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最終話:エピローグの終曲

エピローグ【Epilogue】

・納め口上

・終曲

 全てはある一つの点から始まる。その一つの点を打ち付けるのはランダムだ。自分かもしれないし、友達かもしれない、親かもしれないし、兄弟かもしれない、はたまた赤の他人かもしれない。それでも、一つの点から必ず始まる。

では、終わりはどうだろうか。一つの点から始まった物事は、果たして一つの点で終わるだろうか。

 それについての答えは――否である。

 一つの点から始まった物事は、絶対に一つの点で終わるわけが無い。数え切れないほどの終点が存在する。それは始まりから終わりまででとった行動が総評価として結果が弾き出される。

 最善から最悪まで――。

 最高から最低まで――。

 最長から最短まで――。

 最下位から最高位まで――。

 最初から最後まで――。

 始点から終点までの中で様々な選択肢がある。それぞれ選ぶ物は違うし、全て同じ選択肢とは限らない。老若男女、喜怒哀楽、時々刻々――森羅万象の千差万別、多種多様の十人十色。例え、他の人と全く同じ条件で、全く同じ選択肢を選んだとしても導かれる答えは異なる。

 相似ではないのだ、対称ではないのだ、イコールではないのだ。

 全然違う答えが浮き出てくるからこそ、人生は楽しいのだ。

 全然違う終点に導かれてしまうからこそ、人生は悲しいのだ。

 楽しくて愉しく、悲しくて哀しい人生はそう簡単に捨てるものではないし、そう簡単に(ないがし)ろにするものではない。始点から終点まで、生から死まで、おはようからおやすみまで……。


