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出会ったから始まったのか、始まったから出会ったのか 1

タイトルの読みは退魔鑑たいまかがみです。

「開発反対!」

「強引な買収を許すな!」

「豊かな自然を守れ!」


 東京郊外に今も残る里山。その入口付近で、二月の風をものともせず、プラカードを掲げた老人たちが気勢を上げていた。

 その眼には、妖しい光が瞬く。比喩ではない。人魂を髣髴とさせるおぼろげな光が、みな一様に宿っていた。


 対するは、揃いの装備で固めた警官隊。音ひとつ立てることなく、整然と並んでいる。

 距離があるからだろうか。相手方の尋常ならざる様子に、警官たちは気づいていないようだ。


 そんな様子を警官隊の後方、黒塗りの高級車の傍で佇む少女――水奈ミナは冷ややかな目で眺めていた。

 日本人離れした白い顔立ちはすぎるほどに整っているものの、まだ幼さが残っている。それでも、端正な素地に涼しげな雰囲気が相まって、かわいいよりは美しいのほうが似合いの表現であろう。


「お嬢様、いかがいたしますか?」


 水奈の傍らに立っていた、いぶし銀の中年が静かに問いかける。


「いかがも何も……やりますわよ。土地の売買は双方合意の上。所有権も移動済み。反対するなら最初からすればよかったものを、今になって反対だなんて……契約違反もいいところですわ」


 そう応じた水奈は、烏の濡れ羽色した艶やかな長髪をさらりと横へかきあげた。重力に逆らった髪が一時、風に流されて静かになびく。

 彼女は次いで中年から拡声器を受け取ると、ためらうことなく号令をかけた。


「では皆さん。強制退去の執行、お願いいたしますわ」


 機械を通って幾分変質した声が、その場に響き渡る。


 それに従って、警官隊が動き出し。


 彼らに応じて老人たちが身構えた――その刹那。

 老人たちから突然、黒いもやのようなものが噴き出した。それは一陣の風となって周辺に広がり……次いで、彼らの身体から異形が出現した。


「!?」


 あまりにも非現実的な光景に、全員が絶句した。そのまま動きを止めてしまう。


 そうこうしているうちにも、異形は次々に現れていく。


 それはいずれも、人間と近しい身体つきながら矮小な体躯であった。けれども決して貧相ではなく、しっかりとついた筋肉は雄々しい躍動感を宿している。

 頭に髪はほとんどなく、そこからは小さな角が――本数は個体ごとに違うが――生えていた。


 かつて幻想の時代、人々はそれを妖怪・小鬼と呼んだ。しかしその正体を察することができた者は、ここには一人もいなかった。


 一方それらが出現した傍らには、黒い蜘蛛糸のようなものに全身を覆われ、力なく地面に倒れ伏した老人たち。いずれも昏倒しており、起き上がる気配はない。

 そして最後に、かろうじて一人残っていたリーダーらしき老爺から、やはり黒いもやがあふれて異形が出現した。と同時に、老人は糸を切られた操り人形のように、その場に崩れ落ちる。


