冒険者ギルドで訓練と出会い
セシリアさんから訓練の話を聞いてから
3日後、俺は朝からギルドの地下訓練所に
きていた。
セシリアさんとの約束の時間に受付へ行くと
すぐに元冒険者の人が行くから先に訓練所で
待っていてほしいと言われたのだ。
ただ待っているだけでは、暇なので
柔軟体操をしながら体を温めていく。
すると俺と同じ歳くらいの美少年が槍を
持って現れた。最初は、まさか美少年が
訓練相手か?と疑ったが……
キョロキョロしている様子を見て俺と
同じように訓練を受けにきているのだと
予想できた。
それから、すぐに30代後半くらいの熊の
ような男が訓練所に入ってきた。
直感で、この人が指導してくれる人だと
思っていると やはりこちらに近づいてくる。
「お前さんが、アレクサンダーか?
セシリアから話は聞いてるぞ?
俺はバルド。元冒険者で
今はルーキーの指導教官をしている」
「はい、僕がアレクサンダーです。今日から
よろしくお願いします!バルドさん」
近くで見るとバルドさんの身長は190cmほど
あり髭面も相まって完全に熊である。
「バルドさん なんてむず痒いから教官と呼べ
俺もお前さんのことはアレクと呼ぶからな!」
熱血系な雰囲気を感じながら会話を続ける。
「はい、バルド教官!改めてよろしくお願いします!」
「ああ、しっかりと鍛えてやるから覚悟しておけよ?俺は厳しいぞ?」そう言うと
バルドはニカッと笑顔を見せてくる。
「ではアレクまずは、お前さんは弓しか
武器は使っていないそうだな?まちがいないか?」
腕組みしながらバルドが確認してくる。
「はい、武器は弓しか使えません」
「まだ、成人前で職業が分からないが
恐らく、狩人あたりが妥当だろう。それを
前提としてアレクには剣術と盾術と体術を
学んでもらう」
「剣術と……盾術……体術……ですか」
「ああ、剣術は片手剣がいいだろうな
ショートソードなどがオススメだ。ここまでに何か質問はあるか?」
疑問に思ったことを素直に聞く。
「剣術は何故、ショートソードなどなのですか?狩人は短剣を、使っている印象があるのですが?」
「短剣を使うのも、間違いではない。しかし
アレクの場合は致命的な間違いだ。お前さんは戦闘の素人だからな」
それからバルド教官は、想像しながら
話を聞けというと話始める。
「お前さんが、剣を使うのはどんな時だ?
弓による攻撃ができなくなり魔物に接近
された時だろう?その時に短剣を取り出して
魔物に対応するのは非常に難しい。短剣を
使うということは相手の懐に飛び込まないといけないことを指すからな」
バルド教官の言う通り想像してみると
短剣で戦う自分が一瞬で魔物に飛び掛かられ
殺されているところが見えた気がした。
「そんな危険を負うよりも、盾と片手剣で
身を守りながら堅実に戦う方が簡単だし
生存率も高いだろう?違うか?」
アレクは、黙って頷きバルドの意見を肯定する。
「体術は、接近された時に剣に頼り過ぎない
ようにする為だ。お前さんは剣士じゃない、
冒険者だ。様々な種類の魔物を相手にしないといけないから攻撃の多彩さが要求される」
バルド教官は、一呼吸おくと。
「まあ、色々と話したが実際にやった方が
分かりやすいだろう。まずは、これを着ろ」
そういうと鎖衣を渡してくる。
鎖帷子の簡易版で
上半身のみ防御されるようになっていた。
ちなみに結構、重い。
こちらの準備が終わるとまずは木剣だけを
手渡される。
「じゃあ、実際に盾なしでアレクが
どれくらい戦えるか試してみるぞ?
好きに打ち込んでこい!」
軽く木剣を、構えるバルド教官に俺は
思い切って飛び込み一撃を放つ。
「ハッ!!」木剣が当たったと思った瞬間
背中に鈍い痛みが走る。
「痛ったあ!!」慌てて振り向くと
バルド教官が真剣な顔で、こちらを見ている。
「アレク……殺す気で打ち込んでこい!
