路を使う必要もなければ、正面入口から侵入するのでなく、屋上から侵入しようとしていた。


 アレクはエレナをお姫様抱っこすると、【ウインド束縛・ボンデージ】を発動して足場を作り、空中へと駆け上がっていく。

 あっという間に、建物の屋根に到着したアレクとエレナとキアは、周囲を警戒をしながらも建物内に入れそうな所を探す。

 そうしているうちに、アレクがベランダに施錠された窓を発見してエレナに声を掛ける。


「なぁ、エレナ……ちょっと試してほしいんだけど、触手を鍵穴に差し込んで、固体化させカギを開けることはできるか?」

「えぇ、多分できると思います。というか、それを試したくて私を連れて来たんですか?」


 少し呆れた様子でエレナが、アレクに問いかけるとアレクは真顔で肯定する。


「あぁ、そうだぞ。やっぱり潜入するからには、静かに侵入して相手に気付かれないようにしたいだろ?」

「これなら、私が来なくても目立たない窓とかを破って中に入れば良かったのでは?」

「いやいや、悪い奴なら一向に構わないけど……これから話し合う可能性のある、相手の家を壊すのはマズイだろ?」

「それなら、侵入している時点でダメだと思うんですけど?」


 アレクとエレナがブツブツと常識について、言い合っていると後ろを見張っていたキアが、2人に注意する。


「どうでもいいので、さっさと中に入りませんの?見つかってしまいますわよ?」


 キアの注意受けて大人しくなった2人は、窓から侵入を試みる。

 エレナの小指ほどの大きさの触手が、するすると鍵穴に入っていく。

 すると、次の瞬間には触手が固くなり“ガチャ”と鍵が開く音がする。


「おっ!これから他の難しい開錠もできそうだな!流石エレナ、できる女だな」

「褒められても全然、嬉しくないですね……私は錬金術師なのに、なんで開錠しないといけないんだか」


 微妙に納得できない顔をしていたエレナを、キアが慰めながらアレク達は、部屋に入っていく。

 部屋の中は埃っぽく、この部屋が長い間使われていることを示していた。


「では、ちょいと調べるとしますか」

 アレクは目をつむり、意識を集中すると部屋の中に、そよ風が流れて扉の隙間から廊下へと出て行く。

 風の眷属を使役して建物の中を探索していくと、すぐに目を開ける。


「ここはハズレだな……軍の宿舎として使われているようで重要な施設は中には、なさそうだ」

「じゃあ、作戦は失敗ですの?」


 カエルレウム軍の拠点を見つけてきたキアは、落ち込んだように尋ねてくる。

 その様子を見たアレクは、ふっと思ったことを確認するために探知スキルを使用する。


「ちょっとアレク!感覚が鋭敏な獣人族がいるかもしれないのに、探知スキルは危険ですわ!」


 慌ててスキル発動を止めようするキアに、アレクは顔を横に振り、考えがあることを示す。

 アレクは意識を集中して探知範囲を最大まで拡大すると、今いる建物だけでなく周囲の建物まで探知し始める。


「っ!!」


 探知をしていたアレクの頭にズキンと痛みが走り、思わず床にひざをつく。


「大丈夫ですか!?アレクさん!」


 床に倒れそうになるアレクの体を、咄嗟とっさにエレナが支えてくれる。

 一瞬だけ体の力が抜けたアレクは、すぐに回復して自力で立ちがる。


「今、広範囲の探知スキルを使用して分かったけど……この一帯の建物は軍の拠点のようだ」


 アレクの探知で分かったことは、1つの建物に多くの者が生活しているということだった。

 1つの建物につき30人前後の者がおり、なおかつ【音波探知】に引っかからない者も、中に紛れていたことから軍の拠点であることに間違いは、なかった。