 現れたものは、他の異形とは似て非なる姿をしていた。その全身は朱色。頭髪も、落人を思わせる乱れぶりだがなかなかの量があり、そこからのぞく二本角は太く、長い。


 これも妖怪。その名は朱の盆。小鬼と同じく、鬼に属するものである。ただしその格は、小鬼よりも上だ。


「な……なんだあれは……!?」


 誰かの声が、やけに遠くまで響いた。それを皮きりに、動揺とどよめきが広がっていく。

 もちろん、水奈も例外ではない。想像を超えた光景に、完全に硬直してしまっていた。


「グッグッグ、どうやら顕現は無事に成功したようだ」


 人間たちの喧騒をよそに、朱の盆がつぶやく。


「少し相手の数が多いが、所詮は人間。武器も持っていない……ならば我らの敵ではあるまい。我らが顕現するきっかけを与えてくれたのだから、相応の歓迎をしてやらねばな」


 そしてそう言い放ち、にたりと笑うと。


「皆の者、かかれ!」


 周りの喧騒に負けぬ声量で、大きく吼えた。彼に応じて、小鬼たちが一斉に鬨の声を上げて前へ躍り出る。

 彼らはその勢いのまま、警官隊に襲い掛かった。最前線にいた数人が、ほとんど抵抗することもできずに地面に転がされる。


 暴力が振るわれたことで、それまで漂っていた空気はたちまち混乱と変じた。

 だがそこは、訓練された警官隊。さほど時間をかけることなく規律を取り戻すと、連携して小鬼たちへ対応し始める。


「なんてこと……! 一体何が起こっているの!?」


 水奈はそんな光景を目にして、ようやく我に返った。それでもまだ、愕然としたまま動けない。

 彼女の問いは誰からも答えられることなく、冬の風の中に消えていく。


「お嬢様、危のうございます! ただちに避難を!」


 代わりに後ろに控えていた男が、彼女の肩をぐいと引っ張った。


「松田……くっ、わかりましたわ……まずはここを離れましょう」


 水奈は何か言いたげな顔を彼――松田に向けた。だが、すぐに真顔に戻ると踵を返す。

 直後にその整った顔が悔しげに歪んだ。自分に何かできることはないかという考えが浮かんだのだ。しかし彼女の冷静な部分は、もはや小娘一人ではどうにもならないということを理解していた。


 彼女を見て、提言した松田は緊張の面持ちで頷く。


「それがようございます。あれが何かはわかりませんが、ともかく今はお嬢様の身が大事です」


 そして車のドアを開けるが……。


「……お嬢様?」


 当の水奈は、再び硬直してしまっていた。

 そして松田も、彼女の視線を追って硬直する。


「なんと……!?」


 二人の視線の先は、空。寒風吹きすさぶ冬の青空だ。

 そこに、弱々しい太陽を背にした人影が浮かんでいたのだ。


「待て待て待てぇーっ!」


 直後、周囲の混乱を引き裂いて、その人影が叫んだ。そして一気に低空まで降りてくると、水奈のすぐ隣をすり抜けていく。

 混乱しながらもその姿を目で追った水奈は、目を疑った。

 なぜならその人影は、己とさして変わらぬ年頃の少女だったのだから。


(女の子? 一体何が? というより、何者ですの? どうしてここに?)