実戦で中途半端な一撃は死を意味するぞ!」
バルド教官との実力差を肌で感じ本気で
打ち込んでいく。
1時間後……アレクはボロボロの状態で
訓練所に転がっていた。
最初は、ひたすらに打ち込みバルド教官に
当てることだけを狙っていたが……
それでも全然、当たらず。さらには当たりそうになると木剣で攻撃を弾かれた。
次にバルド教官の攻撃を出来るだけ木剣で
しのぐ訓練をしたが……様々な方向から
滅多打ちにされ蹴られ何回か気絶し
その度に、水を掛けられ起こされる。
1時間の訓練だけで、バルド教官が言っていた自分の致命的な間違いを痛感していた。
「どうだアレク?お前さんの短剣は魔物相手に通用すると思うか?」
気絶し訓練所で大の字に倒れていたアレクの
横にバルドが腰を落とし語りかけてくる。
「うっ、む、無理です……木剣すら
バルド教官に当てられないのにさらに
リーチの短い短剣で勝てる気がしません」
「短剣使いでも達人になればショートソード
相手でも圧倒することが可能だろう……
まだまだお前さんは、そこに至っていない。
そういうことだ」
「長い……道のりですね……強くなるのは
……」
自分の前世とこちらでの人生の中で
ここまで完膚なきまで負けた経験は
初めてだった。自分は強くなれるのか?
漠然とした不安が心を包み込んでいきそうになる。
バルドは、アレクの横に座ると声を掛ける。
「そこから、諦めないヤツが強くなるんだ」
たった一言、静かなけれど力強いバルドの
言葉が胸に染み込んでいくようだった。
自分の心情を読み切った言葉に少し目頭から
熱いものが込み上げてくるが我慢する。
「っ!!すみません、休み過ぎました!
訓練の続きを、お願いします!」
アレクは立ち上がると少し体を動かし
痛みを誤魔化しながら訓練を続けようとする。
「その心意気は認めるが、まだ訓練は
初日だ。焦らず自分を高める事を心掛けろ」
アレクの様子を笑いながらバルドは立ち上がり肩を叩いてくる。
丁度、お昼になりバルド教官は携帯食を
俺に渡すと一旦、訓練所を出ていた。
「1時間は休憩とし、午後から戦闘に使えるスキルについて教えてやる」と言っていた。
訓練所には、携帯食を食べているアレクと
同じように別の教官にボコボコにされたで
あろう例の美少年が1人で携帯食を食べていた。
本来なら美少年なんぞに話し掛けないアレク
であったが……自分と同じようにボコられた
美少年に何故か親近感を覚えていた。
「なあ?この携帯食まずくないか?」
気付いた時には、美少年に話し掛けていた。
美少年は、一瞬驚いたようだったが
あちらもボロボロなアレクを見ると
親近感を覚えたらしく意味のない問いに
答えてくれた。
「ああ、訓練は耐えられても この携帯食の
まずさには耐えられそうない……」
2人は、お互いの顔を見ると
ふっ、と笑い合っていた。
「僕はアレク、冒険者見習いで12歳だ」
「俺は……カイン、冒険者見習い12歳だ」
「同じ歳だな。、これから会う機会が
多くなるかもしらないな!よろしくカイン」
カインは少し俯くと笑ったように見れた。
「ああ、よろしくな」
言葉少ない、やりとりだったが何故か
不思議と嫌な気はしなかった。
カインは、燃えるな真っ赤な髪色をしており
片方の横髪は編み込まれ後ろに長い髪は
首元から纏められ腰の辺りまで伸びていた。
美少年という言葉が似合う美しさを備えた
顔立ちをしており灰色の瞳は内の冷静さを
感じさせるものであった。
(俺も人の事言えないけど、声変わり前で
カインの声は少し高めなんだよな。)
前世で自分の声を録音して聞いた時のことを
思い出し軽く悶絶しそうになる。
そんな事を、考えているとバルド教官が
訓練所に戻ってきて午後の訓練が始まった。
「午後は、伝えていた通り戦闘に使える
スキルを教えてやる!アレクは【身体強化】
を知ってるか?」
アレクは首を横に振る。
「いえ、聞いたことありません」
「【身体強化】は魔力を使って腕力や脚力
などを強化することで能力を大幅に高めるスキルだ」
魔力を使うのか……
「魔力(MP)は消費するんですか?」
「いや、【身体強化】は体内の魔力を使うが
魔法のように外部に干渉したりしない為に
魔力の消費はないとされている」
(じゃあ、沢山練習できそうだな!
