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第0話

 世界樹はすべてを見ていた。


 幾重にも細い幹が絡み合い、それが束になって天を貫く。空も見えぬほど、頭上は樹の葉に覆われている。日の光などさす隙もないのに、この空間は白く光っていた。


 彼は何を考えているのだろう。

 青の召喚士――ポラジット・デュロイは想いを馳せる。手が届く距離にいるというのに、彼は遠い。そしてじきに、本当に遠い所へ行ってしまうのだ。


「お別れ、ですね」


 自分がまだ少女であり、彼が少年であった頃、出会ったあの日を思い出す。かつて少年だった彼は、もう青年と呼べる年齢に達していた。


 彼は微かに笑みを浮かべる。

 できることなら彼の大きな手を取って、この場から逃げ出してしまいたかった。

 けれども、彼の心はすでに決まってしまっていることを、ポラジットは知っていた。自分がどんなに引き止めようとも、彼は元の世界に還るだろう。本来、ここにいるべき人間ではないのだから。


 そんなことは、ずっと前から分かっていた。

 元の世界へ還すことが、彼女の使命であり――大切な彼との約束だった。


「行くよ。やっぱり俺は、ここにいちゃいけない」


 少し離れたところから、仲間たちが二人を見守っていた。

 そして、二人の最後のひと時を邪魔するまいと、黙って世界樹の間を後にする。


 ――もしも、もしも共に行けるのなら……。


 その仮定は無意味だ。

 そもそも生きる世界の原理からして違いすぎる。彼がこの世界に順応できたのは、召喚獣としての特異な性質ゆえ。

 仮にポラジットが彼の世界へ行けたとして、魔法も召喚術も使えない世界で一体何ができるのだろう。

 そばにいることさえできれば、なんておこがましい。

 彼の足枷になって生きることしかできないのなら、そんな愛情は無意味だ。


 だから、決して彼に言ってはいけない。

 最後に伝えたい言葉を。嘘偽らざる心を。


 青年の足元に、銀の魔法陣が浮かび上がる。

 それは彼がこの世界にやって来た時に見たものと、寸分違わず美しかった。

 彼の体から銀の燐光が舞い、体が薄れていく。


 死を覚悟したあの時。

 空に現れた銀の魔法陣から召喚された少年。

 共に旅をし、共に戦った――たった一人の究極召喚獣バハムート


「さよなら、ハルカ」

「ポラジット。俺は、君を」


 その時、青年の手が伸び、ポラジットの頬に触れた。

 手の温度は相変わらず優しく、だが、ほんの少し曖昧だった。



「本当に――愛していたんだ」




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