 様々な疑問が次々と水奈の中に湧いてくる。そしてその答えを得ようと、視線が自然と少女を追いすがる。しかし見えたのは、その後ろ姿だけ。


 その少女は、冬だというのにかすかに日焼けの跡が残っていた。顔には豊かな感情がむき出しになっている。黒い瞳もまた、生き生きと輝いていた。


 彼女が叫ぶ。


「これ以上はあたしが許さねーぞ、妖怪どもッ!」


 そして妖怪たちへ一直線に突撃したものだから、水奈は再び己の目を疑った。


 水奈だけではない。この場に居合わせたほとんどの人間が、少女の大音声を聞いて唖然としていた。


「うおりゃあぁぁーっ!」


 だが、驚きはまだ続く。少女の雄たけびと共に、複数の小鬼たちが派手に吹き飛んだのだ。

 ある者は蹴撃によって吹き飛び、ある者は手刀によって叩き伏せられ。

 またある者は、鋭く跳ね上げられた拳によって虚空を舞う。

 それこそまさに、ありえない光景だった。


「は……!? も、もう……本当、何がなんだか……」


 水奈と近しい歳だろう少女が、化け物の群れの中で八面六臂の大暴れを演じている。

 大人でもひるむほどの力を持つはずの相手を複数相手に、一歩も引かず戦っている。

 そんなものを見せられて、驚くなと言うほうが無理な話であった。


 それは人間だけでなく、妖怪たちにとっても同じであったらしい。突然の闖入者の獅子奮迅ぶりに、彼らもしばらく唖然とした様子で固まってしまっていた。


 だがさすがに、数秒遅れながらも朱の盆が声を荒らげる。


「ええい、人間の小娘一人に何を怯んでいるか!」


 返事はなかった。代わりに彼に飛んできたのは、気絶した一匹の小鬼。


「ちィ……って、なッ!?」


 それを打ち払った朱の盆は、直後に吃驚した。

 飛んできた小鬼のすぐ真後ろに、あの少女が肉薄していたのである。


「たあッ!」

「くっ!?」


 不意討ちの拳が、朱の盆を襲った。それを彼は、横に跳ぶことでなんとか回避する。

 だが、その咄嗟の回避によって、彼の体勢は崩れてしまった。下半身の軸がぶれてしまっては、いくら上半身が攻撃へ備えても上手く受けることは難しい。


「そこだ!」

「ぐぬぅ!?」


 実際、次の攻撃を朱の盆は避けきれなかった。少女の次の一手は、体勢の崩れた下半身……正確にはそのさらに下を狙った、足払いだったのだ。

 それをほとんどまともに受けてしまった朱の盆は、したたかに肩を地面に打ち付ける。


「っしゃあぁ!」

「ちぃィ……! 甘く見るなよ小娘がぁ!」

「うぉあ!?」


 倒れ込んだ朱の盆に対してマウントを取った少女だったが、朱の盆もやられっぱなしではなかった。倒れた勢いを無理に殺さず少女に転嫁すると、巴投げの要領で投げ飛ばしたのである。


 だが少女は驚いたものの、すぐに冷静に空中で姿勢を整えなおした。そのまま一回転すると、朱の盆から少し離れた地点にふわりと着地してみせる。


「小娘……一体何者だ?」


 わずかな間に起き上がり、少女と対峙した朱の盆が怒りのにじむ声で誰何する。その視線もまた怒りに染まっており、並みの人間がそれに射抜かれれば、恐怖のあまり動けなくなったかもしれない。


 だが、少女はその声に答えなかった。

 返事の代わりに笑うと――なんとその手のひらに、火球を生み出した。


「ぬぅ!?」

「なっ!?」

「えぇっ!?」


 その光景に、この場の全員が度肝を抜かれた。これまでとは明確に異なる、紛う事なき超常現象だった。


「馬鹿な!? 今の時代のこちら側にそんなことができる人間など!」


 最初に驚きから立ち直ったのは、少女から火球を投げられた朱の盆だ。

 彼は憎々しげにつぶやきながらも、高速で迫る火球を避けて小さく後ろへ飛びのく。


「あいにくといるんだよ……憑依降臨!」


 一方、朱の盆が離れたのを見て、少女は高らかに宣言した。そうして、更なる炎をほとばしらせた人差し指でもって勢いよく天を指す。

 直後、空に向けられた少女の腕から、今度は火柱が上がった!