 2人に自分が知ったことを、伝えると最後にアレクはキアの顔を見つめて声を掛ける。


「この一帯の建物の中に、きっと本命の拠点があるはずだ……だから、決してキアの働きは無駄なんかじゃないぞ?」

「アレク……それを伝えるために、わざわざ?」


 自分の仕事が無駄ではないと、伝えるために相手に気付かれるかもしれないという、危険まで冒したアレクにキアは、笑いながら答える。


「本当にアレクはバカですわね……でも、嬉しかったですわ、ありがとうアレク」

「どういたしまして……それじゃあ、この辺りの建物を順番に調べていこうか」

「「了解っ!」」


 探知スキルはキアの言う通り、獣人族に感知される可能があるので使用を控え、建物の屋根を飛び移り、建物に侵入しては風の眷属を使役することを繰り返した。

 そうしているうちに、中の警備が厳しい建物をアレクは発見する。


「多分、ここが本命の拠点だな……他の建物に比べて警備が厳しそうだからな」

「では、ここを調べるんですね。これからの作戦は、どうしますか?」

「アレクの指示に従いますわ、遠慮なく命令して下さいですわ」


 アレクはエレナとキアの顔を見ると、これからの作戦を伝える。


「では2人は警備をしている兵士を最低限、無力化して有力な資料がないか調べてくれ。

 重要な内容は俺達を狙う理由か、または暗殺の命令書などだな」

「了解です」

「了解ですわ、それでアレクは何をするんですの?」

「俺は精霊が近付いた際に、騒がしくなった部屋があってね……そっちを調べてみようと思う。30分経ったら各自で脱出すること、集合地点はカイン達がいる所だ」


 建物に侵入したアレク達は、別れて行動を開始する。

 アレク達は、麻痺毒を使用し次々に警備をしていた兵士達を無力化していく。

 誰1人殺すことなく建物のワンフロアを制圧すると、お互いの目標に向かって歩みを進める。


 アレクは先程、風の眷属を建物の中に送った際に珍しい反応を見せた部屋に近付いていく。

 部屋までの通路で警備をしていた若い男性の兵士を、気配も音もなく【無の歩み】を発動させ、縮地で背後を取ると、素早く締め落とす。


 1,2秒の間に無力化された兵士を丁寧に近くの空き部屋に運び、閉じ込めておく。

 あっという間に目的の部屋の前まで、到着したアレクは中で誰かが話していることに気が付き、聞き耳をたてる。


「先程、ルプルの報告書を見ました。詳しい話を聞きたいので説明してくれますか?」

「は、はい!戦姫様!!えっと……何を詳しくお話しすれば、いいでしょうか!?」

「そうですね……まずは、聞き込みをしていた者達の特徴を教えて下さい」

「は、はい!戦姫様!」


(今、戦姫と言わなかったか?……よりによって相手は戦姫かよ!あと1人はルプルという女性のようだな。なんの報告なんだ?)


 アレクは引き続き2人の会話を盗み聞きしていると、報告とはアレク達がアクアエで聞き込みをしていたことだと気付く。


(俺達についての報告か……ということは、話しぶりから報告している女性が、キアが追跡した獣人っぽいな)


 アレクは自分が持っている情報と、2人の話から得られる情報を照らし合わせながら、頭を働かせて状況を探る。


「実際に彼らを見てルプルは、どう思いましたか?王族絡みの人間に見えましたか?」

「え、えっと……その……」

「貴方の主観で構わないので、教えてくれますか?」


(俺達のことを王族派の手先だと疑ってるのか?けど、そうだとしてもドォールムで暗殺者を差し向けられる程のことをした覚えはないんだが……)


