プロローグ -Spring Rain-
10年前───
ここは都心部から少し離れた都市、綾城市。
街の中心部のモニターから、ニュース速報が流れてきた。
「速報です。綾城市姉妹誘拐事件に進展がありました。
妹の櫻井あやめちゃんが、たった今救出されました!」
廃工場の中から連れ出される7歳の少女。
多くの警察官などに囲まれた彼女は、疲れ果てた顔をしていた。
「なお、姉の櫻井まりちゃんについては、未だに行方がわからないということで
現在も捜索が続いております。
まりちゃんが無事見つかることを、祈ります。
それでは、次のニュースです・・・」
───4月17日。
あやめの7歳の誕生日に、事件は起きた。
友人に別れを告げ、姉妹ふたりきりで下校する櫻井姉妹。
「帰ったら私の誕生日パーティー!楽しみだねー♪」
「あやめ、はしゃぎすぎだよ?」
「だって私の7歳の誕生日だもん!楽しくしなくちゃ!」
「そうだね、帰ったらお父さんが待ってるよ。」
「プレゼント何かなー?」
天真爛漫な性格のあやめと、しっかり者お姉さんのまり。
ふたりの楽しそうな会話が、通学路に響き渡る。
・・・しかし、事件はその後起きた。
櫻井姉妹の前に、白いワゴン車が停車した。
そのワゴン車から、黒いフード付きのコートを着た男が二人飛び出してきた。
「わっ!?」
コートの男たちは、櫻井姉妹の背後にまわり、首筋にスタンガンを流し込んだ。
気絶した櫻井姉妹は、男たちによって車に乗せられ、
車はそのまま走り去っていった。
それから数時間後。櫻井家に一本の電話がかかってくる。
「もしもし、櫻井です」
電話に出るのは櫻井姉妹の唯一の肉親、父の祐二。
妹のあやめが産まれてすぐに母が病死し、父が男手一人で姉妹を育てていた。
電話から、ボイスチェンジャーを使った男の声が聞こえてきた。
「娘たちは預かった。返すことはしない。
今から携帯のメールアドレスに動画を送る。」
そう言って電話を切った男。直後にメールの着信音が鳴った。
祐二は慌てて携帯を開き、メールを確認する。
そこには、廃工場と思われる場所で拘束具を取り付けられた姉妹の姿が。
「まり!?あやめ!?」
驚きを隠せない祐二。
メールの本文にはこう書いてあった。
「今からこの小娘に、キツーイお仕置きをしますからねw」
嘲笑するような短い本文。
しかし犯人からの要求はない。
「いったいどうすればいいんだ・・・まずは警察!」
すぐに110番通報した祐二。
数分後、警察官が到着した。
「どうすれば娘たちは返ってくるんですか!?助けてください!」
顔面が涙で覆い尽くされた祐二は、警察官たちにすがりついた。
「今から誘拐事件専門の部隊が到着しますので、お待ちください。
既に夜も更け、外は雷雨で荒れた天気と化していた。
───数日後。
綾城市の中心部から20キロほど離れた廃工場から、少女の鳴き声が聞こえるという通報があった。
警察官が駆け付けると、そこには手足を縛られ、すっかり痩せ果てたあやめの姿が。
「もしかして・・・櫻井・・・あやめちゃん?」
「は、はい・・・あやめです・・・」
細々とした声で名前を言うとすぐさま警察官は無線を取り出し、
「綾城姉妹誘拐事件の櫻井あやめちゃんを発見しました!」
こうして救出されたあやめ。
しかし、姉のまりは捜査の限りを尽くしたが、見つかることがなかった。
事件は迷宮入りしてしまったのだ。
一刻も早くまりの無事を祈る祐二とあやめ。
しかし犯人からの連絡は途切れたままで、全く進展がなかった。
───さらに数ヵ月後。
事件は大きく動いた。・・・悪い方向に。
綾城市内の廃墟ビルで、2名の男の死体が発見された。
そこには遺書と思われる置手紙と、あろうことか櫻井まりの名札が見つかったのだ。
「さくらい まり・・・綾城姉妹誘拐事件で発見されてない姉の名前・・・!」
被疑者死亡という最悪の展開を迎えた誘拐事件。
まりの行く宛ても完全に闇の中と化し、捜査に手を出す人は日に日に減っていったのだった。
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これは、行方不明の姉を10年以上探し続ける少女の物語。
櫻井あやめの波乱に満ちたスクールライフが、幕を開けます。