【魔力操作】を併用すれば早く取得できそうだし。あとは具体的なイメージだな……
筋力……筋繊維に魔力を通して……
活性化させるイメージなんてどうだろう?)
「分かりました、魔力を使って身体を
活性化するんですね……【魔力操作】……」
小学生の時に見た人体模型を思い出し
筋肉、筋繊維、徐々に細かいところまで
魔力を滾らせていく。
すると全身から力強さが感じられ若干
体温も高くなったように思える。
「おっ!これは成功したのでは?」
アレクは少し試してみようと軽く走ろうと
足に力を掛ける。
すると次の瞬間。
『ドオォォォォン!ガッシャアァァン!!』
騒がしい音が訓練所に響き渡る。
訓練所に置いてあった木箱は破壊され
一面を埃が舞い視界を奪っていた。
アレクは爆発に巻き込まれたのかと
混乱したが……何故か周りには木々の
残骸が散乱し自分の身体は倒れていた。
「おーい!!アレク!生きてるかぁ!!
返事しろ!おい!!!」
焦った声のバルド教官が埃の奥から、
こちらに向かってくるのが分かる。
アレクは混乱しながも返事を返す。
「あぁぁ、はい、生きてます?」
「おおぉ、生きてたか!?いきなり、木箱に
向けて吹っ飛んでいたから本当に驚いたぞ?
一体何をしたんだ?お前さんは!」
「自分でも良く分かりません。【身体強化】
を練習しようと魔力を身体に通したら力が
溢れてきたので少し走ろうとして気付いたら
ここに倒れてました……」
「【身体強化】では、こんなことには
ならんだろう?体に異常はないか?
ケガしたところは?」
心配そうに次々と質問してくるバルド教官に
驚きながらも自身の体に異常がないか調べる。
「ええ、異常はないみたいです。ケガも
ないと思います」
周りを確認するとカインとカインの担当
教官の男性が、こちらを唖然と見つめていた。
「とりあえずアレクは、ギルドの休憩室で
休んでおけ!今は、なんともなくても後から
ダメージがあるかもしれないからな?
ベッドもあるから使っていいぞ?」
アレクはバルドに勧められるまま、ギルド
職員が使う休憩室へ連行された。
少し休んだ後に訓練は2日後に再開すると
バルド教官から伝えられ、その日は
拠点に帰ることとなった。
拠点には、師匠がいなかったが暫く
するとフラッと帰ってきたので今日の
【身体強化】の話をすると何故か爆笑された。
「くくくっ、そんな魔力の使い方をすれば
吹っ飛んで当然だろうな!さすがぼーやだ。
変態的な発想だよ本当にな!」
かなりイラっとしたが我慢して師匠の
見解を聞いた。
「【身体強化】は、部分的に魔力で強化を
行うスキルなんだが……
その部分的のイメージは普通は足を強化するとか腕を強化するとか身体全体を強化するとか、とても大まかなものなんだよ。
ぼーやのように筋繊維だったか?
そんな細かい所までイメージして魔力を
通す者などおらんし、そもそも出来ない」
「なんで、出来ないんですか?実際
出来ましたよ?僕は?」
師匠は、推測だぞ?と念押しして話し出す。
「最近ぼーやは時間がある時は、ずっと
【魔力操作】の修行をしていただろう?
しかも、ぼーやは元々スキルの熟練度が
上がりやすい。更にイメージ力を使った
独特の修行が効率を上げる結果を出したと
考えられる。それによりぼーやは、
精密な魔力操作が出来る領域に至ったのだろう」
師匠の話を聞いていて疑問を感じた。
「それだと、僕以外でも【魔力操作】に
長けた方なら同じことが出来るのでは
ないですか?」
師匠は首を横に振る。
「仮に出来たとしても、そんなことをしたら
手足が吹き飛ぶ結果になるだろうな。では
何故、ぼーやはそうならなかったのか?」
ピッ!と人差し指を立てる師匠。
「それは、ぼーやが幼い頃より続けている
ステータスの攻撃力を上げる修行の影響だと
私は考えている」
師匠が言っていたのは6年ほど続けている
筋トレと超回復をイメージした修行のこと
だった。
(そこまで深く考えてなかったけど……
あれって攻撃力上げるだけの効果じゃないの?)
