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イレギュラーな新人 3

「さて……それじゃあ今、実際に手がけてる案件について話をするか」

「ええ、お願いいたしますわ」


 それから石燕は、一通りのことを説明していった。その内容は、おおむね今朝彼が晶と語っていたことと変わらない。


 一つ、あの抜け穴から出てきて逃げた妖怪の数は膨大。

 一つ、それらを逮捕するために総動員令が出ており、石燕たちは危険度が比較的低めの妖怪の担当になった。

 一つ、まず目星を付けた妖怪の足取りは、現状わからない。


「……で、その妖怪の足取りが途絶えたのがこの辺り」


 そして石燕は、用意していたタブレット端末に表示した地図の一か所を人差し指で示して、そう締めくくった。


 なお、晶はこの間ほぼ無言だった。


「そしてここから先が今詰まっている、と……」

「ああ。その足取りを威黒が追ってるんだが……」

「なるほど聞き込みとパトロール、ですか」

「そういうこと。ただな、これがまあ芳しくないんだ」


 そこで石燕は、椅子の背もたれに身体を預けながらため息をついた。

 彼の心情を理解できる晶もまた、体勢こそ変えなかったものの、小さくため息をつく。


 対する水奈は、顎に手を当てて何かを考えている。その様子に、晶たちは何かあるのかと見てあえて口は挟まず沈黙を続けた。


「……おっと?」


 そこで出し抜けに、ベルの音が響いた。発信源は、今まで石燕が操作していたタブレットだ。


「すまん、噂をすれば影ってやつだな。……おう、どうした? 何かあったか?」


 画面に表示された名前を見て、石燕はタブレットを手にして表示されていた名前をタップする。

 それとほぼ同時に、威黒の声が響き始めた。


『いやー、それがさっぱりですわ。うちの若い衆にも出張ってもろて、方々調べてるんですけどねえ……どうも、まるでひっかかりまへんのや』

「マジで? 超ヤベェじゃん」

『そうそう、ほんま超ヤベェですわ……』


 二人のそんな会話を見る水奈の顔は、興味津々だった。

 しかし邪魔はすまいと、彼女は石燕の隣で手持無沙汰にしていた晶に控えめに声をかけることにする。


「妖怪に関する仕事と言われて、アニメや漫画の類の雰囲気を考えておりましたけど……案外現代的ですわね……」

「あー、うん。言いたいことはわかる。でもほとんどの妖怪は街の中で普通に生活してんだ。テレビだって見るしネットだってするさ」

「そういうものなのですか……」

「そーいうもんだよ。妖怪は人間の良き隣人、だからな。いっしーの受け売りだけど」

「ふふ、受け売りですか」


 そんなやり取りをひそひそとする二人を尻目に、石燕と威黒の会話も続いている。


「しかしあの抜け穴がいつから開いていたかわからないからな……想定は常に最悪にして行動したほうがいいだろうな」

『ですなー。けどどないしますのん? 憑かれてしもてたら、あてはおろか姐さんでも気づけまへんえ?』

「そこなんだよな……そうなっちまうと、それらしい事件を追っていくしかないのがな……」

『でしょうなあ。やれやれ、厄介ですわほんま……』


 そこで彼らは、同時にため息をついた。それから、ああでもないこうでもないと話し合いを始める。


 それを見た水奈は、行き詰った会議を思い出して一瞬眉をひそめた。ここからは建設的な話はあまり出てこないだろうと当たりをつけ、晶に別の話題を振ることにする。


「……晶さん、お聞きしたいのですが……『憑かれてしまったら』というのは、どういうことなのですか?」


 懐からペンと手帳を取り出して、そう聞いてみる。


「言葉通りの意味だぜ? 妖怪に取り憑かれちまった状態のこと」

「……そうすると、どうなるんですの?」

「え……っと、まず、気絶するな。なんかこう、急にプツッと気を失うらしい」

「急にプツッと、ですか……」

「あたしは憑かれたことねーから、聞いた話だけどな。んで、これはすぐに覚めるんだけど……取り憑いた妖怪はほら、魂魄だからさ。宿主の悪い感情を餌にして体内で力を蓄えてくんだ」

