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遙かなるバハムート  作者: 山石尾花
第3章:黒蝶の鎮魂歌
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第4話:白の一角獣

「これって……」


 白いたてがみをなびかせ、宙を駆け巡る一角獣の姿。隣にいる少女のものと、同じもの。


「サクラと同じだ」


 俺は便箋を裏返し、サクラにそれを見せた。ほんの僅か、サクラの耳が嬉しそうに震える。外向きに耳が動くのは喜んでいる時のサクラの癖だ。ハルカはそれを見逃さなかった。


「同じパーティー。改めてよろしく、ハルカ」


 サクラはいつもと変わらない無表情で、ハルカに手を差し出した。

 ハルカはサクラの目を見てニッと笑うと、差し出された手を掴んだ。


「俺の方こそ。よろしくな、サクラ。絶対合格しようぜ」


 ハルカたちは青春真っ只中、といった風に握手を交わす。

 その時、サクラが何かに気づいたようにハルカから視線を逸らした。その視線はハルカを通りこして、ハルカの背後に向いている。


「ハルカ、あれ」


 ハルカはサクラが指で示す先を目で追った。

 そこには真っ青な顔をして棒立ちになっているルイズがいた。ルイズの額からは滝のように汗が流れていた。


「ルイズ?」

「……くっ!」


 ハルカの呼び声にルイズは応えない。それどころか挑発するかのような目つきで俺を見据えた。


「もしかして……」


 サクラが隣でぼそりと呟く。サクラはまっすぐルイズに近寄ると、ルイズの右手に握られていた便箋を手にした。

 意外にもルイズは無抵抗でそれを手渡した。いつものルイズであれば、気安くさわるんじゃねえ、の一言でもありそうなものだが。

 サクラは受け取った便箋のシワを丁寧に伸ばした。よほど力強く握られていたのか、くしゃくしゃになった便箋のシワはなかなか取れない。


「見て」


 サクラが差し出したそれには、三匹目の白の一角獣。


「ってことは、もしかしてお前……俺たちのパーティーなのか」


 ルイズはびくっと肩を震わせた。サクラの手から便箋を強引に奪い取ると、それをブレザーのポケットに押し込んだ。


「お前たちとパーティー組むなんて冗談じゃない! 交渉して、誰かに代わってもらうからな!」


 サクラとハルカは互いに顔を見合わせた。確かにパーティーの交代は暗黙のルールとして認められてはいる、が。


「そんな簡単に見つかるわけない。諦めて、少しでもパーティー戦闘の練習をした方が得策だと思う」


 サクラがため息をつきながら、ルイズに忠告した。


「ルイズが嫌がる気持ちもよく分かる。好き嫌いの問題じゃない。私たち三人はパーティーのバランスが悪い。近接戦闘が得意なハルカ、遠距離攻撃が得意な私。だけど……ハルカも私も、一切魔法は使えない」


(そうだ、俺たちは魔法が使えない……)


 これは大きなハンデだった。

 異世界人であるハルカは言うまでもないが、サクラも魔法は一切使えないのだ。


 魔族、竜騎族、精霊族と異なる進化を辿ったと言われる獣人族。

 彼らは空気中の元素粒子を魔法に変換する器官を持っていない。そのため、サクラに限らず、獣人族は生来、魔法を使うことができないのだ。

 魔法が使えなくても卒業試験を乗り切ることはできるが、それは他のパーティーよりも圧倒的に不利なことは間違いなかった。


「魔法を使えないメンバーが二人もいるパーティーに入ってくれる人、誰もいない」

「それは……!」


 サクラに何かを言い返そうとするルイズ。だが、その先の言葉が紡がれることはなかった。

 交渉しても誰も応じてはくれない。ルイズも分かっていたのだろう。


「おい、ルイズ」

「うるさい、分かった。分かったよ!」


 そう言い放つと、ルイズは大講堂から飛び出していった。

 ハルカたちは急いでルイズの後を追った。なんとか説得して分かってもらうしかない。そうでないと、ハルカたち自身の卒業が危うくなってしまうのだ。


「ルイズ!」

「おい!」


 ルイズは大講堂の大扉を出てすぐの場所、ホールにある掲示板の前にいた。

 金の額縁の中に収まったそれに学生たちが各自、名前を記入するのだ。

 一度申告してしまえば、パーティーを変更することはできない――そのメンバーで卒業試験に挑まなければならない決まりだ。

 掲示板にまだ余白はあったものの、ほとんどの学生はすでにパーティー申告済みだった。


 大講堂付近には学生の姿は残っていない。それぞれのパーティーで自主練習に向かったのだろうか。ハルカたちにもたもたしている時間はなかった。

 ハルカはルイズをなんとか説き伏せようと、ルイズに近づいた。ルイズ、とその名を呼ぼうとしたその時……。


「これで、いいんだろ!」


 ガリガリとルイズが荒々しく申告板にに文字を書く音がした。備え付けてあった羽根ペンで三人の名前を書き殴り、ルイズはバン、とペンを申告板に叩きつけた。

 そして、唐突にルイズはハルカたちの方へ振り返り、顔を真っ赤にしながらまくしたてた。


「いいか、やるからには完璧にするからな! お前ら、俺の足を引っ張るんじゃねえぞ!」


 ハルカとサクラは互いに顔を見合わせ、ニヤリと口の端を吊り上げる。


(よろしくね、なんて言えないやつなんだ、こいつは)


 よろしく、の代わりに言うセリフは決まってる。


「それはこっちのセリフだっての」

「ルイズこそ。足を引っ張らないように」

「うるせえ!」

「もちろん、リーダーは先頭に名前書いたお前だからな、ルイズ」

「なんでそうなるんだよ!」


 ルイズの怒鳴り声とハルカたちの笑い声がホールに反響した。

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