「うわあああ!?」


 遠巻きにそれを眺めていた警官隊が悲鳴を上げ、距離を取る。朱の盆もまた、愕然として後ずさった。


 だが、水奈は退かなかった。

 驚いていないわけではない。むしろ、心底驚いていた。それでも火柱に吸い寄せられるかのように、無意識のうちに前へ踏み出していたのだ。


 彼女の視線の先で、少女が巻き上げた火柱が鳥の形となって、空へ舞い上がった。羽の姿をした炎が火花となって周囲に降り注ぐ。

 そんな火の雨の中、火の鳥が勢いよく急降下してきて、少女の体内へと吸い込まれた。


「――やはりそうか! 小娘貴様、貴様はやはり!!」


 それを見た朱の盆がわめきながら、さらに一歩後ずさる。

 対して、少女は勝ち誇ったように、白い歯を見せてにぃっと笑う。


 彼女の身体は炎に包まれていた。竜巻状の炎にだ。

 だがそれでも、彼女が熱に焦がされる気配は、悲鳴を上げるような気配は、一切ない。


 やがて炎は弾けるようにして一気に膨張すると、そのまま彼女の身体から吹き飛んで消えた。


「なんということだ……かんなぎ・・・・だと!? こちらでは既に滅んでいたはずではないのか!?」

「それはお前らを油断させるためのデマだな! たくさんとは言わねーけど、わりといるぜ?」


 炎の余韻を感じさせず、そう答えた少女の姿はこれまでとは異なっていた。


 黒かった髪は、先端が赤々と揺らめく陽炎のように。また、その瞳も燃え盛る炎と同じ色へと変じていた。

 異形に見せつけるように突き出した拳の甲には、漢字でも梵字でもない不可思議な文様が刻まれ、赤い炎に包まれている。

 何より背中から伸びた炎の翼が、周囲の目を否応なく釘付けにしていた。


「そんじゃ、覚悟はいいか? 行くぜ!」


 だがそんな周りからの視線など気にすることなく、少女は問答無用とばかりに前へ飛び出した。

 燃え盛る火炎に包まれた拳が、朱の盆へと一気に伸びる。その速度は、明らかに上がっていた。


「ぐぬううう!?」


 紅蓮の尾を引きながら、少女の拳が朱の盆の腕に突き刺さる。

 続けてもう一発、少女がもう片方の拳を放った。


「ぐわあぁっ!」


 二発目は、朱の盆の腹を捉えた。

 それでも少女は、攻撃をやめない。拳と炎が空気を切る音が、間断なく響く。

 途中から朱の盆もその速度に対応し始めたが、既に二発を受けており、消耗は激しい。動きはすぐに鈍っていった。


「そろそろ終わりにすっからな!」

「ぐぬうぅぅ……っ、こ、こんなところで、こんなところで死ぬわけにはいかぬ! 我々はまだ何もできていないというに……!」

「何も? バッカ、とっくにやってんだろうが! 安心しな、あたしは殺しなんてしねーからよ!」


 叫びながら、少女は朱の盆の顎を蹴りあげる。

 と同時に、右腕にはめていた飾り気のない腕輪をつかみ、ぐるりとそこで半回転させた。すると、いままで隠れていた水晶が甲の側へと現れて、きらりと瞬く。

 だが煌めきは一瞬。水晶はすぐさま炎を吸い込み始め、ほどなくして逆巻く炎が閉じ込められた不可思議な状態へと変わった。


「っしゃあ行くぜ!」


 その状態を横目で確認するや否や、少女は腰を深く落として握った右の拳をさっと引いた。そしてすぐに、その拳を突き出しながら勢いよく地面を蹴る。


 刹那、腕輪の水晶から炎が噴き出した。さらに、炎とはまったく異なる玄妙な光も放ちながら、少女の拳を包み込む。


「せいやあぁぁーっ!!」


 その拳が、地面に落ち行く朱の盆の鳩尾を捉えた。直後炎が放たれ、彼の身体を包み込む。


「ぎゃあぁぁぁーッ!?」


 回避も受け身もできなかった朱の盆は、激しい悲鳴を上げながら吹き飛んでいく。焼き尽くされていく。


 やがて地面に転がった朱の盆は爆発し――球形の赤い宝石へと変わった。


「――うしっ、まずリーダー封印完了っ!」


 転がった宝石を見た少女は、片手でガッツポーズを取った。

 しかしすぐさま身構えると、今まで遠巻きに取り囲んでいた小鬼たちへ油断なく鋭い目を向ける。


 リーダー格をあっという間に失ったことで、彼らに戦う意思はもはや残っていないようだが……。


「逃げられると思うなよ。人から顕現したお前らはもう殺人未遂犯なんだから……よっ!」


 そう告げた彼女は大量の炎を次々生み出すと、四方八方へと一斉に発射した。それらは取り囲んでいた小鬼たちを一人残らず飲み込む。


 リーダー格の朱の盆を、ほんのわずかな時間で追い込んだ炎である。小鬼たちがそれに耐えられるはずはなかった。

 彼らもまた炎に焼かれて爆発四散し、次々に赤い宝石へと変化していく。


「…………」


 そんな一連の出来事を、水奈は瞬きもせずに見続けていた。


 激しく、そして盛大に景色ごとすべてを飲み込む赤い炎の動きは、今まで彼女が見てきた何よりも美しく見えていた。それはそのまま、彼女の脳裏にしっかりと焼き付いていて……。


「……ふぃ、ひとまずはこんなところか」


 すべての妖怪を討ち果たしたことを確認した少女が元の姿に戻ってもなお、水奈は彼女の身体に炎が残っているように見えた。


「さて、と……おーい、じーさんたち大丈夫か?」


 だが当の少女はと言えば、相変わらず周囲からの視線を集めていることなど意に介さず、倒れた老人たちに声をかけていた。しゃがみこんでその身を起こしてやりながら、そっと頬を撫でたりしている。

 彼らの身体からはいつの間にかあの黒い糸のようなものが消えていたが、意識が戻る気配はない。


「……こりゃダメだ、体力ほとんど持っていかれてら。とりあえず、少しでも早く目が覚めるようにできることするしかねーな」


 そしてそうつぶやくと、手の中に炎を創り上げた。しかしその炎は赤でも青でもなく、白かった。

 超高温の炎のような、苛烈な白ではない。ほのかな赤みを帯びた、優しげな白であった。


 その不思議な炎を少女は、なんと倒れている老人たちめがけて投げた。すぐに警官隊からざわめきが起こるが、それも気にすることなく、少女はその炎を次々と老人たちに放っていく。

