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かまちょな彼女  作者:
10/13

かまちょな彼女と放課後

ここまでお読みいただきありがとうございます。

前回からの続きです。

よろしくお願いしますm(__)m


更新は朝の6時を予定しております。

 放課後になり、ここは理科準備室。


 黒の遮光カーテンの隙間から差し込んだ西日が室内を黄昏色に染めており、埃とカビの入り混じった鼻を突く空気が充満している。


「終わったら職員室に戻しておいてね」


「はい」


 千寿に鍵を預け、教師が教室を後にする。


 今朝のやり取りから、千寿は巴の代わりに掃除をすることになっていた。


 教室には彼女の他にもうひとりいる。


「それじゃあ、始めよっか」


 そう柔和にほほ笑む少年。


 彼は同級生の辻路人。


 高校体操界では結構有名で、もちろんこの学校の体操部でもエースだ。


 千寿はてっきりひとりで掃除をするものだとばかり思っていたのだが、どうやらこの路人と一緒ということらしい。


「滝ノ沢さんと大場さんって仲が良かったんだね」


「……うん。小学校からのお友達なんだ」


「全然タイプ違うから意外だよ」


「そ、そうだよね。私もそう思う、よ」


「あ! ごめん! ふたりのこと詳しく知らないくせに何言ってんだってなるよね、ホントごめん!」


「ううんっ。気にしてないから大丈夫っ」


「……」


「……」


 会話が途切れ、沈黙が落ちる。


 幸重に対しては“かまちょ”な千寿だが、実はかなりの人見知りだった。それが異性だとなおのことだったりする。


 うう……緊張する。


 横目で路人を盗み見る。


 彼は弾まない会話に嫌な顔ひとつせずニコニコと掃除を続けていた。


「それにしても滝ノ沢さんは噂通りだね」


「噂……?」


「3組の滝ノ沢さんは勉強も運動も出来ておまけに性格も良い。完璧過ぎるって先輩や先生たちの間でも話題になってるよ」


「な、何それっ」


 千寿にとっては尾ひれも背びれも付まくり、新生物が誕生しそうな話だった。


 動揺が隠せず、思わず語気が強まってしまう。


「あはは。別にいいじゃないか。悪い噂じゃないんだし。と言うか、滝ノ沢さんってそんな顔もするんだね」


「あ。ごめんなさい……」


 はっと我に返り、まるでくたびれた風船のように萎んでいく。


「そ、それを言ったら辻君のほうがすごいでしょ」


「僕?」


「うん。同じ学年の体操部の人がすごいって聞いたことあるよ」


「……そんなもんか」


「え?」


「まだまだだなって思ってね。何でもないよ」


 千寿は聞き取れなかったのだが、路人がそういうので気に留めることはなかった。


「……」


「……」


 また、お互いに会話のないギクシャクした雰囲気の中、掃除を進める。


 千寿はほうきで床を掃きつつも、頭ではこの沈黙を打破しようと考えていた。


 あぅ、なんか話さなきゃ。


 会話会話、何か話題ないかな……。


 シゲくんだったらこんな気まずい感じにはならないのになぁ。


 手は火が起こせそうなくらいの速度でほうきは動いているが、考えは全然まとまらなかった。すると、また路人のほうから言葉が投げかけられた。


「実はこの掃除当番、僕も代わりに来たんだ」


「あ、そうなんだ。じゃあ一緒だね――」


「でも」


 彼が千寿を遮って続ける。


「僕は志願した」


「え――?」


 千寿はその言葉に弾かれるようにして振り向く。


 それって……。


 今度は路人と視線が交差した。


 彼は先ほどまでの穏やかな笑顔とうって変わり、真剣にじっと見つめてくる。


「滝ノ沢さんは気になる人っている?」


「――っ」


 瞬間、千寿の身体が強張る。


 路人の真剣さに気圧され、言葉が出ない。


「僕はいるよ」


 ――「千寿、ゲームしようぜ」


 彼女の脳裏を過ったのはある人の笑顔だった。


 シゲくん……。



 放課後。



 人気の少ない校舎。



 遠くから聞こえる運動部の掛け声や吹奏楽部の楽器音。



 ただ、この理科準備室だけはまるで時間が止まったように静寂が支配していた。


 そのとき。



「冗談」



 ふっと笑いながら肩を竦める路人。


 張りつめていた空気が少しだけ緩んだように千寿は感じだ。


「て、ことにしておくよ」


「辻くん……」


「さて、と。掃除は終わりだね」


 路人がドアの横に置いてあったカバンを肩に引っ掛ける。


「実はさ、代わってもらったはいいけど誰にも言わずにこっちに来たんだ。これ以上遅れると先生や先輩にどやされちゃう」


 そういって悪戯そうに舌を出して見せる路人。


「悪いんだけど、先生に鍵を返してもらってもいい?」


「う、うん。それは大丈夫」


「ありがとう」


 そそくさと準備を整え教室のドアかけた彼の手が止まった。


 そして、肩越しににこりと微笑む。


「覚えておいてほしいんだ。滝ノ沢さんが自分で思ってるほど、周りは君に対して無関心じゃないよ」


 ぴしゃり。


 ドアが閉められた。


 オレンジ色の夕日が雲に隠れ、教室にうす暗い闇が差した。

明日も更新予定です。

読んでいただけると幸いですm(__)m

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