自分で考案しておきながら、まったく
作用を理解できてないことに少し焦る。
「ぼーやの6年に及ぶ修行の積み重ね
その結果、破壊と修復を繰り返した筋肉は
より強く!より強靭に成長を続けたのだろう」
師匠の言葉を聞いてきて、1つ気付いた。
(俺……この世界に生まれて意識がしっかりしてからの記憶が確かなら……筋肉痛に
なったことないぞ……)
「つまり、僕の筋肉の耐久力が異常に高く
なっている。ということですか?でも
ステータスの防御力は高くないですよ!」
ギルドカードでステータスを確認してみる。
ステータス
〔名前〕アレクサンダー
〔年齢〕12
〔職業〕持たざる者
〔レベル〕1
〔体力〕(HP)250
〔魔力〕(MP)40
〔攻撃力〕120
〔防御力〕35
〔敏捷性〕90
【スキル】
歩行術 投擲 弓術 隠密 気配探知 魔力探知
魔力操作 解体
【称号】
なし
「ぼーや、防御力は打たれ強さを数値に
したものだ。ぼーやの場合は当てはまらない。
それにステータスの数値は全てではない」
師匠は、一呼吸置くと。
「ステータスに拘らずイメージ力の修行をし続けてきたのは誰だ?ぼーや自身だろ?目に見える部分だけでなく見えない部分に、もう少し気を向けてはどうなんだ?」
師匠に諭され軽く落ち込む。
「うっ、すみません。以後、気を付けます」
「まぁ、いいさ。ぼーやが健やかに成長
してくれるのならな」
そこまで話すと、空気が変わり師匠が
急にニヤニヤしだした。
(なんだ……嫌な予感しかしない……)
不審に感じ、勇気を出して質問してみる。
「なんですか?ニヤニヤして、僕が何か
しましたか?」
「なあ?ぼーや、今回は無茶な力の使い方を
したよなあ?無茶な力に対しては反動という
ものが付き物だと思うのだが……どうだろう?」
その時は、師匠の言いたいことが分からずに
ただただ戸惑うだけだったが。次の日から
俺は屈辱の日々を3日間過ごすことになる。
次の日になると体が凄まじい筋肉痛に
襲われ1人で立つこともままならないし
腕も足も少しも動かさなくなってしまったのだ。
「だから、言っただろ?無茶な力には
反動がある!と」
そう朝から師匠がベッドの横で喋っていた。
その日から、地獄が始まった。
1人で飯も食べられないしトイレもいけない。風呂も入れないし。ベッドにすら戻れない。
俺が抵抗できないことを分かっているのに
師匠は、ここぞとばかりに苛めてきた。
〜食事の場合〜
「はーーい、アレクちゃーん
ご飯でちゅよーーあ〜んしてくだちゃいねー」
「…………」
「あれ〜聞こえてないのかな〜〜
それともママのおっぱいが、ほしーいのかな〜?」
「………もぐもぐ……ぅっ」
〜トイレの場合〜
「あの……師匠……トイレに行きたいです」
「小か?大か?」
「………しょ、小で……」
「じゃあ、お姫様だっこで連れて行って
やろうじゃないか!何、遠慮するな!」
(じゃあって、何だよ!お姫様だっこと
小か大かは関係ないだろうが!!)
〜お風呂の場合〜
「はーーい、ぬぎぬぎしましょーねー
おふろで、きれいきれいにしましょーねー」
一瞬でズボンとパンツも剥ぎ取られる。
『じぃーーーーーーー』
「やっぱり、体を拭くだけで………師匠?
どこ見て…………っ!!」
『じぃーーーーーーー』
「……………」
「ぼーやも、まだまだ子供だな……
心配するな……時期に大人になれるさ」
「……………くっ!」
こうして屈辱の日々は終わりを告げた。
俺の心に大きな傷を残して…………
師匠は、バルド教官に俺の体の件を伝え
10日程の間は訓練を中止にするように
してくれていた。3日は潰れたが残り7日は
身体レベルを上げる為にと【身体強化】の
スキル習得プラス慣らしに使うことに
なった。




