第1話 -AWAKE-
櫻井あやめは、綾城市の私立高校「綺月学園」に通う2年生の女の子。
彼女は、物心つく前に母親を亡くし、小学校2年生の時に誘拐事件に遭ったという
波乱に満ちた過去を持っていた。
さらに、姉の「まり」は誘拐事件以来行方不明となっており、現在も捜索が続いている。
しかし誘拐事件の容疑者は自殺を図っており、未解決のままであった。
───高校2年生最初の登校日。
そんな彼女の運命を大きく動かす出来事が起きた。
始業式が終わって、親友たちと集まっていた時のことだった。
「ねぇねぇあやめ、明日発売の“りのりの”のシングル買う?」
「りのりの?」
「あ!俺のやってる“ダンスダンスイノベーション”に入ってる
“NEW GAME”のロング版が入ってるやつだろ?予約してるぜ!」
三人のグループが話すのはネット配信で有名なアイドル「桂木りの」の話題だった。
情報を最初に持ってきたのは、茶髪のロングヘアをポニーテールにした少女。
彼女は佐倉美穂。音楽の知識なら誰にも負けない、
歌手志望の女の子である。
美穂の話にノリノリの少年は吉田達義。
見た目はジョニーズの男性アイドル顔負けの超イケメンだが、
地下アイドルが大好きな音ゲーマーという、正真正銘のオタクである。
そして話題にいまいちついていけない、胸にかかるくらいのセミロングの黒髪を
三つ編みにした少女が物語の中心となる「櫻井あやめ」。
喫茶店やスイーツが大好きという、グループで唯一女子力らしきものを放っている女の子。
「よーし学校終わったら俺はまりりんとコトネっちでゲーセンでDDIするけど、どう?」
「行く!ただし制服じゃマズいから一回着替えてからね?あやめは?」
「私もちょっと気になるなぁー。行ってみよっか」
三人とその親友である「まりりん」「コトネっち」の五人で、ゲームセンターに行くことになった。
この中であやめのみゲームセンター未経験である。
ゲーセンって怖いイメージがあるなぁ・・・と避けていたのだが、
友達がいっぱいいるから怖くないぞ!と思ったらしい。
放課後。
あやめ、美穂、達義は校門の前でまりりんとコトネっちを待ち合わせ中。
「ねぇねぇ美穂ちゃん、ダンスダンスイノベーションって踊るからカロリー消費できるよね?」
「もちろん!ダイエットにも最適だよ♪」
「美穂よくわかってるねー!DDIはスポーツ!適度な運動がダイエットには欠かせない!
男は汗を流して体力つけて、女の子はダイエットで女子力アップ!」
そんな話題を続けていると、待ち合わせていた二人が来たようだ。
「ちーっす!今日は賑やかだねー?まるでオフ会、楽しそうだね♪」
「みんなで楽しくダンノベできるから、まりりん幸せ♪」
金髪のロングヘアが特徴的な、ハイテンションな女の子は藤末コトネ。
達義と同じBクラスの生徒である。
そして隣にいる、足元まで届きそうな黒髪ツインテールの女の子は、
あやめ、美穂と同じCクラスの生徒、桜咲真鈴。
ちっちゃくて可愛いお人形のような少女だが、DDIの腕前はグループ一。
「とりあえずー、あたしのウチで私服に着替えて、ダンノベやろーぜ?」
「そうだね!コトネっちのおうちにまずは行きましょ!」
「でも着替え今持ってないよぉ~」
準備万端なコトネたちに対し、全く準備していないあやめは、一度自宅に戻ることに。
「あやめちゃんははじめてだから準備できてないよなー。
俺たち先にコトネっちの家行ってるから、着替えたら来いよ!」
「はーいっ♪」
あやめと別れた達義、美穂、コトネ、真鈴はコトネ宅へと向かった。
そして一時間後。
私服に着替えたあやめ、コトネ宅のチャイムを鳴らす。
「お待たせー!」
「よっしゃー!今からゲーセンで大暴れするぜ!」