 ■ ■ ■


「それから、数日後に美和は死んだ……」

 副戸明衣子(ふくどめいこ)は――、

「遺書が……美和(みわ)の部屋から見つかったの」

 (うつむ)いて、声を震わせながら、言った。

「遺書――?」

 中道凛(なかみちりん)は――、

「なんて書いてあったんだ?」

 はっきりと、明衣子を見()えて、問う。

「簡単な遺書だったわ……単純すぎて怖いくらいだった」

 明衣子は下を向いていた顔を上に向けた。目には(あふ)れんばかりの涙が溜まっている。

「……“助けて、お姉ちゃん”って」

「――“助けて”か。お前は本当に妹さんを助けられたんかね。面倒くせぇや。そこにいるんだろ? 式部。全て洗いざらい話してもらおうじゃねぇか」

 “道楽遊戯”のドアの方を向き、あたかもそこに人が立っているように中道が話しかけると、ドアが開いた。

 そこにいたのは式部だった。

「副戸美和が伺去(しゃり)津村(つむら)日野(ひの)の三人に脅されていることを副戸明衣子に話したのは、てめぇだな?」

「……」

「てめぇも沈黙か。うんざりなんだよ! てめぇがしたことの罪深さを知らねぇ奴が時間を無駄にするのがよ! 人を三人も殺しておいてそれはねぇんじゃねぇか?」

 中道は頭をガシガシと掻いた。

「わかんねぇんだよな! うじうじしたりとかすんのがよ! ハッキリしやがれ!」

 言い終わるか終わらないか、中道は机を脚で蹴った。鉄製の事務机が「ドンッ!」という、爆発音にも似たすごい衝撃音を発した。

「……ああ、そうだよ。俺が明衣子に『美和が伺去達三人に脅されている』と言うのを話したんだ」

 式部は再び俯いた明衣子のほうを見て言った。

「ちっ」

 と中道は舌打ちをし、

「まぁ、これはもう分かってるけどな。副戸美和を脅していたという三人を殺した動機――あえて聞いてやるよ」

 と言った。式部は「ふぅ」と溜息をついて、

「自分の地位のためだ」

 と静かに言う。それを聞いて中道は「やっぱりな」という顔をした。

「何故……殺さなければならなかったんです?」

 楽座陽太郎(らくざようたろう)はしばらく黙っていたが、どうしても我慢できなかったようで式部に聞いた。

「……未来永劫(えいごう)、あいつらに脅され、自分の地位を剥奪(はくだつ)されるのが怖かったんだよ……」

「そんなの……自分勝手じゃないですか? 明衣子さんだって、初めっからそんなことしなければこんなことには――」

「困っている人を助けただけだと思っているよ」

「そんな……」

 楽座の言うことは式部にとっては軽く返されるだけだった。呆れた中道が静かに口を開いた。

「地位を剥奪されるのが怖かった――困っている人を助けた――。ま、確かにそうだろうな。沢山あった選択肢の中から最善の選択をしたと、そう思えるよな。結局、最悪の結果に終わったわけだがな。どこでこんな狂いが生じたか教えてやろうか? 副戸、式部。――それはな、てめぇらの奥底に隠れる闇だよ。その闇はてめぇらだけにあるもんじゃねぇ。あたしだって、陽ちゃんだってそういう闇は持ってんだよ。だけどな、その闇を外に出ねぇ様に封じ込めんのも人間の仕事だ。義務だ。その闇がどれだけ他人を苦しめるか、悲しませるか、辛い思いをさせるか、それが分かってねぇと封じ込められねぇんだよ。てめぇら二人は残念ながら、闇の恐ろしさを知らなかったようだな。せいぜい、懲役の間を闇の恐ろしさを知る期間にするんだな」

 副戸と式部を見下すようにして見据え、思いを伝える中道だったが、

「随分と、酷い言われようじゃねぇか。え? 中道。人間の仕事? 義務? そんな事言ってるようじゃあ、この“道楽遊戯”も終わりだな。そんな甘い考えじゃ生きてけねぇよ」

 と式部は言った。全く伝わっていないようだ。だが、中道は――、

「じゃあ、てめぇは人間じゃねぇな。あえて言うなら、ゴミだ」

 と吐き捨てた。


 しばらくして、琴原署のパトカーが“傘ビル”に到着した。

 港南(こうなん)出灰(いずりは)は副戸と式部に手錠を掛けた。数名の警官に二人の身柄を渡した。

「ところで、一つ分からない事があるんやけど」

 と出灰が言った。

「ん? 何だ?」

「なんで、バラバラ死体を全く事件とは関係ない『開地瑶子(かいちようこ)』さんにする必要があったん?」

「何だ、分かってなかったのか、出灰」

 コクリと頷く出灰。

「港南は?」

 申し訳なさそうに首を横に振る港南。

「開地瑶子はああ見えて、ひでぇ女なんだぜ」

 ニヤリと笑って港南と出灰に言う中道。

「ど、どういうことですの?」

「どういうも、こういうも、開地瑶子は痴漢冤罪(ちかんえんざい)の常習者だ」

「なっ――!」

 港南も出灰も酷く驚いた。

「前に式部本人から聞いたんだがな、混雑した電車に乗っていたら、前に女――つまり、開地がいたんだと。片方の手はつり革、片方の手には本を持っていたらしいんだが、痴漢呼ばわりされたらしい。そのあと、鉄道警察で事情聴取だと。そのときに開地の名前を知っていろいろ調べたらしい」