 その後も、2人の話を聞いていたが……戦姫の口ぶりから、アレク達のことを知ったのは、今の報告を受けてからのように思えた。

 匂いの話や強さの話を聞いていた際に、殺気を感じた時は盗み聞きがバレたかと、焦ったりもしたが……最終的には戦姫は敵対者では、ないとアレクは判断するに至る。


 これ以上2人の話から得るものが思ったアレクは、思い切った行動に出る。

 自らの身だしなみを確認すると、2人がいる部屋の扉をノックする。


「どうぞ」


 身内だと勘違いされたのか、簡単に入室の許可を得られたので、アレクは遠慮なく部屋に足を踏み入れる。

 扉を開けた先にいたのは、驚愕した表情を浮かべる犬耳娘と、明らさまに警戒を強める雪のような髪色をした女性だった。


 アレクは、できるだけ第一印象を良くしようと笑顔を作り、朗らかに2人へ挨拶する。


「こんばんは」



 ===============================



 戦姫は目の前に現れた青年に警戒を強め、思わず背後の壁に立て掛けたレイピアに、手を伸ばしそうになる。

 しかし、青年の間合いには戦闘に不向きなルプルが入ってしまっている。

 ルプルを犠牲にして先手を取るか、ルプルを守って先手を譲るか戦姫は逡巡しゅんじゅんする。


 そんな戦姫とは裏腹に青年は、予想外の行動に出る。

 2人の前で両手を上げて、敵対する意思がないことを示したのだ。

 よくよく見ると、青年は武装すらしていたなった……そんな状況が戦姫の混乱に、拍車を掛ける。


「初めまして、私はアレクサンダーと申します。呼びにくければ気軽にアレクと呼んで下さい」

「アレク殿ですか?夜分遅く女性の部屋に訪れるとは、些か失礼なのでは?」


 アレクに敵対の意思がないと分かると、戦姫は話の主導権を握ろうと強い言葉を使う。


「いえ、私達のことを探っている者がおりましたので、仕方なく伺いました。ですが女性の部屋に約束もなく、訪れたことは心から謝罪致します」


 丁寧に頭を下げると、和かに戦姫とルプルの顔を見て、アレクは微笑む。

 暗にお前の尾行バレバレだったぞ!と言われたルプルは、青い顔をして戦姫に視線を向ける。

 その視線には謝罪と怯えが入り混じり、ルプルの目には涙が溜まっていた。


「なるほど……こちらに失礼があったために、わざわざお越し下さったのですね。ですが……外の兵士は、どうされたのですか?」


 戦姫の言葉が終わると同時に、部屋の温度がグッと下がり、張り詰めた空気が戦姫とアレクの間に流れる。

 ルプルは戦姫の威圧感に圧倒され、その場でへたり込む。

 一方アレクは、涼しい顔で威圧感を受け流し戦姫の問いに丁寧に答える。


「外にいた兵士の方々は、無力化させて頂きました。もちろん、ケガ人・死人はおりませんので、ご安心下さい」


 アレクの答えを聞いた戦姫は、溢れる殺気を抑えて霧散むさんさせる。

 部屋の空気も落ち着いたものに戻り、ルプルの顔色も少しだけ良くなる。


「アレク殿……貴方は、ここに何しに訪れたのですか?監視の件を話すためだけに、ここまでの危険を冒して来られたわけでは、ないでしょう?」


 戦姫はアレクの真意を読み取ることができずに、思わず駆け引きなしに意図を確認しようとする。


「そうですね……自分とカエルレウム軍との関係を、はっきりさせるためとでも言いましょうか?幾つか貴方に質問したいことがあったのです」

「関係……と私に質問ですか?良いでしょう……できる範囲でお答えします」

「では答えられない質問には、答えられないと回答して頂いて結構ですので……それでは質問させて頂きます」


 それから、アレクの質問が始まった。


「貴方は私のことは、いつ知りましたか?」

「先程、報告で聞いたのが初めてだと思います」

「では、1カ月前ほどにドォールムに人を送りましたか?」

「…………答えられません」

「なるほど」


 アレクは頭の中で、考えを纏めながら質問を続ける。


「次の質問です。半年前にドォールムに人を送りましたか?」

「…………いいえ」

「預言について、知っていますか?」

「………いいえ」

「ありがとうございした。質問は以上になります」


 アレクはじっくりと戦姫の様子を観察していたが……大体の話は本当のことを言っているように感じた。

 しかし、最後の質問に関しては何かを隠しているようにも思えていた。

 そんなことを考えていたアレクに、今度は戦姫が逆に質問してくる。


「では、こちらからも質問させて頂いてもよろしいかしら?」

「えぇ、正直にお答えしましょう」

「余裕があるようですね、それとも何かを待っているとか?」


 アレクの態度に、増援による奇襲を警戒した戦姫が、カマをかけてくる。


「誤解ですよ!私は貴方が敵でないと判断したので、協力的に接しているだけです」

「……まぁ、いいでしょう。それでは正直に答えて頂きましょう」


 それから戦姫の質問にアレクは正直に答えていった。

 自分達がBランク冒険者チーム《漆黒の魔弓》であること。

 1カ月前にドォールムでカエルレウム軍に雇われた暗殺者に襲われたこと。

 その拠点を割り出し、カエルレウム軍の印が使われた書類を発見したこと。


 それから事実を知るためと今後の対策を考えるために、このアクアエに潜入し情報を集めていたこと。

 そして、獲物が餌に食いつくのを待っていたことなどを話していった。


 その話を聞いていくうちに、戦姫の表情が点と点が繋がり1つの線になっていくのが分かるように、スッキリとしたものに変わっていく。

 アレクの話が終わる頃には、戦姫はアレクに真摯に向き合う態度を見せていた。


「アレク殿の事情は大体、理解することができました。どうやら、アレク殿達は私達の問題に巻き込まれてしまったようですね」

「それでは、そちらの事情も聞かせて頂けますか?何故、私達が狙われたのかも含めて」

「えぇ……すでにアレク殿達も当事者ですからね。私が知ることをお伝えしましょう」


 こうして戦姫が知る真実を、アレク達は知ることになる。

 そして、新たなる問題へと巻き込まれていくのだった。







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