「悪い感情を餌に……?」


 意味がよくわからず、水奈はペンを動かす手を止めて首を傾げる。


「えっと、なんだっけ、こう、すんげー誰かが憎いとか、怖いとか? そういうの」

「あ、深い意味はなく言葉通り悪い感情なのですね。妖怪はそういう形のないものを餌にするのですか?」

「らしいよ? どうやって食ってるのかはあたしもわかんねーけど、とにかくそういう気持ちを食べるらしい」

「え……ということは、威黒さんもそういうことをするんですか?」


 晶の言葉に、水奈は思わず視線を動かした。石燕が向かい合っているタブレットにだ。


 そこに間髪を入れず、威黒の声が飛んでくる。石燕と会話しながらも、水奈たちの会話は聞こえていたようだ。


『水奈はん、ご安心ください。悪感情を食べるんは魂魄妖怪だけですよって。あては普通にご飯食べます』

「えっ、あ、も、申し訳ありませんわ」

『いえいえ。些細なことで仲間に勘違いはされたくないですよって。……それで石燕はん、話戻しますけどな……』


 手短に指摘を済ませた威黒は、すぐに石燕との会話に戻っていく。

 それを少しだけ見守った後、水奈は改めて晶に向き直る。


「ええと……それでは、力を増した魂魄妖怪はその後どうなるのです?」

「えっと、宿主にアレなことさせられるようになるんだ。それで宿主がもっと悪い感情を持つように、いろいろやらかすんだよ」

「あー、操られると……ということはつまり、先日私が見たご老人たちもそうなのですね」

「そうそう。あれはたぶん思考をこう、誘導されてたんだろーな」


 両手を前に出して、くいっと横にそらす仕草をしながら晶が頷く。


「これが強い妖怪だと、宿主の身体を完全に乗っ取って操れるようになるけどな。こうなるとマジでヤバい」

「そ、それは確かに『やばい』事態ですわね……ぱっと思いつくだけでも、色々な被害が想定できますわ」

「だろ。たださー、目で見て『これ!』っていうわかりやすい目印とかってないんだよ。妖気もほとんど漏れねーから、ホントわかんなくってさ」

「そして操られるほどまでなった時には既に手遅れ、と……。まるで性質の悪い病気みたいですわね……」


 手帳に要点をメモしつつ、水奈はその美しい目をすっと細めた。

 そして一通りのことを書き終えた後、ペンを回しながら少し黙考する。すぐ傍らで、石燕たちの実りない会話だけが響く。


「……ところで晶さん。その取り憑いた魂魄妖怪、もしかして最後は人から出てくるのではありませんこと?」


 再び口を開いた水奈からの質問に、晶は目を丸くした。


「お、おう。その通りだけど……よくわかったな?」

「先日の小鬼? を見ていれば、私でなくともそこに思い至りますわよ」

「ああ、そりゃそうか」

「あれが起きた時、出てきた妖怪はどうなっていますの?」

「あれは顕現って言うんだけど……その、魂魄だけだった妖怪が、身体を手に入れちまうんだ」


 水奈の新しい問いに、晶は眉間にしわを寄せて少し言い淀みながらも答えを口にした。

 その内容をやはりメモしつつ、水奈もその整った顔をしかめる。


「身体を手に入れた妖怪は、誰にでも見えるようになる。だから隠れて動けなくなるけど……本気出せるようになっちまうんだ」

「……ということは、先日大勢の小鬼が顕現していましたが、あれはかなりの非常事態だったのでは?」

「うん、実はな。相手が最下級だったからすんなり終わったけど、あれがたとえば昔話に出てくるような鬼とか天狗だったら、あたしじゃどうにもならなかったよ」

「……私が見ていた限り、妖怪が顕現した後、憑かれていた方々は気絶していらしたようですけど、あれは……?」

「あれか……あれは魂が抜かれちまった状態だったんだ」

「魂が?」

「ああ。えーっと、細かい理屈はよくわかんねーんだけど、その抜いた魂をどうにかこうにかして、身体を作ってるらしい」