「痴漢冤罪――最近多いようですわ。鉄道警察の方でも手を焼いているそうですわ」

「“向こう”に捜査員でも送れやええねん。なんかムカついてきたわ」

「ところで――」

 と港南は中道に。

「この後、どうするおつもりなんですの?」

「は?」

 突然、何を聞かれるかと思ったら、意外と普通のことだったので拍子抜けした中道。

「しらばっくれるおつもりですの? あの四人がこっちへ帰ってくるらしいですわ」

 『あの四人』という言葉に中道はピクリと反応した。そして、チラッと楽座の方を見る。楽座は机に向かい、今回の事件のまとめをしていた。

「あの四人にはあたしでも逆らえないからな、特にあのリーダーにはな」

「付いていくおつもりのようですが、楽座君はどうするんです?」

「それなんだよな……あ、それと、お前ら。この事件まだ解決してねぇぞ」

 港南と出灰は顔を見合わせるが、二人の頭の上には疑問符が浮かんでいる。

「阿呆。“伺去”はどこ行ったんだよ」

「!?」

 そういえば、津村(七年前の六月七日に殺害された)と日野(今年の六月十二日以前に殺害された)の死体は発見されているが、伺去の安否が分かっていない。

「そこらへんは式部が喋るだろ。お前らの腕の見せ所だぞ」

 港南と出灰はコクリと頷いた。

「ところで――話は戻りますけど、楽座君はどうするんです?」

「まだ考えてねぇよ。いずれ奴にも話すつもりだ」

 中道と港南と出灰は楽座の方を向いた。何も知らずに仕事に集中している楽座。

「まぁ、戻ってこれる日が来るんだったら、あいつとまた仕事するつもりだけどな……ただ、いつ戻ってこれんだかわかんねぇ」

 あらかた話しが終わったところで、港南と出灰は琴原署に戻って行った。


 それから、何週間が経っただろう。

 某県某市に「琴原(ことはら)駅」という駅がある。出入り口は一つしかない。その駅から出て市役所のほうを目指して歩いて行く。緑の美しい街路樹が日の光を心地よく(さえぎ)る。車通りは多くもなく少なくもなく走り、路線バスも走っている。

 「琴原駅」から歩いて約十分。新しいビルに挟まれて相当年期の入ったビルが見えてくる。所々に(ひび)割れとシミがあり、ビルの看板は一文字だけ欠落してかつてそこに何の文字が掲げてあったのか分かるような(あと)がついている。このビル――「傘倉(かさくら)ビル」(一文字欠落しているから「傘ビル」と呼ばれている)は四階建て。ビルの入り口を入るとすぐにコンクリートの階段が目に入る。やはり、階段も所々に細い罅割れがある。上り始めたら崩れるんじゃないかなと思えるほどだ。

その階段を三階まで上り、すぐ左に折れる。すると、ビルと相まってボロボロな鉄製のドアがある。以前入っていた業者の看板が何度も付けられては、()がされているようで、接着剤の痕や無理矢理剥がした時に出来たと思われる塗装のはがれが目に付いた。そんなドアには「道楽遊戯」というプラスチック製の看板は――。

 無くなっていた。

 傘ビルの前の駐車場には黄色い「ZOOMER」も黒い「MAGNA50」も置かれていない。

 「道楽遊戯」は無くなっていた。

 中道が反応した「あの四人」と何らかの関係があるらしいが、詳しいことは分かっていない。

 中道は楽座にどういう話をしたのかは分からないが、相当ショックを受けたと思える。メンタル的に少々弱い楽座は今、何をしているかは分からない。

 ただ、最近「琴原駅」の近くに新しい事務所が出来たという話がある。

 「西終六人組(さいはてろくにんぐみ)」という名前の事務所で業務内容としては「道楽遊戯」に似たものがあるという話があるが、その真意は定かではない。

 そして、「琴原駅」近辺で中道に似た人物と楽座に似た人物を見る人が多いらしいが、中道に似た人物は髪が短く、青い色で統一していたというし、楽座に似た人物も髪が短いのだが、ツンツンとした髪で銀色だという。他人の空似というか、雰囲気は似ているということだ。

 「道楽遊戯」が抜けた傘ビルだが、元の郵便受けにはまだ依頼の手紙が入っている。だが、その手紙は毎日のように無くなっているという。だれかが捨てているのか、はたまた誰かが持ち去っているのか。

 何だかすっきりしない。

 「道楽遊戯」が戻ってくれば、もしかしたら解決するかもしれない。

 中道と楽座の活躍で。


ご閲覧ありがとうございます。

ひとまず、「道楽遊戯シリーズ」はこれにて小休止に入ります。

という、逃げの一手を打って次の構想を練り始めることにします。

ありがとうございました。

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