「こらこらタツ、騒ぎすぎはゲーセンに迷惑だよ?」
ここで全員の私服を見てみましょう。
まずはあやめ。女子力の高い女の子だけあって、ア○クルージュの可愛らしい洋服でコーディネート。
達義いわく「DTを殺す服」らしい。
美穂はホルターネックのジャンパースカートに、フリルのついたブラウスを合わせた女学生スタイル。
達義はネクタイがアクセントの白シャツに黒のパンツといったオシャレで大人っぽいスタイル。
コトネはスポーティなシャツとショートパンツのボーイッシュスタイル。黒ニーソがポイントらしい。
真鈴はピンクと白で統一されたロリータファッション風のコーディネートだ。
私服に着替えたところで、あやめ一行は綾城駅近くのゲーセンへ向かった。
綾城駅まではバスで15分程度。学生はバス乗り放題なのが綾城市の特色だ。
そして一行はゲームセンターに到着、音楽ゲームコーナーへと一目散。
「よし、まずは俺とまりりんが踊っちゃうよ?」
「はい♪まりりんも頑張る!」
達義と真鈴がステージに立つ。
「1曲目はタツが選んでー」
「ほーい」
達義が選んだのは、かつて伝説と呼ばれた地下アイドル「ステラ・クレッシェンド」の曲。
一年前に地下アイドルの楽曲を追加するというイベントで配信された曲だ。
・・・そのジャケット写真を見て、あやめは驚いた。
「えっ・・・この“MARI”って子、お姉ちゃんにそっくり・・・」
「あやめ、どういうこと?」
美穂が反応する。
「この左目の泣きぼくろと表情・・・すごくお姉ちゃん・・・」
「まさか、行方のわからないままのまりお姉ちゃんじゃないよね?」
「まぁ、偶然かもしれないね。」
その場ではこの程度の話題だった。
ゲーセンで騒ぎ楽しんだ後、みんなと別れ帰宅したあやめは、すぐパソコンを起動し、
ステラ・クレッシェンドについて調べてみた。
「これって・・・やっぱりお姉ちゃんだ・・・」
あやめが目にしたのは“MARI”のプロフィールだった。
誕生日、血液型も一緒。ブログの写真では昔宝物にしてたペンダントをつけていた。
「やっぱりお姉ちゃんはいたんだ・・・会いたいよ・・・」
そう思ってステラ・クレッシェンドの所属事務所を調べた。
しかし事務所は倒産、ステラ・クレッシェンドはその影響で一年足らずで解散していたことを知った。
「嘘でしょ・・・でも・・・私、ステラ・クレッシェンド・・・お姉ちゃんに会いたい!」
10年間行方不明でいた姉と思われる人物を見つけたあやめは、
どうにかしてステラ・クレッシェンドに会えないか、と考えて夜も眠れなくなった・・・
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綾城市内にあるとある喫茶店。
美穂は一人で立ち寄っていた。
「美穂お嬢様、今日はお一人なのですね」
メイド服を着た店員が声をかける。
ここはメイド喫茶「お菓子の国」。
メルヘンチックな装飾が施された店内、メイド服は普通のメイド服とは違って
フリルやリボンがたっぷりとついた、まるでお姫様のようなもの。
「実は・・・」
「えっ!? ステラのマリーちゃんがあの姉妹誘拐事件のお姉さん?
オーナー!美穂お嬢様が・・・」
そう言ってメイドは奥の部屋に走り去っていった。
数分後、店の奥から一人の女性が出てきた。
彼女が「お菓子の国」のオーナーだという。
やや長身ながら、ゆるふわ系のファッションを身にまとった女性だ。
「美穂ちゃんお待たせ。
実は私・・・ステラのプロデューサーだったんだけど、知ってた?」
オーナーから衝撃的な発言が飛び出す。
この後、美穂たちはステラ・クレッシェンドを巡った新たな旅立ちを迎えることになる───