「……なんですって?」


 聞き捨てならない、とばかりに水奈のペンがそこで止まった。彼女の視線が、まっすぐに晶に向けられる。


 そこに、通話を終えた石燕が話に割り込んできた。そして晶の説明を引き継ぐ。


「科学的な説明は難しいんだけどな。魂を物質に変換して肉体を構成してるのさ。そしてこないだ言った通り、あの手の抜け穴は魂しか通れないから、こっちに来た悪党妖怪はまず人間に取り憑くってわけだ」

「その仕組みだと、憑かれていた人は顕現されたら死んでしまうのでは?」

「魂は結構頑丈だから、そうされても死なないよ。ただ、身体はそうはいかない。魂が抜けた後は衰弱死待ったなしだ。おまけに顕現した妖怪を殺すことは宿主の魂も殺すことだから、その瞬間元宿主は普通に死ぬ」

「一大事ではありませんか! ならば先日、晶さんが退治した妖怪の宿主だったご老人たちは……」

「いや、あの人たちは死んでねーよ」

「と……申しますと……?」


 わからない、と言いたげな視線を受けて、晶は右手を彼女の間に掲げて見せた。


 その手首には、飾り気のない腕輪がはめられていた。細工もなければ、色彩の類もない。強いて特徴を上げるとすれば、金でも銀でもない不可思議な光沢を放っていることくらいか。

 それからもう一つ。晶が手の甲を向ける形で腕輪を見せているので水奈からは見えないが、小ぶりの水晶が晶の顔を眺める位置に取り付けられている。透明度は高く、ただの水晶とは一線を画した輝きが宿っていた。


 その腕輪を、石燕が指しながら説明を再開する。


「こいつは縛妖索ばくようさくと言ってな。こいつに神の力を込めて攻撃すると、顕現でできた肉体を強制的に魂に還元して宿主まで戻す効果があるんだ。同時に神様の力が妖怪を封印するようになってるから、宿主を殺さずに相手を確保できる、って寸法さ」

「……なるほど、しっかり用意はあるのですね」

「ま、人間と妖怪の争いなんてそれこそ紀元前からあるんでな。かんなぎ頼りとはいえ、二千年以上の知識と経験の蓄積はしっかり生かされてるってことさ」


 それができるようになったのはここ最近だがな、と締めくくって石燕は説明を終えた。


 聞き終わった水奈は、もはや何度目になるかわからない頷きで応じたが、一瞬の思考ののち再び口を開いた。


「……ここでかんなぎが出てくるのですね。なるほど、そう言う意味でも晶さんは『特務』なのですね……」

「イグザクトリー、その通りでございますってな。こいつ、こう見えて超すげえやつなんだよ」

「いや、あたしなんかまだ初心者同然で、いっつもギリギリだけど」

「力不足でもかんなぎの絶対数はどうしても足りなくてな。おかげで未成年の晶にも出動願う事態なのが機関の現状でなあ」

「そうなのですか……」


 だんだんと己の理解の限界に近づきつつあることを感じながら、水奈はゆっくりと天井を仰いだ。

 元々、オカルトの類を信じていなかった彼女にとっては、今日手に入った情報はあまりにも濃すぎたようだ。今度は細く長いため息をつく。


 そんな水奈に、少しの間を挟んで石燕がさらに切り込む。


「色々思うところはあるだろうが、話を進めるぞ?」

「……あ、はい。よろしくお願いしますわ」

「その前に、ちょっと場所を変えよう。タブレット一個じゃ足りねえ」


 そして石燕は、そう言いながら席を立つ。

 彼に了承を返しながら、水奈は残っていた茶を飲みほしたのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


説明回、もう少し続きます。

この作品は二年前のものなのですが、さすがに冗長に過ぎるかなあ・・・。

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