第8話 -ride on the breeze-
週末。
美穂が“今後に関わる場所”として誘った場所へ向かうあやめ。
「メイドカフェ・・・お菓子の国?」
そこはメイド喫茶だった。
どこかメルヘンチックな看板が、ビルの入り口で存在感を出している。
「ここが、今後の私たちに関係がある場所・・・どういうことなのかなぁ」
おそるおそる店内への入り口を開けるあやめ。
「おかえりなさいませ、お嬢様♪」
かわいらしいメイドさんが出迎えてくれた。
その姿はメイドさんというより、お姫様といった雰囲気の衣装。
店内の内装も可愛らしく、まさに店名どおりお菓子の国のようだ。
「・・・もしかして、お嬢様が、あやめさん、ですか?」
“柚華”と名札のついたメイドが、あやめに話しかける。
「は、はい」
「あやめお嬢様、お待ちの方がいらっしゃいますので、こちらへどうぞ。」
おやめが頷くと、柚華は店の奥へとあやめを案内する。
案内された部屋に入ると、美穂とともにひとりの女性が待っていた。
「あなたが、あやめさん?お待ちしておりました」
「あやめちゃん、待ってたよ。こちらはこのお店のオーナーさん。」
「はじめまして、私がお菓子の国のオーナー・・・そして、
“ステラ・クレッシェンド”の元プロデューサーの花乃です。」
「あ、あなたが・・・あの、ステラ・クレッシェンドの・・・?」
驚きを隠せないあやめ。
「ステラに興味を持っているということは美穂ちゃんから聞いてるわ。
・・・あやめさん、マリーの妹さんと聞いたけど、本当なの?」
「確証はないけど、すごく特徴が似てる・・・
10年くらい会ってないから、本当に推測ですが。」
「そして、10年前の姉妹誘拐事件の姉妹が、あやめさんと、マリーだと・・・」
「ステラのMARIがお姉ちゃんなら、はい・・・」
あやめは誘拐事件の覚えていることを、花乃に全て話した。
「なるほど・・・でもマリーは妹がいるとも過去に事件に遭ったこととかも
全く話さなかったから、まさか妹がいるとは思わなかったわ。
美穂ちゃんからそういう話が出てきたときは、本当にびっくりしたわ・・・」
「驚かせてごめんなさい・・・だけど、私、お姉ちゃんが生きているということで、
そして、アイドルをやっていたということで、希望を持てたんです!
美穂ちゃんたちとアイドルを目指すと決めたし、お姉ちゃんにいつか会えると信じて・・・」
「うーん・・・私もステラのPやってたのはほんのわずかな期間だったし、
メンバーやスタッフとの連絡もほぼ途絶えてしまったからなぁ・・・
みんな今頃、何しているのか、というのもわからなくなったの・・・」
「そっか・・・でも私、お姉ちゃんみたいなアイドルになりたいです!」
たとえ姉と会えなくても、アイドルを目指すという気持ちは変わらないあやめ。
「マリーの妹さんと聞いて、私として何かできることはしてあげたいけど・・・
今のところマリーの行方に関しての手がかりがないのは申し訳なかったわ・・・
でも、あやめさんの力にはなってあげたいと思うから、何でも頼ってくれたら嬉しいわ」
「あ・・・ありがとうございます!」
「もうひとりのメンバーである真鈴ちゃんについても美穂ちゃんから聞いているわ。
今後は私が、ステラのときの経験を活かして、あなたたちを大きな舞台へ連れて行きたい。
そして、ステラ以上に活躍してほしいと思ったから、私も全力でサポートするわ。」
元ステラ・クレッシェンドのプロデューサーという強力な助っ人の登場で、
cerisierはさらに大きく成長するチャンスを得ることができた。
果たしてあやめは無事姉と再会することができるのだろうか・・・
───その夜。
あやめと美穂と別れた花乃は、ひとりで店に残り、何かを考えていた。
「ステラは本当に輝いていたなー・・・私もあの時がいちばん頑張ってた時期だし、
何しろメンバーのアイドルとしての姿勢がすごく素敵だったわ・・・
でも、なんで解散させてしまったんだろ・・・それがいちばんの後悔だわ」
ステラ・クレッシェンドは、本当に伝説のアイドルだったんだなぁ、と、
元プロデューサーの花乃も思っているのだった。