 遂には、倒れている老人たち全員が炎に包まれた状態となった。


「うっし、完璧!」


 それを見届けた少女は満足げに頷き、腰に手を当てて笑った。いかにも一件落着と言った様子で。


 が、人に向けて炎を放つと言う行為は、さすがに尋常ではない。

 いや、今まで少女がやっていたことはすべて普通では考えられないのだが……相手が異形であったことを考えれば、大抵の人間は許容するだろう。

 しかし、その対象が人となれば話は別だ。そして今この場にいる人間は、水奈と松田を除けば全員が警察官である。


「君……ちょっと」

「ん、なんだ?」

「暴行の現行犯ということで……ちょっとこっち来てくれるかな……」

「は?」


 結果、勇気を振り絞った一人の警官隊員によって連行されることとなる。


「……ちょ、ま!? おいおい、いきなり逮捕ってそりゃいくらなんでもないんじゃねーか!?」

「そこまでは言わないけれど一応ね……頼むから、さっきのなんかとんでもないことはしないでくれるとこっちとしても……」

「いやいやいや!?」


 そうして少女は、何やらわめきながらもパトカーに乗せられてしまった。


 が、その直前。

 水奈は少女と一瞬だけ目が合った。

 それは連行中にもかかわらず生き生きと輝いていて……とても力強い光を感じた水奈は、ほとんど反応もできないままその場に立ち尽くす。


 結局、彼女が我に返ったのは、警官隊を率いていた男が撤収の報告に来た時であった。


 白い炎に包まれたまま意識が戻らない老人たちを収容し、警官隊がその場を続々と離れていくのを丁重に見送り、水奈は先ほどまで起きていたことを脳内で反芻する。

 だがいずれも理解の範囲を超えていて、考えは一向にまとまりそうになかった。


 仕方なく、水奈も警官隊を追ってここから離れることを決断する。もはや仕事どころではなかった。


「……松田」

「はい」

「私たちも一旦戻りますわよ。あの女の子とは、一度ちゃんと話がしたいですわ」

「かしこまりました、お嬢様」


 車に乗り込みながら、水奈は改めて騒動があった場所に目を向ける。

 あれだけ派手に炎が使われていたにもかかわらず、そこはまったく燃えていなかった。焦げ目の一つもついていない雑草たちが、風に揺れている。


 一体何が起きていたのかと、再度脳内で自問するも、答えが出るはずもない。

 少なくとも、科学の分野とはかけ離れた何かであることは想像できたが……考えてもまるでわからなかった。


 そのわからないということが、水奈の心を刺激する。謎の正体を知りたいと、彼女は素直に思った。


「……お嬢様、車を出しますよ」

「ええ、お願い」


 水奈が答えるや否や、車が静かに動き出す。ほどなくして車は舗装された道路に乗り、里山から離れていった。


 そうして誰もいなくなった里山の入口に、どこからともなく一人の男が一匹の猫を伴ってやってきた。


アキラのやつ、やっぱり捕まりやがった。だーから人払いと封鎖が終わるまで待て、って言ったのに……」


 男がため息交じりにこぼす。

 普通なら、それは独り言で終わるはずだが……。


「そやけど、いつものことですやろ。せやからあてらも、いつも通りするだけどす」


 なんと、猫がさも当然と言わんばかりに発語した。そのイントネーションは、やんわりとした京風だ。


「てなわけで、あては姐さん迎えに行きますよってな。こっちの後処理は頼みますえ」

「うぃ、任された」


 おっとりと話す猫は短く言葉を交わすと、くるりと踵を返して男に背を向ける。

 その長い尻尾は、四つに分かれていた……。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


とある公募の落選作品です。

仮面○イダーのメインキャラを全部女の子に変えたいと思って書いたのですが、結局特撮というより魔法少女という感じになりました。

書き上げてありますので、これから完結まで一日一話で更新していきます。

連載中の「【連載版】確かに努力しないでちやほやされたいって願ったけども!」ともどもよろしくお願いいたします。

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